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雑誌目次

論文

精神医学35巻3号

1993年03月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科作業療法

著者: 井上正吾

ページ範囲:P.228 - P.229

 精神科医療は昭和25年に精神衛生法が公布された。一方,我が国はそれ以降自由主義国で1,2の地位を占める発展を遂げたが最近になりバブル経済がはじけ,いささか経済的には停滞的である。精神医療に関しては,太平洋戦争前後の数年間はほとんど各先進国の精神医学や精神医療からは孤立していたといっても過言ではない。しかし復興につれ,すなわち経済的な発展と医学の発展につれ,我が国の疾病の種類も変化し,精神病などがクローズアップされ出した。またいわゆる高齢化社会に突入し,老人性疾患特に老人性痴呆もまた大きな問題となってきている。したがって精神科医療(精神科作業療法)について論ずる場合も時代の変化に十分に留意しなければならない。私は主として,病院(地域)精神医学会の学会誌(昭和32年から平成4年まで)での動きを中心として病院精神医療の変革と,それに並行して精神科作業療法の変化を述べたい。
 昭和の初め16年間は精神分裂病は内因性疾患で電撃療法・インスリン衝撃療法以外には治療法はなかった。医療と保護が精神病院の仕事であり,患者が治癒して社会復帰することは期待されなかった。しかしその中にあっても松沢病院や中宮病院などでは先覚者が作業療法を熱心に実施されていた。一人は松沢病院での加藤普佐次郎氏である。彼はドイツ留学から帰られた呉秀三先生の理念と実践とを受け継いだ。加藤は作業療法は①治療的,②慰安的,③経済的を三大利点とした。治療的には精神分裂病・躁うつ病などにも効き,障害者のリハビリテーションとしても有効であるとしていた。また実施していた作業療法の種目としては①土木工事・農業蓄産,園芸や建物修理・運搬・雪の蓄積および除雪など,②屋内作業としては下駄鼻緒製作・裁縫(和・洋)・洗濯・わら加工・縄もつこ・草履・紙粘土細工・袋貼りなど,③特殊作業として事務補佐・医務補佐など機関部門・理髪・炊事等の補助,④それ以外に舎宅掃除・留守番・使い走り,⑤院外作業として砂利採取・製茶・農耕などの手助けであったが,これらをとおして開放治療と作業療法とにより治療効果を上げ,また患者の小遣いの助けともしていた。

展望

思春期の概月周期病相—周期性精神病と周期性感情病

著者: 阿部和彦 ,   太田幹夫

ページ範囲:P.230 - P.240

 思春期のうつ状態には1カ月に近い周期(20〜45日間隔,概月周期と略す)で繰り返す型がある。うつ状態は多くの場合1週間くらい,長くても2週間以内で,病相と病相の間は以前の元気な状態に戻る。症状には個人差があり,昏迷を呈して物を言わなくなり,食事もせず不眠を伴う場合もあるが,より軽い状態では体がだるく,考えがまとまらないと訴え,母親の側を離れず,食欲と睡眠が減少する。被害念慮,関係念慮を示唆する発言や行動を伴う症例も少なくなく,そのような症例は「周期性精神病」として報告されることが多い。また,上記のようなうつ状態を周期的に繰り返した後に躁状態が出現する症例や,錯乱を伴った躁状態がはじめから周期的に出現している症例もあり,後者も「周期性精神病」として報告されている。本稿では周期性精神病の症例をも含め,思春期に概月周期で出現する(2週間以内の)病相について展望し,筆者らの考えを述べる。

研究と報告

登校拒否を示した思春期のパニック障害—状態像と経過について

著者: 弟子丸元紀 ,   石塚公子 ,   辻泰子 ,   宮川太平

ページ範囲:P.241 - P.248

 【抄録】 思春期の登校拒否を伴うパニック障害例を4症例経験したので報告する。年齢は12歳が2名,13歳が2名で,男女各2名であった。全例が友人との「別離」を契機に,心身故障・不安状態,登校拒否などの前駆症状を伴い,突然にパニック発作を示した。初期の表現行動は「驚愕反応」の「逃避・擬死反射」や「攻撃、運動乱発」に類似の状態を示していた。自覚的にも「離人感,自己を制御できない恐怖感」を主に述べている。また,ベックの不安評価表を参考にしつつ,具体的に質問すると身体症状の把握は可能であった。思春期例の経験している症状は成人例と同質のものと考えられるが,表現行動,症状の自覚および状況の理解と対応は年齢(自律神経系の発達や自我の成熟度)によって異なると考える。なお,思春期例はDSM-Ⅲ-Rの診断基準による診断は可能であった。治療面も成人例と同様にアロプラゾラム,三環系抗うつ剤が有効であった。

農薬自殺企図症例の31自験例

著者: 鈴木利人 ,   田中芳郎 ,   新井哲明 ,   高森永子 ,   今井公文 ,   松坂尚 ,   白石博康 ,   小泉準三 ,   小山完二 ,   山下衛

ページ範囲:P.249 - P.256

 【抄録】 筑波大学附属病院に入院し農薬中毒と診断され精神神経科にコンサルトされた31例について精神医学的および疫学的に検討を加えた。農薬服用者の性,年齢,服用の時期,農薬の種類,職業と農薬の入手経路,服薬の状況,精神医学的背景,動機,自殺企図の徴候と既往,精神障害の既往,転帰の事項に関して検討を加えた。農薬自殺企図症例は中高年層に多く,使用された農薬は,パラコートと有機リンが全体の約8割を占めていた。また非農業関連職に従事している症例が多くみられ,その予防として農薬の管理に注意する必要があると思われた。精神医学的特徴として,農薬自殺者の多くに心理的ストレスが認められ,性格特徴や動機,服用時の状況などからさらに多様な心理機制が自殺企図に関与していた。一方,身体的転帰を左右する重要な因子は服用した農薬の種類であり,死亡例の全例がパラコートであった。農薬の毒性に関する自殺企図者の知識の有無が予後に重大な影響を与えるものと思われた。

総合病院における手首自傷を伴う症例の臨床的検討

著者: 服部隆夫 ,   竹谷一雄

ページ範囲:P.257 - P.264

 【抄録】 1総合病院の手首自傷を伴った症例56名(男性22名,女性34名)を検討した。疾患分類はDSM-Ⅲ-Rに従った。患者は1978年以後増加し,平均年齢は34歳(13〜77歳)で,約半数を占める30歳未満の症例では女性の適応障害が多いが,20代では分裂感情病と気分障害がこれに次ぎ,30歳以上では男性の気分障害と女性の分裂感情障害,短期反応精神病が中心で,30歳未満の症例よりも自殺の危険度は高いと思われる。症例の29%に境界性人格障害が,約半数の治療中または既往歴に服毒,身体自傷,縊首,投身などの自殺行動がみられた。対象の41%は未婚で,27%に自殺,精神病,アルコール症その他の精神疾患の負因があり,素因の関与も考えられる。また,手首自傷は自責,怒り,受容への願いなどの感情の非言語的表現であり,一種の身体言語ともいえる。半数は依頼症例で,手首自傷などの病態は今後総合病院精神科が対応すべきテーマの1つといえる。

精神分裂病患者における図と地の把握障害

著者: 横田正夫

ページ範囲:P.265 - P.272

 【抄録】 精神分裂病患者の図と地の把握障害がどのレベルの障害なのかを調べるために2つの実験(実験Ⅰと実験Ⅱ)を行った。実験Ⅰでは図と地の関係の知覚を調べるために,重なった図を取り除いた時に残る図を完成させる完結化課題を,分裂病患者30名,正常者50名に実施した。分裂病患者で完結化がみられない例はほとんどなく,患者に特徴的な完結化はなめらかな連続に従ったものであった。このことから患者においても図と地の関係の知覚は可能なことが示唆された。実験Ⅱでは図と地の関係の表象を調べるために,2枚の厚紙を被験者の眼前に一部を重ねて置きそれらを描画させるカード課題を,分裂病患者40名,正常者40名に実施した。分裂病患者では正常者より二重写しの表現が多かった。このことから患者における図と地の関係の表象障害が示唆された。以上から患者における図と地の把握障害は図と地の関係が表象されないことに由来すると考えられた。

分裂病患者の運動関連脳電位

著者: 郭哲次 ,   志波充 ,   鈴木英次 ,   百渓陽三 ,   東雄司

ページ範囲:P.273 - P.279

 【抄録】 慢性分裂病患者36名,健常者36名について右手随意運動時の運動関連脳電位の検討を行った。分裂病患者は全般に低電位傾向を示した。さらに継時的な観察において,健常者では振幅の変動を示したが,解体型分裂病患者ではどの時点においても平坦で振幅の変動性は認められなかった。単純運動と複雑運動の運動関連脳電位の比較では健常者において複雑運動の場合のほうが高振幅であったが,解体型分裂病群では両運動間の差異は認められず常に平坦波形を示した。分裂病者においてハロペリドール服用1週間後,精神症状の改善とともに運動関連脳電位の振幅が上昇し,1健常者では運動関連脳電位の振幅は覚醒水準により変化した。
 以上のように,分裂病患者は運動関連脳電位において低振幅と過剰な安定性を示した。

てんかん患者のスタンバーグ課題遂行成績に対するTJ-960の効果

著者: 永久保昇治 ,   山内俊雄 ,   相川博 ,   小島卓也 ,   松浦雅人 ,   大久保善朗 ,   大高忠 ,   丹羽真一 ,   熊谷直樹 ,   福田正人 ,   安西信雄

ページ範囲:P.281 - P.288

 【抄録】 本研究ではてんかん患者におけるTJ-960の認知機能に及ぼす効果を検討するためにスタンバーグ課題を用い,発作に対する効果とともにTJ-960投与前後での認知機能ことに短期記憶機能の変化を検討した。対象:埼玉医大病院・東京医科歯科大病院・東大病院の精神神経科に通院中のてんかん患者26名(男14名,女12名;平均年齢35±11歳)を対象とし,同じ施設に通院中の別のてんかん患者17名(男12名,女5名:平均年齢40±12歳)を対照とした。方法:1日量7.5gのTJ-960を8週間投与し,投与開始直前と8週投与直後にスタンバーグ課題を2回検査した。対照群の場合も同様に8週間の間隔をおいて2回検査した。結果:投与群で8週後に発作回数が25%以上減少した改善例は8例,不変17例,悪化1例であった。スタンバーグ課題の正反応時間は投与群では1回目955±310ミリ秒,2回目881±277ミリ秒であったのに対し,対照群では1回目845±288ミリ秒,2回目829±269ミリ秒であり,TJ-960投与群で2回目に反応時間が有意に短縮していた。単純反応時間は両群とも1・2回目の間で変化はなかった。以上,TJ-960はてんかん患者の認知機能に改善効果を示すと考えられた。

分裂病シュープ時に大麻性フラッシュバックが長年にわたり再現された1例

著者: 武者盛宏 ,   後藤裕

ページ範囲:P.289 - P.297

 【抄録】 本例は分裂病発病初期に病的動機から大麻吸引を行ってHorror-trip(HT)を体験し,その1週間後にFlashback(Fb)が起こり,以後15年間にわたり急性増悪時にHTがFbされた例である。初回のFbによりそれまで認められていなかった作為体験,幻聴,思考障害などの症状が誘発された。13回の急性増悪時の病像,症状の布置は驚くほど類似していてFbの広義の定義をも十分に満たすものであったが,さらに病像について大麻性症状と分裂病性症状とを精神病理学的にできるかぎり鑑別することを試みた。大麻性体験と内因性病像を加重と融合の観点から分析し,かなりの部分が分離可能であった。大麻性Fb症状としてのHT,常同運動,強迫表情,感情障害,幻視,身体幻覚などの特徴を明らかにし,さらに中毒性視覚症状と分裂病症状との融合症状として考想化視現象に注目した。病初期の大麻吸引の危険性を指摘し,Fbが長期化した要因などを考察した。

単科精神病院入院中の老人患者,特に痴呆老人に関する検討

著者: 堀口淳 ,   助川鶴平

ページ範囲:P.299 - P.306

 【抄録】 10の単科精神病院入院中の老人患者438例を対象に分析調査し,抽出された痴呆患者157例全例を診断面接し,以下の結果を得た。(1)老人患者は全体の19.4%で,うち42.5%が精神分裂病で,35.8%が痴呆患者であった。(2)痴呆患者では精神分裂病と比較して有意に入院回数が少なく,入院期間が短く,有配偶者が多かった。(3)痴呆と非痴呆患者とで合併症数に有意差はなかった。(4)痴呆患者の56.7%が老人病棟,60.5%が男女混合病棟,87.9%が閉鎖病棟で加療され,29.9%が抗精神病薬を投与されていた。(5)問題行動の数は入院時より有意に減少し,内容も変化していた。(6)痴呆患者の24.2%が寝たきりで,痴呆の程度分類ではほぼ均等に分布し,身体障害の重篤なものほど痴呆も重度であった。
 以上の結果から,精神病院は主に精神医学的な加療を要する時期の痴呆患者を対象に機能すべきであるが,現状では他施設との役割分担が不十分であることを強調した。

短報

著しい不安—抑うつ状態にMAO阻害薬が奏効した1例

著者: 横山知行 ,   多田利光 ,   飯田眞

ページ範囲:P.307 - P.310

 MAO阻害薬が抗うつ薬として登場してからほぼ30年を経た現在,我が国ではその副作用や食事制限の煩雑さのためほとんど用いられることがない薬剤となっており,近年我が国では,この薬剤の効果に関する報告はほとんどなされていない。しかし,英語圏では1970年代よりこの薬剤の再評価が行われており3),その適応をめぐっての研究が積み重ねられてきている。
 今回,我々は著しい不安感,焦燥感,興奮,衝動行為,強い疲労感,過食,気分反応性の保たれた抑うつ状態を呈し,これらの症状が抗精神病薬や三環系抗うつ薬に反応せず,MAO阻害薬を用いることにより改善を示した症例を経験したので,ここに報告し,若干の考察を加えたい。

女子大学生の飲酒と精神保健

著者: 渡辺登

ページ範囲:P.311 - P.313

 近年,飲酒人口は増加しており,なかでも注目されているのが女性飲酒者や家庭婦人のアルコール依存症の増加である8)。筆者は家庭婦人の飲酒状況と精神健康との関係を一般健康調査質問紙法(General Health Questionnaire,以下GHQと略す)で検討した。GHQはGoldberg2)によって開発され,英語圏では神経症者の症状把握や発見に有効であることが確認された調査法である。我が国では中川7)が翻訳の上,日本語版質問紙法に妥当性や信頼性のあることを認めている。その結果,飲酒頻度の高い婦人ほど精神不健康と判別される割合が多いことを報告した12)。一方,成人前後の女性の飲酒状況と精神健康との関係では斎藤9)の調査にすぎず,CMIと飲酒状況とは関連がなかったという。この度,GHQで女子大学生の飲酒状況との関係について調査したので報告し,家庭婦人の結果と比較検討したい。

trazodone投与中に悪夢を生じたうつ病の2例

著者: 寺尾岳

ページ範囲:P.315 - P.317

 trazodone(レスリン,デジレル®)は,1991年秋に本邦へ導入された抗うつ薬である。抗コリン作用が少ないことから,四環系抗うつ薬と同様に,緑内障や前立腺肥大などの合併症を有する患者や,老年期および外来患者へ投与しやすい抗うつ薬と考えられている。また,trazodoneはamitriptylineやdoxepineに似た鎮静作用を有する6)ことから,米国においては催眠剤としての検討も行われている4,5)
 一方,いまだ本邦へは導入されていないものの,trazodoneと類似の作用を示す抗うつ薬にfluoxetineがある。両者とも,神経終末におけるモノアミン再取込み阻害作用がnoradrenaline神経系に対してはほとんど働かず,もっぱらserotonin神経系に対して働くという特徴を有している。最近,米国でfluoxetine投与中に鮮明な夢を見たとする4症例が報告された2)。したがって,作用機序に共通点のあるtrazodoneにおいても夢に変化を生じる可能性があると考えられる。もしtrazodone投与により夢の変化,とりわけ悪夢が生じうるのであれば,trazodoneをそのまま継続投与した場合,悪夢が持続し,その結果精神症状が増悪するかもしれない。したがって,trazodoneと悪夢の関係に注目することは重要である。しかしながら,筆者の知るかぎりでは今までに,trazodoneの離脱時に悪夢を見たとする報告3)はあっても,その投与中に悪夢を見たとする報告はなかった。

初老期発症の躁病患者にみられた炭酸リチウムによって増悪した本態性振戦の1例

著者: 門司晃 ,   梅野一男 ,   奥山巌 ,   山下法文 ,   森本修充 ,   田代信維

ページ範囲:P.319 - P.322

 本態性振戦は両上肢を中心とした振戦を主徴とする不随意運動で,40歳以上の人口における有病率は0.4%から5.6%で神経疾患の中では最も頻度の高い疾患に属する4,7)。本態性振戦に類似した振戦が躁病治療薬であるリチウムの最も多い副作用の1つとして認められている13,15)
 今回我々は初老期発症の躁病患者に対してリチウムを使用したところ,それまで極めて軽症であった本態性振戦が日常生活に支障を来すほど増悪した症例を経験した。筆者の知るかぎり,躁病と本態性振戦との合併例の報告はごくわずかであり1,8,11,14),リチウムによる本態性振戦の増悪に言及した論文は本邦では見当たらない。この症例の臨床および治療経過に関して,若干の文献的考察をまじえて報告する。

動き

「青年期精神医学交流会」,10回の歩み

著者: 清水將之

ページ範囲:P.324 - P.325

 1992年11月28日,松本雅彦教授(京都大学医療短期大学部)を世話人代表として,京大会館において第10回青年期精神医学交流会が開催された。紅葉が終わりを告げようとしている京の街で,青年精神医学の臨床に関心を抱く様々な職種の130人が集い,17題の報告をめぐって実り豊かな討論が展開された。あえて演題内容の類別を試みるならば,症例研究が9題,治療論が4題,精神病理学的考察が4題という配分であった。この会としてはいささか演題数も内容も盛りだくさんでありすぎたきらいがないでもない。全体的にみて,1例の精神療法が報告される時間帯に論議が盛り上がっていたところに,この会の特徴が表れていたようにみえた。
 第10回を迎えたこの機会に,青年期精神医学交流会の歴史をたどっておきたい。

「精神医学」への手紙

Letter—佐藤氏の所論(Schneiderの一級症状をめぐって—「ごく控えめに」か「間違いなく」か)への批判

著者: 柏瀬宏隆 ,   各務克充

ページ範囲:P.331 - P.331

 本欄(本誌34:1216,1992)に佐藤裕史氏は,Schneiderの一級症状について,“in aller Bescheidenheit”を従来「ごく控えめに」と訳され理解されてきたが,これは誤りで,Schneiderは「間違いなく」と考えていたようである旨を指摘されている。佐藤氏は,“in aller Bescheidenheit”とは,辞書ではwith alldue modesty,「いくら遠慮しなくてはならないとしてもやはり」とあり,数人の独文学者の意見でも,一級症状が揃えばまず分裂病に間違いないと原著者は考えていたように読めると言われるのである。
 Schneiderの原著書(p 65)2)と平井・鹿子木の翻訳書(p 148)1)にあたってみよう。“Woderartige Erlebnisweisen einwandfrei vorliegen undkeine körperlichen Grundkrankheiten zu finden sind, sprechen wir klinisch in aller Bescheidenheit von Schizophrenie.”「このような体験様式がまちがいなく存在し,身体の基礎疾患が何も発見されない場合に,我々は臨床的に,ごく控えめに,分裂病だということができよう。」

Letter—Schneiderの一級症状と教科書の変遷/Letter—被害・関係?あるいは迫害妄想?

著者: 青野哲彦 ,   立山萬里

ページ範囲:P.332 - P.333

 先号の本欄(本誌34:1216,1992)で,佐藤裕史氏が,Schneiderの一級症状の真意について紹介している。実は私も同症状があれば,分裂病と診断することが「ごく控えめに」できるのか,あるいは「間違いなく」できるのかをめぐって戸惑いを感じ,医学生用の教科書を調べたことがある。
 私は学生時代,諏訪望教授の教科書(1961年初版)で学んだ。精神科に入局後,一先輩に「一級症状がひとつでもあり,身体病でなければ分裂病である」と諏訪教授の教科書に近い教えを受けたので,予診の時には逐一同症状の有無を確かめた記憶がある。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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