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雑誌目次

雑誌文献

精神医学35巻8号

1993年08月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学における医術と患者・家族への教育

著者: 大月三郎

ページ範囲:P.802 - P.803

 精神医学では一般医学と同様に,物事の本質を探求する研究と,医療技術の向上と,患者の生活の質(QOL)の改善の三分野において調和のとれた発展を計らねばならない。この三分野の最初のものは科学に,後二者は医術に関係する。ここでは医術に関する所感を述べるが,このうちQOLについては,一般医学でも近年その重要性が強調されてきているが,自覚的な悩みや苦しみが主要な対象である精神医学では,この改善こそが最も重要な目標であり,前二者はこれの向上に奉仕するものである。

研究と報告

自閉症における「知覚変容現象」の現象学的研究

著者: 小林隆児

ページ範囲:P.804 - P.811

 【抄録】 自閉症にみられる「知覚変容現象」の概念を提起した。この現象は幼児期および思春期に少なからず認められ,自閉症児にとって環境世界がそれまでとは異なった様相で知覚されていることを推測させる行動が出現した事態を指す。知覚の様相により以下の3つに大別した。①「視覚変容現象」は,あたかも今まで見たことがないかのように対象を凝視したり斜め見するなどの行動によって表現されることが多く,②「聴覚変容現象」では特定の声や音に極度な苦痛を訴えたり,自分のことが話題になると敏感に反応し,③「状況変容現象」は聴覚変容現象から進展することが多いが,状況に対する強い戸惑いを示し,被害関係念慮を思わせる病態へ発展するなどの諸特徴が認められる。この概念提起は自閉症の発症ないし種々の症状発現機序をより現象学的に把握することを意図し,彼らの精神内界を理解する契機となりうるとともに,分裂病との異同をめぐる議論に対して両者の関連性を再度追求してゆくための一つの試論として有用であることを主張した。

精神科の他科往診の経験—特にせん妄への対応

著者: 中島亨 ,   丹羽真一 ,   杉山政則 ,   重松宏

ページ範囲:P.813 - P.819

 【抄録】 他科から依頼のあった精神科からの往診例393例について検討を行い,そのうち一般外科からの31例の依頼例について受診の経緯や動機などについて詳細な検討を行った。疾患としては,393例全体でも,一般外科の31例をみてもせん妄状態が多くみられた。また,一般外科からのせん妄状態の例では術後に起こった例が多くみられた。さらに,一般外科への往診例4例を検討したところ,ジアゼパム,塩酸ヒドロキシジンなどの抗不安薬,抗ヒスタミン薬が一律に投与される傾向がせん妄の悪化と関連する可能性が示され,適切な抗精神病薬の使用の促進がせん妄への対処を改善する可能性が示された。
 将来的に精神医学が,術後せん妄に対処していく上では,①精神薬理学的知識の普及と,②せん妄の重症度診断とそれに基づいた研究が重要であると考えられた。

通常の社会生活を営む通院てんかん患者の抑うつ症状

著者: 久郷敏明 ,   福間満美 ,   細川二郎 ,   三野進 ,   佐藤仁 ,   磯島玄 ,   洲脇寛 ,   細川清

ページ範囲:P.821 - P.827

 【抄録】 通常の社会生活を営む76例の成人通院てんかん患者を対象に,Beck Depression Inventory,Zung Self-Rating Depression Scale,Washington Psychosocial Seizure Inventoryを用いて,抑うつと臨床特徴との関連を検討し,以下に要約される結果を得た。群全体では,抑うつの程度は健常者との間に著しい相違はなかった。しかし,顕著な抑うつ傾向を示す一群の患者の存在が示唆された。てんかん焦点部位と抑うつとの関連をみると,部分焦点の存在が高い抑うつ傾向と関連していたが,側頭葉と非側頭葉,側頭葉の左右差の対比では有意差はみられなかった。全般てんかん患者の数値は,健常者よりも低値であった。抑うつは,発作抑制状況によっては,顕著な影響を受けなかった。抑うつの性状は,疾患自体の影響,社会学的環境に規定されるよりも,情緒・対人関係面を主とする心理学的要因と強く関連していた。

精神科救急でみられたホームレス精神障害者

著者: 江畑敬介

ページ範囲:P.829 - P.835

 【抄録】 1978年11月から1986年9月までに都立松沢病院精神科救急病棟へ入院したホームレス精神障害の71例について病歴調査を行い,次の結果を得た。①疾病分類は,精神分裂病36.6%,アルコール関連疾患33.8%,覚醒剤精神病16.9%で全体の87.3%を占めていた。②年齢分布は,30代が最も多く,次いで40代が多かった。③配偶関係では,未婚が極めて多く,離婚も多くみられた。④15歳以前に父ないし母あるいはその両方との離死別体験が多かった。⑤逮捕・犯罪歴が多くみられた。⑥浮浪形成過程は疾病ごとに異なる傾向があり,4型に分類できた。Ⅰ型(分裂・アルコール型):発病・常習→放浪→上京→浮浪,Ⅱ型(分裂病型):上京→放浪→発病→(放浪)→浮浪,Ⅲ型(アルコール型):常習→上京→放浪→浮浪,Ⅳ型(覚醒剤型):放浪→(常習)→上京→常習→(放浪)→浮浪。

短報

健常者の気分・行動の季節性変化に関する小調査—自己記入式質問票Seasonal Pattern Assessment Questionnaireを用いて

著者: 加茂登志子 ,   加茂康二 ,   中平進 ,   坂元薫

ページ範囲:P.837 - P.840

 1984年に季節連関性感情障害(Seasonal Affective Disorder,以下SAD)5)が報告されてから,従来指摘されてきた感情障害の季節連関性が再び関心を集めているのは周知の通りである。しかし,特定の感情病者ならずとも,一般的に我々の心身の状態が季節変化によって影響を受けることもまたよく知られている事実である。精神疾患という枠を取り払い,季節変化にほとんど影響を受けない群と,SADのように季節変化が症状の消長にまでつながる著しい影響を受ける群を両極にして,我々の季節性が互いに連続性を持ち,スペクトラムとしてつながる可能性も示唆されている3)ことから,健常者の気分や行動の季節性変動の研究は,前臨床的な領域を含めて,今後の重要な課題になりうるであろう。
 健常者を対象にした季節性の研究はまだ一部の筆者らに限られており,特に本邦での具体的資料は少ない。今回,我々は健常者の季節性を調査する予備的試みとして,20代の女性を対象に自己記入式質問票を用いて季節性の調査を行ったのでこれを報告し,さらに季節に影響を受けやすい群と受けにくい群について比較検討する。

子供の幻聴体験後,自らの治療に積極的態度を示した母親

著者: 橋口知 ,   長友医継 ,   福崎秀一 ,   冨永秀文 ,   松本啓 ,   永田行俊

ページ範囲:P.841 - P.843

 児童期の幻覚については,その発生に心理機制が重視されている4)。また,大原5)は,子供の精神病を疑う親の中に,精神科受診歴や遺伝負因,問題のある養育態度を認めることがあると指摘している。
 今回,母の幻聴の訴えを取り入れた娘と,その治療後,自発的に治療開始に至った精神分裂病の母の例を経験したので報告する。

インターフェロン療法により抑うつ状態を来した慢性C型肝炎の1例

著者: 藤井障三 ,   渡邊克己 ,   水木泰 ,   山田通夫

ページ範囲:P.845 - P.847

■はじめに
 インターフェロン(以下IFNと略記)は細胞由来の生理活性蛋白質であるが,その生理的特性として極めて多面的作用を有している。それらを大きく分けると,1)抗ウイルス作用,2)抗腫瘍作用,3)免疫系への応答である5)。IFNにはα,β,γの3つのサブタイプがある5)が,1986年非A非B型慢性肝炎に対してIFN療法の有効性が報告され3),慢性C型肝炎に対してもIFN療法が試みられてきている4)。しかし,IFNの副作用として発熱や精神症状を来すことが報告されるようになった10)。今回我々は,慢性C型肝炎に対するIFN-α療法により抑うつ状態を来した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

糖尿病性の白内障および網膜症と皮膚—腸内寄生虫妄想を有する1女性例

著者: 武井明 ,   吉田幸宏 ,   松本三樹 ,   平野恭雄 ,   宮岸勉

ページ範囲:P.848 - P.850

 皮膚—腸内寄生虫妄想は初老期から老年期にかけて好発し,客観的な根拠がないにもかかわらず,皮膚および腸管内に虫が寄生していると確信する状態である。しかし,本症の病因や疾病学的位置づけについては現在もなお見解が一致しておらず,その治療法についても有効な手段が確立されているとはいえない。
 今回,我々は糖尿病性の白内障および網膜症と皮膚—腸内寄生虫妄想を呈し,視力障害の改善後にその妄想が形骸化した1女性例を経験したので報告する。

特別講演

アメリカ合衆国における宇宙飛行士の精神医学的・心理学的選抜について

著者: ,   石附知実 ,   松田源一

ページ範囲:P.851 - P.859

 1960年代中期より,宇宙飛行士志願者に対する精神医学的評価は,比較的,構造化されていない方法によって行われてきた。2人の精神科医が,各々の志願者に対し独立した評価を行い,ジョンソンスペースセンター航空医学宇宙局に,別々の勧告をするという方法がとられた。当医学局は,実際に宇宙飛行士を選抜するわけではないが,NASA執行部に対し,その志願者が医学的に有資格者であるかについて助言する。NASA執行部は,各志願者の潜在的な“作業能力”について査定することが,選抜過程における精神医学的評価の目的ではないと主張したが,精神科医にはそうする義務が感じられた。宇宙飛行士選抜における精神医学の役割に対して異なるとらえ方があるため,1988年にワーキング・グループが設立された。その任務は,宇宙飛行士選抜過程における精神医学の役割を決めることである。
 1989年,ジョンソンスペースセンターのNASA医療科学部門は,1957〜1988年のマーキュリー計画からスペースシャトル計画に至る精神医学的選抜過程の再調査を行ったワーキング・グループの勧告に基づき,宇宙飛行士志願者の精神医学的評価の方法を改訂した5,10,12,14,15)。ワーキング・グループの勧告は,別の場所で報告した16)が,NASAの医学的基準11)に基づき,現在もしくは過去の,不合格とすべき精神病をみつけだすといった,医学的・精神医学的過程もしくは“セレクトアウト”過程が,宇宙飛行士志願者の精神医学的評価の主眼である,と結論した。(NASAの)基準そのものは,アメリカ精神医学協会のDSM-Ⅲ-R1)による精神障害の診断に合うよう改訂された。

シンポジウム 精神障害者の権利と能力—精神医学的倫理のジレンマ

精神障害者の権利と能力

著者: 原田憲一

ページ範囲:P.860 - P.860

 「患者の権利と能力」の問題は医学的倫理のジレンマである。それは幼児の医療やせん妄状態の患者の医療を考えればすぐわかる。そこでは,どこまでその患者は自分の本来の意思を示す能力を持っているのか。持っていなければ誰がどのようにして患者の権利を守り主張すればよいのか。
 「精神障害者の権利と能力」の問題はさらに大きなジレンマを精神医学的倫理に突きつける。体の病気の時にはそれでも,何らともあれ「生命を救う」ことで多くの人の意見は一致できる。生命を救うことが医学の使命であるし,人々が医学にそのことを委託しているのである。その他のことは,病気から回復してから患者本人が決めればよい。生命あっての物種である。何百年かの間,人間社会で当然とみなされてきたこの考えが,近年尊厳死や「死ぬ権利」の主張などに代表されるように,少なからず揺らいでいるとはいっても,しかし,権利,能力の議論の前にまず生命が大切ということについて,なお多くの人はうなずくだろう。

強制治療に対する拒否・同意とその能力

著者: 仙波恒雄

ページ範囲:P.861 - P.866

■はじめに
 今日患者の権利擁護の運動が高まる中で,精神科領域において,治療拒否の問題は臨床上論議の多い課題のひとつである。
 特に同意能力が問題となる患者で,強制入院となっている者の対応が問題である。
 一般に治療者が患者の最大の利益と考えても,一方的に治療者の判断で医療を行うことは問題がある。両者の間の信頼関係の中で,インフォームド・コンセントが行われて,目的とする医療が行われることが望ましい。しかし,ある程度強制的に治療者が治療を推し進めなければ,治療目的が得られなくなるという医療者側のジレンマがある。
 そこで論議の焦点は,インフォームド・コンセントを前提として,患者に同意能力がある場合と同意能力に問題のある場合に分けて,同意を得られない場合にどのように対応するか,もし後者の場合,患者の同意能力に問題がある場合,誰の代理同意で,どのような条件でならば,治療を行いうるか,また実施する医療行為の種類,内容はどのようなものか,その効果,副作用などについてどのようなところまで説明すればよいのかなど整理しておかなければならない。現実に起こりうる症例を中心に検討が必要である。治療拒否の課題はインフォームド・コンセントの法的手続きDue Processの結果として起こる。インフォームド・コンセントの実施がいまだ十分でない日本では,今後の問題でもある。
 また精神病院内では入院者の処遇,なかんずく基本的人権が日常どれだけ保障されているか,できるだけ制限の少ない治療環境で,治療を受けているか,治療者と患者の信頼関係などによって,治療拒否の表現のあり方が異なった形をとるであろう。

痴呆性老人の権利の保護とその問題点—精神病院外で

著者: 柄澤昭秀

ページ範囲:P.867 - P.874

■はじめに
 高齢者人口の増加は必然的に老人患者数の増加をもたらす。このことは加齢と関係の深い老人性痴呆について特に顕著である。8年前に約80万人であった我が国の痴呆性老人数は現在ではすでに100万人を越えている。そしてその有病率が低下しないかぎりその数は今後もさらに急激な増加を続け,10年後には150万人,20年後には270万人を越えると推定されている。痴呆対策が我が国の重大な緊急課題であることは今や周知の事実である。
 さて痴呆問題への社会的関心が高まり,痴呆性老人の生活の実態が明らかになるにつれ,痴呆性老人の人権あるいは権利の保護という問題についてあらためて検討することの必要性が実感されるようになった。筆者自身の経験でも,調査や相談あるいは診療の場面で人権無視,人権侵害と思われる事態を見聞することは決して稀ではない。

精神障害者の訴訟をする権利と能力—刑事訴訟の場合

著者: 西山詮

ページ範囲:P.875 - P.882

■はしがき
 いわゆる先進諸国の中で日本の刑事裁判所ほど精神障害者の権利(訴訟権)を大幅に認めている国がほかにあるだろうか。一般には精神障害者の権利が認められることは正しいことであるし,日本ではもっとその方向を推進する必要があるであろう。しかし,能力を考慮しない権利拡大のみの主張がどのような事態をもたらすかについては,我が国の裁判所がよくその一端を示しているようにみえる。
 USAでは訴訟能力鑑定または訴訟無能力を理由とする精神病院収容の乱用が批判され,これが1970年代以降の広範な脱施設化の運動のもとになった。その後,精神障害者の訴訟権の回復が図られた。しかし,当事者主義の訴訟において,武器(訴訟能力もその一つ)対等の原則は崩せない。したがって,USAでは訴訟能力の鑑定は今日でも頻繁に行われ,これに関する議論も盛んである。我が国は当事者主義を取り入れたが,裁判所はもっぱら一方の当事者たる被告人の責任能力の存否のみを追求し,訴訟能力に対する配慮をほとんど全く欠いている。これが公正な裁判に対する感覚欠如の一証左でなければ幸いである。

患者の自己決定権とその能力

著者: 町野朔

ページ範囲:P.883 - P.889

■問題の背景
 「患者の自己決定権とその能力」というのが与えられた課題ではあるが,ここでの議論の焦点は患者一般ではなく,精神障害を持つ患者にあることはいうまでもない。そして,精神障害者の自己決定権とその能力が議論の対象となるに至った背景には,次のような事情がある。

[指定討論]精神医療における倫理的ジレンマ—若干の考察

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.891 - P.894

■説明から同意——時熟ということ
 最近,我が国の医療現場においても,癌の告知問題に強い関心が向けられてきている。受療者の権利のひとつであるinformed consentが医療者にも日常的当為として認識されつつあるとみてよい。殊に手術を行う外科医は職業上の注意義務の無視といった法的問題もからみ,病名,術式,その効果と見通し,考えうるリスク,術後の治療,代わりうる治療法などを精細に説明する姿勢を持ち始めている。
 ただ,こうした説明が受療者の同意にただちに結びつくとは限らないのが医療現場の実態である。一般診療科の場合,緊急事態(その範囲,程度についての論議は省くとして)を除けば,ほとんどの受療者は同意能力があり,提起された説明を自分なりに理解しえている。が説明を熟知し(informed),評価したにかかわらず,驚きや不安,そして悩みがつきまとい,同意に至るに日数を重ねてゆく。いうならば困惑と思料を繰り返しつつ,やがて得心した同意に至るというのが,例えば癌の告知を受けるという状況に直面した際,多くの病める人間がたどる実像と私には映る。そこで総合病院に勤務する精神科医は—私もそのひとりだが——説明から同意に至るこの期間,しばしば外科医の依頼を受け,受療者に対する精神的援助者という機能を果たすこととなる。

[パネルディスカッション]精神障害者の権利と能力—精神医学的倫理のジレンマ

著者: 仙波恒雄 ,   町野朔 ,   西山詮 ,   柄澤昭秀 ,   広田伊蘇夫 ,   原田憲一

ページ範囲:P.895 - P.900

 司会 ここでまず,指定討論者の広田先生から出されたご意見について,シンポジストの方からご発言をお願いしたいと思います。

動き

「第89回日本精神神経学会」の印象

著者: 金澤彰

ページ範囲:P.902 - P.903

 第89回日本精神神経学会総会は宮坂松衛獨協医科大学教授を会長に,1993年5月20日から22日までの3日間,東京の国立教育会館で開催された。久しぶりに総会に参加し,理事会,評議員会にも出席した。
 1968年3月,長崎での第65回総会で学会認定医問題が取り上げられ,その際シンポジストとして認定医制度に疑問を投げかけ,反対の意思表示をして以来25年,この問題は筆者にとって今もって重要な課題である。また,その翌年の金沢での総会を契機に,本学会が現在のような形態と内容になったのであるが,その際に理事に選出され,「新理事会の基本的態度」を起草した理事会の一員として,学会印象記を記すことは感慨無量のものがある。といっても感傷的になっているのではない。

「精神医学」への手紙

Letter—「法外」とは法外な/Letter—「大量かつ長期にわたるalprazolam乱用の1例」に関して

著者: 岡田靖雄

ページ範囲:P.904 - P.905

 精神科医はことばに敏感とおもっていたが,どうもそうでもないらしい。精力的にことばを論じている人が,平気で「文盲」の語をつかったりする。いまわたしがもっとも気になっているのは,「法外入院」,「法外施設」の「法外」である。大谷實氏のような法律学者もこの語をつかっている。
 法律用語辞典をみると,「法外」の語はなく,労働組合法の条件を具備しない「法外組合」の語だけがのっている。手もとの「広辞苑」(初版のものだが)をめくると,「法外」は“①定まった法にはずれること。②程度をこえること,過度。なみはずれ。とてつもないこと。「――な値段」”とある。「法外」には,非合法とまではいかぬが,常識はずれといった非難の意味合いがあるのである。すると,とくに「法外入院」などいうと,いかにも問題のあるやり方のようで,精神科医のやることはわけがわからん,といわれそうである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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