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雑誌目次

論文

精神医学35巻5号

1993年05月発行

雑誌目次

巻頭言

大人になった自閉症児を考える

著者: 中根晃

ページ範囲:P.456 - P.457

 昨年7月,日本自閉症協会および日本自閉症者施設連絡協議会主宰の発達障害セミナーがあり,講師として話をするよう依頼された。テーマは「理解されにくい自閉症者たち」ということだったが,世話役をされた東海大学の山崎晃資教授の示唆によると「最近,知能の高い自閉症青年の問題が深刻になってきているから」とのことであった。私たちの病院でもここ数年,比較的経過が良いと思われた自閉症児が高校生,大学生の年齢になって深刻な適応障害に陥って受診することが稀でなくなっており,私なりに青年期の自閉症の精神病理について考えてきていたので喜んでお引き受けしたが,では,どのような社会的対応があるかというと返事に窮するのが社会適応に失敗した,知能が高く,実際に高学歴を手にした成人自閉症である。また,彼らの精神医学的問題は社会的対応とは別に,今まで成人の精神医学が知らなかった独自の病理をもとに起こっているようである。
 自閉症は発達障害の1型とされている。そこで,幼児期の初期には言葉の発達の遅れなどがあっても,4歳すぎにはごく普通に話しができ,友人との交流も可能になり,学校の勉強もそこそこできている彼らには,かつては自閉症と診断されたことはあっても,専門的に関与することはなくなってしまっている。しかし,高年齢になってから適応障害を起こしやすくなる青年期の自閉症を考えてわかったことは,彼らは知能が高いために,問題になる時期がずっと遅い年代になっただけではないかということである。

展望

精神分裂病の画像解析

著者: 鈴木道雄 ,   倉知正佳

ページ範囲:P.458 - P.471

■はじめに
 近年,精神医学の領域に侵襲性の低い神経画像診断法が続々と導入され,精神分裂病(以下,分裂病)の生物学的研究にも盛んに利用されている。画像診断は,ヒト脳の生体における形態学的・機能的情報を比較的非侵襲的に得ることを可能にした。死後脳を用いた場合は,脳を直接観察し,詳細に検索することができるが,動的に変遷する分裂病の病態のうちの何が死後脳における所見と関連するのかは決定し難い。また非特異的な死後変化,加齢や生前の服薬の影響などの要因を除外しえないことが多い。画像診断では,検査時期を自由に選択し,多数例について検討できるので,ある面では死後脳より豊富な情報が得られる。しかし一方で,画像診断は,脳自体ではなく,種々の技術的制約の中で得られる間接的情報を見ているものにすぎないので,常にその限界をわきまえる必要がある。特に分裂病では,一般の器質性脳疾患とは異なり,より軽微な形態学的・機能的変化が問題とされるので,評価には細心の注意が要求される。
 神経画像診断法を用いた分裂病の研究報告は非常に多い。ここでは,形態学的画像診断と機能的画像診断とに分けて,分裂病における画像診断研究の概要を振り返り,それにより次第に明らかになりつつある分裂病の生物学的病態について述べてみたい。

研究と報告

Paroxysmal kinesigenic choreoathetosisの1家系5例—てんかんとの近縁性について

著者: 丸井規博 ,   扇谷明

ページ範囲:P.473 - P.480

 【抄録】 Paroxysmal kinesigenic choreoathetosis(PKC)の1家系5例を提示した。うち1例は,脳波にて発作間欠期に3Hz棘・徐波複合を示した。3例は乳児期に全身けいれん発作の既往があった。5例とは別に,PKCの発作はないが乳児期に全身けいれん発作があり,現在も脳波にて5Hz棘・徐波複合を示す1例がこの家系内にあった。このようにこの家系はてんかんとの関係が濃厚である。これまでPKCはてんかんであるのか,錐体外路疾患であるのかの論争があるため,基底核あるいは視床障害に続発したPKCの報告例を検討したが,これらには誘発因子として精神的緊張・注意集中などの情動が関係していないことが特発性のPKCと相違していると考えられた。ゆえにPKCは基底核・視床のみの障害ではなく,皮質—網様体系も関与したてんかん近縁の疾患ではないかと推測した。最後に,この疾患は各科臨床医に,より広く知られる必要があることを指摘した。

“痴呆”を伴う失語症患者における高次脳機能検査(老研版)の成績—失語症群および痴呆群との比較による検討

著者: 綿森淑子 ,   福迫陽子 ,   物井寿子 ,   笹沼澄子

ページ範囲:P.481 - P.488

 【抄録】 “痴呆”を伴う失語症患者の特徴を明らかにする目的で,見当識,記憶,言語,視空間認知・構成面の20の検査から構成される高次脳機能検査(老研版)を実施し,失語症および痴呆患者の成績と比較した。対象は「失語症+“痴呆”」群19名,およびこれと年齢・教育歴をマッチさせた失語症群38名および軽〜中等度の痴呆群40名である。「失語症+“痴呆”」群は言語面の多くの検査および視空間認知・構成面において,痴呆群と失語症群の中間的パターンを示した。一方,物語の記憶の成績は3群中最も低かった。判別分析による的中率は84.5%と高く,痴呆患者の高次脳機能障害の分析を目的に作られた高次脳機能検査は,これら3群の弁別にも役立つことが示された。今後は,今回明らかとなった検査項目・方法上の問題点を考慮し,短時間で実施可能な臨床的実用性を備えた評価法への応用を検討してゆく予定である。

精神分裂病と非定型精神病の123I-IMP-SPECT所見

著者: 林拓二 ,   須賀英道

ページ範囲:P.489 - P.497

 【抄録】 幻覚・妄想を有する40歳以下の内因性精神病患者23名を,満田に従って精神分裂病12名と非定型精神病11名に類別し,その123I-IMPを用いたSPECT所見を,正常対照群16名と比較した。
 精神分裂病は,早期・後期の両画像において左右の前頭領域に顕著な低集積がみられた。さらに後期画像では右側頭領域や左後頭領域と基底核にも低集積を認めた。一方,非定型精神病では,早期画像で右基底核と左後頭領域に集積低下がみられたが,後期画像ではすべての部位にそのような所見を認めなかった。両患者群問の比較では,早期,後期の両画像とも前頭領域において,集積比に有意の差が認められた。このSPECT所見は,精神分裂病が前頭領域の機能障害のみならず,なんらかの不可逆性の変化を示唆していると考えられる一方で,非定型精神病は,右基底核領域中心の機能障害が疑われ,両疾患が病因的に異なる可能性が推測された。

外来精神分裂病者の再発および治療中断について

著者: 津村哲彦 ,   八尋義昭 ,   大磯芳三 ,   原田文雄

ページ範囲:P.499 - P.505

 【抄録】 筆者らは,当院に通院している411人の精神分裂病者を対象に再発と治療中断の実態を調査し,合わせて投薬内容の検討を行った。
 その結果,精神分裂病者の治療中断は他の精神障害者より少なく,complianceは高いことがわかった。そして,精神分裂病者の治療中断は,男性に多く,30歳以前に多い傾向があり,治療中断が再発に結びついている者は,52.9%と多く,治療継続が再発防止の重要な1側面であることを示した。投薬内容の面からは,多剤併用・大量投薬の病者および処方問題の多い医師の担当患者に,再発も治療中断も多く,多剤併用でも大量投薬でも再発は防ぎきれず,かえって,complianceの低下から治療中断を招くと考えられた。そして,個々の医師が患者の治療環境を考え常にリスクの少ない薬物療法を行う重要性を強調した。

悪性症候群の治療経過に関する検討

著者: 菊本修 ,   河相和昭 ,   横田則夫 ,   長田昌士 ,   早川浩 ,   石田百合 ,   田宮聡 ,   新野秀人 ,   本橋伸高 ,   山脇成人 ,   杉原順二

ページ範囲:P.507 - P.513

 【抄録】 最近当科に入院した悪性症候群患者8例の治療経過に関して検討した。薬物療法としてdantroleneが6例,bromocriptineが2例に投与され,全例悪性症候群は軽快し,後遺症のみられた症例はなかった。悪性症候群の経過としては,一般的には2週間,重篤な症例では3週間と考えられた。dantroleneによる治療中断後に血清CK値再上昇がみられ,治療経過が長引いた症例が存在したことから,悪性症候群として治療を開始した場合には,十分な期間投与を継続することが必要と思われた。悪性症候群発症初期に血清鉄値が低値を示し,症状軽快とともに血清鉄値が上昇した症例が存在したことから,血清鉄値が悪性症候群の病態の一部を反映している可能性が示唆された。向精神薬投与は,悪性症候群の軽快傾向がみられた時点,軽快直後,軽快1〜8週後に再開されていたが,悪性症候群の再発がみられた症例はなかった。

躁うつ症状,てんかん発作を繰り返した橋本病,甲状腺原発悪性リンパ腫の1例

著者: 林輝男 ,   藤川徳美 ,   工広紀斗司 ,   本橋伸高 ,   山脇成人

ページ範囲:P.515 - P.520

 【抄録】 躁うつ症状,てんかん発作を繰り返し,橋本病,甲状腺原発悪性リンパ腫と診断された症例を経験した。
 50歳時に甲状腺腫脹を指摘され,1年後から躁うつ症状が出現し,3年後からけいれん発作が出現した。また,リチウム治療中に振戦,前傾姿勢,小刻み歩行が出現した。入院時著明な甲状腺腫脹を認め,生検,甲状腺ホルモン検査,マイクロゾームテスト,サイロイドテストの結果より橋本病による粘液水腫と診断された。臨床経過より甲状腺機能異常による躁うつ症状,けいれん発作と考えた。また,その後の再検により橋本病により誘発された悪性リンパ腫と診断された。そこで早期診断,早期治療の必要性を強調し,甲状腺疾患における精神・神経症状,リチウム療法の問題点,悪性リンパ腫との関連について若干の考察を加えて報告する。

持続性微熱と慢性疲労感を呈する症例に対するtofisopam(グランダキシン)の効果—慢性疲労症候群との関連について

著者: 武田雅俊 ,   松本由子 ,   澤温 ,   高石穣 ,   井上健 ,   西村健

ページ範囲:P.521 - P.528

 【抄録】 心理的・社会的ストレスをきっかけに増悪した持続性微熱と全身倦怠感を呈した3症例にtofisopam 150〜300mgを投与したところ,微熱が速効性に改善し倦怠感などの身体症状が軽減した。tofisopam(グランダキシン)は視床下部自律神経中枢に作用する薬剤として自律神経失調症に対して広く使用されているが,持続性微熱をも改善しうることが示された。3症例は精神医学的には,それぞれ遷延性うつ病・自律神経失調症・神経症性抑うつ状態と診断され,共通して慢性疲労感と持続性微熱を呈していた。近年,慢性疲労を呈する疾患単位として慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome;CFS)が注目されているが,米国防疫センターによるCFS作業症例基準では精神疾患を除外することが要件の1つとなっており,この基準をそのまま適用することはできない。精神科領域では持続性微熱と共に慢性疲労感を訴える患者は多く,このような症例の中にはtofisopam投与により微熱が消失する症例があることを報告し,CFSの診断に重要視されている持続性微熱の症状についてCFSとの関連性を中心に考察した。

短報

性格変化が先行し,MRIにて中枢神経系に広範な病変を認めた中年発症のadrenoleukodystrophyの1例

著者: 桂城俊夫 ,   河西千秋 ,   山田芳輝 ,   井関栄三 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.529 - P.532

 Adrenoleukodystrophy(ALD)は,遺伝性の脱髄性疾患で,脳・脊髄・末梢神経・副腎を侵し,生化学的には極長鎖脂肪酸が増加する。その臨床亜型に,O'Neillら5)のいうadrenoleukomyelo-neuropathy(ALMN)がある。これはchildhood ALDとadrenomyeloneuropathy(AMN)の臨床症状を合わせ持ち,精神症状,痙性対麻痺を主症状とする緩徐進行性疾患をいう。今回,頭部CTで明らかな所見がないにもかかわらず頭部MRIでは広範な所見があり,副腎機能低下および赤血球膜の極長鎖脂肪酸分析などの検査結果と臨床経過によりALMNと考えられる,性格変化が先行した中年発症の症例を経験した。

紹介

フランスの処遇困難者対応

著者: 菅原道哉 ,   福田修治 ,   高橋紳吾 ,   小峯和茂

ページ範囲:P.535 - P.542

 1838年法(フランス精神病者法)は精神病を疾病と認めた上で人権を保障し,精神障害者を入院させることを目的とした。同法については,強制入院制度の濫用の可能性が繰り返し議論の対象となってきた。しかし今日まで,強制入院制度の基本的,法的立場は同法に基づいている8)。これが現在まで維持されてきたのは,強制入院後の権利保障に司法当局の果たしている役割が大きかったからであるといわれている6)。裁判所が強制入院者の異議申立てを受け入れる。一方,検事は強制入院の通告を県知事より受け,患者の人権の保護のために問い合わせ調査,状況証明書の請求,入院患者の面会の権限と定期的な施設監査の義務を有している1)
 1983年,ヨーロッパ連合での申し合わせ,さらに1989年,国連の人権委員会の決議がもとになって強制入院中の精神障害者の人権の法的保護について,いっそう厳格な規定を設けることになった。こうして1990年5月16日に精神保健法の改正が行われた6)

動き

ドイツ精神神経学会150周年記念総会印象記

著者: 濱中淑彦

ページ範囲:P.544 - P.546

 ドイツ精神神経学会Deutsche Gesellschaft für Psychiatrie u. Nervenheilkunde(DGPN)の創立150周年を記念する総会は,1992年9月26日から30日までKöln大学においてU. H. Peters教授を会長として開催された。東西ドイツの統一後に旧東独の精神科医も参加して開かれた本学会の標語は「精神医学150年:明日の世界のための多様な精神医学」であり,極めて多様化した現代精神医学各分野を展望し国際的視野でのコミュニケーションを図ろうとする学会であったといえようか。
 考えてみると20世紀最後の10年は,様々な意味で記念すべき出来事で飾られることになったわけである。1年前の1991年7月にはイギリスの精神医学会ともいうべきRoyal College of Psychiatrists(RCP:会長はA. C. P. Sims教授,会員約8,000人)がBrightonで開かれ,英国精神医学150年史(Berrios et al. 1991)が出版され,さらに2年後の1994年にはアメリカ精神医学会American Psychiatric Association(APA)が同じ趣旨の記念事業を準備中のようである。これらに該当するフランスの医学的心理学協会Société Médico-Psychologique(SMPF)の創立は1852年であるので,今から10年後が150周年ということになるが,1992年6月には第90回総会を迎えたCongrès de Psychiatrie et de Neurologiede Langue Françaiseをも含めて,フランスの精神医学関係(精神分析は別)のすべての学会が合同したFédération Française de Psychiatrieが1992年2月に発足し,その傘下で最近発足したばかりのJournées Nationales de Psychiatrie(第3回)が10月上旬にAvignonで開かれた。ちなみに日本精神神経学会が神経学会として創立されたのは1902年である。

精神医学関連学会の最近の活動(No. 8)

著者: 島薗安雄

ページ範囲:P.547 - P.568

 日本学術会議は,「わが国の科学者の内外に対する代表機関として,科学の向上発達を図り,行政,産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」(日本学術会議法第2条)として設立されているものであります。学術会議の重要な活動の一つに研究連絡委員会(研連と略します)を通して「科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させること」が挙げられます。この研連の一つに精神医学研連があります。今期(第15期)の精神医学研連の委員には,次の方々になっていただきました。すなわち大熊輝雄(国立精神・神経センター),笠原嘉(藤田保健衛生大学医学部),後藤彰夫(葛飾橋病院),樋口康子(日赤看護大学看護学部),町山幸輝(群馬大学医学部),森温理(東京慈恵会医大),山崎晃資(東海大学医学部〉と島薗安雄(財団法人神経研究所)であります。
 精神医学研連は前2期に引き続いて,精神医学またはその近縁領域に属する50〜60の学会・研究会の活動状況をそれぞれ短くまとめて,掲載することにいたしました。読者の皆様のお役に立てばうれしく存じます。

「精神医学」への手紙

Letter—悪性症候群の急性腎不全と後遺症の問題について/Answer—レターにお答えして—岩淵潔氏へのお返事—2症例の現状

著者: 岩淵潔

ページ範囲:P.570 - P.571

 本誌に掲載された谷口典男氏らの論文5)を興味深く拝読いたしました。ここでは谷口氏らの症例の現在の状態についてうかがいたいと思います。
 私は1988年の本誌2)で悪性症候群(NMS)22例について検討しました。それはまだNMSが一般的な知識とはなっていなかった1970年代前半から1985年までに経験した症例を対象とした研究でしたが,急性腎不全(ARF)の合併の有無を問わず大半の症例は薬物の中止と全身管理で2〜3週間以内に回復しました(回復可能群)。しかし,谷口氏らの症例1は第282病日でつかまり立ちができる程度で構音障害を残し,30kg近い体重減少がみられ,症例3も第79病日で寝たきりの状態で下肢に強い筋力低下があるようです。これは私がNMSの回復不能群とした症例に似ています。その特徴は回復が遅れ,経過とともに小脳性運動失調(はじめは構音障害に気づく)が明らかとなり,重症例では動作時の粗大な振戦やアテトーゼ様の不随意運動を認め,なかには下肢優位で全身性の筋原性筋萎縮のために著しい体重の減少が起きる場合もあります1,3,4)。脳の組織病理では小脳皮質プルキンエ細胞—歯状核遠心系の破壊像をみます3)が,肉眼的に小脳萎縮の程度は軽く,CTスキャンなどで小脳萎縮をみるには相当な時間を要する点も1つの特徴です4)。なお,これはARFやDICの有無を問わず起きうるNMSの後遺症です。そこで,谷口氏らの2症例について,現在,小脳性運動失調があるかどうか,症例1の体重減少の背景に筋萎縮があるか,もしあれば,画像診断所見や筋生検の結果についてもご教示いただければ幸いです。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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