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雑誌目次

雑誌文献

精神医学32巻9号

1990年09月発行

雑誌目次

巻頭言

第三の医療—精神神経免疫学(Psychoneuroimmunology)

著者: 熊代永

ページ範囲:P.926 - P.927

 本年6月1日に第31回日本心身医学会のトピックス1)として,“Psychoneuroimmunology”(PNI)というテーマで,久留米大学免疫学教室の横山三男教授のお話2)を拝聴した。以前から癌の自然退縮と特殊な精神状態とリンパ球の抗癌免疫抗体の相関性を研究されている中川俊二先生のご研究に興味を持っていたが,PNIという的確な名称をもった新しい学名に公式に接したのは,この横山教授のお話が初めてで,我が意を得たりと,大感激した。この内容を少し紹介してみると,情動刺激で分泌される神経伝達物質,神経ペプタイド,ホルモンなどが,免疫細胞に影響を与えることが明らかにされてきた。そして神経—内分泌系から放出される物質によって,免疫細胞は活性化され,活性化した免疫細胞はサイトカインなどを放出して,脳,中枢神経系,内分泌系などヘフィードバックされ,免疫系と神経系と内分泌系の三者は二方向性の生体調節機構を形成している。したがって,精神的なストレスは免疫系の働きを時には低下せしめる。そしてこの反対に,免疫系の働きを修復し,向上させる方法もある。と動物実験の結果を示された。すなわち,マウスで,騒音,拘束,高圧,手術などでは免疫応答が抑制される。このときは,胸線が萎縮していた。これに対して,胸腺が萎縮されないようなストレスの時には免疫応答の増強効果がみられた。たとえば,適度な疼痛負荷の場合であり,また特定の香料による嗅覚中枢の刺激によって免疫能の修復または上昇をみている。したがって,aromatherapyの開発も期待されるとのお話であった。
 次にこのトピックスなどを企画された中川哲也会長の九大心療内科の手嶋秀毅講師から,心身医学会理事長池見酉次郎先生監修の「内なる治癒力,こころと免疫をめぐる新しい医学」3)を載き,一読して感嘆させられた。

展望

高齢期痴呆の臨床評価

著者: 長谷川和夫

ページ範囲:P.928 - P.938

I.はじめに
 人口の高齢化に伴って痴呆性疾患が多くの関心を集めている。多くの疫学的調査によると高齢になるに従って痴呆の有病率は増加しているので今後医療福祉領域では対応に迫られることになる。このような痴呆性疾患の対応に当たって最も重要な課題がここに挙げられる痴呆の臨床評価の問題である。
 ところで痴呆の臨床評価の際には痴呆の何をどのように評価するかが重要な課題となる。さらにより一層重要なことはどのような目的で評価するかが問われなければならない。たとえば,まず日常の臨床場面でのスクリーニングを目的とした評価が求められる。また介護の処方を決めるためには重症度を判定する評価が必要になる。このように評価の目的によっても異なった評価方法が作られなければならない。

研究と報告

一境界例患者の個人精神療法

著者: 林直樹

ページ範囲:P.939 - P.947

 抄録 著者は本稿において初診時15歳の境界性人格障害患者の初めの6年間の支持的精神療法の経過をその個人療法を中心に提示した。そしてこの患者の治療経過は,寡黙で一見素直だが周囲との関わりを拒み自殺企図を繰り返す「自閉」の時期,次いで治療者の個人的背景を知りたがり,さらに治療者と両親に激しい怒りや被害念慮を示すようになる「共生」の時期,そして個体としての統合性を増し衝動行為などへの内省力を高める「個体化進展」期として3期に分けて捉えられることを示した。ここでは患者の対人関係の特徴(自閉と共生),および他から区別される個体としてのあり方,つまり個体性の障害が,患者の病理およびその治療による変化を捉える上で有用な視点であると考えられた。さらにこの視点から境界例患者のそれぞれの治療段階での治療者の働きや役割についての考察が行われた。

森田療法の治療論の再考—ウイニコットの“生き残り”を基点として

著者: 長山恵一

ページ範囲:P.949 - P.956

 抄録 ウイニコットの“生き残り”理論を援用すると,森田療法の治癒機転が整合的に理解できるばかりか,曖昧な「生の欲望」理論の中にすぐれて治療力動的な洞察が存在することが分かる。森田療法では,患者の幻想的な言動に振り回されないという“生き残り”の治療的側面を作業が受け持ち,患者への共感・受容という側面を治療集団が受け持つ。これら二つの治療要素は不問技法によって互いに区別されながら,反面では集団を志向した作業を契機に結び付けられており,治療構造全体として“生き残り”が生じる仕組みになっている。森田神経質者の病態—(観念的な)生の欲望—と森田の治療システムは鍵と鍵穴のようにかみ合って,病態破壊のプロセスを引き起こす。破壊されるべき当の病態のエネルギーを利用して,破壊のプロセスを推進するというパラドックスがそこには存在する。「生の欲望」理論の曖昧さは単なる理論的混乱ではなく,治療実践と深くかかわるこうした治療のパラドックスと関係している。

Panic Disorder—4類型化の試み

著者: 竹内龍雄 ,   林竜介 ,   冨山學人 ,   根本豊實 ,   長谷川雅彦 ,   星野敬子

ページ範囲:P.957 - P.962

 抄録 不安神経症の自験例のうちPanic Disorder(以下PD)を対象にretrospectiveに症例を検討し,Panic Attack(以下PA)の起こり方,予期不安や広場恐怖を含む神経症病像の形成,抑うつの有無などに着目して症状・経過を整理し,類型化を試みた。
 第Ⅰ型:PAの単発のみで終わるもの(PDとしては不全型)。第Ⅱ型:PAが繰り返されるが,それ自体の苦痛のみで予期不安や広場恐怖はなく,神経症化しないもの。第Ⅲ型:PAの繰り返しと予期不安,全般性不安,広場恐怖,心気症状などがあり,神経症としての病像を具備する。Ⅳ-1と共に不安神経症の中核群をなす。第Ⅳ型:抑うつを伴うものを一括する。続発性のうつ状態を呈するⅣ-1(最も多い),PDからうつ病への連続的な移行を示すⅣ-2,PDとうつ病の独立した病相を示すⅣ-3など。症例をあげ,若干の考察を加えた。

不安障害患者にみられる僧帽弁逸脱—正常人との比較

著者: 越野好文 ,   村田哲人 ,   大森晶夫 ,   浜田敏彦 ,   福井純一 ,   伊藤達彦 ,   三沢利博 ,   伊崎公徳

ページ範囲:P.963 - P.970

 抄録 不安障害の生物学的精神医学研究として,僧帽弁逸脱について検討した。対象はDSM-Ⅲによる恐慌性障害20人,全般性不安障害11人,および恐慌発作を有するが恐慌性障害の診断基準は満たさない患者5人の合計36人で,平均年齢(±SD)は40.9(±13.5)歳であった。対照群は健康成人36人で年齢は23.5(±4.1)歳で,有意に若かった。僧帽弁逸脱の有無は断層心エコーを用いて,精神科の臨床診断についてはブラインドで,判定した。患者群の17人(47.2%)に僧帽弁逸脱がみられ,対照群の5人(13.9%)より有意に高率であった。診断別では恐慌性障害が13人(65%)と対照群より高率だった。全般性不安障害でも4人(36.4%)と高率だったが有意の差はなかった。恐慌発作のみの患者では逸脱はみられなかった。逸脱の程度は軽度で,心音図でクリックが恐慌性障害に2人,対照群に3人みられた。Pulse dopplerでは両群共に有意な逆流を示す例はなかった。心エコーでの僧帽弁機能には逸脱のある群とない群で差はなかった。僧帽弁逸脱は単なる恐慌発作よりも,恐慌性障害に全般性不安障害を含めた不安障害に関連していることが示唆された。

側頭葉てんかんにおける記銘力障害と脳波異常の側性—非手術例におけるその局在価値について

著者: 兼本浩祐 ,   上村悦子

ページ範囲:P.973 - P.978

 抄録 表在脳波において左右いずれかの側頭部に焦点が限局しており,テストが可能であった19例の複雑部分発作を持つ側頭葉てんかんの患者に,WAISによる知能検査,2種類の言語性記銘力検査(AVLT:auditory verbal learning test,PAL:paired associate learning)と1種類の視覚性記銘力検査(ROIR:immediate recall of Rey-Osterrieth figure)を行いその局在価値を比較した。結果は,IQを考慮に入れずに行った場合には,いずれの尺度を用いても有意差に達しなかったが,IQが80を超えた12例に限って分析を行うと,ROIRとAVLT/ROIRに関して左右の半球間の成績の差異は有意に言語素材に対する左半球優位と視覚素材に対する右半球優位を示した。更に視覚記銘力の成績が悪い症例においては,図形の模写を一定の戦略なく,断片的に行う傾向があったことから,右海馬機能の情報組織化説と関連させて若干の推論を述べた。

慢性精神分裂病の臨床的特徴と頭部CT所見—重症群と軽症群の比較(第2報)

著者: 島田均 ,   永山素男 ,   堀彰

ページ範囲:P.979 - P.986

 抄録 発病後10年以上経過した慢性精神分裂病患者のうち,最近3年以上入院を続けている患者(重症群,53例)と最近3年以上入院したことがない患者(軽症群,42例)を比較した。(1)九大式精神症状評価尺度得点,三大学法行動評価表得点,抗精神病薬投与量,総入院期間/罹病期間に関しては,有意の差が認められた。(2)長谷川式簡易知的機能スケール総得点では重症群の得点は軽症群より有意に低く,長谷川らの老人規準集団と同様の分布を示した。しかし,項目ごとの得点分布では老人規準集団と異なる分布を示した。(3)守屋らの横S字型図形再生図得点は重症群のほうが有意に低かった。(4)頭部CT所見においては,シルビウス裂,第三脳室および側脳室の拡大が重症群で有意に強かった。(5)これらの結果およびこれらの所見の相互関連を基に,両群の臨床的特徴とその生物学的基盤について論じた。

精神分裂病(破瓜型)の病態経過とクレペリンテストの継時的変化との関連—退院後の予後を含めて

著者: 高良聖 ,   宮坂松衛 ,   大森健一 ,   中野隆史

ページ範囲:P.987 - P.994

 抄録 入院中の破瓜型分裂病患者31名に対して,継時的にクレペリンテストを施行し,その成績の推移とWBRS(Ward Behaviour Rating Scale)による臨床的病態経過さらに退院後予後との関連を検討した。その結果,クレペリン経過類型として,改善型,不変型,変動型,悪化型の4型を提示した。臨床的病態経過との関係では,経過良好群には,改善型と不変型が多く,経過不良群には変動型と悪化型が多かった。また,予後との関係では,予後良好群に改善型と不変型が,予後不良群に変動型と悪化型がそれぞれ多く認められた。特に,個々のテスト成績が低い水準にあってもその推移が「不変型」に相当する症例はその後の社会適応が良好であるという印象を受けた。クレペリン因子別変化では,作業量,動揺率の変化が大きく,休憩効果,初頭努力,誤謬率の変化は少なかった。これによって,本テストの継時的施行における推移の分析が分裂病者の予後推測の指標になる可能性を示した。

「馬」と「神」の同時憑依を認めた祈祷性精神病の1例

著者: 宮永和夫 ,   米村公江 ,   町山幸輝

ページ範囲:P.995 - P.1000

 抄録 「馬」と「神」が憑依した祈祷性精神病の1例を報告した。本例の興味ある点は,1)「馬」が憑依したこと,2)「馬」が患者の頭に「神」が患者の胸に分かれかつ同時期に憑依したこと,そして 3)他人の顔に合わせて馬が見えたこと―いわゆる感動錯覚が認められたことである。「馬」の憑依について民俗伝承との関係で検討したのち,本例の憑依状態の成立ちとその原因について考察した。

短報

長期経過をたどった多剤依存の1例

著者: 飯塚博史 ,   奥平謙一 ,   永野潔 ,   斎藤惇 ,   金子善彦

ページ範囲:P.1003 - P.1006

I.はじめに
 多剤依存の問題は,我が国では今だ欧米圏ほど表面化していないとはいえ,社会的影響の大きさからも,また依存の背景を考える上からも重要な問題であると思われる。薬物依存者は本質的に多剤依存の傾向を示すとする指摘もあるが,実際,ある種の依存症者は,自らが接する薬物のほとんど全てに対して強い親和性を示すことが知られている2)
 今回我々は,14歳から10年以上にわたり,アルコールのほか,麻薬を含む種々のタイプの薬物を同時期に使用し続け,特徴的な症状を呈するに至った症例を経験した。その内容を,若干の考察を加えここに報告する。

覚醒剤乱用と酩酊の影響によって放火を犯した症例—責任能力をめぐって

著者: 小林一弘 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.1007 - P.1010

I.はじめに
 覚醒剤による精神障害によってひき起こされた犯罪は数多い。昭和20年代の覚醒剤第1期乱用期には覚醒剤中毒による精神病状態での犯罪は心神喪失とする考えが主流であった。これは,覚醒剤中毒が,覚醒剤という毒物が脳に作用して起こった外因性の精神障害であるという考えに基づくものであった。しかし,近年わが国において第2時乱用期と呼ばれるような状況にあり,その責任能力については議論が高まってきている。その結果,単に幻覚・妄想の存在を理由に心神喪失とする見解は否定されてきている。しかし,その責任能力に明解な答えがあるかというと,今だ結論に至っていないのが現状である。今回,我々は,複雑酩酊の素因をもつ者が,覚醒剤によってひき起こされた包囲攻撃状況下でアルコール酩酊し,放火を犯した症例を経験した。包囲攻撃状況は,覚醒剤精神病の妄想主題としては珍しいものではない。しかし,本症例では酩酊の影響を無視することはできない。そこで,本症例が犯行を起こすに至った状況を考察し,その責任能力に対して本精神科としての意見を述べることにした。

自己臭恐怖および強迫症状がクロミプラミンにより改善した1例

著者: 佐野輝 ,   柿本泰男

ページ範囲:P.1011 - P.1012

I.はじめに
 「自分の身体から不快な臭いを発し,そのために他人に迷惑をかけ,他人から嫌がられていると悩む。」という自己臭体験について,精神病理学的見地からの報告は多く,思春期妄想症1,2),重症対人恐怖の一型としての体臭恐怖3),social phobiaの妄想型(加害恐怖)4)など多彩である。しかし,その生物学的見地からの報告は極めて少ない。一方最近の研究で,強迫性障害および恐慌性障害に対し,各々三環系抗うつ薬であるクロミプラミンおよびイミプラミンが有効であるという報告が相次いでなされている5)。著者らは,自己臭体験と強迫症状を合わせ持ち,クロミプラミンにより著しい改善を示した1例を経験した。本症例の臨床経過を報告するとともに,若干の考察を加える。

Münchhausen症候群の1例

著者: 黒河内彰 ,   深津敏彦 ,   羽金与平 ,   熊代永

ページ範囲:P.1013 - P.1015

I.はじめに
 Münchhausen症候群(以下M症候群)は,1951年Asher, R. 2)がLancet誌上に3症例を掲げて初めて記載した。「ほら吹き男爵」と仇名されたBaron Karl Friedrich Hieronymus von Munchhausenに因んだものである。
 今回我々は,釘,針,両刃カミソリと次々に異食と開腹手術を繰り返したM症候群の急性腹症型及び異物摂取型と思われる例を経験したのでここに報告する。

資料

精神療法の卒前教育

著者: 大原浩一 ,   神谷純 ,   宮里勝政 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.1017 - P.1021

I.はじめに
 卒前,卒後の医学教育のあり方については,これまで日本精神神経学会のシンポジウムや専門誌の特集などで,しばしば取り上げられてきた1〜3)。しかし,精神医学における最も特徴的な治療である精神療法の実際のあり方については,全く不問にふされているのが現状である。我々は,森田学派に属するものであるが,日本独自の精神療法といわれる森田療法が医学教育の中で,どのように扱われているか知りたいと思い,全国的な調査を行った。これはアンケート調査であり,もちろん,詳細な内容にまで言及することはできなかったし,森田療法を中心にした,いささか偏った調査になったことは否めない。しかし,問題の重要性にもかかわらず,このような報告はこれまでに皆無であったことから,ここに発表しておきたいと思う。

動き

「第86回日本精神神経学会総会」印象記—東洋のナポリ,ボルカーノのまち鹿児島大会

著者: 松下昌雄

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 折しも盧泰愚韓国大統領の訪日の日に重なった5月24日の朝,いささか緊張に包まれた羽田空港を朝一番の便で鹿児島へ向った。約1時間半で鹿児島空港へ着き,そこからバスで1時間程で鹿児島市内に着いた。軽い昼食をとって,午後2時からの評議員会に出席のため,早速会場の鹿児島市民文化ホールに向った。評議員会は冒頭に松本会長(鹿児島大・神経精神科)が挨拶をされ,和やかな雰囲気で始まった。今年は傍聴席からの発言も少なく,議事は順調に進んで定刻の午後5時の3分前に終了した。このようなことは筆者が評議員になってから10年近くの間,絶えてなかった状況で,これも松本会長の運営手腕とお人柄のせいと思われたが,いささか拍子抜けの感もなくはなかった。夜は同ホールで,学会前夜の教育講演が行われた。かなり大きな会場の割には出席者が多く,会場では若い女性の姿が目立った。
 翌25日の学会第1日目は,定刻の8時25分きっかりからA会場での松本会長の挨拶で始まった。まだ,早朝のせいか,大会議場(定員2,008人)の出席者はまばらだったが,松本会長が,皆さんを歓迎する意味でドカンと一発桜島が噴火すれば……などと冗談(?)を言われたせいか,それから2時間ほどして,本当に大爆発があり,会場の窓ガラスを振動させた。演題の発表はA会場のほか,B会場(定員958人),C会場(定員400人)に分れて平行して進行した。2日目は午後から松本会長司会の特別講演,笠原理事長司会の会長講演が行われた。そのあと引き続いて総会が行われた。観光地のせいか会場の出席者(141名)は少なかった(実は毎年そうなのだが)が,委任状(611名)の提出で,総会(定足数647名)は十分成立し,ここでも議事は円滑に進行した。評議員会で多少もめて,笠原理事長に一任された次々期会長(1992年)には,結局大阪医大の堺俊明教授が選出された。また,次期会長の帝京大風祭元教授から,当地と違って観光資源は少ないが,来年の東京にも多数の参加者があることを期待する,という主旨の挨拶があった。3日目は鹿児島県農協会館に会場を移して,演題の発表が行われた。当日は午後1時半頃には最後の発表も終り,D会場で松本会長の閉会の挨拶があり,全日程を無事終了した。以上が学会全体の経過のあらましであるが,次に学術発表の内容について順次述べてみたい。

「第4回日本精神保健会議」に参加して

著者: 藤森英之

ページ範囲:P.1024 - P.1025

 今年も平成2年3月24日に「精神障害者を支える医療と福祉—その現状と課題—」をテーマに第4回日本精神保健会議が都立松沢病院の精神科部長小林暉佳氏の総合司会により有楽町朝日ホールで行われた。最初に日本精神衛生会理事長島薗安雄氏から「目前の21世紀には心の健康が最も大きな課題であり,心の健康を害した人への医療と福祉や人権が保障されねばならない」との開会の言葉が述べられ,続いて厚生省精神保健課長篠崎秀夫氏の挨拶の後,直ちに会議は始まった。司会は東京武蔵野病院の蜂矢英彦氏と東京コロニーの調一興氏である。まず蜂矢氏は社会で生活する精神障害者が多くなっているのに,「福祉」に対する予算面での措置が不十分で,しかもリハビリテーションの保険点数も低すぎることを指摘し,調氏は通院者が70万人にもなるが,反面,福祉サービスが貧困であると疑問を投げかける。なぜ,精神病院のベッド数や入院患者数ばかりが増え続けるのか,福祉の立ち遅れは,精神遅滞や身体障害者と比べ,ハード面ばかりでなく,運営費の点でもみられ,これの解消のために精神遅滞,身体障害者の福祉と精神障害者のそれとを包括する「「障害者福祉法」の制定を要求していくべきだ,と同氏は問題提起した。
 神奈川県大和市の安斉三郎氏は多年の神経科診療所の経験を拠りどころに,初診時からリハビリテーションへの指向性をもち,地域で生活する患者はもちろん家族・近隣の人達に対しても,相談にのることが外来診療の基本姿勢であるが,高齢化する慢性通院者には現在の医療だけでは十分な対応ができないと語った。篠田峯子氏(国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院)はOTの立場から,障害者としてではなく障害を持った個人としてどのように生活していけるか,「働く」ことの意味について触れ,和歌山市の伊藤静美氏(麦の郷)は10年前に廃品回収業の現場で目のつりあがった手の震える人に出会い,「こんなんでえんやろか」,「なんとかせにゃあかん」といった衝撃が,障害者の自立への援助活動の原点になったと述べ,最後に大宮市の谷中輝雄氏(やどかりの里)がこれまでの自分の精神障害者への福祉活動を振り返りながら,「春はまだ来ないけれど…」,「二度と(病院に)戻るのやめような」を合言葉にやってきて,精神保健法の施行で「長い冬の時代」も終わりかと思ってみたが,まだまだ一握りの人達に頼っているのが障害者の福祉の現状であると結んだ。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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