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雑誌目次

雑誌文献

精神医学33巻3号

1991年03月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科医か精神神経科医か

著者: 山内惟光

ページ範囲:P.224 - P.225

 学会認定医制度協議会へ日本精神神経学会からも委員を送って,現在何が話題になり,どのような討議がなされているかが伝わってくるようになった。学会内にも関連の委員会ができ,この問題は精神神経学会のシンポジウムでも活発な討論がなされたことは記憶に新しい。各委員のご苦労を多とし,会員各位が納得できる方向での結論が得られるためには,多くの会員がこの問題にどれほどの関心を持たれるかにかかっていると考える。

研究と報告

分裂病の異父3姉妹発症例

著者: 植木啓文 ,   高井昭裕 ,   長瀬志津子 ,   曽根啓一

ページ範囲:P.226 - P.233

 【抄録】 非常に稀な分裂病異父3姉妹発症例を報告し,発症に関与したと推定される個体発生以降の環境,発病状況,経過に影響を与えた要因などについて検討した。また,非発病同胞との比較検討も行った。
 3症例に共通する基礎性格は母親から伝達されたものであろうが,自我の強度の差異は彼らの生活史の差異に還元される。自我同一性の重層的発達の乏しい3症例に備わった受動と能動はそれ自体すでに欠陥を有しており,受動—能動の自在な変換を要求される状況で発症している。発病様式,初期症状は生活史—病前性格を反映している。「私」と「家」は相補的,相互応答的に作用し合っており,この両者の関係が3症例の発病後の経過に及ぼす影響が示唆された。非発病同胞は,情緒的よそよそしさを有し,家族の情緒的まきこみや緊張を回避していた。

マリファナ精神病の3例

著者: 横山尚洋 ,   村上雅昭 ,   片山信吾

ページ範囲:P.235 - P.242

 【抄録】マリファナ精神病と思われる3例を報告した。いずれも20代の男性であり数カ月から数年間にわたる連続的なマリファナ使用後に発症しており,精神身体的なストレスが関与していた。症例1,2は多幸的で抑制欠如した気分が基底にあり宗教的・誇大的な内容の幻覚妄想を伴う精神病状態を呈し,意識障害の存在が認められStringarisによる分類では挿間性錯乱状態に相当するものと思われ,精神症状消褪までに約3週間を要した。症例3では意識清明下で数カ月にわたる幻覚妄想状態を呈しており,性格変化を来たし元来の人格からは考えられない暴力行為がみられており,遷延性マリファナ精神病に相当するものと思われた。3例とも治療に対する反応は良好であり,精神症状消褪後には明らかな無動機症状群は示さなかった。

老年同胞に発症し高血圧を伴わないBinswanger型脳血管性痴呆

著者: 神岡芳雄 ,   西村信一 ,   狩野正之

ページ範囲:P.243 - P.250

 【抄録】老年期発症の高血圧を伴わないBinswanger型脳血管性痴呆の同胞例について,臨床神経病理学的検討を行い記載した。
 臨床像は初期,中期,末期に分けて要約して述べた。全経過年数とけいれん発作の有無を除くと,症例1(兄)と2(弟)は病像が酷似していた。両者とも臨床診断にはCT所見が有用であった。症例2にはSPECTも応用された。剖検された症例2の神経病理学的所見は,大脳白質の広範びまん性髄鞘淡明化とU線維の保存傾向がみられた。この病変は脳底部動脈からの各大脳動脈分岐部の高度の内膜肥厚,大脳くも膜下腔小動脈と白質の細小動脈の著明な中膜肥厚硝子化による,高度内腔狭小化に伴う慢性血行不全に主因が求められた。文献からみて,老年期同胞発症例の記載はみられないが,前田らの青年期同胞発症例などと比較考察を行った。

麻痺肢からの幻聴を示した脳卒中後遺症の1例

著者: 田中恒孝 ,   友野勝美 ,   平林一 ,   藤田勉

ページ範囲:P.251 - P.257

 【抄録】 自己の麻痺肢からの幻聴に支配されて,健側肢の行動を妨害する異常運動を示した脳卒中後遺症の1症例を報告した。患者は66歳の右利き女性で,左被殼出血にて約1カ月間にわたる意識障害から回復したのちに,重度通過症状群と右完全片麻痺を示したが失語や失行,失認はなかった。発症約3カ月後にリハビリテーションセンター鹿教湯病院へ入院し,治療によって精神・身体機能が著しく改善しつつある時期(病後約6カ月)に,健側肢の行動に先立って麻痺肢から「私がやる!」との幻聴を生ずるようになった。患者は右片麻痺の存在を自覚していながら,幻声を信じて麻痺肢を動かし健康肢の行動を妨げる異常運動を重ねていた。麻痺回復に対する過度の願望を捨てさり(麻痺の受容),訓練に励んで杖歩行可能になるのと時期的に一致して幻聴は消失した。麻痺肢から生じたこの特異な幻聴について考察し,その発現機制に関して精神力動論的解釈を試みた。

事象関連電位を用いた脳代謝賦活薬の効果の精神生理学的検討

著者: 佐々木司 ,   平松謙一 ,   福田正人 ,   斎藤治 ,   江藤文夫 ,   飯島節 ,   溝口環 ,   林田征起 ,   伊藤憲治 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.259 - P.268

 【抄録】脳代謝賦活薬の効果をERPを用いて検討するため,8例の痴呆症状を有する患者に脳代謝賦活薬(idebenoneまたはcalcium hopantenate)を8週投与し,その前後のP300を比較した。同時にMMS(mini mental state)の評価も行った。検査課題にはoddball課題と三音弁別課題を用いた。脳代謝賦活薬投与によりP300振幅は両課題で同程度に増大したが,潜時は三音弁別課題でのみ短縮した。反応時間はoddball課題でのみ短縮した。課題遂行成績とMMS得点は脳代謝賦活薬投与による有意な変化を示さなかった。三音弁別課題ではidebenoneとcalcium hopantenateのいずれもP300の潜時を短縮し振幅を増大させたが,idebenoneではよりP300潜時短縮の効果が,calcium hopantenateではよりP300振幅増大の効果が大きい傾向が認められた。P300は脳代謝賦活薬の効果指標として鋭敏かつ有用なこと,複数の心理的課題を組合せることで脳代謝賦活薬の脳内情報処理機構への影響の詳細な検討が可能となることが示された。

てんかん患者の妊娠に際しての休薬の試み

著者: 上杉秀二 ,   小島卓也 ,   松浦雅人

ページ範囲:P.269 - P.274

 【抄録】 てんかん患者の妊娠に対しては,できるだけ妊娠の前に催奇性のより少ない抗てんかん薬の単剤治療を行い,妊娠中も薬物治療を継続することが一般的である。今回2例のてんかん患者で,患者の要望により計画的に妊娠前から出産後までの期間について休薬を試み,良好な結果が得られたので報告する。〈症例1〉35歳,24歳初発,複雑部分発作,発作頻度1〜3回/月,脳動静脈奇形(未手術)。第一子はファロー4徴症で死亡。休薬後に妊娠し,発作頻度が2〜5回/月と軽度増加した以外に問題はなく,正常児出産。〈症例2〉27歳,14歳初発,意識減損発作,ミオクロニー発作?,発病初期に強直間代発作が2回出現,発作頻度0〜4回/月,発作は月経前中後に多く,妊娠中は発作は減少した。正常児出産。
 以上から,患者から妊娠に対して休薬の要望があった場合には,休薬による発作の内容及び頻度の増悪を考慮し十分に検討した上で,可能な場合は休薬を行う。臨床および脳波を経過観察し,万一問題が生じる可能性が高くなった場合には適切な対応を行えば,薬物による奇形等の出現や不安を回避でき,全体に良好な結果が得られると考えられた。

対人場面における眼球運動の研究

著者: 中島勝秀 ,   原井宏明 ,   川口弘剛 ,   免田賢 ,   山上敏子

ページ範囲:P.275 - P.281

 【抄録】 これまで,社会技術の要素として重要であるとされながら,その評価が困難であった,対人場面における眼球運動の客観的測定を,看護学生22人を被験者として行った。また,自己主張の高低で被験者を3群に分け,眼球運動との関係も分析した。
 従来のロールプレイを利用した評価方法に,i)刺激提示にビデオテープを用い,ⅱ)大画面スクリーンを使用し,ⅲ)眼鏡式アイカメラを採用することで,これまで障害となっていた対人場面での眼球運動の客観評価を可能にした。
 正常者の対人場面での眼球運動は,「話を聞いている時には相手をじっと見つめ,自分が話をする時には注視時間は短く眼球を速く動かす。話の終了後は注視時間が徐々に長くなり相手の反応を待つ」という一定のパターンがみられ,さらに,その傾向は自己主張性が中等度の群と高い群に強く現れていた。

自我漏洩症状の症状変遷について

著者: 萩生田晃代 ,   濱田秀伯

ページ範囲:P.283 - P.289

 【抄録】 自我漏洩症状の特異な症状変遷を示した2症例について報告した。症例1は自己臭恐怖—考想伝播(視線によって思考内容が漏れる)—考想伝播(喉から勝手に思考内容が漏れる)の順に,症例2は表情恐怖—自己視線恐怖—考想伝播(喉から無理に思考内容が漏れる)の順に変遷し,患者は次第に症状に対処できなくなっていった。症状進展の特徴として,内部の支配・強制感の強まりと,漏洩する内容が具体化・言語化することを,挙げることができた。
 被影響現象と自我漏洩症状という,対立する2つの自我障害の系列の,症状の進展を比較すると,支配・強制感の強まりと内容の具体化・言語化といった構造上の類似が認められた。なお自我漏洩症状は,その進展から,運動性の強い仮性幻覚としてとらえることも可能であった。

トントン拍子体験と既定妄想—時間性の変化からみた単一精神病的妄想形態布置論

著者: 岩井一正

ページ範囲:P.291 - P.298

 【抄録】 単一精神病的な基本視点から,妄想形態の全体的な布置に関する試案を提示する。位置づけにあたって,臨床的には躁-うつ,躁うつ病圏-精神分裂病圏,それに急性-慢性の対極性を構成する3次元を分離した。これらはそれぞれ異なった,時間性の障害軸に対応している。生リズム障害の促進と遅滞を基盤にした第1の軸上で,抑うつ性のあとの祭りに対峙している妄想の準備野は,従来注目されなかった,躁性のトントン拍子の体験野である。既知感に溢れ,他者性を含まぬこの体験野を輪郭づけ,アンテ・フェストゥムと対比することによって,循環病性と分裂病性とを対峙させている時間性を第2軸として分離した。妄想体験と妄想観念の相違にも通ずる,急性と慢性の対極性は,第3軸に捉えられる。疾病区分を超えて慢性妄想をまとめる徴標として,妄想内容に現れる運命的既定性という時間の性格を,急性妄想全般にみられる運命的未決性の体験と対比した。

成人における言語障害発作重積状態

著者: 兼本浩祐 ,   扇谷明 ,   河合逸雄

ページ範囲:P.299 - P.305

 【抄録】 8例の文献例に1例の自験例を併せ,言語障害重積状態(status epilepticus of speech-disturbance:SESD)の特徴を,側頭葉てんかんと関連の深い失語発作群発状態(Kisker)と対比して総括した。その結果,語新作の多発,言語刺激による発作の誘発等を特徴とする後者の症例群に対して,軽度〜中等度の言語理解障害を伴う超皮質性感覚失語に類似する重篤な言語表出障害,手・顔に限局し,マーチを伴わない短時間の運動発作,高年齢発症,発作間歌期の脳波所見の乏しさ,複雑部分発作が合併しないといった特徴が抽出された。更に,運動発作が体の一部に限局していること,脳波所見は断続的でありながら,臨床所見としての言語障害は一定時間持続していたこと等から,興奮性の機序とともに,抑制性の機序がSESD発現に何らかの役割を果たしている可能性を示唆し,Princeらの焦点周囲過分極説と関連させてこれを論じた。

短報

長期間の精神分裂病後に発症したAlzheimer病

著者: 横井晋 ,   久賀康二朗 ,   天野直二 ,   柳下三郎

ページ範囲:P.307 - P.309

はじめに
 Mayer-Gross(1969)はその教科書の中で,痴呆が知能の損傷という意味で使われるならば,精神分裂病はその人格変化とは対照的に,痴呆に陥ることはないと述べている。ここに呈示する症例は30歳前からいわゆる陰性症状に始まりそれに終始し,50歳頃から狭義の痴呆が始まっている。分裂病に痴呆が合併した症例の報告はほとんど見当たらない。

精神症状が神経症状と平行して増悪・寛解を繰り返す多発性硬化症の1症例

著者: 安常香 ,   菊本修 ,   山中敏郎 ,   中原俊夫

ページ範囲:P.311 - P.313

はじめに
 多発性硬化症(以下MS)により多幸・抑うつを主とする感情障害や記銘力障害を主とする知能低下を生じることはよく知られているが分裂病様症状を来たすことは稀であるとされている6)
 今回,我々は,分裂病様症状や感情障害などの様々な精神症状が神経症状と平行して増悪・寛解を繰り返すMSの1症例を経験したので若干の考察を加え報告する。

ブタンガス依存の1例

著者: 五味渕久美子 ,   西川祐一

ページ範囲:P.315 - P.317

■はじめに
 ブタン(butane, C4H10)は,液化石油ガス(liquefied petroleum gas:LPG)の一つである1,2)。今回我々は,携帯用のボンベ(1本が250gで1時間半から2時間使用可)を使用した,ブタンガス依存の症例を経験した。我々の調べた限りブタンガス依存の症例報告はなく,極めて珍しいと考えられるので,報告する。

動き

精神科卒後教育における二,三の試み—カナダのレジデント研修プログラムとの比較

著者: 高橋三郎

ページ範囲:P.319 - P.324

■はじめに
 1988年の第84回日本精神神経学会総会(大阪)のシンポジウム「精神医学の卒後研修と生涯教育」で,精神医学の卒後研修の問題点—現場教官の経験—を話した18)。そこでは,滋賀医科大学で実施している研修プログラムと新しい工夫について紹介した。
 1990年の第8回精神医学講座担当者会議(和倉)のワークショップ「精神科卒後教育の新しい試みについて」では,2年前に提示した我々の研修プログラムがその後いかに有効に行われているかを話す機会を与えられた。私は,最近,何回かカナダのトロント大学,アルバータ大学精神科に短期滞在する機会があり,そこで見聞したことに加えて,1990年6月ブリティッシュ・コロンビア大学精神科を訪問した際,そこのレジデント研修制度についての小冊子を入手したので3),これらと比較しながら,我が国における精神科卒後教育の問題点について考えてみたい。

「第8回青年期精神医学交流会」印象記

著者: 鍋田恭孝

ページ範囲:P.325 - P.326

 1990年11月18日,大阪の薬業年金会館において,思春期外来開設25周年を迎えられた大阪大学の主催で,藤本淳三,井上洋一両氏を代表世話人として当交流会が開催された。200人収容できる会場が前のほうを除いてほぼ満員であり活気に満ちていた。井上氏の話では150名前後の参加であろうとのことであった。演題は12あり,かなりしぼられたという印象を抱いた。これは前回演題数が多数におよび発表時間が1題15分と短く,当交流会の目的を果たせなかったという意見が多かったのを受けての配慮であろうと推量した。そのこともあって今回の交流会においては1題30分の持ち時間があり,発表20分,質疑応答が10分とかなり余裕のあるものとなっており,各発表に対して議論が深められていたように感じ,学会とは異なる当交流会の目的が果たされているという印象を抱かされた。
 演題は症例検討が6題,調査研究が1題,多数症例による臨床研究が3題,治療論が1題という内容であった。病態としては摂食障害およびそれがからんでいるものが5題あり,それぞれ興味ある発表であった。横井公一氏の発表は対象関係の特徴を,乾 明夫氏らの発表は内科,婦人科との連携というリエゾン的観点から,鈴木智美氏らの発表は母子同席面接による治療的プロセスの展開を,浅井信成氏の発表はいわゆる『平凡恐怖』(下坂)の問題を,木崎康夫氏の発表は非行と抑うつがらみのケースを取り上げるなど,この病態のもつそれぞれの重要な側面が議論された。特に摂食障害の患者との面接では,いわゆる古典的な1対1の精神療法においては感情的なものが現れにくく治療が展開しないものである。そして,精神療法の中に現れない分だけ食行動を中心として病的な行動化が生じ,治療者はその対応に四苦八苦していくというプロセスをたどりやすい。私自身は面接が深まらないときにはなるべく家族同席面接することで内容を深めるようにしており,そのような場合,しばしば家族全体の問題が顕在化し,その問題を話し合っていく過程で患者が安定していくことが多いという印象を抱いている。鈴木氏らの発表はそのような体験と重なるものであり,今後,この種の病態に対してはこのような方向性の治療が本筋となっていくであろう。前川あさ美氏らの発表は,これまでのように子供たちが『なぜ学校にいかない,あるいは,いけないか』を問うのではなく,なぜ『いくのか』すなわち,登校へのモティベーションは何なのかを一般中学生に対して調査している点が斬新であった。その結果としては負の動機づけで登校しているものにいわゆる『不登校感情』が強く,不登校児童はその延長線上にありそうだというものであった。私自身,『自己意識』に関して一般学生の調査を行い,神経症状態にあるものと比較検討したことがあるが,このような一般学生の調査と臨床とを結びつけて考察していく方法は,発達課題を抱えている思春期の研究にとって今後一層重要なものとなろう。

「第24回日本てんかん学会」印象記

著者: 清野昌一

ページ範囲:P.327 - P.328

 第24回を迎えた日本てんかん学会が,はじめて海を渡って沖縄県那覇市で開かれた。会長は琉球大学脳神経外科の六川二郎教授,会期は1990年11月16日と17日,さいわい秋晴れの良い天気に恵まれた。本年は沖縄の魅力もあってか一般演題の応募が多く,283題に達した。会長をはじめとするプログラム編成の苦労がしのばれた。会長講演は「外科医から見たてんかんの治療」,特別講演はモントリオールのY. L. Yamamoto,シンポジウムは「てんかん性興奮の伝播―たてかよこか」,スペシャルセッションは「てんかんの病態に関する生物学的研究―発作発現のメカニズム(3)」と「てんかんと運転免許」,ランチタイムセミナーは「てんかん,てんかん症候群および発作性関連疾患の国際分類」であった。それぞれのテーマは,時宜を得た選択であったと思う。
 Yamamoto教授による特別講演は「側頭葉てんかんにおけるPETの最近の進歩」であり,PETによって明らかにされる局所的エネルギー代謝と脳血流,神経伝達物質レセプターの変化とてんかん原性の関係について最近の知見が紹介された。ヒトの側頭葉てんかんにおいて,GABA-Aレセプター機能の局所性定量が可能になってきているという。

「第3回日本総合病院精神医学会」印象記

著者: 福居顕二

ページ範囲:P.328 - P.329

 第3回日本総合病院精神医学会総会が,1990年12月1日帝京大学精神医学教室の風祭元教授を会長に東京の日本都市センターにて開催された。参加者は第1回(160名),第2回(190名)を上回る215名であった。
 プログラムは一般演題が45題あり2会場に分けて行われた。今回もコンサルテーションリエゾン関係の演題が最も多く24題,ついで精神科救急7題,アルコール2題,摂食障害2題,分裂病2題,躁うつ病2題,心身症ないしメンタルヘルス2題,MRI検査2題,思春期1題,精神科の標榜1題であった。コンサルテーション関係では,ICU,せん妄,腎移植,癌告知,medical psychiatry,リハビリテーション,精神科患者の手術あるいは妊娠,などの演題が集まった。なかでも2題のmedical psychiatryの演題では,精神科医がどの程度まで身体医学の専門的知識を持って治療を実践するのかについて活発な討論があった。精神科救急では7題とも自殺企図患者についての発表があり,その背景,治療,転帰に関しての問題点について意見の交換がなされた。2会場のため全部の演題を聞くことはできなかったが,そのほか,摂食障害患者の再養育療法や内科病棟での治療,アルコール症者の一般科内での治療ユニット,脊損患者のリハビリや心臓リハビリの発表などが印象的であった。また,最近一般化してきたMRI検査において閉所恐怖症が悪化することがあるという発表が2題あった。

「精神医学」への手紙

Letter—『精神を病むということ』の書評について

著者: 岡田靖雄

ページ範囲:P.331 - P.331

 秋元波留夫・上田敏両氏の対談をまとめた上記の本が,秋元氏の若々しい情熱の表出であるという点で,わたしは評者木村敏氏(本誌32;1376,1990)に同意する。また,秋元氏が精神医学史につき多くの挿話をもりこまれているその探究心に敬意を表するものである。だが,精神医学史に関する所説が,木村氏がいうような“学問的にも正確な内容”かという点には,深い疑問を感じている。かなり多くみられる不正確な記述から,いくつかあげよう。
 “精神病”の言葉の使用は明治以後である(25ページ)とあるが,この語は緒方洪庵訳『扶氏経験遺訓』に使用されている。『病の艸子』の原本はロンドン大英博物館に(32ページ)ではなくて,わが国にあり,大英博物館にあるのはその模本である。『精神病約説』の原本はモーズリの“Physiology and Pathology of the Mind”(44ページ)ではなく,“Insanity”である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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