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雑誌目次

雑誌文献

精神医学33巻2号

1991年02月発行

雑誌目次

巻頭言

卒後研修

著者: 中沢洋一

ページ範囲:P.114 - P.115

 7月24日と25日の2日間,金沢大学の山口成良教授のお世話で,精神医学講座担当者会議が能登で開かれた。山口教授から卒後研修について話をするようにというご依頼があったので重い腰をあげて参加し,私たちの教室で行っている卒後研修について報告した。一昨年に旭川医科大学の宮岸教授のお世話でこの会議が開かれたおりにも卒後研修について話題を提供するように依頼されたが,当時は卒後研修についてはまだ模索中で実績もなかったので,お断りして欠席したといういきさつがあった。
 医師の卒後研修の重要性が改めて指摘されるようになったのは最近のことであるが,九州大学と久留米大学の精神科で研究,教育,診療に携わってきた経験から,私も卒後研修の重要性についてはかねてから考えるところがあった。特に比較的最近は生物学的な研究が精神医学の中で活発になるにつれて,入局後は臨床を片手間のように考え,研究室に入りびたる人が少なくないように思われる。こうした傾向はどちらかと言えば明晰な頭脳を持っている人に強く,実際に彼らは研究にも熱心で学会発表も活発であるし,論文の数も多い。しかし彼らの中には,生物学者としての能力は高く評価されても,精神医学者としては首をかしげたくなる人がいることも事実である。病棟や外来に出る時間を惜しんで研究室に足を運ぶ人を見ていると,学生の教育も安心してまかされないと思うことも多い。

特集 精神科領域におけるレセプター機能の研究の進歩

特集にあたって

著者: 三国雅彦 ,   大月三郎

ページ範囲:P.116 - P.116

 精神分裂病や躁うつ病の成因の少なくとも一部はモノアミンの神経伝達異常によると推定され,また向精神薬はその異常な神経伝達を改善することによりその薬効を発揮すると考えられている。この神経伝達情報を受けとる受容体は1970年代までは薬理学的概念にすぎなかったが,モノアミン受容体結合測定法の確立によりその実体がようやくとらえられるようになり,抗精神病薬の有する抗幻覚妄想力価とD2ドーパミン受容体の阻害力価との間に高い相関が示されるに至った。さらに精神分裂病死後脳でD2ドーパミン受容体密度の増加,うつ病死後脳で5-HT2セロトニン受容体密度の増加が相次いで報告されるようになり,モノアミン受容体の病因的役割も論じられるようになっている。
 しかも近年の分子生物学的研究の進歩により,糖蛋白であるこれらのアミン受容体のうち,そのアミン酸配列が解明された受容体は,現在までのところ,D1,D2,D3ドーパミン,α1B,α2・C10,α2・C4アドレナリン,β1,β2,β3アドレナリン,5-HT1A,5-HT1C,5-HT2セロトニン受容体などである。これらの受容体は魅惑の7回貫通型と呼ばれるようにいずれも細胞膜を繰返し7回貫通し,GTP結合調節蛋白と共役して,アデニル酸シクラーゼやホスホリパーゼCを活性化する。その結果,2次メッセンジャーであるサイクリックAMPや,イノシトール-3-リン酸,ジアシルグリセロール産生が調節され,種々のリン酸化反応も調節を受け,種々の細胞機能の調節が司られることが明らかにされている。これらのめざましい研究成果を取り入れた各種精神疾患における受容体・情報伝達系の病態生化学的研究や,生物学的マーカーの研究,また各種向精神薬の受容体・情報伝達系相互に対する作用機序の研究などが盛んにすすめられるようになってきている。

定型および非定型抗精神病薬の抗ドーパミンD1,D2,抗セロトニン5-HT2作用

著者: 松原繁広 ,   松原良次 ,   小山司 ,   山下格 ,  

ページ範囲:P.117 - P.123

■はじめに
 chlorpromazineの登場により精神分裂病の薬物療法が可能になって半世紀近くになろうとしている。その後butyrophenone系の薬物など,多数の抗精神病薬が使用可能になりその有用性も証明されている。作用機序についてはなお明らかでないが,一般に受け入れられているのは“ドーパミン仮説”であろう。1970年代半ばになって,Seemanら29),Creeseら10)が抗精神病薬の臨床用量とそのドーパミンD2受容体阻害能とのあいだに高い相関があることを証明し,“ドーパミン仮説”はますます確からしいものとなった。
 したがって,抗精神病薬による治療には多かれ少なかれ錐体外路系の症状(以下,EPS)がつきまとうことになるが,1960年代末に現れたdibenzodiazepine系薬物であるclozapineは,明らかに抗精神病効果を示すにもかかわらずEPSを欠く31)ことから,古典的抗精神病薬(定型的な抗精神病薬,typical antipsychotic drug,以下typical APD)に対比され,非定型抗精神病薬(atypicalAPD)として,以来数多くの研究の対象となってきた。

σ(シグマ)受容体の結合特性と各種抗精神病薬の作用

著者: 図子義文 ,   原田俊樹 ,   奥村一哉 ,   氏家寛 ,   藤原豊 ,   秋山一文 ,   武田俊彦 ,   山本智之 ,   大月三郎

ページ範囲:P.125 - P.131

■はじめに
 σ(シグマ)受容体は,当初オピオイド受容体の1亜型として想定され薬理学的にもその同一性が確認された後,現在ではオピオイド受容体と区別されている受容体である。σ受容体に作用する内因性作用物質が特定されていないためどのような種類の受容体に属するのか結論は出ていないが,σ受容体には(+)異性体のオピエートのみならずhaloperidolなどの抗精神病薬が作用することが,その薬理学的研究が行われた当初から明らかにされてきた。最近ではσ受容体は,抗精神病薬の作用機序と抗精神病薬によるジストニアの発現機序29)との観点から注目されている。今までσ受容体に対する抗精神病薬の親和性を系統的に調べた報告は少なかったので,今回は新旧の各種抗精神病薬とその他向精神薬を含む各種薬剤のσ受容体に対する親和性を,[3H]haloperidolを標識化合物とした受容体結合実験によって調べた。

[指定討論]5-HT2受容体とシグマ受容体の抗精神病作用との関連について

著者: 金野滋

ページ範囲:P.133 - P.136

 二つの研究の共通点は,抗精神病薬の臨床効果の薬理学的作用機序を明らかにすることによって,分裂病の病態・病因を神経化学的に説明することを目的としていることであるといえる。周知の通り分裂病のdopamine(DA)過剰仮説も同様の方法論を用いて導き出されたものであり,この方法は分裂病の生物学的研究において極めてオーソドックスなものである。現在,臨床使用されている分裂病治療薬の薬理作用の基盤が,DA受容体の中でもD2受容体遮断作用によるものであることをSeeman5)が示した。ただし,これらの薬物は分裂病症状のうちでもいわゆる陽性症状に対して治療効果を持つが,陰性症状に対しては的確な効果をもっていない。したがって,DA過剰仮説も今のところ分裂病全体ではなく幻覚・妄想などの陽性症状を説明する仮説と考えられる。さらにいえば抗精神病作用はD2受容体遮断作用によると断定するだけの十分な根拠が得られているわけでもなく,抗精神病薬がDA遮断作用を共通してもっているのは,chlorpromazineやhaloperido1以来そのような薬物をスクリーニングし臨床使用した結果であることを念頭におかなければならない。こういった現状からD2のみに固執することなく(極めて重要ではあるが)抗精神病薬の薬理機序に関する知識を積み上げる必要がある。最近の精神薬理学的研究結果から,serotonin(5-HT)やglutamate神経系,PCP結合部位やσ結合部位などが,精神機能や分裂病との関連で注目されてきている。そういった観点から,この二つの研究報告は極めて今日的なものであるといえる。
 松原氏らの研究目的は,最終的には分裂病陰性症状に5-HT機能が関与しているか否か明らかにすることにあるといえる。さしあたり各種抗精神病薬の5-HT2受容体とD2受容体に対する遮断力価の比が,typical antipsychotic drug(TAD),とatypical antipsychotic drug(AAD)の分類の指標になることに力点をおかれた。そのKi値の結果をみると,確かにAADおよびその候補とされる薬剤のほとんどで,Ki値の5-HT2/D2比は0.1以下で相対的に5-HT2受容体に対する遮断効果のほうが強い。従来,thioridazineのような錐体外路性副作用の少ない抗精神病薬のその特徴は,抗コリン作用を持っているためと説明されてきた。代表的AADの一つであるclozapineについてもそのように考えられてきた。しかし,松原氏らの指摘どおり,この二つの薬剤の各種受容体に対する親和性のプロフィール(図1)からみても,相対的に強い5-HT2受容体拮抗作用がAADの錐体外路性副作用の少なさの生化学的基盤の一つである可能性は十分ある。ただし,報告の中でAADとして位置づけられている薬剤の中には,今のところAADの候補にしか過ぎずAADと分類するだけの十分な臨床所見が得られていないものが含まれていることにも留意する必要がある。しかも,ここでこの説明に当てはまらない薬剤の存在を指摘しておかなければならない。TADの分類に入れられているpimozideは示されたとおりD2受容体に極めて選択性が高く,5-HT2受容体に対しては弱い選択性を持っている。各種受容体に対する相対的親和性プロフィールがこのpimozideに最も似ている薬剤に代表的なAADであるsulpirideがある。sulpirideは相対的にpimozide以上にD2に対して親和性が高く,5-HT2に対して低い。今回示された結果の中にsulpirideは含まれていないが,この代表的AADは松原氏らの分類では最も典型的なTADになる。したがって5-HT2受容体に対する親和性の高さでのみAADを特徴づけるわけにはいかないと考えられる。

精神分裂病剖検脳のGTP結合蛋白質(Gi,Go)—計測学的所見との比較

著者: 岡田文彦 ,   ,  

ページ範囲:P.137 - P.142

■はじめに
 精神分裂病のドーパミン仮説ではドーパミン神経伝達の亢進を予測している5,13,26,29)。しかし,この仮説を直接支持する所見に乏しかった5)。ドーパミンの含有量の多い脳部位では,ドーパミンD2受容体が増加15,25)(D1受容体は不変4))しているとの報告があるが,分裂病の病的過程によるのか,長期間の向精神薬療法による結果なのか,不明のままである17)。線条体にはドーパミン受容体とアデニレートシクラーゼとの間に介在する促進性(Gs)及び抑制性(Gi)のGTP結合蛋白質の存在が知られており30),膜を介する情報伝達系に重要な役割を担っていると考えられている。また,海馬では5-HT1A1,8,20)やGABAB受容体1)と共役する百日咳毒素感受性のGTP結合蛋白質の存在が報告されている。我々はGTP結合蛋白質を介する情報転換機構を検討することにより,精神分裂病の病態を分析する試みを行っている21,23,24)。この論文では一連のシリーズとして,剖検脳の解剖学的計測学的測定を行った同一のサンプルについて,各脳部位でGi/Goの変化を検討した結果を報告する。

[指定討論]抗うつ薬長期投与後のラット大脳皮質グアニンヌクレオチド結合調節蛋白質—Gs,Gi/GoのADPリボシル化

著者: 朝倉幹雄 ,   塚本徹 ,   長田賢一 ,   長谷川和夫

ページ範囲:P.143 - P.145

■はじめに
 抗うつ薬における受容体と膜内共役物質による情報伝達系の分子生化学的機序は解明されていない。三環系抗うつ薬のdesipramineやimipramine慢性投与後にみられるラットの脳の生化学的変化として,ノルエピネフリン(NE)-βアドレナリン受容体-cyclic AMP情報伝達系では,脳のβ受容体の減少2)と,NE刺激によるアデニル酸シクラーゼ(AC)活性の低下が知られている5)。筆者らは慢性投与後もβ受容体を減少しないと報告されていた非定型抗うつ薬のmianserinとmaprotilineは,3日間投与6時間後には減少し,24時間後には回復していることを報告した1)。しかしmianserinやmaprotilineの場合,最終投与24時間後にβ受容体の減少はみられないがNE-AC活性は低下していることが報告されている3,4)。そこでこれらの事実から,β受容体とACの間の脱共役“uncoupling”が起こっていることが示唆された。脱共役の可能性として,1)β受容体-Gs間の脱共役,2)Gsα自体の量的または質的変化,3)GsαにおけるGDP-GTP交換反応の変化などが考えられる。本研究では抗うつ薬desipramineとmianserinを慢性投与後のラット大脳皮質膜標品のGsαをコレラ毒素,Giα(Goα)を百日咳毒素でADPリボシル化することによってGsとGiの量的変化を比較した。またADPリボシル化に影響する二価イオンとグアニンヌクレオチドの効果を比較して抗うつ薬慢性投与後のG蛋白に起こる生化学的変化および,ADPリボシル化によるGTP結合調節蛋白の定量の問題点を検討した。

うつ病とセロトニン1Aレセプター—抗うつ薬の作用とコルチコステロン反応を中心に

著者: 穐吉條太郎 ,   土山幸之助 ,   山田健児 ,   小野妙子 ,   山内千代 ,   大庭明子 ,   山田久美子 ,   児島克博 ,   佐々木一郎 ,   中村誠 ,   青木裕子 ,   永山治男

ページ範囲:P.147 - P.153

■はじめに
 うつ病の病態生理においてセロトニンニューロンの機能異常の存在とその重要性を示唆する基礎的,臨床的所見が集積されつつある2)。これに基づき抗うつ薬の作用メカニズムにおいても,セロトニン神経機能への作用の重要性を主張する仮説が提唱されている29)。この分野におけるここ数年の進歩は,セロトニン機能の様々な側面に対して特異的な作用をもつ薬剤の開発によるところが大きい。これらの薬剤の出現はうつ病の治療および研究の範囲を拡大させた。本稿においてはその中でもセロトニンレセプターのサブタイプの1つであるセロトニン(5-HT)1Aレセプターと抗うつ効果との関連を中心に我々の研究およびその関連研究について述べたい。

ヒト血小板におけるモノアミン受容体機能—うつ病血小板におけるモノアミン受容体刺激性細胞内カルシウム濃度の検討

著者: 加賀谷有行 ,   三国雅彦 ,   山本秀子 ,   黒田安計 ,   西川徹 ,   高橋清久

ページ範囲:P.155 - P.160

 1960年代に降圧薬のレゼルピンによりうつ状態が引き起こされること,モノアミン酸化酵素阻害剤に抗うつ効果があることが明らかになり,躁うつ病のモノアミン欠乏仮説3,18)が提唱されるようになった。その後,うつ病者の髄液中の5-HIAAが低値であること,うつ病者死後脳のセロトニン含量が減少していること,抗うつ薬にアミン再取り込み阻害能やモノアミン酸化酵素阻害能があることよりセロトニン欠乏仮説が強く支持されるようになった。このように躁うつ病の生物学的成因として,中枢神経系のアミン伝達異常が想定され,それについての研究が,数多く行われてきたが,研究が進むにつれて,このセロトニン欠乏仮説に一致しない研究結果も少なからず報告されるようになった。
 その後,Aprison,Takahashiら1)により躁うつ病のセロトニン受容体過敏仮説が提唱されて以来,躁うつ病の生物学的研究の主流は,モノアミン,特にセロトニン受容体測定へと移り,現在も多くの研究が行われている。

[指定討論]うつ病とセロトニンレセプター

著者: 山脇成人

ページ範囲:P.161 - P.163

 うつ病の病因に関するセロトニン(5-HT)仮説が提唱されてから多くの研究が行われてきたが,基礎的研究技術の進歩に伴ってその内容も変化してきた。当初はうつ病患者の髄液あるいは自殺患者の死後脳における5-HT代謝に関する研究からうつ病における5-HT代謝障害が注目された。一方,抗うつ薬に関する薬理学的研究においては,神経終末における5-HTなどのモノアミン再取り込み阻害作用が治療機序に関係していると考えられていたが,その後のレセプター研究の進展に伴って,シナプス後膜上のレセプターの変化が注目されてきた。
 5-HTレセプターは最近では多くのサブタイプが提唱され,少々混乱しているのが現状である。しかし,今回のシンポジウムで取り上げられた5-HT1Aおよび5-HT2レセプターは,その情報伝達系や生理機能が比較的明らかになっており,うつ病研究においても報告が多い。そこで今回発表された2演題をもとに5-HT1Aおよび5-HT2レセプターとうつ病について考察してみたい。

研究と報告

精神分裂病者の死亡に関する疫学的研究—長崎市の原爆被爆者を対象として

著者: 太田保之 ,   植木健 ,   三根真理子 ,   大塚俊弘 ,   菅崎弘之 ,   塚崎稔 ,   吉武和康 ,   内野淳 ,   荒木憲一 ,   道辻俊一郎 ,   中根允文

ページ範囲:P.165 - P.173

 【抄録】 長崎市内在住の被爆分裂病者の死因・死亡率に関する疫学調査を行った。対照群は,性,被爆時の年齢,爆心地からの距離がマッチできた長崎市の被爆一般人口である。死亡の観察期間は1970〜1984年の15年間である。
 被爆分裂病者の5大死因のうち,心疾患(死亡割合18.3%,相対危険度1.71),脳血管疾患(死亡割合13.0%,相対危険度1.03),肺炎・気管支炎(死亡割合10.7%,相対危険度2.15),自殺(死亡割合11.5%,相対危険度6.10)の4死因は被爆一般人口に比較して統計学的に有意に高かった。しかし,悪性新生物(死亡割合17.6%,相対危険度0.73)は被爆一般人口との間に有意な差異は認めなかった。年齢層ごとの死亡の割合をみると,被爆一般人口では高齢者ほど死亡者数が多くなる傾向を示していたが,被爆分裂病者のほうは若年者ほど死亡者が増加する傾向が認められた。これらの線型関係はLinear trend testで有意な関係にあった。
 今回の被爆分裂病者の死因・死亡率に関する解析結果は一般の分裂病者の死亡特性として解釈してもよいと考えられた。

季節性感情障害の1例における神経生物学的検討

著者: 中山和彦 ,   遠藤拓郎 ,   吉牟田直孝 ,   忽滑谷和孝 ,   田中樹子 ,   伊藤洋 ,   佐々木三男 ,   森温理

ページ範囲:P.175 - P.184

 【抄録】 軽度の月経前緊張症を呈する23歳の典型的な季節性感情障害の症例に,神経生物学的指標を設定して光パルス療法を実施した。その結果明らかな改善が認められ,いくつかの興味ある所見が得られたので報告した。
 その中で神経内分泌の変動に注目すべき結果が認められた。まずうつ状態や過食などと関連が考えられる血漿中トリプトファン濃度について述べると,総トリプトファン濃度は一定であるものの,脳内に移行する遊離型トリプトファン濃度は病相期において有意に低下しており,また光照射によって明らかに増加することが認められた。一方,メラトニンの日内変動は正常であったが,分泌量が低下していた。TSHとプロラクチンは低値でしかも日内変動が不明確になっていた。またこれらの所見も光照射によってある程度改善された。

「幼児奇胎妄想」から実子を殺害した精神分裂病者の1例—民俗精神医学的考察

著者: 滝口直彦 ,   小田晋 ,   佐藤親次 ,   妹尾栄一

ページ範囲:P.185 - P.190

 【抄録】 「5歳の長女が妊娠し,長女は出産により死亡し,生まれてくる子供も奇怪異様な子供である」という妄想に基づいて実子殺を行った1症例を報告した。我々は,その妄想を幼児奇胎妄想と命名し,民俗精神医学的見地から,本妄想の成立の機転について考察した。その結果,一見きわめて奇異で正常者の心性とは隔絶されているように思われる本妄想が,日本人が普遍的に持っている古層心性とかなりの共通点を持つこと,しかしながらやはり,分裂病という事態によって歪曲が施されて古層心性が表出していることが明らかになった。そして,民俗精神医学的見地からの妄想研究が有益なものであることが示唆された。

新しい抗てんかん薬ゾニサミドによる薬疹の1例

著者: 大橋嘉樹 ,   柳生隆視 ,   加護野洋二 ,   福島正人 ,   木下利彦 ,   岡島詳泰 ,   磯谷俊明 ,   延原健二 ,   齋藤直巳 ,   赤枝民世 ,   廣谷好永 ,   齋藤正己

ページ範囲:P.191 - P.194

 【抄録】 てんかんの薬物療法には,種々の抗てんかん薬が用いられる。その使用にあたっては,的確な種類,量の抗てんかん薬を選択するとともに,起こり得る副作用には十分注意する必要がある。今回,側頭葉てんかん患者に新しい抗てんかん薬zonisamideを投与中,ステロイド治療を必要とする重篤な全身性多型浸出性紅斑が出現し,zonisamideによる薬剤性皮疹と診断された1例を経験した。症例は29歳の女性で,zonisamide投与後10日目より紅斑性皮疹が発生したため,投与後13日目に中止したが,皮疹はその後全身に広がり,発熱,口腔粘膜疹,肝障害が発現したので入院治療を行なった。確定診断のために,DLST,貼布試験,内服試験を施行したが,DLST,貼布試験では明確な結果は得られず,内服試験により皮疹の再現を認めた。Zonisamideによる重篤な薬疹はこれまで報告がなく,zonisamide投与中は皮膚病変に十分な注意が必要であることが示唆された。

短報

フレゴリー症候群と地誌的重複記憶錯誤を示し側頭葉に顕著な萎縮を示した1例

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.195 - P.197

■はじめに
 フレゴリー(Fregoli)症候群は6),陰性替え玉妄想であるカプグラ(Capgras)症候群に対して,陽性替え玉妄想と呼ばれることがあり15),特定の何者かが様々の形に姿を変えて自分を迫害するという稀な訴えである。元来は分裂病において論じられることの多かった替え玉妄想は,器質的な疾患を合併することがしばしばあることが近年指摘されるようになり1,14),フレゴリー症候群に関しても同様の症例報告がなされている7)。今回我々は,躁うつ病の経過中に,一過性に,フレゴリー症候群,重複記憶錯誤12)及び幻視といった多彩な症状を示し,両側側頭部に顕著な脳萎縮を認めた女性例を経験した。器質的な基盤を持ったカプグラ症候群に関しては,本邦においても既に報告があるが3,5),フレゴリー症候群が他の重複記憶錯誤と関連して出現した例はほとんど報告されていない。本稿では,症例報告と共に,フレゴリー症候群とその関連疾患の発現機序に関して若干の考察を加えた。

古典紹介

J. P. Falret—循環精神病あるいはマニーとメランコリーとの規則的交替によって特徴づけられる精神病の1型について(1854)

著者: 西園マーハ文 ,   濱田秀伯

ページ範囲:P.199 - P.210

循環精神病あるいはマニーとメランコリーとの規則的交替によって特徴づけられる精神病の1型について原注1)(1854)
 私は循環精神病という語で言い表そうとすることがらを既に337ページ訳注1)に示したが,ここでは,この新しい型の精神病について,さらに詳しい記述をしようと思う。しかし,記述そのものに取りかかる前に,種々の精神病における寛解と間歇性について,いくつかの事実を指摘しておくことが重要である。先ずそれらの精神病を除外することから始めなければ,この型の精神病と混同される可能性があるからである。これが,循環精神病という名で私が表現することがらを正しく理解していただく唯一の方法である。
 いかなる精神疾患も,多少とも顕著な寛解(rémission)があり,様々な強度の発作性(paroxysmus)を有するものである。病気の強さも性質も,ずっと同じままで続くことほど稀なものはない。これは,一般的に知られた事実で,精神医学と同様,一般医学においても観察されることである。しかしながら私が思うには,これまで,精神疾患の経過中にみられる,このような寛解と発作の頻度や強度については,あまり強調されることがなかったようであり,いくつかの重大な間違いが生じたのも,こうした観察を欠いたことによる。例えば,全般精神病において,互いに全く異なる多くの患者が,マニー患者という属名のもとに,無差別に分類されてしまう理由の一つにもなっている。また部分精神病の研究においても,この観察上の空白のために,妄想やモノマニーはそれぞれ独立したものだという学説が信じられているが,これは科学的見地からは全く誤っており,精神病者の治療や,司法医学的見地からみても有害である。というのは,この学説では,精神病を,強い情動と同列にみなし,両者の間に,何ら境界線を設けていないからである。

動き

「日本精神病理学会第13回大会」印象記

著者: 井上洋一

ページ範囲:P.212 - P.213

 日本精神病理学会第13回大会は,1990年9月27日と28日の2日間,去年に引き続いて名古屋で開催された。A・B・Cの3会場に分かれて活発な討論が行われた。3会場に分かれている上に,筆者が聞いた発表は一部に過ぎないことをお断りし,一般演題については少し触れるに留めたい。
 演題は全部で65題あり,分裂病圏の問題を扱っているものが半数に及んだ。妄想に関するもの5題,幻覚に関するもの4題,また新海氏を中心として,近年分裂病の個人精神療法について発表を続けているグループからの演題発表が今年も7題あった。面接中の分裂病患者の精神状態の変化を微細なレベルでとらえて,「正気状態」と「再燃状態」とに分け,前者から後者への移行を「賦活再燃現象」として概念化し,治療的関与を考えていこうとするものである。

「第17回国際神経精神薬理学会議(CINP)」印象記

著者: 秋山一文

ページ範囲:P.214 - P.215

 第17回国際神経精神薬理学会議(C. I. N. P)は1990年9月10日〜14日にかけて京都市の国立京都国際会館で開催された。今回はアジア地区で初めての開催であり,世界の精神薬理学者・精神医学者が一堂に会したことはわが国の研究者にとって意義深いことであった。この分野での最近の研究成果について6題の特別講演,64のシンポジウムの他,多くの一般口演・ポスター演題が発表され,内容は多岐にわたった。出席して感じた印象は海外で多くの新しい向精神薬が開発され,手づまりの感があった現行の精神科薬物治療にも新たな選択の可能性を期待できる状況が出てきたことであった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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