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研究と報告
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抄録 著者は本稿において初診時15歳の境界性人格障害患者の初めの6年間の支持的精神療法の経過をその個人療法を中心に提示した。そしてこの患者の治療経過は,寡黙で一見素直だが周囲との関わりを拒み自殺企図を繰り返す「自閉」の時期,次いで治療者の個人的背景を知りたがり,さらに治療者と両親に激しい怒りや被害念慮を示すようになる「共生」の時期,そして個体としての統合性を増し衝動行為などへの内省力を高める「個体化進展」期として3期に分けて捉えられることを示した。ここでは患者の対人関係の特徴(自閉と共生),および他から区別される個体としてのあり方,つまり個体性の障害が,患者の病理およびその治療による変化を捉える上で有用な視点であると考えられた。さらにこの視点から境界例患者のそれぞれの治療段階での治療者の働きや役割についての考察が行われた。
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