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雑誌目次

雑誌文献

精神医学33巻8号

1991年08月発行

雑誌目次

巻頭言

これからの精神科医—21世紀へ向けて

著者: 田代信維

ページ範囲:P.796 - P.797

 また新卒の研修医が入局してくる。毎年のことであるが,病棟では1,2年目の研修医が看護婦から,見立てが悪いとか,薬の使い方が間違っているとか,小言を言われ,悪戦苦闘する。ときに駆け出しの研修医がベテラン看護婦からやり込められて,勝ち目がなくなり,「医者の裁量に口出しするな」と反発したりする光景をみる。家庭で適応できない患者も,入院すると病棟内で落ち着き,精神的に安定してくる。これは看護婦の対応によるところが大きい。特に精神科の入院看護は,他科の入院看護に比べ,人間関係のきずなによるところが大きく,看護婦が“治療”にかかわる比率が高いように思える。それだけに,看護婦の看護と医師の医療との間に摩擦が起こりやすいのかもしれない。そうだとすると,入院治療における医師の役割の設定が問題となる。
 入院する患者の多くは,家庭内適応も困難となった場合であり,治療目標は,家庭内適応,さらには社会復帰にある。特に慢性精神分裂病にあっては,社会復帰に苦慮するところである。社会復帰施設として,援護寮,福祉ホーム,授産施設などが用意されている。しかし,これらは精神科医療ではなく,社会福祉事業の一環である。とはいえ,患者への精神科医のかかわりは深く,社会適応性の向上のためには,これまで以上に,積極的働きかけが必要であろう。外来通院治療での精神科医の役割もまた大きい。

展望

Panic Disorderの薬物療法

著者: 藤井薫

ページ範囲:P.798 - P.809

はじめに
 1962年,Kleinら25)はニューヨークのヒルサイド病院で,各種向精神薬の治験を重ねてみた結果,imipramineがepisodic anxietyを主症状とする14例全例に有効であったと報告した。彼26)はこの結果をplaceboを対照薬とする二重盲検試験で確認し,imipramineは“Panic” Attackに有効であるが,予期不安や回避行動には有効とは言い難いことも指摘した。Kleinらはさらに1967年,sample sizeをやや大きくした研究をも報告した。Kleinらの報告は当時注目された様子はあまりみられないが,1972年セントルイスのワシントン大学グループによって発表された,いわゆるFeighner診断基準中,不安神経症(anxiety neurosis)の項目16)にその反響が認められる。Panic Disorderの名称はSpitzerら62)の作成した研究用診断基準(RDC,1978)に初めて独立した診断分類病名として取り上げられるに至り,1980年米国精神医学会による公式疾病分類(DSM-Ⅲ)にも採用され,1987年の改訂(DSM-Ⅲ-R)1)では,大項目の不安障害の下位分類の筆頭にあげられるまでになった。
 Panic Disorderの概念の内実は,その誕生の時から,特定の薬物に対する著明な治療反応性を示す,比較的まとまりのよい臨床症候群という観点から取り上げられていた。この疾病分類の妥当性検証の際の外的基準の1つである治療反応性を含むという点で,Panic DisorderはFreudの不安神経症とも,森田の発作性神経症とも一線を画するものである。本展望のテーマであるPanic Disorderの薬物療法の検討は,逆にPanic Disorderという疾病診断分類の妥当性17,39)をより広く検討することにもなると言えよう。

研究と報告

経鼻的ならびに喫煙摂取を行った覚醒剤依存の症例—コカイン乱用との関わり

著者: 妹尾栄一 ,   森田展彰 ,   中谷陽二 ,   斎藤学 ,   佐藤親次 ,   小田晋 ,   秋山剛 ,   福本修

ページ範囲:P.811 - P.817

 【抄録】 筆者らは,覚醒剤の非経静脈的使用,具体的には経鼻的吸引3症例と加熱喫煙1症例を臨床的に治療する機会を得,それらがいずれも最近2〜3年以後に発生している新たな流行パターンを示唆するものと考えられたので,文献的考察を含めて報告した。症例1と症例2では過去に覚醒剤の経静脈的使用歴が先行しており,患者達は既に静注の習慣を身につけていたにもかかわらず経鼻的吸引のほうを好んで続けている。また症例1から3までいずれも経過と共に摂取量がエスカレートし,幻覚・妄想症状を呈したことは,経鼻的摂取もまた経静脈的摂取と同様に重篤な障害をもたらしうる使用パターンであることを示している。症例4は覚醒剤を喫煙によって摂取した結果,著しく遷延する幻覚・妄想症状を呈した。米国ハワイ州で約3年前に発生した覚醒剤をガラスパイプに詰めて喫煙する新たな乱用パターンを移入したものと思われる。今後の動向を予測すると,覚醒剤はコカインに比して半減期が長いことと,わが国においては覚醒剤の流通量がコカインに比して圧倒的に多いことの2点から,クラックタイプのコカインよりも覚醒剤の喫煙吸引の流行の可能性が高いと思われる。

中断期を経て吸引再開に至った有機溶剤乱用患者について

著者: 飯塚博史 ,   奥平謙一 ,   斎藤惇 ,   金子善彦

ページ範囲:P.819 - P.825

 【抄録】 有機溶剤乱用を主訴として外来を初診した患者261名のうち,一定の中断期を経て吸引再開に至った症例について,その特徴を調べた。初診時25歳以上であった患者のうち,ほぼ継続して使用していた症例が約半数を占めたが,4割近くは一定期間中断しながら吸引を再開しており,特に11年以上の中断期間を挟んで吸引を再開した症例も4例存在した。中断期を経験した患者と連続して吸引を続けていた患者との間には,初診時年齢,経過年数,1親等以内の肉親における依存症患者の存在率などに差が認められた。中断期を経験した患者は,再吸引時における治療的介入に際して,同症状の10代の患者とは相違している要素が存在すると考えられた。提示された症例のうちのいくつかは,有機溶剤乱用患者の長期予後を検討する上で独自の重要性を有していることを指摘した。

アルコール離脱性せん妄と離脱けいれん発作の発現危険因子について

著者: 吉野相英 ,   加藤元一郎 ,   原常勝 ,   鈴木透 ,   北村俊則

ページ範囲:P.827 - P.831

 【抄録】 入院男子アルコール依存者156名を対象とし,アルコール離脱性せん妄と離脱けいれん発作の発現危険因子の同定を試みた。操作的に定義した常習飲酒開始年齢,アルコール乱用および依存の発症年齢,常習飲酒期間,アルコール乱用および依存の罹病期間,アルコール乱用からアルコール依存への進行期間,評価時年齢,第1度親族のアルコール症家族歴の9つの臨床指標による段階的ロジスティックモデルを用い,発現危険因子を同定した。離脱性せん妄の発現危険因子はアルコール依存の長期罹病と家族歴であった。離脱けいれん発作の発現危険因子はアルコール乱用からアルコール依存への急速な進行と家族歴であった。アルコール症の家族歴は発端者における身体依存の急速な進行とその重症化と関連していることが示唆された。

系統的健忘を呈した1症例

著者: 渡辺登 ,   秋元豊

ページ範囲:P.833 - P.839

 【抄録】 「私は17歳」と訴え,次いで夫との結婚生活が追想できない系統的健忘を呈した25歳の主婦の症例を報告した。かつて報告された系統的健忘や全生活史健忘と比較検討し,次のような知見を得た。(1)本例は生活歴で両親の離婚やいじめ,不良行為,退学などの精神葛藤を認め,性格で抑圧的,未成熟を示しており,これらは全生活史健忘の症例と類似していた。さらに,健忘の回復過程も全生活史健忘のそれとほぼ一致していた。それにもかかわらず,全生活史健忘に至らなかったのは,安心して帰れる家があったからと考えられる。(2)本例の健忘発生機序として,家出した後,17歳で家に戻らなかった後悔から,17歳よりの生活をやり直したい願望を抱き,そこで「私は17歳」と訴え,さらに父への依存的感情から夫を否定したため系統的健忘を示したと推測された。

拘禁状況において自己臭恐怖を生じた3症例

著者: 油井邦雄

ページ範囲:P.841 - P.847

 【抄録】 権威を代表する職員と被収容者間の公的関係,および被収容者同士の連帯的関係という,拘禁に特有な閉塞的人間関係の中での浮き上がりと共同体感情の喪失から,自己臭恐怖を呈した3症例を報告した。症例1は作業能力の低劣,および吃音による劣等感や被害感,症例2は排他的で攻撃的な性格と主我主義的心性,症例3は自己卑下と被害感の反転としての攻撃性のゆえに集団生活に参入しえなくなり,共同体感情の喪失,ないし疎外感を紛らす自己弁明的防衛として,体臭に親和的な状況を契機に発病したことを考察した。
 従来の自己臭恐怖の体験構造に加えて,“虫が好かない”特定の他者を対象に疎外感の自己弁明的色彩が濃厚であった。3症例は過敏で心気的に自己を観察する傾向にあった個人における人格反応として,拘禁反応の反応性妄想ととらえうるが,拘禁反応に特有の赦免願望やそれに由来する目的性,反応性が認められない点で真の精神疾患に近似していた。

高照度光療法が有効であった睡眠覚醒スケジュール障害の1例

著者: 辻本哲士 ,   花田耕一 ,   塩入俊樹 ,   大門一司 ,   北村隆行 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.849 - P.856

 【抄録】 近年,生体リズム異常が病因と推定される睡眠障害,睡眠覚醒スケジュール障害が報告され注目を集めている。我々は人工的な高照度光療法が有効であった本障害患者1例につき,病勢期,寛解期に深部体温測定,終夜脳波検査,睡眠覚醒記録を行い,生体リズムの変化について分析した。患者は29歳男性。25歳の時,不規則な勤務スケジュールの仕事に移ってから,不眠過眠を繰り返すようになり,睡眠覚醒スケジュール障害と診断された症例である。入院後も睡眠覚醒の異常が続いたため午前6時から8時まで毎朝2時間,2500luxの高照度光療法を行った。治療開始直後より睡眠覚醒スケジュールは急速に改善し,日常的な生活習慣に同調できるようになった。生体リズムの変化について,深部体温は睡眠相後退期に頂点位相の後退を認めたが,光療法実施により位相の前進を示した。終夜脳波は睡眠相後退期,入眠潜時,徐波睡眠潜時,中途覚醒時間の延長を認めたが,光療法実施後,各パラメーターの短縮改善を示した。

アルツハイマー型痴呆における神経心理機能と局所脳血流量

著者: 小山秀樹 ,   川勝忍 ,   篠原正夫 ,   佐川勝男 ,   森信繁 ,   生地新 ,   灘岡寿英 ,   十束史朗

ページ範囲:P.857 - P.863

 【抄録】 アルツハイマー型痴呆31例,健常老年者10例を対象にして,133Xe吸入法による局所脳血流量の測定と新たに作成した20項目からなる神経心理学的検査を実施し,局所脳血流量と神経心理機能の障害の関係について検討した。局所脳血流量は,対照群に対して有意の低下が認められ,特に,側頭葉,頭頂葉での低下の割合が大きくなる傾向がみられた。神経心理機能との関係では,「運動の調節」「言語性記憶」「視覚性記憶」「構成」などの検査項目の得点と前頭葉上部,頭頂葉の脳血流量との間で有意の相関が認められ,これらの領域が神経心理機能の障害と関係があることが示唆された。神経心理学的検査の因子分析からは,運動,構成に関係する因子,一般的知識に関係する因子,記憶に関係する因子の3因子が抽出された。このうち運動,構成に関する因子が右頭頂葉とより強い関係があることが示唆された。

短報

消化性潰瘍治療薬ranitidineによりパーキンソニズム,アカシジアを呈した1例

著者: 諸冨とも子 ,   久郷敏明 ,   山本良隆 ,   早原敏之 ,   細川清

ページ範囲:P.865 - P.868

■はじめに
 消化性潰瘍治療薬であるH2-blockerは,ヒスタミン類似の構造をもち,上部消化管出血,胃酸過剰分泌に,従来の薬物にない画期的な作用を示すため,本邦でも導入後急速に浸透し,広範に使用されている。この系統の薬物は,従来は脳血液関門を通過しないと考えられてきた8)。しかし近年,使用頻度に比し稀ではあるが,中枢神経系副作用の報告が散見されるようになった。そのような副作用として報告が多いのは,せん妄や抑うつ状態である3,15,19)
 今回筆者らは,H2-blockerであるranitidine投与中に,パーキンソニズム,アカシジアという従来の報告では稀な症状を呈した症例を経験した。本剤による中枢神経系副作用に関しては,わずかに抑うつを伴うパーキンソニズムを示した増田ら7)の症例が報告されているにすぎない。治療上示唆に富む症例と考え,経過の概要を報告する。

血清CPKの異常高値を示した悪性症候群の1救命例

著者: 岡雅男 ,   黒河内彰 ,   横山昇 ,   星野修三 ,   森則夫 ,   熊代永

ページ範囲:P.869 - P.870

■はじめに
 抗精神病薬の副作用として起こる悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome,以下NMS)は稀ではあるが,重篤なものである。今回,我々は抗精神病薬の増量後,40度以上の高熱,筋強剛,最高血清CPK値42910(IU/L)を呈した重篤なNMSの1例を経験し,救命しえた。本邦において,血清CPK値が40000を超える異常高値を示し,かつ生存した例は,我々の検索した範囲内では本例を含めてわずかに3例1,3)である。稀少な例と思われるので,若干の考察を加えて報告する。

BaclofenとEtizolamの併用療法が有効であったRestless legs症候群の2症例

著者: 堀口淳 ,   田中昭

ページ範囲:P.871 - P.873

 Restless legs症候群の薬物治療として,現在のところ最も有効とされている薬物はclonazepamであるが,今回筆者らは,治療初期にはclonazepamの投与が有効であったが,次第にその効果が減弱し,baclofenとetizolamの併用療法が有効であった本症候群の2症例を経験したので報告する。

20年間に及ぶ精神症状を既往にもつ多発性硬化症の1例

著者: 山本桂子 ,   池田俊美 ,   加来洋一 ,   高橋幹治 ,   山田通夫 ,   山本清 ,   森松光紀

ページ範囲:P.875 - P.877

■はじめに
 多発性硬化症(以下MS)には様々な精神症状が合併することが知られている。さらに欧米では精神症状が神経症状に前駆する症例が報告されている。しかし本邦ではMSにおける神経症状に前駆する精神症状についてはほとんど知られていない。今回我々は非定型的精神症状を間欠的に呈し,その経過中にMSと診断された症例を経験した。精神症状とMSとの関連について考察を加えて報告する。

緊張病症候群を呈した悪性リンパ腫の1例

著者: 菊本修 ,   瀬良裕邦 ,   河相和昭 ,   田宮聡 ,   高畑紳一 ,   岡村仁 ,   村岡満太郎 ,   柴田庸子 ,   山脇成人 ,   樫本和樹

ページ範囲:P.879 - P.881

 従来,悪性リンパ腫の中枢神経侵襲は稀と考えられていたが,本疾患の予後の改善に伴い,悪性リンパ腫の中枢神経系浸潤の頻度が増加する傾向がみられる4)。今回,我々は悪性リンパ腫の加療中に緊張病症候群を呈した1例を経験したので報告する。

特別講演

入院治療を受けた精神科患者の自殺予見可能性の問題について—351例の自殺者に基づいた研究

著者: ,   池村義明 ,   元村宏

ページ範囲:P.883 - P.890

■はじめに
 多方面にわたる努力にもかかわらず精神病院内においても自殺が行われるという事実は医師への挑戦であり,これは綿密な分析を必要とする。自殺のおそれのある患者の治療に際しては,精神病院が特別の意味をもっている。同時に,加えて第三者あるいは無関係な人の利害に相当影響を与えることがある自殺行為をできるだけ阻止するという社会からの期待が精神医学に向けられている。

動き

「第87回日本精神神経学会総会」印象記

著者: 豊田勝弘

ページ範囲:P.892 - P.893

 第87回日本精神神経学会総会は風祭元帝京大学教授の会長のもとに,1991年5月16日(木),17日(金),18日(土)の3日間,東京の国立教育会館と霞ケ関ビルにおいて開催された。会長講演,特別講演,4つの教育講演,7つのシンポジウムおよびシンポジウム関連演題,多数の一般演題が発表され,活発な討論がなされた。
 会場がA〜Dの4会場に分かれ同時進行していたため,筆者自身が聞くことができなかったプログラムも多かったが,一応全体のプログラムを紹介する。

「第144回アメリカ精神医学会」印象記

著者: 小椋力

ページ範囲:P.894 - P.895

 第144回アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association,APA)が,Benedek EA女史の会長のもとにアメリカ合衆国ニューオリンズ市で,1991年5月11日から16日までの6日間にわたって開催され,参加する機会を得た。学会場は,ミシシッピー川にごく近いコンベンションセンターであり,付近のホテルも会場として使用されていた。会場の近くにはルイジアナ・スーパードーム,古いジャズの聴こえるフレンチクォーターがあったが,ニューオリンズは新旧のアメリカが共存しており,スペインの香りもするローカル色豊かなアメリカ南部の都市とでも言えようか。
 APAの会員数は,事務局の報告によると現在のところ36,918人であり,本学会参加者は11,000人前後とのことであった。アメリカ国内はもとよりヨーロッパ,タイ,中国,韓国などからの精神科医の顔もみられ,大規模であり国際色もある学会であった。わが国からは十数人であろうか。プログラムをみるとワークショップ137,シンポジウム122,ノーベル賞受賞者(Watson JD)などの著名人によるレクチュアー31,高名な精神科医によるReview of Psychiatry 5,精神医学・医療以外の専門家によるMedical Update 3など教育講演的な話が目についた。Paperセッション45,Videoセッション25,Filmセッション17などがあり,新しい知見の報告はNew Researchセッション13(600題)で行われた。そのほかDiscussion Groupセッション,Case Conferenceセッション,Research Consultationセッションなどもあって若い医師,研究者に専門家からの助言が行われていた。そのほかAPAの卒後教育の柱であるCME(Continuing Medical Education)の履修単位を取得するためのコースが103準備されていた。したがって,講演・発表の数は全体で千数百に上り,精神医学の領域において考えられるテーマのほとんどが取り上げられていた。講演のための部屋数は,正確には調べておらず,また日時によっても異なるが40〜60くらいで,早朝7時から始まる日もあれば,午後10時まで講演が行われる日もあった。日本からは西園昌久教授が第1発表者となっていた講演がプログラムにあったが,日本精神神経学会と重なったので共同研究者のJoe Yamamoto氏が代わって講演した。

「精神医学」への手紙

Letter—「行動と認知と情動—病態の探索をめぐって」(1)を読んで/Answer—レターにお答えして「行動と認知と情動—病態の探索をめぐって」補遺

著者: 丹羽真一

ページ範囲:P.900 - P.901

 本誌32巻12号の巻頭言「行動と認知と情動」をめぐって私見を述べさせていただきます。この巻頭言では,内因性精神障害における認知と情動の障害の構造的な関係が中心的に問われており,しかも認知は狭く理解されています。精神障害における障害の構造という観点で包括的に考える時には,認知という用語は広く情報処理の一局面と理解するほうが生産的であると思われます。
 認知機能の発達が不十分な個体発達の初期においては,情動は情報の自己中心的な意味処理と行動の選択に重要な役割を果たしています。認知機能の成熟に伴って認知と行動の連結が強まります。しかし成熟段階においても情動は脳の情報処理の中で意味の認識にバイアスをかける,意欲・動機づけなどにより認知・行動の全体的な枠組みを設定するなどの役割を果たすものと考えられます。問題は認知と情動とでどちらかが一次的な情報処理システムであるという関係があるかという点です。Pankseppが主張している一次性情動過程という意味は進化的にいって古く一次性であるという意味であり,脳の中で情動が一次的であるということではないと思われます。情報は両システムで並列・分散的に処理されるものと考えられます。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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