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雑誌詳細

文献概要

シンポジウム 境界例の診断と治療

操作的診断と境界例

著者: 三宅由子1

所属機関: 1東京都精神医学総合研究所

ページ範囲:P.301 - P.309

■はじめに
 精神科疾患における診断分類の問題は,繰り返し議論されてきた10)。それは精神障害とは何か,どうとらえるのが妥当60)かという,容易には答の出ない問題と深く結びついている。精神科で扱われる障害の多くは,客観的な検査や病理をもたらす器質的変化を証明できるものがなく,通常の医学モデルに則った疾患単位を定義することができない。ここで取り上げる境界例やパーソナリティ障害もそこに含まれる。このような状況の中でどんな診断分類が有用かを考える場合,ふたつの側面を考慮する必要がある。そのひとつは臨床場面における診断であり,もうひとつは研究に用いるための診断である。この両者は,あまりにかけはなれていては意味がないが,先に述べたような疾患単位を決めることのできない状況の下では,この両者を分けて考えることが混乱を避けるためには有用であるように思う。医学研究は最終的には臨床に戻ることが期待されて当然だが,その過程では研究上必要とされる分類と,臨床場面で役立つ分類がいつも一致するとは限らない。
 臨床診断は治療方針を立てるためになされる。臨床家が臨床診断のために必要な情報を患者から収集する際には,その人独自のある枠組を持っている。その枠組は個々の治療者が教育を通じて獲得し,その後積み重ねた経験の総体である。したがってそれは最終的には一人ひとりの治療者に固有のものであり,またそこに個々の治療者の独自性が発揮される。臨床場面ではある臨床家が境界例と呼ぶ病態と,別の臨床家の境界例が異なっていても,あまり問題ではない。しかしそこで新しい知見が得られた場合,その事実を人に伝え一般化し,それについて研究するためには,診断に客観性や再現性を持ち込むことが必要になる。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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