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雑誌目次

論文

精神医学36巻10号

1994年10月発行

雑誌目次

巻頭言

ドイツ精神医学の変貌?

著者: 猪瀬正

ページ範囲:P.1012 - P.1013

 私は精神科医を志してから,ドイツ精神医学に強い影響を受けてきた。我が国の多くの大学の精神医学教室の先達は,ドイツの精神医学を範としてきたことは言うまでもないが,フランス精神医学を導入したり,フロイトの精神分析を中心に教えた教室は数えるほどしかないと思う。ところで,私は最近の我が国の事情に詳しくはないのでわからないが,多くの教室での精神医学教育は,昔に比べると,ドイツだけに偏らず,アメリカ,イギリス,ところによってはフランス精神医学の一部を混えているのであろうか。
 先に記したような経緯から,私は今日に至るまで,ドイツの専門誌“Der Nervenarzt”を購読しているが,そのことで若干の感想を記そうと思う。実は今年に入ってから,問題の雑誌の表紙の外見が一変したことに驚かされた。その右下側には,毎号かなりの大きさのポートレート(GriesingerやErbなど,ドイツの有名な精神医学者や神経学者のもの)が掲げられてあるし,左側の余白には,その号の目次のタイトルが並べられている。雑誌を開くと,独文の目次が先に,そして次の頁に英文のものがある。各論文の総括の占める面積が以前に比して広くなって,目につきやすくなった。また表や図表に青いインクの活字が用いられていて,一見して,すべてがはでになった。善意に解釈すれば見やすくなったといえるかもしれないが,私からみると,なぜこれほど雑誌の体裁を変えたのかと不思議に思えるのである。

展望

アルツハイマー病—アミロイド沈着機序の解明に向けた家族性アルツハイマー病遺伝子との関連

著者: 田平武

ページ範囲:P.1014 - P.1022

■はじめに
 アルツハイマー病(AD)は初老期老年期に発症する痴呆を主徴とする疾患で,その発症機序にあっては脳の老人斑形成とりわけアミロイドの沈着が最も重要である。AD脳の老人斑や脳血管に沈着するアミロイドはβタンパク(Aβ)が不溶化し,線維状となったものである。Aβはアミロイド前駆体タンパク(APP)に由来し,APPの膜貫通部分を含むアミノ酸約40〜42(43)個のタンパクがAβとして切り出され,アミロイドとして沈着すると考えられている。Aβの沈着機序がわかれば,それをもとにADの発症を予防ないし治療する方法が生まれると考えられるので,その研究は世界中で精力的に進められている。
 一方,ADには遺伝因子の関与があることは確実であり,特に家族性アルツハイマー病(FAD)の存在は最も重要な根拠となっている。FADの遺伝子が解明されれば,ADの発症機序とりわけAβの沈着機序に迫りうると考えられるので,やはりこれも世界で最も重要な研究課題の1つになっている。最近,いくつかのFAD遺伝子が明らかになり,また未知の遺伝子解明にも近づきつつあり,Aβの沈着機序の解明が加速されつつある。ここでは,これまで明らかになったFAD遺伝子とAβ沈着機序との関連を述べ,さらに今後明らかにされようとしている新しい遺伝子について触れ,AD発症機序解明の展望を述べる。

研究と報告

家族の感情表出(EE)と分裂病患者の再発との関連—日本における追試研究の結果

著者: 伊藤順一郎 ,   大島巌 ,   岡田純一 ,   永井將道 ,   榎本哲郎 ,   小石川比良来 ,   柳橋雅彦 ,   岡上和雄

ページ範囲:P.1023 - P.1031

 【抄録】 欧米諸国で評価の確立しつつあるEE(Expressed Emotion)を用いた,日本における精神分裂病の再発予後についての研究を行った。
 9カ月の追跡調査の結果,患者家族の関係が高EEと評価される群の再発率は低EEと評価される群のそれに比して有意に高いことが実証された。また服薬遵守との関連では,EEの高低が服薬遵守よりも再発予測に関連しているとの結果が本研究では出た。加えて,服薬遵守自体がEEの高低,とりわけ批判・敵意と相関にあり,批判・敵意の少ない環境下では服薬遵守もよくされていることが指摘できた。一方,EEの下位尺度の分布について本研究でみられた特徴を先行研究と比較すると,全体的に得点が低めであるという傾向がみられたが,下位尺度間の主な関係などは欧米の代表的な研究に準じた分布をしていることが認められた。

精神分裂病の5年転帰—新潟大学精神科外来患者についての検討

著者: 坂戸薫

ページ範囲:P.1033 - P.1039

 【抄録】 新潟大学医学部附属病院精神科外来を2年間に初診した患者のうち,発病後3年以内に初診したと判断された比較的新鮮な精神分裂病患者117名の5年転帰について調査した。調査時点で77名の転帰が判明し,39名(50.6%)が転帰良好,38名(49.4%)が転帰不良と評価された。本研究の結果は,従来の研究と異なっていたが,これは対象となった患者構成の違いによるものであった。本研究の結果には,治療継続中の患者だけでなく治療を中断した患者も対象に含んでいた。この点で,本研究の結果は,患者の転帰全体がよりよく反映されていると考えられた。治療中断者の転帰については,従来の見解とは逆にむしろ不良である可能性が示唆された。予後予測因子に関する検討では,病前の就労状況と治療継続性の良否が転帰の良否と関連している可能性が考えられた。いずれも従来の結果を支持するものであった。

特異的な「人格変換」を見せた分裂病症例についての1考察

著者: 藤井洋一郎 ,   山本滋隆

ページ範囲:P.1041 - P.1047

 【抄録】 今回,我々は精神分裂病にみられた多重人格様状態を2症例経験した。その症例の中で,病者は自分自身を“彼”と呼び,病者の中の人格である“我々”が“彼”を連れてきたり,病者の中の人格が病者自身に代わって退院を要求したりした。まず,診断を確認した後,症状論的に検討を加えたが,この症状は従来からいわれてきた独語症状やSéglasのいう精神運動性幻覚にも一致せず,安永のいう擬憑依に一致すると考えられた。それゆえ,この特異的な人格交代現象を擬憑依型人格交代と呼んだ。この擬憑依は幻覚作為体験優位型の病型において生じやすいと考えられる。そして,精神病過程によって解離類似状態が生じ,そこに種々の力動が関与することにより問題とされた多重人格様症状が出現したと考えられた。また,その他の特徴とともに,多重人格障害の診断基準(DSM-Ⅲ-R)は従来よりさらに厳密になされなければならないことを示した。

無断離院をきっかけに集中内観を導入したヒステリーの1症例

著者: 笹野友寿 ,   渡辺昌祐

ページ範囲:P.1049 - P.1056

 【抄録】 視覚異常,聴覚異常,過眠などを呈し,無断離院を繰り返す23歳女性のヒステリー患者に対して集中内観を行った経験を報告する。最後の無断離院の夜,「こんなにたくさんの人に迷惑をかけて私は最低の人間です。」と内省を示した。そこで,集中内観を提案したところ同意を得ることができた。父に対する依存と攻撃が顕著であったため,父に対してのみ内観してもらった。集中内観前後で内観評点は1点から3点まで上昇しており,内観は深まったと思われた。集中内観後にヒステリー症状は消失し無断離院もみられなくなり退院となった。しかし,集中内観後2カ月経過した頃から内省的思考が薄れていった。集中内観から10カ月後,自己の未熟性に対して嫌悪感を抱き,自発的に再び集中内観を受ける。そして前回以上に深い内省的思考を獲得し,生まれて初めて仕事に就くことができた。第1回の集中内観から32カ月後,第2回から22カ月後の社会適応は良好である。

外来治療を中心とする総合病院精神科患者の自殺

著者: 石原武士 ,   山本佳子 ,   山本博一 ,   横山茂夫

ページ範囲:P.1057 - P.1064

 【抄録】 精神科患者の自殺に関する報告は多数あるが,外来患者を中心とした報告は少ない。
 川崎病院精神科は総合病院の中で一般混合病棟約20床を持ち,外来通院治療を中心とする。我々は1984年4月の診療開始から1992年12月までに,入院中の自殺2例を含む34例の自殺既遂例を経験した。内訳は男性18例,女性16例,診断は躁うつ病圏19例,分裂病圏7例,神経症6例,適応障害,器質性精神病各1例であった。これら34例についてカルテからレトロスペクティブに死亡年齢,自殺手段,自殺未遂歴,治療期間,通院状況,自殺念慮などのカルテ記載の有無,家族状況などを検討した。神経症の自殺者では自殺念慮が見逃されやすい傾向を認めた。また当科受診までの治療歴の有無や家族の治療へのかかわり方によって,自殺までの治療期間などに差がみられることも示された。これらの結果について考察を加え報告する。

ハロペリドール減量中に重篤な頸部前屈と呼吸障害を呈した破瓜病の1例

著者: 丸井規博 ,   赤嶺秀明 ,   橋本憲司 ,   越本武志

ページ範囲:P.1065 - P.1070

 【抄録】 症例は36歳,男性。重篤な破瓜病で,14歳にて発病後のほとんどを自宅にて無為・不潔状態で過ごしていた。常同行為から左脛骨を骨折したことをきっかけに入院治療が開始されたが,ハロペリドール減薬中に重篤なantecollisを呈した。このantecollisに対し,様々な薬物治療を施したが,ジアゼパムの静脈内投与以外は著効は示さず,理学的治療が有効であった。また,antecollisを呈してから2度,窒息を起こした。antecollisは薬剤による遅発性ジストニアであると思われるが,一方でこの症例の年齢不相応な大脳・小脳萎縮となんらかの関連があるのではないかと推測した。また生命脅威的な呼吸障害は,声帯筋のジストニアではなく,antecollisの急性増悪によるものであると考えられた。文献的にも検討し,頭—頸部ジストニアにおいては呼吸障害の出現に細心の注意を払うべきことを指摘した。

リチウムの抗攻撃性作用—気分障害を伴わない精神遅滞者を対象としたリチウム中断による検討

著者: 寺尾岳 ,   大賀哲夫 ,   古川正 ,   野崎伸次 ,   太田有光 ,   大坪由貴 ,   座間味宗和 ,   岡田正勝

ページ範囲:P.1071 - P.1076

 【抄録】 気分障害を伴わない8名の精神遅滞者および境界知能者を対象として,投与中のリチウムを中断することによりリチウムの抗攻撃性作用を検討した。リチウム中断直前1カ月間と直後1カ月間の行動を比較すると,自傷や他害が増加した者2名,落ち着きのなさや聞き分けのなさが増加した程度の者2名と,8名中4名にリチウムの効果が認められた。また,リチウム中断後に2名の下痢が軽快した。リチウム中断前後の血液検査においては,free T4あるいはT4が8名全体として有意に増加した。また脳波検査では,2名にα waveの増加を認めた。以上の結果から,気分障害を伴わない精神遅滞者の一部に,リチウムが重篤な副作用を伴わず抗攻撃性作用を発揮する可能性が示唆された。他方,リチウム継続投与により軽度ながら種々の副作用が生じたことから,漫然と投与することなく,適宜減量,中止による有用性の検討が必要と考えられた。

アルツハイマー型老年痴呆の診断マーカーとしてのアポリポ蛋白E4

著者: 角田雅彦 ,   山口勇司 ,   大橋正和 ,   東島啓二 ,   湯野川淑子 ,   幸村尚史 ,   野村和広 ,   田部井篤 ,   引網純一 ,   山崎恒 ,   梅沢政功 ,   阿部照江 ,   野田明子 ,   小林信子 ,   小野田明 ,   田宮崇

ページ範囲:P.1077 - P.1080

 【抄録】 アポリポ蛋白E4(アポE4)とα1-アンチキモトリプシンがアルツハイマー型痴呆の診断マーカーになるかどうかを検討した。対象は,T病院に入院中のアルツハイマー型初老期痴呆8例,アルツハイマー型老年痴呆15例,多発梗塞性痴呆15例と健常対照者12例で,診断は,頭部CT所見,Mini-mental state,Hachinski ischemic scoreを参考にDSM-Ⅲ-Rの診断基準を用いて行った。その結果,α1-アンチキモトリプシンはアルツハイマー型初老期,老年期いずれの痴呆でも,健常対照や多発梗塞性痴呆と有意差を認めなかった。アポE4はアルツハイマー型老年痴呆の73%にみられ,健常対照(0%),多発梗塞性痴呆(20%),アルツハイマー型初老期痴呆(25%)よりも有意に多かった。アポE4はアルツハイマー型老年痴呆の診断マーカーになるのではないかと考えられ,発病前に測定することによって,発病の予測にもなるかもしれない。

短報

抗不整脈剤amiodaroneにより抑うつ状態を呈した1例

著者: 西村浩 ,   町田勝彦 ,   篠崎徹 ,   笠原洋勇 ,   牛島定信 ,   鈴木昭彦 ,   金江清

ページ範囲:P.1081 - P.1083

■はじめに
 抗不整脈剤amiodaroneの服用により抑うつ状態を呈した48歳男性例を報告する。本剤は強力な抗不整脈作用を有するために不整脈による突然死の予防に有効であるとされる一方で,肺線維症などの重篤な副作用を示すために,その使用対象は厳しく限定されている。しかし精神神経科的副作用を示した症例の報告は極めてまれである。

インターフエロン-α治療中に抑うつ,筋脱力および異食症などの精神神経症状を呈したC型慢性活動性肝炎の1例

著者: 佐藤裕子 ,   佐藤博信 ,   大西秀樹

ページ範囲:P.1084 - P.1086

 近年C型慢性肝炎に対するインターフェロン(IFN)治療が広く行われるようになり,投与量の増加,投与期間の長期化などにより,種々の副作用が報告されるようになった。中枢神経系に対しては,約17%の頻度で精神神経症状や脳波上の異常を来すことが知られている6)
 今回我々は,天然型IFN-α単独治療中に,発熱,全身倦怠感,関節痛,皮下出血の全身症状に加え,抑うつ状態,筋脱力,異食症などの精神神経症状を呈した1例を報告する。

クロナゼパムによって心機能増悪を来した左脚前枝ヘミブロックの1症例

著者: 上野修一 ,   近藤啓次 ,   柿本泰男

ページ範囲:P.1087 - P.1089

 クロナゼパムは高力価のベンゾジアゼピン系化合物で,臨床的には全般発作をはじめとする難治性てんかん発作に用いられる。また,近年では睡眠時ミオクローヌス症候群7),アカシジア9),振戦2,8),ジスキネジア11)などの異常運動に奏効することがわかっている。重篤な副作用がなく使いやすいため幅広く使用されているが,今回,クロナゼパム投与により心電図異常を示す症例を経験したので報告する。

寛解期に123I-IMP-SPECT所見の改善が認められた季節性感情障害の1例

著者: 石川博基 ,   池本真美 ,   鎌田裕樹 ,   藤田雅彦 ,   渡部正行 ,   齋藤利和 ,   高畑直彦

ページ範囲:P.1091 - P.1094

 123I-IMPは脳組織に高率に移行し,かつ十分な時間組織内に保持されるため,局所脳血流トレーサーとして優れた性質を持っている10,11)。したがって近年,123I-IMP-SPECT検査(SPECT)は,種々の脳神経精神疾患の診断,治療指針決定などに広く活用されている。
 本例に使用したSPECTは,ZLC対向型ロータカメラを用い,シンチパック2400にてデータ処理を行った。123I-IMP3mCi静注し,30分経過した時点からデータ収集を開始し,回転中心距離25cm,1ステップ40秒,6度ステップにて360度データ収集し,吸収補正12%,Shepp & Loganフィルターを使用し,Back-projection法にて再構成した。また診断に際しては,各スライス厚0.6cmの画像で検討を行った。

ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)脳炎の1例

著者: 岡村仁 ,   佐々木高伸 ,   前正秀宣 ,   佐藤由樹 ,   菊本修 ,   中村靖 ,   好永順二 ,   引地明義 ,   中山隆安

ページ範囲:P.1095 - P.1097

 ヒトヘルペスウイルス6型(human herpesvirus 6;HHV-6)は,1986年にSalahuddinら6)によってリンパ球系疾患患者のリンパ球から第6番目のヒトヘルペスウイルスとして分離され,1988年にYamanishiら7)によって突発性発疹の原因ウイルスであることが明らかにされた。今回筆者らは,PCR(polymerase chain reaction)法3)によって髄液中のHHV-6が陽性を呈した,成人発症のヒトヘルペスウイルス6型脳炎(HHV-6encephalitis)の1例を経験したので報告する。

Tiaprideで寛解した皮膚寄生虫妄想の1例

著者: 前田潔 ,   山下光 ,   柿木達也 ,   山鳥重

ページ範囲:P.1099 - P.1101

 皮膚に虫などの小動物が寄生していると妄想的に信じ込み,それが見えるとか感じられると訴え,日常生活に支障が出てくるものは古くから皮膚寄生虫妄想として分類され,稀で特異な妄想症の1つとされている。通常は分裂病や薬物中毒の際にみられるものは除外され,これ以外の精神症状をほとんど認めないものが皮膚寄生虫妄想の純粋型とされている2)
 我々は肝硬変,糖尿病,慢性腎不全を伴った高齢女性に発症した皮膚寄生虫妄想を経験したので,その発症機転としての身体合併症について,また今までに報告のほとんどないSPECT所見について考察を加えた。また,本症にtiaprideを処方したところ3カ月の経過で症状は消失し,無投薬にもかかわらず以後3年以上再発をみなかった。本症例および他の報告を考え合わせ,tiaprideを本症に対する第一選択薬とすることを提唱したい。

古典紹介

幻覚—その機械・局在論的考察と精神運動幻覚の提唱(第2回)

著者: 田中寛郷 ,   濱田秀伯

ページ範囲:P.1103 - P.1110

 おそらく,皮質の運動中枢が言語幻覚の発生源になるという考えは,一見しただけでは奇異に思えるでしょうが,まずは共通運動幻覚の存在を物語るいくつかの事実を思い出してください。
 この点に関しては,四肢を切断された患者においてWeir Mitchellの観察した現象が特徴的でしょう。

動き

「第9回日本老年精神医学会」印象記

著者: 小阪憲司

ページ範囲:P.1111 - P.1111

 第9回老年精神医学会は,1994年6月23,24日に日本医大第二内科の赫彰郎教授を会長として,日本消防会館で行われた。
 赫教授は,早くから老年期痴呆,特に脳血管性痴呆の画像研究を手がけ,この領域では我が国の第一人者である。したがって,会長講演では,「痴呆性疾患の脳循環代謝-白質病変を中心に」と題して,お得意の画像を駆使して最近の研究の一端をわかりやすく話された。特に,MRIでleukoaraiosisを示すが大脳皮質には梗塞巣のない多発梗塞性痴呆では,PETにおいて皮質の各領域でも虚血性低灌流状態を示し,皮質に対する白質の脳循環代謝の割合が著しく低いことが示されたことは興味深い。

「第90回日本精神神経学会」の印象

著者: 岡崎祐士

ページ範囲:P.1112 - P.1113

 第90回日本精神神経学会総会は柿本泰男愛媛大学医学部教授を会長に,金沢彰同助教授を副会長に,1994年5月25日から27日までの3日間,松山市総合コミュニティーセンターで開催された。会場は,新しい立派な公共施設で,主に4会場を使用してすべて口演で行われた。

「精神医学」への手紙

Letter—「モザイク型49, XXXXX症候群の成人姉妹例」について/Letter—レターにお答えして—「モザイク型」との表現は不適当か

著者: 南光進一郎 ,   風祭元

ページ範囲:P.1118 - P.1118

 精神障害を呈する染色体異常の症例は,精神障害の病因論の研究に寄与するところが大きい。我々も以前に,精神遅滞と性格異常を伴う47, XXX核型の女性例を報告したことがある(精神医学27:323-331,1985)。したがって,高木哲郎らの「精神遅滞を呈したモザイク型49, XXXXX症候群の成人姉妹例」(精神医学36:743-749,1994)は大変貴重な報告と思われる。しかし,若干の問題点があると考えられるので,ここにいくつかの疑問点を述べる。
 まず,報告された症例の症状は,染色体の所見を除けば,精神遅滞と内性器の発達不全のみであり,49, XXXXX症候群として論文中に挙げられた症状をほとんど持たない。これを49, XXXXX症候群とするのはいかがなものであろうか。症候群という場合には,特定の症状の組み合わせが存在する場合を指すのが通例ではないかと思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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