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雑誌目次

論文

精神医学35巻4号

1993年04月発行

雑誌目次

巻頭言

3人寄れば文殊の知恵

著者: 臺弘

ページ範囲:P.340 - P.341

 ここで3人というのは,精神療法家,薬物療法家,生活療法家を意味している。
 筆者がこんなことを考えるようになったのは,分裂病治療に当たっての古い臨床経験に発している。薬物療法もなかった頃,慢性固定病像を持つ患者に「働きかけ」をしようとした時,無効であったとしていったんは捨てられていた電気ショック療法を再開して,その後にみられる一過性の軽快の時期に作業療法を導入すると,高められた活動性が持続することを知った。電気治療の効果は作業療法と連結することによって順次に軽快期間を延長することができ,しまいには電気治療の必要がなくなる。治療の併用は単独の加算以上の意味があるものである。薬物療法時代になってから,薬物の症状面への効果はもとよりのこと,私にとっては作業療法への誘導が桁違いに楽になって,電気治療の必要がなくなったことがありがたかった。現在では,作業療法と薬物療法の併用はどこでも行われることになった。

特集 現代日本の社会精神病理

精神病と偏見をめぐる現代社会の病理

著者: 吉松和哉 ,   小泉典章

ページ範囲:P.342 - P.348

 精神障害者のいわゆる福祉を向上させるためには,精神医療の向上と精神障害者に対する社会福祉の充実が欠かせない。しかし同時に,一般住民の精神障害者に対する適切でしかも温かい理解が大切である。このことと関連して,現在我が国では精神病に対する一般の理解あるいは偏見の実態はどうなっているであろうか。また,そのような偏見はいかなる社会病理の故とみなしたらよいだろうか。この点を考えてくると,本標題の内容が意味するところはなかなか大きいように思われる。

現代の日本家族が抱える諸問題

著者: 牧原浩

ページ範囲:P.349 - P.355

■社会と家族
 精神分裂病の家族研究(ファミリー・スタディー)が盛んであった頃,家族の病理性がいろいろな角度から検討された。「二重拘束説G. Batesonら」1),「偽相互性L. C. Wynneら」2),「世代境界の侵害T. Lidzら」3),「相互依存的三ツ組M. Bowenら」4),といったユニークな学説は,まだ我々の記憶に生々しい。
 ところで,この領域の研究には,全く異なった二つの方向性が秘められていたようで,その点まことに興味深い。

宗教精神病理の現在

著者: 小田晋 ,   佐藤親次 ,   森田展彰

ページ範囲:P.357 - P.364

■時代精神の変化と宗教病理
 宗教病理の現在について論じる際には,次の2つの側面があることをまず注意しなければならない。それは,①宗教的病態の変化,②宗教精神病理学の変遷とその現状の両側面である。この両者はしかしながら,共通の時代精神と文化状況に支えられているのである。それは何といっても,いわゆるポストモダンの時代精神であって,一方では,近代合理主義のエートスが相対化され,批判の対象とされることになるとともに,「精神医学モデル」に従って,宗教現象を非合理なものとして裁断し,その「病理」を研究するという視点が批判され,相対化されることになる34,41)。他方「こころの時代」と呼ばれるように,人々の関心が物質から精神世界に向かい,宗教のみならず様々の精神世界を追究する運動を生み出し,その中で,病態がそれと鑑別を要する多様な現象を生み出している。
 現代は,情報化された豊かな管理社会と名づけることができるであろう。このことは,様々の情報テクノロジーの導入をもたらした。それは,人間性に対する影響としては,人間性に対して,情報メディアが作り出す擬似環境(pseudo-environment)や仮想現実(virtual reality)の比重の増大,つまり,手に触れることのできる一次的・直接的な環境よりも,作り出された情報環境の比重が増大するという結果をもたらした。その結果,神秘主義や超常現象に対して,産業化社会に生育した人たちが持っていた違和感をある程度取り除いた。他方,それは,数量化,統計化といった手法が社会の様々の領域に浸透し,人間が情報管理され,支配・操作されるという結果をももたらした。これらの変化が,宗教精神病理学研究および宗教的病態にどういう変化をもたらしたかを検討してみよう。

犯罪・非行の社会精神病理—少年非行の動向と少年の社会意識の特徴にみる我が国社会の病理

著者: 山上皓 ,   石井利文 ,   野田美和

ページ範囲:P.365 - P.371

■はじめに
 少年非行の動向は,成人の犯罪の場合以上に,より一層敏速かつ明瞭に社会内の変動やそこに生じた葛藤を反映する。社会内に適応的な生活を阻害するような要因が生じた時には,判断力や抑制力に欠けるところのある未熟な少年達が非行への誘惑に駆られ,その上,少年達の被影響性や模倣性の強さが,同種の非行を一種の流行現象のように多発させる傾向があるからである。
 我が国の少年非行は,戦後3度にわたる波状的な増大期を経て,近年は緩やかな減少傾向を示しており,昨年1年間に警察に検挙された犯罪少年の総数も,人口比でみると第3の波のピーク時(1981年)の70%程度に減じているが,各種統計は,この領域になお深刻な問題が潜在していることをうかがわせる。
 本稿では,我が国の少年非行の動向を概観し,近年の非行の特徴を示した上で,その背景について,総理府によって行われている少年の各種意識調査結果等を用いて考察を加えたい。なおここでは,少年犯罪者の中に原則として14歳未満で刑法に触れる行為をしたいわゆる触法少年をも含め,その母数については犯罪統計書に倣い10〜14歳の少年人口をとった。

現代の性と婚姻

著者: 山本巌夫

ページ範囲:P.373 - P.378

■まえがき
 第二次世界大戦が終わってから,すでにほぼ半世紀になんなんとしている。この間に,世界的に,性と結婚をめぐる考えは大きく変転してきた。我が国も決して例外ではなく,むしろ我が国独特の変化を遂げてきたともいえ,その都度しばしば危機とか病理とかと呼ばれてきた。
 なるほど,離婚率は増加し,結婚年齢は上昇し,婚姻率は減少し,出生率は低下,性体験の若年化や事実婚の増加,等々と性と結婚をめぐる論題は尽きない。しかし,昨今さすがに,離婚を不道徳視する声は聞かれなくなり,男女の自由な付き合いも紊乱と目くじらを立てることもなくなった。そしていまや,エイズを契機として,小学生にまで性を語る時代となってきた。このような時に当たり,現代の「性」と「婚姻」について考えてみたい,と思う。

現代社会と幼児虐待

著者: 石川知子

ページ範囲:P.379 - P.384

■育児行為と幼児虐待
 子どもは時代を写す鏡という言葉がある。これは生物学的にも社会学的にも正鵠を射たものである。すなわち,生物にはすべて個体保持ならびに種族保存という2つの本能があり,我々人類も同様である。ところが人類では中枢神経系(終脳)が特異的に分化発達し,「文化culture」というものを持つに至り,この文化が幸か不幸か上記の両本能の発現様式に,後天的に多大な影響を及ぼす点が他の生物と異なる。種族保存本能に由来する育児行為の様態もまた,ある文化の歴史的地誌的な特性により規定される。
 次の世代を涵養することが正常で健康な育児行為であり,幼弱な存在をいたぶる幼児虐待は異常で病理的な育児行為である。しかしながら,育児についても正常,異常の境界は絶対的なものではなく,時代や地域の文化形態により変遷する。例えば,発展途上国のように経済的な困窮が高度な社会では子どもの人身売買や稼働は児童虐待ではないし,近世ヨーロッパの上流階層では体罰は子どものしつけの一環であった。現代の我が国では,妄想病の母親が我が子の外出や登校を阻み自宅に閉居させるのは児童虐待に該当するが,教育ママが我が子に稽古事や学習塾に通うことを強制しても,それを虐待とは呼ばない。

高齢化社会と自殺

著者: 高橋祥友

ページ範囲:P.385 - P.389

 1992年には我が国の65歳以上の高齢者は全人口の約12%を占めていたが,西暦2020年までにいっそう増加し,全人口のおよそ24%となると予測されている。さて,高齢者は様々な文化圏でも高い自殺率を示すと報告されてきた。我が国全体の自殺率が1987年以来減少傾向を認め,高齢者の自殺率も減少してきているのだが,現在でも老人の自殺率が高いことに変わりはない。最近では我が国の高齢者の自殺者は全自殺者の29%を占めており,人口の割合に比較して高い自殺率を示している。
 このように今後の高齢人口の増加を考慮すると,高齢者の自殺は現在でも大きな問題であるが,将来も引き続き深刻な問題であり続ける可能性が高い。他の年齢層の自殺に関する研究が精力的に行われてきたのとは対照的に,主として高齢者に焦点を当てた研究は全般的に乏しく,この傾向は国の内外を問わず当てはまる。海外の報告も参考にしながら,このような社会の変化と高齢者の自殺に関して,いくつかの問題点を提示したい。

産業精神保健の現状

著者: 近藤喬一 ,   北西憲二

ページ範囲:P.391 - P.397

■はじめに
 これまでは身体面でのそれがもっぱらであった職場における健康管理が,精神的な領域にその重心が移ってきている。産業精神保健という活動領域がそれである。現代人が職場で過ごす,実に40年以上もの長い年月を考えれば,人の半生がそこで費やされることになろう。しかも現今では平均寿命が大幅に延びたために,定年後も新しい職業を求める人々が増えてきている。そのことを思えば,今までこの領域が一部の人々の関心をそそったほかには,概してあまり重要視されてこなかったという事実が,むしろ問題であるといえるのではないだろうか。
 しかし,精神保健の重視にはそれなりの理由があると思われる。よくいわれることだが,最近の技術革新の急激な進展によって作業環境に大きな変革が生じてきた。仕事はますます機械的で単調なものとなり,自動化や分業が推進される結果,職場における人間疎外の傾向は強まる一方である。このような変化が労働意欲や職業人としての意識,あるいは企業意識を損なう方向に作用するのは見やすい道理であろう。そのほかにも様々な新しい産業ストレスが増加してきており,この意味では,産業精神保健は今後ますます重要な活動領域として位置づけられることになろう。
 このような観点から,まず我が国における産業精神保健の歩みを紹介し,現代における社会精神病理と産業精神保健の問題点,産業精神保健とライフ・サイクル,産業精神保健の実践などについて述べることにする。

精神医学分野の災害研究の現状

著者: 三宅由子 ,   尾崎新

ページ範囲:P.399 - P.405

■はじめに
 予期せぬ災害が人間を襲ったとき,身体的被害の有無にかかわらず心理的な影響が残ることは以前から認識され,科学的研究のテーマになってきた。また,主に社会学者,心理学者などが,人の心身への影響ばかりでなく,災害によるパニック,流言飛語,情報伝達,地域崩壊とコミュニティの再建などの問題を研究対象としてきた。精神医学分野での研究は,外傷神経症,災害神経症の名称で,鉄道事故や鉱山災害の被災者に関して始まったようである31)。しかし,精神医学が災害の長期予後に注目したのは1950年代に入ってからであり,比較的歴史は浅い。
 欧米における災害研究は近年ますます活発に行われている。対象となる災害は,自然災害から火災や事故,犯罪,戦争まで幅広い。そしてその心理的影響は,被災直後ばかりでなくその後長期間にわたって残り,なんらかのケアを必要とするものだ,ということは,欧米の研究でしばしば指摘されてきた。それに対して日本では,災害に伴う心理的影響についての精神医学的研究はあまり行われていない。わが国では,災害の被災者に対して精神医学や臨床心理学が関与する余地が,今のところあまりないのかもしれない。しかし火山噴火や地震,水害,事故などの災害を完全に避けることは不可能である。現状では,研究を実際に行うことには困難が伴うであろうが,被災体験を後に役立つ知恵として生かすような研究の蓄積が,わが国でも必要なのではないかと思われる。そのためには,被災者の体験を正当な方法で記録し,可能なかぎり客観的な評価を加えることが必要である。そこで本論では,このような災害の心理的影響についての精神医学的視点からの研究を紹介し,その方法論について論じたいと思う。

精神科の患者をとおしてみた現代日本の病理

著者: 岡田靖雄

ページ範囲:P.407 - P.411

 患者をとおしてとなると,どういう所で診療しているかに左右される。わたしが精神科外来を担当している荒川生協病院は,東京都東部の荒川区に位置している。荒川区は,人口が激減しつっあって老人層がふえてきている,23区のなかでは経済的にもまずしい区である。外来にくる人には,古典的なヒステリーの患者さんやキツネ憑きなどいう人もいる。わたしの目のせいもあろうが,あたらしい病理はみえてこない。霊がつく,太陽を信仰する,夢枕,受診する日を方角によって判断する,といったことがかれらの口からかたられる。エホバの証人,眞光文明教会,大山祇命神示教会,霊波の光などにかよっている人もいる。この人たちの宗教的行為は,多神教世界のものだろう。それを迷信的とくくることもできるだろうが,排他的な一神教の世界観よりは,迷信的であっても多神教の世界観のほうがすぐれているものとわたしは感じている。こういう場でみえる“現代”とはどのぐらいの範囲をいうのだろうか。わたしに“今日”的な流行はみえない。だが,いかにも“今日”的にみえるものも,実はもっと古層のものの露頭にすぎないのかもしれない。
 さらに,“病理”とはなんだろうか?“日本の病理”とか“社会病理”などいってみるとき,病理とは多数派の偏見である可能性をつねに念頭におく必要があろう。とくにで“患者をとおしてみた病理”となると,あるものを病理と判断するのはわたしの感性だけである。ともかくも,社会的におかしいとわたしがおもったことをかくしかない。人あるいはそれをわたしの偏見というかもしれない。

研究と報告

Zonisamide投与中に幻覚妄想状態を呈したてんかんの8例

著者: 松浦雅人 ,   先崎章 ,   大久保善朗 ,   松島英介 ,   小島卓也 ,   融道男

ページ範囲:P.413 - P.419

 【抄録】 外来通院中のてんかん患者にzonisamideを追加投与した後,幻覚妄想状態を呈した8例について,精神症状の発現状況を中心に報告した。症例は側頭葉てんかん6例,前頭葉てんかん2例で,てんかん発症から平均24年を経過し,すべて難治てんかん例であった。精神症状は全例に被害関係妄想を認め,幻聴を伴うものが5例であった。精神症状の発現とzonisamide投与との関連が推定されたのは4例で,発作の抑制あるいは二次性全般化発作の出現と関連して発症しており,交代性精神病あるいは発作後精神病と考えられた。これらの例は治療に対する反応もよく,比較的短期間で寛解した。他の4例は,明らかな心因を契機に反応性に精神症状が出現した2例を含め,粘着的性格傾向と精神症状の発現との関連が推定された。これらの例は治療への反応も悪く,幻覚妄想状態が持続する傾向がみられた。

主婦における喪失体験と殺人—犯罪精神医学における危機介入と犯罪予防をめぐる諸問題

著者: 薩美由貴 ,   小田晋 ,   佐藤親次 ,   小西聖子 ,   田中速 ,   阿部恵一郎

ページ範囲:P.421 - P.427

 【抄録】 人間が経験するライフイベントには,一般に共通のものと社会・文化に規定されるものがある。その中で更年期は性と年代に固有の様々な問題を提示している。筆者らは精神鑑定において,退行期妄想症による病的体験の支配下に隣人女性を殺害した女性症例を経験した。この症例は更年期をめぐる心身症様症状,病院放浪者様行動,信仰行動などが空き巣状況下に出現した。このように精神保健的,予防医学的に教訓となる諸問題を抱えている症例を参考に,中年後期女性一般への精神医学的諸問題とその介入の必要性,および方法について述べた。さらにリエゾン精神医学のあり方や,問題点についても若干の参考意見を述べた。最後に,司法精神医学の立場から精神障害者と犯罪に関する処遇問題について今後の課題を提示した。

多重人格を呈した解離型ヒステリーの1例

著者: 中島一憲 ,   溝口るり子

ページ範囲:P.429 - P.435

 【抄録】 我が国では稀な病態である多重人格を主とする多彩な症状を呈した解離型ヒステリーの1例を報告した。症例は19歳の女性。発現した症状は,人格交代,健忘および遁走,幻聴などであり,人格交代では,本来の第一人格とは対照的な特徴を持っ第二人格と,13歳以前の第一人格への自動的な年齢退行を示した人格の二つの交代人格がみられた。第二人格への交代には,就職や失恋体験との時間的関連が強く認められた。入院治療が症状消退に対しては有効であった。
 本症例では,特有な性格特徴を基盤として,現実生活における葛藤状況からの逃避や願望充足という意義を持つ心理的防衛機制が働き,症状発現に至ったものと考えられた。また13歳時の「母親の急死」という心的外傷体験が病理性をはらみ,症状発現に関与していたと推定された。さらに人格交代に対する治療的かかわり方や心理検査についても考察を加えた。

短報

Pimozideが有効であったmonosymptomatic hypochondriacal psychosisの1例

著者: 安本真由美 ,   木戸日出喜 ,   山口成良

ページ範囲:P.437 - P.439

■はじめに
 奇妙な異常体感を単一症候とする慢性精神疾患はセネストパチー13〜15)として知られているが,このセネストパチーと重なり合うものとして英米圏ではmonosymptomatic hypochondriacal psychosis(以下MHPと略)という概念7)がある。今回我々はpimozideが奏効したMHPの症例を経験したので報告する。なお,MHPはICD分類,DSM-Ⅲ-Rでは,妄想性障害に相当するが,本症例はMHPと診断するのが最も適していると思われたため,MHPの診断を用いた。

大量かつ長期にわたるalprazolam乱用の1例

著者: 岡江晃 ,   川畑俊貴

ページ範囲:P.440 - P.442

 benzodiazepine(以下BZDと略)系抗不安薬は,副作用の少なさと安全性の高さから,精神科のみならず他科でも広く処方されている。しかし,常用量を長期にわたり服用している場合の断薬時に,症状の再発,反跳現象,身体依存・退薬症状や精神依存・乱用を生じうることも知られている。
 BZD系抗不安薬の1つであるalprazolamは,近年その強力な抗不安作用に加え,抗恐慌作用antipanic effectや抗うつ作用を持つとして注目されている。我々は,alprazolam 32〜40mg/日(0.4mg錠で80〜100錠)を,数年間にわたり服用していた依存・乱用例を経験したので報告し,alprazolamの薬物依存性についての考察を行った。

「いたずら電話」を繰り返した選択緘黙の1例

著者: 絵内利啓

ページ範囲:P.443 - P.445

 選択緘黙は正常あるいは正常に近い言語能力を有しているにもかかわらず,一部の生活場面,主として学校場面で沈黙し,数年間持続するものをいうが,家庭ではしゃべっており,学校でも周囲に迷惑を及ぼすことが少ないために問題として取り上げられる時期が遅くなりがちである。そして治療開始時期が遅くなればなるほど治療困難例も多く,一方その出現率の割に受診率は低いことが知られている3,5)。今回筆者は,「いたずら電話」を繰り返したことをきっかけに学校医として診察の機会を得た選択絨黙の1例について,担任教師(女性,小学6年から中学2年まで担任)との連携のもとに治療を試みたので報告する。

「精神医学」への手紙

Letter—Pisa症候群に遅発性ジスキネジアを合併した精神分裂病の1例/Letter—シメチジン投与中に舌のジスキネジアが生じた若年者の1例

著者: 今泉寿明 ,   稲田脩 ,   山本純史 ,   寺尾岳 ,   吉村玲児

ページ範囲:P.446 - P.447

 症例は37歳,女性。27歳で迫害妄想が初発し,34歳から抗精神病薬(NL)の継続投与を受けたが寛解に至らず急性増悪を頻発していた。薬剤の工夫を重ね,haloperidol(HP)15mg,Ievomepromazine(LP)150mg,biperiden 4mgに,lithium carbonate(Li)600mgを追加してやっと安定が得られた。上記処方に固定して4カ月目,体幹が左側に約30度屈曲し軽度後方に回転した姿勢異常を持続的に認めた。自覚的な苦痛は訴えず,数分間は自ら姿勢を矯正できた。他の神経学的所見はなく,ジストニアの家族歴は否定され,頭部X線CT,カルシトニン,セルロプラスミン,銅を含む血液検査も正常であり,Pisa症候群(PS)1)と診断した。精神症状への影響を考慮し,Liは同量継続,NLをHP 3mg,LP 40mgに減量,抗コリン剤をtrihexyphenidyl 12mgに変更,増量したところ10日目頃にはPSが消失した。しかし,2カ月後,口唇,眼周囲に遅発性ジスキネジア(TD)が出現し,軽症ながらPSも併存した。TDを標的にtiapride75mgを追加すると,両者は並行して改善し3カ月後に消失した。薬剤を漸減,整理し,thioridazine 50mg,Li 600mgのみで1年間経過をみたが,精神・神経症状の再燃はない。
 PSは稀な副作用である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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