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文献詳細

雑誌文献

精神医学36巻1号

1994年01月発行

特集 精神科治療の奏効機序

[感情障害の治療]

抗躁病薬リチウムの作用機序—細胞内シグナリング系への作用を中心にして

著者: 東田道久1 野村靖幸1

所属機関: 1北海道大学薬学部薬効学教室

ページ範囲:P.27 - P.31

文献概要

 リチウムの躁状態に対する効果は,1949年にオーストラリアのCadeにより報告されており,その後,1967年デンマークのSchouらが各種実験データーを重ね,躁病治療薬としての地位を確立した。今日では炭酸リチウム錠として広く用いられ,感情障害に対する治療効果を挙げている。
 リチウムは,水素,ヘリウムに続く原子番号3の原子であり,1価の陽イオンとして生体内に存在する。したがって,言うなれば,薬物としては最も簡単な構造を有する物質であるにもかかわらず,治療の用量範囲においては末梢作用がほとんどなく,中枢作用のみを現す極めてユニークな物質であるといえよう。これは,後に詳述するが,イノシトール供給系の末梢と中枢とにおける違いに起因するものと考えられている1)。また,加えて,中枢作用も正常人ではほとんど現れず,躁病的状態下においてのみ薬効が認められる点も極めて好都合な薬剤といえる。しかしながら一方で,リチウムは1価の陽イオンであることから,用量が増え中毒域になるとNaやKなどの生理的なイオンの動態に影響を及ぼすことにより,振戦・運動障害,心電図異常などの副作用をもたらすことがあり,しかも中毒に対する特異的な解毒薬もなく,体内からの排出を待つしかない点では,危険な薬物でもあり,劇薬,要指示薬に指定されている。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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