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雑誌目次

論文

精神医学34巻2号

1992年02月発行

雑誌目次

巻頭言

児童青年精神医学の新たな歩み

著者: 若林愼一郎

ページ範囲:P.120 - P.121

 第32回日本児童青年精神医学会総会を,1991年10月,岐阜市にて主催した。これは,1990年7月,京都で第12回国際児童青年精神医学会が行われた後の最初の国内学会である。国際学会という一大イベントを終えたことを一つの区切りとして,20世紀最後の10年に当たり,新たな21世紀を迎えるための第一歩として,総会のスローガンも新たに「21世紀の児童青年精神医療をめざして」とした。本学会としては初めてのいくつかの新しい試みを実施した。

展望

臓器移植におけるリエゾン精神医学の現況と展望

著者: 福西勇夫

ページ範囲:P.122 - P.130

■はじめに
 コンサルテーション・リエゾン精神医学(Consultation-Liaison Psychiatry,以下CL精神医学と略す)は米国で啓蒙,普及2,23,27)され,1970年代の米国での急速なCL精神医学発展の余波として,本邦にも伝播されるに至ったが,その最初の論文は1977年加藤21,22)によって紹介されたことは周知のことであろう。加藤の報告21,22)からすでに10年以上の年月が経過し,その後の本邦におけるCL精神医学は啓蒙期,普及期を終え,現在ようやく発展期にさしかかりつつあるように思える。本邦では,確かに米国ほどのCL精神医学の実践がなされているとは言い難いものの,その役割の重要性は精神科以外の領域の医療関係者25,34,35)にも徐々に浸透している。
 ここ数年間,脳死の問題をはじめとする臓器移植に関連した諸問題は,医学領域にとどまらず,社会問題にまで発展しつつある。臓器移植の中でも腎移植は,30年以上前から実施されてきた臓器移植であり,今やその施行数は年々急上昇し,本邦では年間に約700例33),米国においては約9,000例47)の腎移植術がなされるに至っている(表1)。一方,腎移植以外の臓器移植である心臓移植,肝移植も米国では,かなりの例数が実施されている46)。今後もこれらの数値は確実に上昇するものと推測される。臓器移植の実践は現代科学の急速な進歩による産物であり,腎不全患者であれば半永久的な血液浄化法からの脱却には,臓器移植に依存するしか手段がないように,その試みは患者の生活の質(Quality of Life,QOL)の改善,向上に通じるものである3,4,32,43,44)

研究と報告

憑依症候群—非分裂病例からの検討

著者: 木村光男 ,   森山成彬 ,   斉藤雅 ,   金長寿 ,   橋口庸

ページ範囲:P.131 - P.138

 【抄録】 最近5年間に経験した非分裂病性の憑依症候群8例について臨床的検討を加えた。年齢は初老期以降が多く,女性が多数を占めていた。生育地・居住地は共に都市とその近郊であった。低学歴の傾向はなく,知能も正常範囲であった。病前性格はいわゆる執着気質が多かった。全例が持続的葛藤下にあり,うち6例が急性ストレスを契機に発病していた。女性患者の場合,社会的に無力である夫に代わって,一家の大黒柱であることを余儀なくされていた。宗教的背景は必須ではなかった。症状は,不眠後に高揚感を呈するものが大部分で,患者を鼓舞する親和的な幻聴がみられた。憑依物は先祖の霊や神仏が多く,動物はなかった。発症後に家庭環境に改善の認められた例は転帰が良好であり再発も認めなかった。DSM-Ⅲ-RやICD-10による診断のみでは本症候群の持つ意味と特徴が浮き彫りにされず,愚依症候群の診断名は有用であった。本症候群は都市化の波にもかかわらず,今後も存続すると思われる。

質問紙法によるメランコリー型性格の測定—F-List(Zerssen)日本語版の信頼性と妥当性

著者: 佐藤哲哉 ,   坂戸薫 ,   小林慎一

ページ範囲:P.139 - P.146

 【抄録】 うつ病の病前性格として重視されるメランコリー型性格を客観的に把握するために,Zerssenによって作成された自己評価式質問紙であるF-Listの邦訳を行った。正常者群74名,単極性大うつ病の患者群49名を対象に,F-List日本語版のメランコリー型性格得点(TM得点)の信頼性と妥当性を検討した。
 TM得点は,再検査法で良好な信頼性を示し,我が国ですでに用いられている笠原の質問表得点と強い相関を示した。また,患者群のTM得点は,正常者群のそれより有意に高かった。以上より,F-Listは,単極性うつ病の病前性格を正常者の性格傾向から峻別する上で有用で再現性の高い質問紙法であると考えられた。
 TM得点は,単極性うつ病の病前性格を把握する上で,笠原の質問表より鋭敏性が低かった。このことから,F-Listにはさらに改良の余地があること,うつ病病前性格に関する国際間比較の必要性を指摘した。

神経性無食欲症における聴性脳幹反応(ABR)と脳幹機能について

著者: 宮本洋 ,   市川忠彦 ,   佐久間健一 ,   熊谷一弥 ,   小泉準三

ページ範囲:P.147 - P.151

 【抄録】 神経性無食欲症15例(AN群)および年齢と性を合わせた正常対照者15例(C群)とに聴性脳幹反応(ABR)を施行して比較検討した。検討したのは,ABRの絶対潜時(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ),波間潜時(Ⅰ〜Ⅲ,Ⅲ〜Ⅳ・Ⅴ,Ⅰ〜Ⅳ・Ⅴ),絶対振幅(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ・Ⅴ)そして振幅比(Ⅱ/Ⅰ,Ⅲ/Ⅰ,Ⅳ・Ⅴ/Ⅰ)である。その結果,絶対潜時,波間潜時および絶対振幅では有意差は認められなかったが,振幅比(Ⅲ/Ⅰ,Ⅳ・Ⅴ/Ⅰ)では,AN群がC群に比較して有意に低値を示した。これはanorexia nervosaの脳幹に何らかの機能障害が存在する可能性を示唆するものと思われた。脳幹は,神経伝導路上,摂食を調整する中枢と密接に連絡があり,その点で本症の病態に何らかの関与が疑われた。

躁うつ病者の犯罪特徴—地検起訴前鑑定9年間の分析

著者: 早川直実 ,   影山任佐 ,   榎本稔

ページ範囲:P.153 - P.161

 【抄録】1981年から1989年までの9年間の関東C地方検察庁管内におけるすべての起訴前精神鑑定例,いわゆる簡易鑑定例620例のうち,躁うつ病例20例について資料をまとめた。鑑定総数に占める割合は約3%であり,鑑定数第1位である精神分裂病132名の1割強にすぎなかった。犯行時の躁うつ病の病相分類は,躁うつ病20例中単極型躁状態に当たる者が2例(10%),双極型躁状態が6例(30%),単極型うつ状態が6例(30%),双極型うつ状態が5例(25%),双極型病間期が1例(5%)だった。躁状態は,暴力犯3例,財産犯3例,破壊犯が2例だった。うつ状態は,暴力犯7例,財産犯3例,破壊犯1例で,病間期は財産犯1例であった。発病犯行期間に関しては,精神分裂病群と躁うつ病群では差はなく,両群とも約10年強であった。躁うつ病群では,精神分裂病群より有意に女性の比率が高く,殺人の比率も有意に高かった。犯罪歴では精神分裂病群が躁うつ病群よりも有意に高かった。精神科治療歴では有意な差はなかった。躁うつ病例の中で,うつ病者では,女性による母子心中を意図した殺人が特徴的であり,躁病者では,男性による暴力犯罪(殺人を除く)の累犯が特徴的であるように思われる。なお,うつ病者犯罪の犯行時刻は,従来言われてきたように早朝に多くはなく,比較的分散されていた。内因性うつ病といえども,犯行時には家人の留守という環境的要因が重要であり,犯罪防止の点で考慮されるべきことを指摘した。

遅発性ジスキネジア患者の糖質および脂質代謝

著者: 越野好文 ,   堀江端 ,   向井雅美 ,   松原六郎 ,   伊崎公徳 ,   伊藤達彦 ,   石倉佐和子

ページ範囲:P.163 - P.168

 【抄録】 遅発性ジスキネジア(TD)患者の糖質・脂質代謝について,年齢・性別・肥満度・臨床診断・基礎疾患の罹病期間・抗精神病薬服用量をマッチさせた対照患者(各群32人)と比較・検討した。糖質代謝についてはTD患者と非TD患者との間に,空腹時血糖,グリコヘモグロビンおよびインスリン値に有意差はみられなかった。血糖値は軽度TD群(101.6±20.5mg/dl,平均±SD)よりも,中等度TD群(89.9±11.0mg/dl)が低かった。抗精神病薬の服用量が多い群(102.2±19.4mg/dl)のほうが,少量の群(90.7±14.3mg/dl)より血糖値が高かった。総コレステロール値に差はなかったが,トリグリセライド値はTD患者で126.9±72.1mg/dlと,非TD患者の165.8±90.0mg/dlより低値であった。従来のTD患者の空腹時血糖値が高いという報告は支持されず,むしろ血糖値上昇には抗精神病薬そのものの影響が考えられた。また,TDの本態解明には脂質代謝の面からの研究も必要なことが示唆された。

配偶者に向けられた系統的健忘の2例

著者: 稲本淳子 ,   梶田修明 ,   木南豊 ,   田玉逸男 ,   河合正登志

ページ範囲:P.169 - P.175

 【抄録】 報告例の少ない配偶者に向けられた系統的健忘を2例経験し,その共通の特徴に着目し従来の報告例も含め考察を加えた。
 系統的健忘の固有の特徴としては,女性の報告例が多く,結婚生活そのものが慢性葛藤状態であり,本来人生において重大な選択である結婚が,熟慮された結果ではなく受動的,衝動的で,その過程に問題があったといえる。また生育環境としては中流以上の家庭に育ち,その根底に両親との不分離が示唆される。性格特性としては精神的他殺型であり自己肯定的側面が強いものであると思われる。また臨床経過,発症状況,および発生機制において全生活史健忘と類似しており,その1型であると考えられる。

高血圧を欠き末期に前大脳動脈領域に梗塞を生じたBinswanger病の1例

著者: 飯島正明 ,   石野博志 ,   妹尾晴夫 ,   稲垣卓司 ,   春木繁一

ページ範囲:P.177 - P.182

 【抄録】 高血圧を欠き,末期に前大脳動脈領域に梗塞を生じたBinswanger病の1例を報告した。
 本例は,躁うつ病様の症状で発症したのち,次第に痴呆症状が前景となり,頭部CT上,両側大脳白質にびまん性のlow densityが認められたため,高血圧を欠いたBinswanger病と診断した。言語障害,歩行障害,尿失禁,仮性球麻痺症状などを伴い,次第に臥床傾向となり,末期に左前大脳動脈領域に梗塞を生じ,その4カ月後に肺炎にて死亡した。神経病理学的に,左前大脳動脈領域の皮質・白質に梗塞巣,大脳白質のびまん性の脱髄,小ラクネの散在,白質細小動脈の硬化像を認めた。
 本例のように,高血圧を欠き,白質のびまん性の脱髄病変と比較的大きな皮質・白質梗塞を合併する例は少ないと思われ,報告するとともに,Binswanger病の成因について若干の考察を加えた。

精神症状と並行して脳血流所見に改善が認められたループス精神病の1例

著者: 日野俊明 ,   菊池周一 ,   児玉和宏 ,   昆啓之 ,   伊藤順一郎 ,   柳橋雅彦 ,   佐藤甫夫 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.183 - P.188

 【抄録】 我々は,SLEによると思われる精神症状(躁状態)を呈し,抗精神病薬が著効を示した1例を経験した。本症例に対し画像診断を行い,その有用性について検討した。その結果,CT上では軽度大脳萎縮を,MRI上ではT2強調像において前頭葉白質を中心として多発する点状の高信号域を認めた。123I-IMP-SPECTでは,①右側を中心とした前頭葉の血流低下,②右側頭葉の血流低下,③右頭頂葉の血流低下が認められた。この症例の精神症状に対しては,ステロイド剤のパルス療法は有効ではなく,抗精神病薬であるzotepineが著効を示し,精神症状の改善と並行して脳血流所見に改善が認められた。
 以上からループス精神病の診断・治療上,画像診断(特にSPECTによる脳血流の画像化)は有用であると考えられた。

短報

遅発性ジスキネジアに対するリン酸ピリドキサールの効果

著者: 國芳雅広 ,   三浦智信 ,   稲永和豊

ページ範囲:P.193 - P.195

 精神科治療に抗精神病薬が導入されてから,40年が経過した。薬物は精神症状の改善を促し,患者の社会適応を容易にする点においてはある程度の成功を治めてきた。しかし,その副作用としてのパーキンソニズムや種々の錐体外路症状が発現するために服薬中断を来し,その結果として再入院する患者もいる。さらに最近では遅発性症候群5)と呼ばれ,る種々の病態も問題となってきている。この遅発性症候群は発症早期に治療すれば改善するとされているが治療に抵抗することも多い。今回我々はリン酸ピリドキサール(以下ピリドキサールと略)を投与することにより長年にわたる遅発性ジスキネジアが軽減した例を経験したので,その症例の経過を報告するとともに若干の考察を加えた。

Chlorpromazineが奏効した開眼失行例

著者: 堀口淳 ,   田中昭

ページ範囲:P.197 - P.199

 開眼困難を来す疾患には開眼失行やMeige症候群などがあるが,その病態生理学的な原因は現在のところ不明である。開眼失行の場合,その大部分は錐体外路疾患の随伴症状として報告1〜3)されており,上眼瞼挙筋の核上性神経支配異常による開眼困難と考えられている。筆者らはこれまで,開眼失行やMeige症候群を呈する患者の主に薬物治療について論じてきた6,7)。今回筆者らは,各種の薬物治療が無効であった症例で,chlorpromazineの投与が奏効した開眼失行の1症例を経験した。現在までのところ,chlorpromazineが奏効した開眼失行例の報告はなく,貴重な症例と考え報告する。

特別講演

感情論理と分裂病

著者: ,   花村誠一

ページ範囲:P.201 - P.213

 私の講演のプランは単純であり,第一に,私は感情論理のコンセプトを説明し,第二に,私はその分裂病問題への関連を提示し,そして第三に,私はその治療的インプリケーションの若干に立ち入る。
 では,まずはじめに,

資料

精神科救急施設にみる覚せい剤精神病症例と精神分裂病・心因反応症例の諸属性の比較検討

著者: 和田清 ,   宮本克己 ,   岡田純一 ,   森本浩司 ,   浅野誠 ,   川島道美 ,   平田豊明 ,   橘川清人 ,   昆浩之 ,   計見一雄

ページ範囲:P.215 - P.222

■はじめに
 我が国における覚せい剤乱用の歴史は終戦直後に始まるが,第二次乱用期が始まって,すでに20年が経過した今日にあっても,毎年17,000〜20,000人強の検挙者を出しており2),依然,我が国における最大の乱用薬物であることには変わりがない。しかしながら,この間に,乱用の結果,精神障害を来して医療機関を受診する覚せい剤精神病患者の病態を中心とする諸特徴は変化してきている。福井1)は,最近の覚せい剤乱用者の特徴を「初期乱用者の減少,乱用の長期化,乱用者の高年齢化」とまとめているが,それに伴う病態の変化・実状を調査した和田ら3)は,覚せい剤使用年数が5年を越えるか越えないかによって症状の出現率・消失率に違いがあることを報告している。
 ところで,時代に伴う依存性薬物乱用・依存者の諸属性・病態の変化を敏感にとらえる方法として,救急医療施設受診者を調査する方法がある。米国ではすでにDAWN(Data from the Drug Abuse Warning Network)の一貫として,救急医療施設受診者数の推移を経時的に報告してきている10)が,我が国では救急施設サイドからの報告はほとんどみられないのが現状である13)
 千葉県精神科医療センターは1985年6月に開設された,我が国では精神科救急医療に力を注いでいる稀な病院である3,15)。当然,中毒性精神障害患者の受診も多い8)。そのような意味では,覚せい剤乱用・依存者の今日的諸特性を把握するには,格好の医療機関である。同時に,最近の精神医療情勢では,「処遇困難患者」についての議論が増えつつある感がある7,9,11)。そのような意味からも,精神障害者受け入れの窓口になりやすい救急医療施設において,覚せい剤精神病患者と精神分裂病を中心とする妄想性精神病患者における,来院状況を中心とした諸状況の異同を明らかにすることは,重要な事柄と考えられる。
 今回,筆者らは上記の視点から,1精神科救急医療施設における覚せい剤精神病患者と他の妄想性精神病患者の比較を試みたので,その結果を報告したい。

追悼

荻野恒一先生を悼む

著者: 近藤喬一

ページ範囲:P.224 - P.225

 1991年10月15日午後7時20分,荻野恒一先生は肺炎のため逝去された。享年70歳であった。以前から体調を崩されて療養中ではあったものの,にわかの訃報であった。先生が亡くなられたことで,我が国の精神医学界は,とりわけ比較文化精神医学と現象学的精神病理学の分野におけるかけがえのない指導者を失ってしまった。
 先生が精神医学者としての生涯を通じてたどってこられた広博な足跡と,それに加えて,既成の類別の枠組みの中では納まりがつかないような先生の器の大きさは,我々の先生についての知識や理解のどれもが一面的なものでしかないとさえ思わせてしまう。そこで,一斑を見て全豹を卜すおそれのあることをあらかじめ承知の上でしか言えないのであるが,先生のお仕事やご経歴を,だいたい3つの時期に分けて考えることもできるのではないかと思われる。つまり,京都大学の精神医学教室に在籍されていたころと,パリに留学されて帰国後南山大学に奉職されていたころと,最後は東京都の研究所で仕事をされた時代がそれぞれ第1,第2,第3の時期に当たる。

動き

「日本精神病理学会第14回大会」印象記

著者: 坂本暢典

ページ範囲:P.226 - P.227

 日本精神病理学会第14回大会は,山口直彦兵庫県立光風病院長の会長のもとで,1991年9月26日(木),27日(金)の2日間,神戸の兵庫県農業会館において開催された。あいにくの台風接近のため,2日間天気はぐずつき気味であったが,520名という多数の参加者に恵まれ,活発な発表・討論が行われた。一般演題は80題に上り,3つの会場に分かれ休みなく行われ,このほかにシンポジウムと特別講演が取り行われた。
 中井久夫神戸大学教授による特別講演「分裂病の陥穽」では,分裂病という事態において立ち現れる「純粋性,絶対性」「恐ろしいものではあるが,ついに本当の実在に触れたという実感」などが,患者や治療者を誘惑するものであることが語られた。そして,この誘惑にとらわれないために,この「恐ろしい純粋性」に正面から向き合うのではなく,詩人が詩の言葉の裏に深い意味を託すように表面の裏に何かを忍び込ませて接近していく方法が,治療にあたって必要とされるのではないかという指摘がなされた。この講演の間,満員の会場は,先生の言葉を一言でも聞きもらすまいとするかのような,水を打ったような静けさに包まれ,その静寂の中をしみ入るように分裂病の本質をつく先生の詩的表現が広がっていくのは極めて印象的であった。

「第1回宇宙環境精神医学研究会」印象記

著者: 藤井康男

ページ範囲:P.228 - P.229

 第1回の宇宙環境精神医学研究会が1991年10月13日,東京,信濃町の慶應大学病院大会議場で行われた。当日は台風21号の警報発令中の日曜日という悪条件にもかかわらず熱心な参加者があった。宇宙と精神医学を結びつけるこのような会合は本邦初であろう。以下にこの分野にまったくの門外漢が,理解したかぎりの独断的印象を書くのでお許し願いたい。
 まず大熊輝雄会長から開会の辞が述べられ,次いで国立精神・神経センター北村俊則部長から研究会発足までの経過について補足説明がなされた。具体的なプログラムは次の通りである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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