文献詳細
古典紹介
M. フリードマン「パラノイア学説への寄与」(第2回)
著者: 茂野良一1 佐久間友則1 大橋正和1
所属機関: 1新潟大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.209 - P.216
文献概要
遺伝負因が存在する。患者は,非常に肥満した,快活で感情の高揚した人物で,今までに精神的な異常はなかった。彼女には子供がなかったが,結婚生活はこれまでの14年間を通じて平穏無事であった。最初の障害は,名前の混同によって彼女の夫の元にあるいかがわしい女性から一通の手紙が届いた去年の夏に起こった。その手紙の中で彼は情事を続けるよう求められていた。彼が自分からその手紙を妻に見せたところ,最初は彼女もその取り違いをおもしろがっていた。しかし,その後数週間はずっとその出来事に疑いを抱き,それについて多くを語らず不機嫌であった。9ヵ月後に借家人の一家が引っ越してきたが,彼らには里子に出した幼い私生児がおり,また彼らの所にはふしだらな女性が出入りしていた。このことが火のついた嫉妬にますます油を注ぐことになった。患者は,夫がその私生児の父親ではないか,そして妻である自分にはそのことが隠され続けているのではないかと疑った。それについて彼女は激しく感情を昂ぶらせ,夫に自分の罪を告白すべきだと始終しつこく要求して夫を絶え間なく徹底的に苦しめた。他方,彼女は玄関の間などを通り抜ける時にはいつも,その借家人一家の動静をうかがうために窓や廊下の戸口の所で見張りをした。そしてやがて彼女は時間の大部分をそれに費やすようになった。
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