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文献詳細

雑誌文献

精神医学34巻12号

1992年12月発行

文献概要

特集 精神科領域におけるインフォームド・コンセント

精神障害者にとってのインフォームド・コンセントの意義

著者: 白井泰子1

所属機関: 1国立精神・神経センター精神保健研究所

ページ範囲:P.1293 - P.1300

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■インフォームド・コンセントに関する基本的視点
 1.医プロフェッションの職業上の義務としてのインフォームド・コンセント
 “疾病構造の変化”や“医療の不確定性の増大”,“価値観の多様化”など医療をめぐる諸要因の変化により,自らの健康の維持・向上あるいは慢性疾患との二人三脚を前提とした生活設計などヘルス・ケアにおける自己管理の重要性がこれほどまでに自覚された時代はこれまでなかった。このような時代において個々人が自らの健康状態や病気の治療に対して自己管理能力を発揮するためには,「患者及び保健プロフェッショナルの相互尊重と参加に基づく共同意思決定」16)によって行われる対処行動としての治療あるいは健康維持活動という発想に立つことが必要となる。それゆえ,インフォームド・コンセントは,まず第一に,こうしたプロセスを実現させるために医師をはじめとする医プロフェッションに課せられた職業上の義務として考えられるべきである。
 インフォームド・コンセントの原理のよって立つ基盤は,①患者個人にとっての福利(personal well-being)と自己決定(あるいは自律性)の増進であり,②(患者・医療者の)相互尊重と参加とに基づく共同意思決定の過程を経たものを有効な承諾とみなす,という考え方である。インフォームド・コンセントは,“十分な情報(治療者からの説明)を受けた上での,患者の自由で自発的な意思決定”(informed choice)であり,Annasら2,3)の指摘にもあるように,“医師の提示する治療法に対する患者の拒否権”に裏打ちされた権利と解すべきである。それゆえこの原理は,“医師-患者関係における信頼の形成と,より良いコミュニケーション確立のための手段”という発想とは全く次元を異にする原理であることに留意しておかなければならない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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