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文献詳細

雑誌文献

精神医学35巻4号

1993年04月発行

特集 現代日本の社会精神病理

現代社会と幼児虐待

著者: 石川知子1

所属機関: 1筑波技術短期大学

ページ範囲:P.379 - P.384

文献概要

■育児行為と幼児虐待
 子どもは時代を写す鏡という言葉がある。これは生物学的にも社会学的にも正鵠を射たものである。すなわち,生物にはすべて個体保持ならびに種族保存という2つの本能があり,我々人類も同様である。ところが人類では中枢神経系(終脳)が特異的に分化発達し,「文化culture」というものを持つに至り,この文化が幸か不幸か上記の両本能の発現様式に,後天的に多大な影響を及ぼす点が他の生物と異なる。種族保存本能に由来する育児行為の様態もまた,ある文化の歴史的地誌的な特性により規定される。
 次の世代を涵養することが正常で健康な育児行為であり,幼弱な存在をいたぶる幼児虐待は異常で病理的な育児行為である。しかしながら,育児についても正常,異常の境界は絶対的なものではなく,時代や地域の文化形態により変遷する。例えば,発展途上国のように経済的な困窮が高度な社会では子どもの人身売買や稼働は児童虐待ではないし,近世ヨーロッパの上流階層では体罰は子どものしつけの一環であった。現代の我が国では,妄想病の母親が我が子の外出や登校を阻み自宅に閉居させるのは児童虐待に該当するが,教育ママが我が子に稽古事や学習塾に通うことを強制しても,それを虐待とは呼ばない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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