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雑誌目次

雑誌文献

精神医学34巻5号

1992年05月発行

雑誌目次

巻頭言

評価基準の取り方と精神医学

著者: 假屋哲彦

ページ範囲:P.456 - P.457

 精神医学に限らずいろいろな分野で,評価基準の取り方を慎重に検討しなければならないことは多い。少し本題から外れるが,はじめに筆者が生活している山梨県と関連した話題から述べることにする。昨年11月の新聞紙上で,豊かさ指標第1位,山梨県という記事をご記憶の方もおられるであろう。経済企画庁は,昨年11月19日の閣議に1991年度の国民生活白書を提出し,了承された。その白書には,「東京と地方—豊かさへの多様な選択」と副題がつけられ,国民生活の住居,労働,レジャーなどの分野で東京と地方の暮らしを比べている。また,独自に作成した都道府県別豊かさ総合指標では,地方のほうが東京圏より豊かと判断,総合指標で山梨県が第1位というものである。この記事は,山梨県にとって明るい情報であるが,一方で意外であると感じた人も多かったようである。
 山梨県は,山が美しく,風光明媚であり,富士山や富士五湖を有し,空気はきれいでおいしい。しかし,生活の便利さという点などからは理解しにくい面もある。

展望

アルツハイマー型痴呆の生物学—最近の発展

著者: 石井毅

ページ範囲:P.458 - P.470

■はじめに
 アルツハイマー型痴呆またはアルツハイマー病(以下ア病)の生物学的研究は近年著しく進歩した。ことにアルツハイマー神経原線維変化(Alzheimer's Neurofibrillary Tangle;ANT)と老人斑という2つの重要な変化についてはその化学的組成,分子生物学的研究の面で,ここ数年の間に画期的ともいえる新知見が続々発表されて,眼をみはる思いである。しかし,この病気の原因については未だ明らかでなく,1つの山を越えた後にさらに難しい問題がみえてくるのである。
 以下,ア病の生物学的研究の現状について,できるだけ分かりやすく解説しよう。

研究と報告

三島由紀夫と悲劇:同一性拡散と既定された未来—「豊饒の海」に至る作品構成をめぐって

著者: 岩井一正

ページ範囲:P.471 - P.478

 【抄録】 三島由紀夫の小説の構造から,彼の自我同一性障害と未来の既定という時間障害とを論じた。初期の代表作である「仮面の告白」から,最後の「豊饒の海」に至る主要作品の構成は,作者の分身たる主人公が二分四分と分散する発展方向に特徴づけられる。主人公の多重身化と心情喪失とは,三島の同一性拡散の反映である。また作品の悲劇的構成の底流をなす既定された未来観は,現実の生成性を見失った彼の認識の時間性であった。各巻ごとに悲劇的に完結し,輪廻転生を軸に変転しながら,最後には虚無へと空化する「豊饒の海」の構成に,三島の生の総決算を見ることができる。同一性拡散を統べる意志は,個人性を超越した中性型へと純化され,悲劇という演劇的虚構の論理に基づく行動化を導いた。実生活における三島の行為者的側面は,この意志の傀儡であった。悲劇的に既定された未来と一瞬に生きる祭の時間を対比し,彼における生と死のあり方についても論じた。

家族の社会・心理的条件が精神障害者の長期入院に及ぼす影響とその社会的機序—全国家族福祉ニーズ調査のデータによる多変量解析的アプローチ

著者: 大島巌 ,   岡上和雄

ページ範囲:P.479 - P.488

 【抄録】 全国精神障害者家族連合会が実施した全国家族福祉ニーズ調査のデータを用いて,長期入院(4,165例)と短期入院(802例)を分ける条件として,家族の社会・心理的要因がどの程度寄与しているのかを数量化理論Ⅱ類を用いた判別分析で明らかにした。その結果,まず我が国において長期入院を規定する条件として,家族の受け入れ意識が大きく寄与していること,長期入院および家族の受け入れ意識に対して,家族の資源的条件が一定の役割を果たしていることが明らかになった。資源的条件の改善が難しいことを考えると,病院か家族かの二者択一を排し,第三の選択肢である社会的サービスの充実を図るべきことを考察した。

晩年発症の精神分裂病および分裂病様障害(DSM-Ⅲ-R)について—心理検査における器質性徴候の観点から

著者: 池沢良郎

ページ範囲:P.489 - P.496

 【抄録】 晩年発症の精神分裂病および分裂病様障害(DSM-Ⅲ-R)の11例をウェクスラー成人知能検査,ロールシャッハテストにおける器質性徴候の有無で器質徴候群,非器質徴候群の2群に分け,発症前の諸要因,発症前後の経過,治療反応性,症候学的特徴を比較した。その結果有意な差として,器質徴候群は比較的急性経過をとって入院に至ることが多く,治療反応性も短期的には良好で,幻覚・妄想の構造は器質性精神病のものに近いことが分かった。さらに傾向として,器質徴候群のほうが前駆症状として自律神経症状や身体異常感覚を呈しやすいこと,一方非器質徴候群は閉経と関連を有するものの多いことが示唆された。これらより器質性徴候の有無を検討することは疾病構造や予後を知る上で有用であり,いわゆるdiagnostic formulationにおいて不可欠であることが推察された。

高齢精神分裂病者の頭部CT所見—健常高齢者および精神外科被術分裂病者との比較

著者: 大森晶夫 ,   越野好文 ,   村田哲人 ,   村田一郎 ,   谷一彦 ,   堀江端 ,   伊崎公徳

ページ範囲:P.497 - P.504

 【抄録】 高齢精神分裂病者30人,うち精神外科手術歴のない分裂病者(非ロボトミー群)20人と手術歴のある分裂病者(ロボトミー群)10人に頭部CT検査を行い,痴呆のない健常高齢者22人と比較検討した。高齢分裂病者は健常高齢者に比べて,前頭葉萎縮およびシルビウス溝の開大が高度であった。一方,脳室系の指標は両群間に差を認めなかった。これらのことより,脳表の萎縮と脳室系の拡大は異なる病理学的機序に基づくことが示唆された。すなわち,分裂病の成因に関連する大脳皮質の形態的脆弱性の上に加齢による脳萎縮が付加され,高齢分裂病者の脳表萎縮は健常人の加齢変化を上回るが,脳室拡大は健常人の加齢変化と同程度に進行し,高齢者では差が目立たなくなると推察された。ロボトミー群は頭部CTで脳表の萎縮がより高度で,非ロボトミー群より脳室も拡大しており,ロボトミーが手術痕以外にも分裂病者の脳形態に変化を与えることが確認された。

Familial restless legs syndromeを合併したperiodic limb movement disorderの1例—L-DOPAによる治療効果について

著者: 松本三樹 ,   武藤福保 ,   直江裕之 ,   鎌田隼輔 ,   千葉茂 ,   宮岸勉

ページ範囲:P.505 - P.512

 【抄録】 Familial restless legs syndrome(FRLS)を合併したperiodic limbmovement disorder(PLMD)の1例を報告した。Colemanらの基準を用いて睡眠ポリグラムを分析した結果,periodic limb movement index(PLM index)およびperiodic limb movement-arousal index(PLM-arousal index)はそれぞれ101.3および81.8であった。また,multiple sleep latency test(MSLT)の平均入眠潜時は3.13分であった。本症例に対してL-DOPA100mgとbenserazide25mgの就寝前投与を開始したところ,PLM indexおよびPLM-arousal indexはそれぞれ44.1および7.9に低下し,FRLSも抑制された。また,MSLTの平均入眠潜時は10.00分に延長し,脳脊髄液中のホモバニリン酸濃度は治療前の22.8ng/mlから37.0ng/mlに増加した。
 以上の結果から,本症例におけるPLMDおよびFRLSの発現機序の1つとして,中枢神経ドーパミンニューロンの活性低下が関与していることが推定された。

L-threo-DOPS投与により皮膚—腸内寄生虫妄想が劇的に消失したパーキンソン病の1例

著者: 川田誠一 ,   横井昌人 ,   野村吉宣 ,   竹谷摩利子 ,   左光治 ,   黒田健治 ,   宮崎真一良

ページ範囲:P.513 - P.516

 【抄録】 L-threo-DOPS(DOPS)の投与により皮膚—腸内寄生虫妄想が消失した1症例を報告した。症例は筋固縮,振戦,小きざみ歩行などからパーキンソン病と考えられ,精神症状として皮膚—腸内寄生虫妄想および幻聴が認められた。治療経過中に小きざみ歩行や振戦に増悪傾向を認めたためにDOPSを投与したところ,それら症状が改善傾向を示すとともに,これまでの抗精神病薬の治療にもほとんど改善を示さなかった皮膚一腸内寄生虫妄想が3週間で劇的に消失した。今回,皮膚—腸内寄生虫妄想が消失した薬理学的作用機序は不明であるが,DOPSは中枢ノルエピネフリンの補充や遊離作用などノルエピネフリン前駆物質としての薬理作用が明らかとなってきており,皮膚—腸内寄生虫妄想と中枢ノルエピネフリン系との関連が向後検討されるべきであると考えられる。

多彩な精神症状を呈したパーキンソニズムの1例

著者: 永瀬文博 ,   赤崎安昭 ,   橋口知 ,   森岡洋史 ,   長友医継 ,   野間口光男 ,   松本啓

ページ範囲:P.517 - P.522

 【抄録】 多彩な精神症状を呈したパーキンソニズムの1例について報告した。症例は66歳の女性で,不安,心気,抑うつなどの精神症状が先行したが,抗不安薬や抗うつ薬は,これらの症状に対して効果が認められなかった。その後,精神活動鈍化,幻覚,意識障害の出現を来し,それらとともに筋硬直,寡動,仮面様顔貌,前傾・小刻み歩行などの神経症状が出現した。本症例においては,精神症状が前景に立ち,神経症状は軽度で,しかも増悪,改善を繰り返したことが特徴的であった。治療としては,少量のbromocriptineおよびamantadineが有効で,神経症状のみでなく,精神症状および脳波にも改善が認められた。

短報

慢性期血液透析中にイソニアジド投与により精神症状を呈した1例

著者: 佐々木一 ,   伊藤寿彦 ,   児玉和宏 ,   佐藤甫夫

ページ範囲:P.525 - P.527

 イソニコチン酸ヒドラジド(以下イソニアジドと記す)は,1948年より現在まで一次抗結核薬として広く使用されているが,皮膚,肝,腎その他の臓器に副作用を生じる3)。精神症状は1952年にMcConnelら8),Hunter6)らにより,せん妄などの意識障害,抑うつなどの感情障害,幻覚妄想,精神運動興奮などが報告されている。今回,我々は慢性期腎透析中にイソニアジドの投与により精神症状を呈したが,器質的心理的に様々な要因の関与が考えられた症例を経験したので報告する。

紹介

イギリスの指導的てんかんセンター Chalfont Centre for EpilepsyとNational Society for Epilepsyの活動

著者: 仙波純一

ページ範囲:P.529 - P.534

■はじめに
 筆者は1988年1月から2年間にわたりロンドン大学のInstitute of Neurologyの臨床神経学部門に留学していたが,上司のDr. P. N. PatsalosがChalfont Centre for Epilepsyと併任していたことから,ロンドン地域だけでなくイギリス全国でも指導的なてんかんセンターとなっている上記施設を見学する機会を持った。この大規模でよくシステム化されたてんかんセンターと,センターの母胎であり,これを管理運営する一方,家庭医や一般の人々に対するてんかんの広報にも熱心に取り組んでいるNational Society for Epilepsyの活動も合わせて紹介したい。

動き

精神医学関連学会の最近の活動(No. 7)

著者: 島薗安雄

ページ範囲:P.537 - P.559

 日本学術会議は,「わが国の科学者の内外に対する代表機関として,科学の向上発達を図り,行政,産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」(日本学術会議法第2条)として設立されているものであります。会員は210名(うち医・歯・薬学関係の第7部は33名)から成り,3年ごとに改選されます。1991年7月から第15期の活動が始まっておりますが,私は皆様のご推薦により,第13期から引き続き会員を務めております。
 学術会議の重要な活動の一つに研究連絡委員会(研連と略します)を通して「科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させること」が挙げられます。この研連は第7部関係では37あり,その一つに精神医学研連があります。第15期の精神医学研連の委員には,この研連関係の7つの登録学術研究団体を考慮し,次の方々になっていただきました。すなわち大熊輝雄(国立精神・神経センター),笠原嘉(藤田保健衛生大学医学部),後藤彰夫(葛飾橋病院),樋口康子(日赤看護大学看護学部),町山幸輝(群馬大学医学部),森温理(東京慈恵会医大),山崎晃資(東海大学医学部)と島薗安雄(財団法人神経研究所)であります。
 精神医学研連は第13,14期において,精神医学またはその近縁領域に属する50〜60の学会・研究会の活動状況をそれぞれ短くまとめて,毎年本誌上に掲載してまいりました。この試みを支持してくださる読者が多いとうかがいましたので,第15期においても仕事を続けることにいたしました。読者の皆様のお役に立てばうれしく存じます。

「精神医学」への手紙

Letter—ベネデッティからのクリスマスカード

著者: 人見一彦

ページ範囲:P.470 - P.470

 バーゼル大学の精神療法部門で長く活躍され,現在名誉教授であるベネデッティ(G. Benedetti)からのクリスマスカードは例年と趣を異にし,旧い関係に新しい血を注ぎたいという書き出しで始まる,便箋3枚にタイプされたものであった。
 世界の各地で起こった震憾すべき出来事,特にここ数カ月間のユーゴスラビアの出来事に触れ,痛み,怒り,失神,孤独が私達をとらえる中で,彼は一方では病める患者達の側で人間の運命を自らの中に現前化させながら,他方では一つの心理的現象が存在するために存在の起源において生じる,自由へと近づくための移行として年齢を重ねていることを知覚しつつ,そのような状況を克服する試みを始めたいと書く。この世界の不正は驚愕すべきものである。正義の理念はそれが心理的現象にとどまるかぎり,一つの極めて不完全な実現不可能な自我-理想にすぎないであろう。しかし,我々は理念自体を首尾一貫しないものと考えることができない。なぜなら,その首尾一貫性に理念自体の完全性が属し,その完全性に理念の実存が属しているからである。そしてプラトンの,固有の現実が理念自体であるという言葉を引用する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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