資料
精神科救急施設にみる覚せい剤精神病症例と精神分裂病・心因反応症例の諸属性の比較検討
著者:
和田清
,
宮本克己
,
岡田純一
,
森本浩司
,
浅野誠
,
川島道美
,
平田豊明
,
橘川清人
,
昆浩之
,
計見一雄
ページ範囲:P.215 - P.222
■はじめに
我が国における覚せい剤乱用の歴史は終戦直後に始まるが,第二次乱用期が始まって,すでに20年が経過した今日にあっても,毎年17,000〜20,000人強の検挙者を出しており2),依然,我が国における最大の乱用薬物であることには変わりがない。しかしながら,この間に,乱用の結果,精神障害を来して医療機関を受診する覚せい剤精神病患者の病態を中心とする諸特徴は変化してきている。福井1)は,最近の覚せい剤乱用者の特徴を「初期乱用者の減少,乱用の長期化,乱用者の高年齢化」とまとめているが,それに伴う病態の変化・実状を調査した和田ら3)は,覚せい剤使用年数が5年を越えるか越えないかによって症状の出現率・消失率に違いがあることを報告している。
ところで,時代に伴う依存性薬物乱用・依存者の諸属性・病態の変化を敏感にとらえる方法として,救急医療施設受診者を調査する方法がある。米国ではすでにDAWN(Data from the Drug Abuse Warning Network)の一貫として,救急医療施設受診者数の推移を経時的に報告してきている10)が,我が国では救急施設サイドからの報告はほとんどみられないのが現状である13)。
千葉県精神科医療センターは1985年6月に開設された,我が国では精神科救急医療に力を注いでいる稀な病院である3,15)。当然,中毒性精神障害患者の受診も多い8)。そのような意味では,覚せい剤乱用・依存者の今日的諸特性を把握するには,格好の医療機関である。同時に,最近の精神医療情勢では,「処遇困難患者」についての議論が増えつつある感がある7,9,11)。そのような意味からも,精神障害者受け入れの窓口になりやすい救急医療施設において,覚せい剤精神病患者と精神分裂病を中心とする妄想性精神病患者における,来院状況を中心とした諸状況の異同を明らかにすることは,重要な事柄と考えられる。
今回,筆者らは上記の視点から,1精神科救急医療施設における覚せい剤精神病患者と他の妄想性精神病患者の比較を試みたので,その結果を報告したい。