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雑誌目次

雑誌文献

精神医学33巻6号

1991年06月発行

雑誌目次

巻頭言

臨死体験の記録—死直前のEuphoriaは「物質」によるものか?

著者: 豊倉康夫

ページ範囲:P.572 - P.573

 死は生物界の永遠の宿命である。しかし,こと自らの死がどんなものであるかについては,所詮誰も理解することはできないであろう。周囲の人々の死は歴然たる事実として誰もが認識できるのに,自らの死を客観視できないところに,自分の死と他人の死との間に恐るべき懸隔がある。これは他人の脳死,安楽死,尊厳死でさえ,自らのそれとおき換えてみても同じである。死は一度しか訪れないし,死者は常に黙して語らないからだ。
 ところが死に瀕しながら蘇った経験をもっ人,いわば死をかいまみた者の体験から死を語ることはできるであろうか? それさえも不可能といわざるをえないのだが,実は筆者自身がかってそれを体験した者として,いつかは書き留めておきたいと思っていたことである。医学者の一人としても,長い間それは義務だと考えていた。

展望

てんかんの精神症状

著者: 山口成良 ,   木戸日出喜

ページ範囲:P.574 - P.585

■はじめに
 てんかんの精神症状については枚挙にいとまがないほど報告がみられるが,それらをまとめて,意識障害を伴った精神病的状態,意識清明でありながら,挿間性に精神病的状態を呈するもの,さらに慢性の精神病的状態を呈するものの3つに分けたBruens12)の分類(表1)がよく知られている。本展望では,第1にてんかん発作としての精神症状,特にてんかん発作重積状態status epilepticusとしての欠神重積状態absence statusと複雑部分発作重積状態complex partial statusの精神症状,第2に挿間性の精神病的状態,第3に慢性の精神病的状態,特に精神分裂病様状態,そして最後にてんかんの知能,性格,認知機能などに及ぼす影響などについて,触れたいと思う。なお,てんかんの精神病状態の精神病理については最近,清野と井上63)による,また,てんかんの精神病理については河合ら34,76)による優れた展望がある。

研究と報告

てんかんの発作性二重身体験—自験6例による検討

著者: 原純夫 ,   武井茂樹 ,   原常勝

ページ範囲:P.587 - P.594

 【抄録】発作性に二重身体験(実体的意識性による二重身あるいは自己像幻視)を呈したてんかんの6症例につき報告した。全例とも複雑部分発作を持ち,精神発作としてPenfieldらの言う解釈的錯覚,体験性幻覚を合わせ持つものが多かった。二重身体験の出現に際しては,離人体験→実体的意識性二重身→自己像幻視,という一定の発展方向が認められた。自己像幻視を呈した5例は3例が鏡像型(顔面,顔面〜胸部,全身),2例が場面型であり,これはdreamy stateにおけるものであった。6例の脳波所見,画像診断(頭部CT,MRI,SPECT)を検討し,発作性二重身体験の責任病巣として側頭部を中心として,頭頂,後頭,さらに時には前頭部も含む,側方性とは無関係のてんかん原性領域(epileptogenic region)が想定された。

てんかんでの急性幻覚妄想状態の発現について—抗てんかん薬との関連

著者: 川崎淳 ,   扇谷明 ,   兼本浩祐 ,   河合逸雄 ,   井上有史

ページ範囲:P.595 - P.600

 【抄録】 分類診断が可能であった成人のてんかん患者1,207例のうち,当院での治療期間中に急性の幻覚妄想状態を発現した26例を抽出し,てんかん分類,精神症状発現時の投薬内容,発作頻度,脳波所見を検討した。てんかんにおける急性幻覚妄想状態の発現率は,全症例で2.2%,側頭葉てんかんでは7.3%と側頭葉てんかんで有意に高かった。側頭葉てんかんでの精神症状発現に関わる一因子として,抗てんかん薬との関連をみたところ,phenytoin(PHT)とzonisamide(ZNS)の関わりが重視された。精神症状はPHT単剤下で4例みられ,そのうち3例は,高い血中濃度で,発作が抑制されて出現した。このことから精神症状はPHTの直接的な副作用というよりも,患者の病態に変化を与えて発現するとみられた。ZNSでは,いずれも多剤併用下で,投与後間もなくに発現する傾向がみられた。しかし多剤併用下であったので,ZNSの副作用として精神症状が出現したのか,なお結論されない。

抗てんかん薬服用患者における骨代謝異常の長期継時的研究—活性型ビタミンD投与前後におけるビタミンD三分画の変化を中心として

著者: 鈴木達也 ,   田中謙吉 ,   宮内利郎 ,   萩元浩 ,   斎藤庸男 ,   八木俊輔 ,   喜多村雄至 ,   山口哲顕 ,   山本裕

ページ範囲:P.601 - P.608

 【抄録】 抗てんかん薬(AED)を10年以上服薬した77例(男41,女36)にマイクロデンシトメトリー法(MD法),血清カルシウム(Ca),リン(P),アルカリホスファターゼ(Alp)を測定し,MD法28例(36.4%),Ca 9例(11.7%),P 5例(6.5%),Alp 17例(22.1%)に異常を認めた。さらにMD法で骨異常を呈した9例に対し,活性型ビタミンD(1α-OHD3)を投与し,MD法,Ca,P,Alp,ビタミンD三分画について継時的に追跡した。1α-OHD3,投与前では,25-OHD32例(22.1%),24,25-(OH)2D37例(77.8%)が異常低値を示したが,1,25-(OH)2D3は全例正常範囲であった。投与後,Caは有意に上昇し,Alpおよび25-OHD3は有意に低下した。24,25-(OH)2D3はいったん上昇した後低下,一方1,25-(OH)2D3は24,25-(OH)2D3とほぼ逆の経過を示した。
 AEDによる骨萎縮性病変に対し,投与薬剤,発症年齢,服薬期間などより検討を行うとともに,1α-OHD3投与前後のMD法,Ca,P,Alp,ビタミンD三分画の継時的変化から考察を加えた。

精神疾患における不規則なβ波の出現と抗けいれん薬の効果

著者: 永久保昇治 ,   熊谷直樹 ,   亀山知道 ,   福田正人 ,   白山幸彦 ,   斎藤治 ,   安西信雄 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.609 - P.619

 【抄録】 本研究は,“不規則β波パターン”を呈する患者の出現頻度,臨床特徴,その臨床症状に対する抗けいれん薬の有用性を検討したものである。“不規則β波パターン”を呈する脳波は稀なものではないが,従来注目されることの少なかったものであり,基礎波形に高振幅で不規則なβ波が目立ち,時にtransientな波形が混入するものを指す。1986年に東大病院精神神経科を受診した全新来患者のうち脳波検査を施行した症例の脳波を全例視察的に検討し,分裂病圏,感情病圏,神経症圏に該当するものをその対象とした。脳波検査を施行した症例のうち不規則β波パターンを呈する症例の比率は約10%であり,不規則β波パターンを呈する症例は不機嫌,心気症,自律神経症状が高い頻度で認められ,逆にこれらの症状の認められる患者ではそうでない患者に比べて不規則β波パターンが有意に多く認められた。抗けいれん薬の併用により半数以上の症例が臨床症状の改善を示し,特に不機嫌,心気症,自律神経症状の改善が目立った。以上より,不規則β波パターンに注目することの重要性,脳波検査の重要性,抗けいれん薬の有用性が示唆された。

慢性硬膜下血腫を合併した初老期痴呆の3例

著者: 渡辺新太郎 ,   由利和雄 ,   村田章 ,   柏井洋平 ,   岩村久 ,   坂田哲二 ,   玉垣千春 ,   斎藤正己

ページ範囲:P.621 - P.626

 【抄録】 初老期痴呆の代表的疾患であるAlzheimer病2例とPick病1例に,慢性硬膜下血腫を合併した症例を報告した。
 Alzheimer病の2症例は,それぞれ発症後8年目および5年目に慢性硬膜下血腫を来した。また,Pick病の症例は,発症後7年目に硬膜下水腫,続いて硬膜下血腫を来している。これらは3例とも初老期痴呆の病期分類における第2期で,慢性硬膜下血腫を来しており,この時期の初老期痴呆には治療・看護面での十分な配慮が必要であると考えた。
 また,臨床症状については,初老期痴呆患者に慢性硬膜下血腫が合併した場合,自発性の低下や軽度の意識障害など,一見すると痴呆の進行と見誤るような精神症状の変化がみられることから,その診断には精緻な臨床的観察が肝要と考えた。

精神病院入院患者における胆石—腹部超音波断層法による検討

著者: 橋口知 ,   福迫博 ,   野間口光男 ,   長友医継 ,   松本啓

ページ範囲:P.627 - P.632

 【抄録】 鹿児島市内の単科精神病院に入院中の30歳以上の男性50名,女性44名の合計94名(平均年齢52.5歳)に対して腹部超音波断層法による胆石のスクリーニング検査を行い,胆石保有群と非保有群とに分け,比較検討した。
 全対象94名のうち,26名(27.7%)に胆石が認められた。胆石保有率と年齢の間に有意な関係は認められなかったが,男女別では女性の胆石保有率が有意に高かった。また,胆石保有群は非保有群に比べて,罹病期間および服薬期間が有意に長かった。年齢,肥満,抗精神病薬の1日服薬量,血液生化学検査では,両群間に有意差は認められなかった。
 精神病院入院患者は,一般人に比べて胆石保有率が有意に高く,また,胆石形成に関与すると思われる因子に関して,一般人における研究報告との間に相違がみられた。今回の結果と文献的考察から,抗精神病薬が胆石の形成に促進的に作用している可能性があることを示唆した。

薬物依存の発生因をめぐって

著者: 和田清 ,   福井進

ページ範囲:P.633 - P.642

 【抄録】 わが国の有床精神科1,564施設に受診・入院した薬物依存例915例について,薬物依存の発生因を初回使用動機・人間(交友)関係・家庭環境・性格特性の面から検討した。
 初回使用動機は医療用薬物(鎮痛薬・睡眠薬・抗不安薬)群と非医療用薬物(有機溶剤・覚せい剤)群および医療用薬物でありながら非医療用薬物群に属する鎮咳薬に分類できた。人間(交友)関係では,非医療用薬物群におけるpeer group,peer pressureの果たす影響の大きさを指摘し,睡眠薬では医療関係従事者との結びつきの高さを指摘した。家庭環境では扶養者の扶養態度としての「放任」の高さ,鎮咳薬・睡眠薬依存者の扶養者間の扶養態度の食い違いの大きさ,有機溶剤・覚せい剤依存者の扶養者間での不和の多さを指摘した。
 また,薬物依存の発生には本人の性格特徴も関係している可能性があることを指摘した。

失立失歩の臨床研究—特にヒステリー性格およびその力動性について

著者: 柴田恵理子 ,   鍋田恭孝 ,   石田松雄 ,   野村総一郎

ページ範囲:P.643 - P.651

 【抄録】 ヒステリーの代表的な転換症状である失立失歩に視点をおき,発症年齢,失立失歩の持続期間,性格傾向,失立失歩以外の症状(解離症状,自律神経症状,行動化),失立失歩の発症状況,生育した家族状況,予後などについて検討した。対象は藤田学園保健衛生大学病院精神科を失立失歩を主訴として受診した17例である。症例は,不登校あるいは不登校傾向から失立失歩の発症へと移行している若年例,典型的なヒステリーの心性として理解できる思春期例,むしろsomatization disorderとも言える高年齢発症例の3つのサブグループにまとめられる。生育歴からは,母親が父親や社会の規範に忠実であり,患者との情緒レベルでの交流に欠けていた様子と,その枠に合うように頑張っている患者の姿とがうかがわれ,これ以上できないという状態の中で発症に至っていた。それゆえ治療としては,治療関係の中で,この休むことができない心性を扱う必要があると考えられた。

職場における抑うつ状態に関する調査—自己評価式抑うつ尺度を用いて

著者: 尾崎紀夫 ,   伊藤孝広 ,   三浦英樹 ,   長瀬治之 ,   篠田毅 ,   小野雄一郎

ページ範囲:P.653 - P.658

 【抄録】 職場環境が勤労者の抑うつ状態に与える影響を検討するため,Zung自己評価式抑うつ尺度(Zung SDS)と職場の様々な項目を含んだアンケート用紙を用いて調査した。Zung SDSの妥当性を検討するために外来精神疾患患者にZung SDSを適用した結果,抑うつ尺度として使用するのは妥当であろうと考えられた。勤労者1,661名のアンケート用紙の結果を検討したところ,従来の報告と比較して抑うつ状態の発生率が低かった。今回の対象が労働衛生への配慮が高い公的職場であったことがその要因と思われる。職場での何らかの問題を感じているものは男女ともに抑うつ状態が多かった。残業時間が多く,職場の人間関係も問題で,自己の仕事への適性に疑念を感じている女性が病院の技術職に集中しており,抑うつ状態が多発していた。彼女らは看護婦にみられるバーンアウトの可能性が強い。男性においては仕事への役割同一化が強く,多忙でも抑うつ傾向のみられないものがいた。

短報

精神分裂病外来支援活動における自由来室・昼食会の意義について

著者: 久場政博

ページ範囲:P.661 - P.663

■はじめに
 デイケアが精神科治療として広がるにつれ2),外来支援活動も各地で活発になってきた。当科も昭和57年,コ・メディカルスタッフ部門である心理社会療法科(以下,心社)を設置して以来,外来患者のうち,特に精神分裂病患者を対象に,様々な支援活動を行っている。
 それには,心社室への自由な出入り,週1回の昼食会,年4回の野外レク,家庭・アパート・職場訪問,職場紹介,作業療法などがある。ここでは前二者を取り上げ,平成元年まで8年間の活動の意義について,若干の考察をしたい。

動き

「第1回精神医学・精神保健ヨーロッパ医史学会」に出席して

著者: 濱中淑彦

ページ範囲:P.666 - P.669

 第1回精神医学・精神保健ヨーロッパ医史学会The 1st European Congress on the History of Psychiatry and Mental Health Careは1990年10月24〜26日,オランダ(以下Nlと略)の's-HertogenboschにおいてCasino den Boschを会場として開催された。オーガナイザーはUtrechtにあるオランダ精神保健研究所(NcGv:Nederlands Centrum Geestelijke Volksgezondheid),科学的プログラム委員長はLeuvenのカトリック大学(ベルギー:Bg)のP. Vandermeersch教授,国際顧問委員会はBonn大学医史学教室のH. Schott教授(ドイツ:Gm),California大学医学的人文学Medical HumanitiesのD. B. Weiner教授(アメリカ:Am),Caen大学定量史学研究センターCentre de Recherche d'Histoire Quantitative(C. N. R. S.)のC. Quétel博士(フランス:Fr),Cambridge大学Robinson Collegeの医学研究指導長のG. E. Berrios博士およびLondonのWellcome医史学研究所のR. S. Porter博士(イギリス:UK),地元オランダからLeiden大学医史学教室のA. M. Luyendijk-Elshout名誉教授,Rotterdamのエラスムス大学史学教室のW. Frijhoff教授という多彩な顔触れであった。ちなみにBerrios, Porter両博士は,1990年3月に発刊された“History of Psychiatry”誌(Alpha Academic in Collaboration with the Royal College of Psychiatrists)の編集責任者である。これら主要メンバーについては著作表を参照されたい(表)。
 この委員会構成は,現在の精神医学史研究,さらには医史学全体の潮流をも反映しているのだが,約160人の参会者の専門もまた精神医学,精神保健のほかに心身医学,犯罪学,生物・医学倫理学,医史学,科学史,史学,心理学,社会学など極めて多岐にわたる。地元オランダを筆頭に,イギリス,ドイツ,フランス,ベルギーの参加者が多く,統一なったばかりのドイツからは,世界最初の医史学教室の伝統をもつLeipzig大学Karl-Sudhoff医史学研究所(元東ドイツ)から2名の研究員の顔がみられた。東欧は別として北欧から南欧に至るほとんどすべての国の参加者があったわけで,アメリカからの主要な研究者のほかにカナダ,さらにはオーストラリアの人もみえた。わが国からは筆者のほかに,東京大学の科学史研究グループ(村上陽一郎氏ら)からLondonのWellcome医史学研究所に留学しているAkihito Suzuki氏が出席していた。

「第5回日本精神保健会議」に参加して

著者: 影山任佐

ページ範囲:P.670 - P.671

 第5回日本精神保健会議が2月9日に今年も有楽町朝日ホールで開催された。この会議は日本精神衛生会・日本精神衛生連盟が各種機関や団体の後援や協賛などを得て,毎年春先に開催されるものである。精神保健関係者から一般の方までが広く一堂に会し,今日的問題を取り上げ,宣言や提言としてまとめ,日本の精神医療や保健,福祉に関する展望を開こうとすることを本旨としている。今回は杏林大学武正健一氏を中心として会議の準備が進められ,「高齢化社会における心の健康と福祉」のテーマの下に,慶応大学浅井昌弘氏の総合司会により開催された。
 最初に日本精神衛生会島薗安雄理事長より「高齢化社会における精神保健と老人福祉についての現状と問題」が開会の言葉として述べられ,厚生省精神保健課長廣瀬省氏より厚生大臣の挨拶が披露された。会議は武正,徳田良仁両氏の司会で始められ,国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健部長大塚俊男氏より,「老人精神保健・福祉の現状と今後のあり方」と題する全体的な問題が次のように報告された。高齢化社会を迎え,わが国では老人精神障害の患者数が著しく増加してきている。昨年9月現在65歳以上の老人は1,488万人,日本の総人口の12%を占め,既に1割を越えるに至っている。現在の精神病院入院患者数約35万人の中で,65歳以上の老人は7万7千人,22%で,そのうち神経症,うつ病者などが約6,000人,分裂病者は入院患者の約30%,2万3千人,痴呆症は3万3千人を数える。一方痴呆症の老人は老人人口の約6%で,昭和60年当時で,在宅だけで60万人,現在では在宅および施設・病院収容の老人を合わせて90から100万人と推定されている。痴呆症の処遇は治療より在宅ケアが中心となっている。これをサポートする機関として,厚生省による診断と救急医療に対応する老人性精神疾患センター(各県に1つ)や各地区の保健所による相談,福祉によるデイ・サービス,ホームヘルパーの派遣,老人ホームへのショート・ステイなどがある。しかしこれらは人的にも,資金的にも,施設数から言っても,北欧などに比べ,極めて不十分である。現状では在宅介護は限界ないし破綻を迎えており,これを支える新しい地域サービスの拡充と,在宅ケアが困難となった患者に対しての施設ケアのあり方が今後の重要課題である。次に青梅慶友病院院長大塚宣夫氏より「老人病院からみた痴呆症への対応」が報告された。氏の病院では836床中現在痴呆症患者が5割以上を占め,その多くが中等度以上の痴呆で,痴呆患者の比率は年ごとに増加傾向にある。この増加の原因として,①核家族化による家庭内介護能力の低下,②長寿化に伴う患者配偶者の高年齢化,③女性の社会進出,④介護義務感の低下,施設収容への抵抗感の稀薄化をあげている。また入院後数週間は環境変化による症状の一時的悪化が起こりやすく,この点からショート・ステイの問題を指摘している。次いで「呆け老人をかかえる家族の会」事務局長で老年内科医でもある三宅貴夫氏より「介護家族の心身の健康」についての報告がなされた。この家族の会は会員5,000人で各地に支部を設けており,家族,医療従事者,ボランティアらが会員となっている。介護者の家族の心身の疲労,うつ状態や悩みの実情が紹介された。患者の送り迎え自体が家族にとっては極めて困難なため,デイ・サービスを施設で受けることができず,またこれに必要な医師の診断書すら入手困難であることが指摘された。日本老年社会科学会評議員吉沢勲氏は「積極老人宣言十ケ条」について述べ,「老後は余生ではなく,本生である」,「個人としての役割を持つ」などの氏の持論がユーモアをまじえて披露された。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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