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雑誌詳細

文献概要

古典紹介

早発痴呆と類分裂病,分裂病

著者: 萩生田晃代1 濱田秀伯1

所属機関: 1慶應義塾大学医学部精神神経科学教室

ページ範囲:P.1015 - P.1023

 早発痴呆をめぐる問題は,今日なお,精神医学の最も難解で最も議論の多いものの1つである。たとえ現代フランスの大半の研究者が,制限付きにではあるが,Kraepelinの早発痴呆概念や,その破瓜型,緊張型,妄想型という3つの基本類型を認めているとしても,多くの者にとってそれは暫定的な分類の1つにすぎないことは明らかである。実際,痴呆の外観を呈するのに真の知的衰退とは言えないものまで一部に含む著しく雑多な症例を,同一の用語でまとめてしまうことに,多くの精神科医はためらいを覚えている。Kraepelinの理論は,経過の概念の上に築かれている。早発痴呆は,病初期には様々な症状を呈し,極めて不定の様相に応じて別れるものの,遅かれ早かれ最後には同一の終末状態,すなわち真の痴呆に達するのであり,これが疾患を特徴づけるというのである。しかし彼の記載からは終末痴呆が何によって真の特異性をもたらすのかがよく分からないだけではない。このような見かたがもたらしうる衝撃をも頭に入れておく必要がある。決定論的な病的過程にはよらないが,知的衰退ないし諸能力の単純な低減に至る,あらゆる精神疾患が,早発痴呆に属するものとみなされる可能性がある。
 このような境界設定は一部は過度に拡張し,(年余にわたって,ときには全生涯にわたって)知的衰退を示さない患者を痴呆という不適切な用語で表現することにもなり,満足のいくものではなかったので,フランスでも諸外国でも多くの研究がなされることになった。とりわけその疾患の特徴をより正しく描出し,この群が1つの単位をなすことを明らかにすることに,努力が払われた。その本質的な障害を形容するのに,解離dissociation(Claude,1910),心内失調ataxie intrapsychique(Erwin Stranski),不調和dysharmonie(Arstein),不統一discordance(Chaslin,1912)といった表現が提唱された。1911年にBleulerはその問題について画期的な研究を行い,早発痴呆に関する新しい著作を発表した。彼は非常に独創的な概念を生み出し,これらの患者の心理現象そのものに先人よりもはるかに深く分け入って,臨床的多様性を少数の基本症状に彼なりに還元しようと試みた。彼は痴呆という用語が不適切であると主張し,精神分裂病schizophrénieと呼ぶことを提唱した。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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