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文献詳細

雑誌文献

精神医学33巻12号

1991年12月発行

特集 不安の病理

精神分裂病の不安のありか

著者: 松本雅彦1

所属機関: 1京都大学医療技術短期大学部

ページ範囲:P.1299 - P.1306

文献概要

 ■Ⅰ.
 精神分裂病に特異的な不安というものがあるのだろうか。それとも,不安とは精神分裂病を含むあらゆる人間存在の基底に遍在する情態性なのであろうか。
 分裂病の不安を推測させる手がかりを,我々はかつてFranz Kafka8)の小説に見いだそうとした。『掟の門』の,その門を入ることも,その門の前から立ち去ることもできず,ただ時だけが過ぎてゆく不条理。また『審判』『城』に読みうる,誰が,いかなる手続きを通して,「私」を法廷に,あるいは城のある町に導いてきたのか,そこで「私」は何をされるのか,また「私」は何をしたらよいのか分からない状況。そこには,ただ誰が発したか分からない「掟=禁止」と「命令」とだけがシニフィアンとしてあり,しかもそのシニフィアンは他のいかなるシニフィアンともつながりを持たない。それがいったい何を意味するのか分からないままに,「世界」と「私」はどこにも定位できないままに漂う。「命令」の使者に身分証明書(アイデンティティ・カード)を示しても,それらはなんら「私」のアイデンティティを保証してくれるものではない。「私」とは何か,それが分からなくなってゆく「異様さ」,「無気味さ」,「得体の知れなさ」。それとともに「世界」もまた「謎」に包まれてゆく。謎とは,文字どおり言葉が迷い,その定位するところを見いだせない事態を指す。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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