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文献詳細

雑誌文献

精神医学35巻7号

1993年07月発行

文献概要

展望

定型および非定型抗精神病薬—分裂病治療薬の新しい動向

著者: 八木剛平1 神庭重信1 稲田俊也2

所属機関: 1慶應義塾大学医学部精神神経科 2国立精神・神経センター

ページ範囲:P.690 - P.701

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■はじめに
 非定型抗精神病薬(atypical neuroleptics)という言葉は,ここ数年の間に世界各地の学会や雑誌を賑わせており,分裂病の薬物療法に携わる臨床医にとっても無視できないものになってきた。第1の問題は,「非定型」抗精神病薬(非定型薬と略)は,その対語である「定型」抗精神病薬(定型薬と略)とどこがどう違うのか,第2は,非定型薬の中に既存の抗精神病薬の限界を超えた新しい分裂病治療薬が期待できるのか,ということであろう。本誌の展望欄の主題として,「定型および非定型抗精神病薬」が選ばれたのは,このような理由からと思われる。
 そこでまず本論文の前半においては,抗精神病薬に関する非定型概念の起源と変遷をたどり,今日のいわゆる非定型薬について開発の現状を紹介することにした。ただし現在まで開発が進められている新しい化合物とその候補物質の大部分は,すでにいくつかの総説で紹介されている(八木198951),稲永199120),稲田199319))。またこれらすべてに関する最新の情報を網羅することは,筆者のような臨床医の能力を超える作業である。したがってここでの記述は,臨床試験の結果がある程度まで判明した薬物を中心にした。
 次に本論文の後半では,定型薬に関する近年の知見に基づいて,抗精神病薬に関するこれまでの定説を再検討することにした。非定型概念の成立にみられるように,今日の新薬開発論は——少なくともその一部は——定型薬の臨床的および薬理学的な概念を前提として発展してきた。したがって定型薬に関するこれまでの見解が修正されるとすれば,それは新しい薬物開発論のために寄与するところがあるのではなかろうか。本論文の副題を「新しい分裂病治療薬の動向」ではなく,「分裂病治療薬の新しい動向」としたのはこのような理由からである。
 さらに,これまでの非定型薬の開発における作業仮説と定型薬の臨床効果・奏効機序に関する見解を検討してみると,そこには共通の先入観または固定観念——薬理学的には単数または複数の神経伝達系の制御,臨床的には特定の症状または症候群の抑制——が潜在しているようにみえる。このような薬物療法観と新薬開発論は,結局ある特定の疾病観と治療観の反映ではないか。新しい薬物開発論のためには別の見方も必要ではあるまいか。本論文の最後で筆者らはこの問題を,分裂病の治療史に照らして検討することにした。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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