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雑誌目次

雑誌文献

精神医学35巻10号

1993年10月発行

雑誌目次

巻頭言

精神病の軽症化と臨床

著者: 牛島定信

ページ範囲:P.1026 - P.1027

 精神病の軽症化が話題になるようになって久しい。それが,私たちの日々の臨床にどのような影を落としているのであろうか。

展望

思春期妄想症研究を振り返って—病態構造論を中心に

著者: 村上靖彦 ,   舟橋龍秀 ,   鈴木國文

ページ範囲:P.1028 - P.1037

■はじめに―研究の動機
 山下68)は彼の著書「対人恐怖」(1977)の中で,次のように語っている。すなわち,「筆者は,少なくとも昭和38年以前には,赤面恐怖や視線恐怖は対人恐怖の範囲にとどまり,自己臭妄想や醜形恐怖の多くは精神分裂病に発展するものと考えていた。そのうちに経過を追っても分裂病症状を呈しない自己臭恐怖や醜形恐怖の症例に多数遭遇し,一方で赤面恐怖も甚だ深刻な病態を呈することを知って,これらの恐怖症状に共通するものを探り始めた」という。奇しくも,我々の研究もちょうど同じ頃に始められた。
 検討の対象となった症例は山下が挙げているものとほとんど同じものである。そこには,自己臭・自己視線の症例を中心に,赤面恐怖・醜形恐怖・自分の飲みこむ唾にこだわりを示す症例など,実に様々なものが挙げられるが,当時の我々の教室では,これらはすべて「精神分裂病」ないし「初期分裂病」と診断されていた。したがって,我々の研究は,とりあえず,これらの症例を精神分裂病(以下,分裂病)と区別する作業から始められた。そして,1966年3月の第62回東海精神神経学会には,「自己の視線を主題とする関係妄想の一群」11)についての報告がなされ,同年4月の第63回日本精神神経学会には,「思春期に好発する一群の妄想症者にっいて」57)の発表が行われた。また,これと時を同じくして,1967年6月の第90回近畿精神神経学会には,藤縄らによる「自己臭体験の症状推移について」9)の発表が行われ,次いで同年10月に開かれた第4回日本精神病理・精神療法学会では,同じグループによる「自己臭体験の症状の構造について」10),および山下による「対人恐怖症の心理機制および治療機転」67)についての発表がされているが,対象としているところはほぼ同じものであった。

研究と報告

徐波睡眠と成長ホルモンの関係—睡眠覚醒リズム障害を呈した視床下部症候群の症例から

著者: 山下剛利 ,   板東浩 ,   勢井宏義 ,   阿瀬川孝治

ページ範囲:P.1039 - P.1047

 【抄録】 症例は20歳の女性で,10歳頃より微熱,13歳頃より冬期うつ病(炭水化物渇望)に似た病像を呈していた。15歳頃より上記症状の季節性は失われ,17歳頃より睡眠覚醒リズム障害が出現している。GHに対する賦活試験および終夜睡眠脳波検査の結果,1)覚醒時にGRFによってGHの強い賦活がみられたが,L-dopaでは賦活されないこと,2)入眠時におけるδ-sleepおよびGH分泌の欠如していることが判明した。以上の結果から,1)平均体温の上昇は,δ-sleep欠如を考慮すると,PGD2の機能不全が推定される。2)δ-sleepが欠如していることは,NREM睡眠のstage Ⅰ-Ⅱとstage Ⅲ-Ⅳとが異質であることを示唆している。3)体温上昇による代謝亢進が高次中枢の抑制系(NPYなど)にとって負荷要因となっている可能性が強い。炭水化物渇望もNPYに起因するものと思われる。4)L-dopaによるGH賦活欠如およびδ-sleep期GH分泌欠如はdopamineおよびNPYなどの異常と関係があるものと思われる。

双極病の長期経過にみられる躁病への極性シフト—内因性精神病の経過力動に関する研究1

著者: 石原さかえ ,   岩井一正

ページ範囲:P.1049 - P.1057

 【抄録】 感情病の経過を長期にわたり動的に把握するために,ここでは1施設で継続観察された症例群を対象として,横断面評価基準を適用した病歴調査を行い,双極病における躁うつの極性の長期的変化を検討した。従来の知見と異なり,平均約17年の観察期間を持つ対象47例の半数に,長期経過中に双極の均衡が失われ,躁病極側に偏ってゆく傾向を認めた。この傾向は,純粋な感情病群にも,分裂病症状を伴った分裂感情病群にも共通していた。分裂感情病群でシフトを起こした症例には,経過途中から,分裂病症状が感情病症状から独立して出現し始め,経過の相貌が分裂病化する傾向が有意に認められた。うつと躁,および分裂病症状の出現の連関性と推移の実態を,単一精神病的な経過力動の視点から論じた。

右中頭蓋窩領域に巨大嚢胞を持つ頭蓋咽頭腫の1例にみられた神経心理学的検査所見の治療による変化

著者: 五十嵐禎人 ,   丹羽真一 ,   佐々木富男

ページ範囲:P.1059 - P.1065

 【抄録】 我々は,深刻味のない軽抑うつ状態を主訴として来院し,脳外科的治療により精神症状が改善した,右中頭蓋窩領域に巨大嚢胞を持つ頭蓋咽頭腫の1例について,手術前,手術後1カ月,手術後6カ月の3回にわたって以下の神経心理学的検査を施行し,その経時的変化について検討した。施行した神経心理学的検査は,迷路検査,かな拾い検査,Wisconsin Card Sorting Test,語流暢検査,脳研式記銘力検査,Benton視覚記銘検査(A形式,D形式),Bender Gestalt Test,WAISである。神経心理学的検査所見の経時的変化から,前頭機能と側頭機能とで回復の仕方が異なり前頭機能の回復は比較的長期にわたって追跡する意義があること,右半球機能の回復と注意機能の改善との関連が示唆された。また,術前に口部の不随意運動がみられたが術後著明に消失したことも興味深いと思われた。

側頭葉萎縮が目立たず123I-IMP-SPECTが診断上有効であった初期緩徐進行性失語症の1例

著者: 池沢良郎

ページ範囲:P.1067 - P.1072

 【抄録】 両側頭葉とも萎縮が目立たないが臨床症状より緩徐進行性失語症(slowly progressive aphasia)が疑われ,脳123I-IMP-SPECTで優位半球の側頭葉を中心とする全般的血流低下が検出された1例を報告した。軽度Wernicke失語が主要症状で,他の高次機能は比較的保たれており,これまでの報告例と症状レベルでは大差ないものの,頭部CTで優位半球の側頭葉に萎縮を認めない点が異なっており,これまで報告例のない初期段階で事例化したものと思われた。また,脳123I-IMP-SPECTがこのような初期症例の診断において有効であることが推察された。

急性phenytoin中毒から全外眼筋麻痺,小脳失調,意識障害を来したてんかん患者の1症例

著者: 真下清 ,   榎田雅夫 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.1073 - P.1080

 【抄録】 抗てんかん薬服用中に全身倦怠感,肝機能障害を契機に,意識障害,小脳失調,けいれん発作,全外眼筋麻痺を来したてんかん患者の1例を経験した。phenytoin血中濃度が高値で,脳波では高振幅6波が全般性に出現し,phenytoin中毒と診断した。phenytoinを中止して,補液を中心とした治療を行ったところ,入院翌日より改善傾向を示し,第30病日後には臨床症状は改善し,脳波所見もほぼ正常化した。本例では肝機能障害とphenobarbitalの併用がphenytoin中毒の症状発現に関与しているものと考えられた。
 phenytoinによる眼筋麻痺に関しては1959年にManlapazが最初に報告して以来,現在まで20例があるのみで,本邦では小田らの1例があるにすぎない。自験例に文献報告例を加えて,急性phenytoin中毒にみられる眼筋麻痺の治療,予後,鑑別診断について考察した。

テタニーと高度な肝機能障害を呈した神経性無食欲症の1例

著者: 坂口守男 ,   白井俊由 ,   百溪陽三 ,   吉益文夫 ,   東雄司

ページ範囲:P.1081 - P.1087

 【抄録】 著明なるいそうを来し,様々な身体的異常所見を呈した神経性無食欲症の1例を報告する。症例は30歳女性で約13年間,やせが持続し自力歩行困難となり入院した。経過中にテタニー発作があり,入院後の諸検査では肝機能障害(GOT 3,340U/l,GPT 1,950U/l,LDH 2,357U/l,γ-GTP 191U/l),貧血,低コレステロール血症などが著しかった。テタニーについてはTrousseau徴候の陽性期間中,ビタミンDの低値,低Ca血症,低P血症が認められ,ビタミンD欠乏性テタニーと考えられた。高度の肝機能障害については輸液と栄養補給を開始すると回復に向かったことより体重減少に基づく飢餓のメカニズムが推測され,その他の異常所見についても体重の増加と共に改善傾向にあり,低栄養に起因していたと考えられた。精神的治療は支持的,共感的対応を心がけながら認知の修正を図った。

せん妄の臨床経過と予後—総合病院入院中の74例についての検討

著者: 飯高哲也

ページ範囲:P.1089 - P.1095

 【抄録】 入院患者に生じたせん妄の臨床経過と予後を検討する目的で74例のせん妄患者と180例の対照群の3,6カ月後の予後をretrospectiveに調査した。結果はせん妄群で有意(p<0.01)に死亡率が高く,6カ月後ではせん妄群の34%が死亡し,その71%は発症から15週以内に死亡した。生存率はせん妄非改善群,持続期間が8日以上の群で有意に(p<0.01)低かった。基礎疾患は悪性腫瘍と痴呆が多く,入院または手術から1週間以内の発症が多かった。せん妄自体は68%が改善しその持続期間は2週間以内がほとんどで,長期に持続する症例は予後が悪く精神科受診の遅れが持続期間の長期化につながった。基礎疾患の種類にかかわらずせん妄の改善の有無と持続期間が予後を判定する上で重要な因子と考えられた。

Deficit Syndromeの診断基準とその日本語版の信頼性

著者: 鈴木映二 ,   神庭重信 ,   丹生谷正史 ,   稲田俊也 ,   関谷詩子 ,   芦刈伊世子 ,   越川裕樹 ,   安部康之 ,   木下徳久 ,   新谷太 ,   八木剛平 ,   浅井昌弘

ページ範囲:P.1097 - P.1103

 【抄録】 W. T. Carpenterらは,陰性症状が顕著かつ1次的で持続する精神分裂病の1亜型をdeficit syndromeと命名し,その診断基準を定めた。我々はCarpenterの許可を得て,診断基準とその手引きの日本語版を作成した。さらに慢性精神分裂病患者を対象として日本語版の信頼度を検討した。その結果,評定者間信頼度と再試験信頼度は,Cohenのκで,それぞれ0.86,0.93と十分満足のいくものであった。
 従来の陰性症状群の概念の曖昧さに比べ,deficit syndromeの定義はより明確であり,精神分裂病群のより均質な病態群を抽出できると思われた。また,その診断は比較的簡便であり,ある程度の臨床経験を有するものが行えば信頼性が高いため,臨床的にも有用であると思われた。

短報

Charles Bonnet症候群の1例

著者: 松本貴久 ,   飯島正明 ,   石野博志

ページ範囲:P.1105 - P.1108

 Charles Bonnet症候群とは視力障害を持ち,意識清明で明らかな知的障害のない老人に,明瞭で生き生きとした幻視がみられ,しかも幻視に対する病識が保たれているものをいう。Charles Bonnet症候群は欧米を中心に報告されているが,我が国では数例の報告しかない。
 我々は,白内障,網膜萎縮のため,高度の視力障害を来した後,多彩な幻視が出現したCharlesBonnet症候群と考えられる症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

非定型的経過をとった脳表ヘモジデリン沈着症の1例

著者: 桂木正一 ,   池上研 ,   寺岡和廣 ,   古賀幹浩 ,   森山茂 ,   谷宏 ,   宮川太平

ページ範囲:P.1109 - P.1111

 脳表ヘモジデリン沈着症は長期間少量ずつ持続するクモ膜下出血,または脳腫瘍や動静脈奇形などを基盤に反復するクモ膜下出血の結果としてヘモジデリンが脳の表面に沈着し,脳表面の実質や脳神経線維の破壊を来すもので比較的稀な疾患である2〜5,7)。臨床所見では3主徴として神経性難聴,小脳性失調,痴呆が挙げられ,それらの漸進的な増悪が特徴で経過と共に植物状態に陥る1,3,7)。我々はこれまでに報告された中で最も長い23年の経過を持ち,視力喪失,聴力喪失などの脳神経症状が認められるにもかかわらず,発病後8年で症状の進行が停止し,小脳性失調は動揺性ではあるが歩行は可能な段階でとどまり,また知的な面でも明らかな障害を認めない非定型的経過をとった脳表ヘモジデリン沈着症を経験したので報告する。

脳波異常を示した橋本病の1例

著者: 長瀬精一 ,   市川忠彦 ,   羽田忠 ,   清水文雄

ページ範囲:P.1112 - P.1114

 橋本病は,甲状腺機能低下症を示す代表的な自己免疫疾患の1つとしてよく知られている6)。本症は主に内分泌内科領域ではしばしば経験される疾患で,その診断は病理組織所見で橋本病の特徴を認めるか,あるいはサイログロブリンまたは甲状腺抽出液を抗原とする沈降反応が陽性を示す場合,「広義の橋本病」とされる2)が,脳波に関する知見については,これまであまり言及されていない。最近筆者らは,精神症状を伴った増悪期に脳波異常を示し,治療により精神・身体症状が軽快すると,脳波所見も著しく改善した橋本病の1例を経験した。橋本病の脳波についての報告は稀と思われたので,本例の臨床・脳波的特徴を述べ,若干の考察を加えて報告したい。

CH 50とSLE精神病—精神病症状との関連性について

著者: 川村邦彦 ,   市川淳二 ,   高橋義人 ,   西信之 ,   浅野裕

ページ範囲:P.1115 - P.1117

■はじめに
 血清補体価は免疫複合体の形成によって消費されるため,その低下は全身性エリテマトーデス(以下SLEと略)の身体症状の増悪を,その上昇は改善を反映するとされている。なかでもCH50はその血清補体価の総和を表し,SLEの身体症状の活動性の最も良い指標として用いられている。
 今回我々は幻覚妄想状態を呈したSLEの女性患者が,身体症状の改善とともに,その精神症状も軽快,消失した症例を経験した。その際,CH50の正常化と精神症状の軽快,消失に強い相関関係がみられたので報告する。

紹介

CODE-DD:抑うつ性障害統合診断評価法の開発

著者: ,   ,   ,   ,   竹内浩 ,   古川壽亮

ページ範囲:P.1119 - P.1127

■はじめに
 Composite Diagnostic Evaluation(CODE)システムは,統一的な診断基準リストと標準化されたデータ収集法を備えた多重診断法polydiagnostic methodの1つである。それは,特別に考案されたアルゴリズムにより,1人の患者について同時にいくつもの診断体系から診断を与えることができる診断法の集合であり,CODEと称されるそれぞれの診断法は異なった疾患カテゴリーを扱っている訳注1)
 個々のCODEは,次の3つの部分から成っている。CODEを構成しているすべての診断体系の診断を出すことができるような症状リスト,これらの症状すべての有無を確認するのに適した半構造化面接,および症状からそれぞれの診断体系における個別の精神科疾患を診断できるような判定系統樹である。
 CODEシステムと他の多重診断評価には以下のような相違点がある。第一に,各々のCODEは,当該の診断カテゴリーの概念の歴史的発展に関連した系統的記述をすべて含んでいる。また判定系統樹は,精神医学上の分類が,種々の異なった組み合わせの精神病理学的症状から同じ診断の導き出されることのある多重措定的polytheticな分類であるという点を考慮に入れて組み立てられている。CODEシステムの3番目の特徴は,診断決定過程のすべてのレベルにおいて必要な情報を容易に利用可能な形で取り出すことができる点である。

動き

「第18回日本睡眠学会」印象記

著者: 石束嘉和

ページ範囲:P.1128 - P.1129

 第18回日本睡眠学会が6月18,19日の両日にわたって,獨協医科大学神経内科片山宗一教授の会長の元に栃木県宇都宮市の栃木県総合文化センターにて,320名を越える多数の参加者を得て盛大に開催された。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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