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雑誌目次

雑誌文献

精神医学36巻12号

1994年12月発行

雑誌目次

巻頭言

「なぞる」ということ—面接の基本に関する一工夫

著者: 下坂幸三

ページ範囲:P.1232 - P.1233

 面接の心構えとして膳炙しているものとして,「関与しながらの観察」(サリヴァン),「平等に漂う注意」(フロイト),「共感的態度」(ロジャーズほか)などが挙げられる。しかしこれらの態度を日常臨床のなかにもち込むことは決してやさしいことではない。
 精神科医である以上,誰でもが薬物療法と精神療法とを相当程度まで会得する必要がある。薬物療法を敬遠する人はあまりいないであろうが,精神療法を敬遠する人はいる。それにはいろいろな理由があろうが,一つの理由は,このやり方なら自分にもできるといった思いを抱かせる精神療法の入門書が皆無に近い注)からではなかろうか。

研究と報告

精神分裂病者・家族の属性別にみたEE(Expressed Emotion)の特徴

著者: 大島巌 ,   伊藤順一郎 ,   柳橋雅彦 ,   岡上和雄

ページ範囲:P.1234 - P.1243

 【抄録】 精神分裂病の再発予測因子として知られるEE(Expressed Emotion)の形成要因とEEの概念的実質を解明する取り組みの第1段階として,精神分裂病者本人と家族の属性別に現れるEE分布の特徴を検討した。その結果,下位尺度の「批判」は,本人属性として経過の慢性化や経過の不良性,社会適応状態の悪さと関連しており,「巻き込まれ」は,経過年数の短さや基本的な生活管理にかかわる社会適応度の低さが関与していた。一方,家族属性としては,家族続柄別にEEの分布が異なるとともに,EEと再発の関連に続柄間の差異が認められた。従来研究で重要性が指摘されてきた家族資源については,「批判」が家族外の援助者数の少なさや社会階層と関連していたが,その他の関連性は明確にされなかった。これらの結果をEE形成要因との関連で考察するとともに,今後の検討課題を明らかにした。

難治性精神分裂病の精神症状・行動評価と薬物療法の特徴

著者: 寺田倫 ,   堀彰 ,   綱島浩一 ,   武川吉和 ,   石原勇 ,   宇野正威

ページ範囲:P.1245 - P.1250

 【抄録】 武蔵病院に入院中の精神分裂病患者(ICD-10-JCM)258例を対象として難治性分裂病の精神症状と薬物療法の特徴を検討した。(1)対象患者を難治群(難治性分裂病の診断基準を満たす75例),対照群(入院期間が2年以上であるが難治性分裂病の診断基準を満たさない112例)に分けて検討した。(2)灘治群ではbehavioural withdrawal,neglected self-care,情意鈍麻・思考障害という陰性症状だけではなく,socially embarrassing behaviour,陽性症状である幻覚・妄想も重症であった。(3)灘治群は幻覚・妄想や問題行動を標的に多量の抗精神病薬が投与されているにもかかわらず,精神症状が改善しにくい薬物抵抗性の患者群であった。(4)灘治群ではlevomepromazineの投与割合が多く,感情調整薬である炭酸リチウム,carbamazepineがそれぞれ8%投与されていた。

精神障害者の術前術後管理—MPUでの経験

著者: 中村誠 ,   野村総一郎 ,   郷原道彦 ,   岡本浩一 ,   松平順一

ページ範囲:P.1251 - P.1257

 【抄録】 精神障害者が身体合併症の外科的治療を受ける場合,術前術後の精神症状管理が重要となるが,従来多くの症例に基づいてこの問題を検討した報告はない。本報告では我々の運営する身体合併症治療専門ユニット,MPUにおける128件の手術症例に基づく経験を示し,精神障害者の手術に際しての諸問題を論じた。精神科病名では精神分裂病が64.5%と最も多く,身体病名では悪性腫瘍,骨折が多かった。統計学的には術後に精神症状が有意に悪化するとの結果が得られたが,精神科的な変化がみられなかった例も多く,個々の例をみるとかえって改善した例もあり,精神障害者は外科的侵襲により精神症状が悪化するとの一般的結論を導くことはできない。精神症状が悪化し,身体管理が困難になった場合,思い切った抗精神病薬の増量が重要と思われたが,様々の治療的工夫によっても一般病棟での術後管理に限界があり,結果として身体病の経過にも危機的状況が生じるようなケースが存在することも事実であり,そのような場合の治療の場としてはMPUが適切であると思われた。

パニック障害の血清コレステロール値—大うつ病,精神分裂病との比較

著者: 山田久美子 ,   山本久雄 ,   幸原るり香 ,   山田健児 ,   堤隆 ,   穐吉條太郎 ,   藤井薫

ページ範囲:P.1259 - P.1262

 【抄録】 パニック障害(PD)の男性群は心血管系疾患による死亡率が高いという長期追跡調査結果を受けて,PDとコレステロール値(TC)の関連が検討され始めたが統一した見解は得られていない。我々は46例のPD群のTCを性,年齢,喫煙・飲酒習慣でマッチさせた同数の大うつ病群,精神分裂病群と比較し,さらにTCとPDの症状重症度および薬物療法との関連も検討した。その結果,PD群は男女ともに他の2群に比しTCが有意に高かった。PDの症状重症度とTCには関連がなかった。PDの寛解群で治療前後のTCを比較したがTCの低下はみられなかった。以上より,PDの相対的高コレステロール血症には内因性で疾患に特異的な因子の関与が考えられた。予防医学では,特に男性で青年期の相対的高コレステロール血症と中年期以降の心血管系疾患との強い相関が示唆されている。PD男性群の心血管系疾患による死亡率の高さと相対的高コレステロール血症の関係には注意を払う必要があると思われた。

Rapid cycling affective disorderにおける視床下部-下垂体-副腎皮質系の縦断的評価—尿中コルチゾール測定によるデキサメサゾン抑制試験を用いた検討

著者: 冨高辰一郎 ,   中平進 ,   加茂康二 ,   加茂登志子 ,   坂元薫 ,   田中朱美 ,   田村敦子 ,   小島至

ページ範囲:P.1263 - P.1266

 【抄録】 Rapid cycling affective disorder(RCAD)の6例の患者の視床下部-下垂体-副腎皮質系の縦断的評価を行った。方法としては最近内分泌領域で評価されている尿中フリーコルチゾール測定によるDSTを精神科領域で初めて行った。軽躁状態において2回,うつ状態において2回,計4回のDSTを施行した。その結果うつ状態において有意に尿中コルチゾールの高値を示したのみでなく,適当な基準値を設定すれば尿中コルチゾール/クレアチニン比がRCADのうつ状態のステイトマーカーとして有効である可能性を示唆する結果(感度100%,特異性91.7%)が得られた。RCADにおいて縦断的にうつ状態と視床下部-下垂体-副腎皮質系の亢進が非常によく相関することが示唆された。

精神分裂病1症例の発病後にみられた事象関連電位の変化

著者: 沓沢理 ,   新山喜嗣 ,   藤原龍一 ,   佐藤直紀 ,   伏見雅人 ,   関根篤 ,   菱川泰夫

ページ範囲:P.1267 - P.1271

 【抄録】 健康被験者として事象関連電位(ERP)を記録していた対象のうち,その後に精神分裂病を発病した1症例について,再びERPを記録する機会を得た。この症例において,発病前と発病後のERPの成績を比較した。その結果,各ERP成分の発病後の最も著明な変化として,P300の頂点潜時が発病前と比べて有意に延長していた。また,このような延長は抗精神病薬の服薬と無関係であった。発病前のPzでのP300潜時と反応時間との間では相関係数が0.5以上の有意な相関を示した。しかし,発病後にはこれらの間における相関の強さは著明に低下していた。今回の結果から,本症例では,精神分裂病といった病的過程のためにP300潜時が新たに延長したものと考えられた。

短報

難治性薬剤性パーキンソン症候群がL-threo-DOPS投与により改善した2症例

著者: 宮本正史 ,   畑典男 ,   大村慶子

ページ範囲:P.1273 - P.1276

 L-threo-DOPS(DOPS)は非生理的物質であるが生体内で天然型(-)ノルエピネフリンに変換される。このためノルエピネフリン欠乏状態の補充薬としての可能性が検討され5),すでに血圧上昇作用のほか,家族性アミロイドポリニューロパチーにおける自律神経障害およびパーキンソン病の特にすくみ足などの症状に対する効果が報告されている。また最近では,川田ら2)がパーキンソン病による皮膚寄生虫妄想に対してDOPSが効果的であった症例を,河田ら3)が吃音(initiation)に対するDOPSの有効例を報告している。今回,我々は難治性薬剤性パーキンソン症候群がDOPS投与により改善した2症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

音楽性幻聴を認めた高度難聴の老年女性の1例

著者: 山森周子 ,   石野博志

ページ範囲:P.1277 - P.1279

 音楽性幻聴とは,厳密には歌や旋律が外的刺激なしに聞こえてくる状態を指し,ハーモニー,リズム,音色だけの場合を含めることもある1)。一般的に幻聴は精神分裂病にもっとも頻度が高く出現するが,音楽性幻聴は聴力障害を持つ老年者に多いことが特徴である。我々は,高度な聴力損失状態に至った後に,音楽性幻聴を含む幻聴が出現した老年女性の1例を経験した。音楽性幻聴はまれであると言われているのでここに報告する。また,近年注目されてきている,視覚障害を持つ意識清明な老人に幻視が生じるCharles Bonnet症候群と類似性を示す点において興味深く思われたので比較し考察を加える。

外来における人工呼吸管理下での筋弛緩剤を用いた電気けいれん療法の試み

著者: 仲本晴男 ,   兼島瑞枝 ,   渡嘉敷史郎 ,   外間宏人 ,   山本和儀 ,   小椋力 ,   平良豊 ,   比嘉政人

ページ範囲:P.1281 - P.1284

 電気けいれん療法(electroconvulsive therapy;以下ECT)は,向精神薬療法の進展に伴い,近年その使用は低下していたが,最近になり安全性,効果,経済性の点から見直されつつある3)。例えば米国における大学病院の入院患者における使用頻度は,1970年の4.4%が1980〜81年には2.9%と減少したものの10),1990年には少しずつ使用頻度も上がっている3)と報告されている。この時期に米国精神医学会はECT施行の安全性の確保などの目的から,全身麻酔に筋弛緩剤を併用し人工呼吸管理のもとで通電することを強く促す勧告書(Task Force Report,1990)1)を提出した。このことは,上記の勧告に従いECTを実施すれば本療法はより安全な治療法となりうることを示している。一方,我が国では,比較的多く施行していると思われる九州大学を例にとると1981〜89年の平均施行割合は3.6%4)であったが,呼吸管理などが煩雑なために,全国的にはまだ見直されるに至っていないと思われる。しかし最近になり米国におけるECTの現状を紹介する報告5)や筋弛緩剤を使用したECTの安全性と有効性についての治療経験6)が報告されるようになった。筆者らは外来において全身麻酔に筋弛緩剤を併用し,人工呼吸管理下でのECT施行を経験した。外来での上記方法を用いたECTは,我が国では筆者の知るかぎり報告されていない。そこで症例を提示し,安全性,有害反応,医療経済的な観点,今後の適応の拡大や課題などについて考察を加えて報告する。

1H-MRSによる側頭葉てんかん患者の脳代謝に関する検討

著者: 山沢浩 ,   喜多村雄至 ,   宮内利郎 ,   萩元浩 ,   遠藤青磁 ,   梶原智 ,   田中謙吉 ,   藤田春洋 ,   岸本英爾

ページ範囲:P.1285 - P.1288

 近年,画像診断の進歩により側頭葉てんかん(TLE)の責任病巣の研究が注目されている。Jacksonら8),Kuznieckyら9)は,難治性のTLEにmagnetic resonance imaging(MRI)上,脳動脈奇形や良性glioma,過誤腫以外に側頭葉内側硬化(特に海馬硬化)を高率に認めたとし,Goldringら5),森竹ら11)は病理組織の検討から発作の原因は,神経細胞の脱落・消失とgliaの増殖(gliosis)であるとしている。しかしながら,画像診断で必ずしもTLEの発作焦点が同定できるとは限らないようである3,4)
 magnetic resonance spectroscopy(MRS)は,原子核の自転による磁気共鳴現象を化学シフト表示したもので,生体の生化学的状態を非侵襲的,定量的に測定できることから,近年31Pや1Hなどの核種を用いて,脳腫瘍,脳梗塞など各種組織の生理学的,生化学的解析や病態の代謝学的解析などに応用されている12)。Miller10)は,1H-MRS測定可能なN-acetyl aspartate(NAA)は神経細胞に特異的に多く含まれる物質であることから,神経細胞の活動の指標になるとしており,てんかん原性焦点の検出に有用なことがうかがえる。

シンポジウム アルツハイマー型痴呆の診断をめぐって

アルツハイマー型痴呆の臨床診断をめぐる諸問題

著者: 平井俊策

ページ範囲:P.1291 - P.1298

■はじめに
 私に与えられたテーマはアルツハイマー型痴呆の臨床診断をめぐる諸問題ということである。アルツハイマー型痴呆の診断において,現在最も問題になっている点は,どのようにすれば早期に確定診断ができるかという点であると思われる。従来の臨床的診断法でも,典型例については,はっきりとした痴呆がみられる病期になれば,その診断はさほど困難ではない。しかし,より早期の診断,脳血管障害を合併している場合にアルツハイマー性因子もあるか否かの診断,あるいはアルツハイマー型痴呆との鑑別の難しい非アルツハイマー型の退行変性疾患による痴呆との鑑別診断などに困難を感じることが少なくない。このために画像診断や診断マーカーの面からの検討が行われている。ここでは,まず従来の診断方法について総括し,次に現在最も有用な画像診断法とされているPETの所見を自験例につき述べ,さらに診断マーカーとして我々が開発したα1-アンチキモトリプシン(以下ACT)や,やはり最近我々が検討している髄液内のβ蛋白の測定が,どの程度臨床診断上役立ちえるかについて述べる。

老年期精神病の臨床病理学的検討—多数のアミロイドβタンパク沈着の意義

著者: 池田研二

ページ範囲:P.1299 - P.1305

 アルツハイマー型痴呆(ATDと略)の研究は神経病理学から始まり,今日では分子生物学,生化学などの広い分野にまたがって研究されているので,疾患の定義やその範囲について共通の認識が必要であるが,しばしばアルツハイマー病(ADと略)とアルツハイマー型老年痴呆(SDATと略)を区別していないことがあり,議論の際に混乱が生じることがある。両者の中核的な症例では臨床的にも神経病理学的にも隔たりがあるが,その境界となると必ずしも明瞭ではないのも事実である。同じことがSDATと多数の老年変化を伴う非痴呆症例との間においても言える。すなわち,脳にSDATに匹敵するほどのアミロイドβタンパク沈着(AmDと略;老人斑とほぼ同義)を伴うが,SDATと診断されるほどの痴呆に至っていない一群の症例がある。このような多数のAmDのある非痴呆症例群は欧米ではearly stage Alzheimer's disease(AD)27),mild AD14),pre-clinical AD4),あるいはvery mild AD22)のごとくアルツハイマー病の名を冠して呼ばれていることからもわかるように,ATDの範疇でとらえられている。これに対して,我が国ではこのようなグループを単にATDとすることには異論がある19)。このような一群の症例の存在は,生理的老化とSDATの関係についての問題提起であると考えて一連の検討を行い,痴呆が明らかでない場合でも,高齢者では軽度(初期段階)のSDATに匹敵するAmDを伴う場合があり,これが老年期精神病の1形態学的背景となる可能性を指摘した11)。ここでは視点を変えて,逆に老年期精神病と診断された症例群の臨床と病理の再検討を通してこれを検証した。また,このような検討がSDATの診断に寄与すると考えた。

アルツハイマー型老年痴呆の病理診断—その可能性と研究会活動について

著者: 水谷俊雄

ページ範囲:P.1307 - P.1314

 一般的に神経病理学的診断は臨床診断を参考にするが,病変の解釈が臨床診断や症状に左右されることがある。特にアルツハイマー型老年痴呆(SDAT)では,病理診断の根拠が本来正常加齢でもみられる変化であり,現在のところ正常加齢と病的状態の違いを老人斑(SP)やアルツハイマー神経原線維変化(NFT)の量や範囲の違いで表現しているために,臨床診断に影響されやすい。例えば,SPやNFTが広範かっ多量に出現していても臨床的にはSDATと診断されていない場合,逆にSPやNFTの量や広がりは非痴呆例と差がなくてもSDATと臨床診断されている場合では,病理診断が臨床診断に引きずられてしまい,その結果病理像にバリエーションが生じやすい。通常,神経病理診断は,臨床像や診断を参考にして総合的に行われるが,前述のような理由から,我々はあえて非日常的な方法を採用してきた12,13)。本論文では既報の診断基準案をもとに1,000例の連続剖検例を病理診断した結果と「Alzheimer型老年痴呆の神経病理学的診断基準作製に関する研究会」の中間報告をし,病理診断の可能性と問題点を浮き彫りにしたい。

「パネルディスカッション」アルツハイマー型痴呆の診断をめぐって

著者: 平井俊策 ,   松下正明 ,   池田研二 ,   水谷俊雄 ,   西村健

ページ範囲:P.1315 - P.1321

 司会(西村) こういう機会ですから,できるだけ自由に,普段疑問に思っていらっしゃることも含めまして,専門の先生方にご質問いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは,最初は平井先生への質問です。「診断マーカーとして,最近,アポリポ蛋白Eが重視されていますが,この有用性についてはどのようにお考えでしょうか」,それからもう1つ「血液による診断の方法としては将来どういう見通しを持っていらっしゃいますか」という,2つのご質問です。いかがでしょうか。

私のカルテから

向精神薬の長期服用中,横紋筋融解症を発症した精神遅滞の1例

著者: 豊田隆雄 ,   熊谷浩司 ,   村田桂子 ,   川口浩司

ページ範囲:P.1322 - P.1323

 横紋筋融解症に関して,精神科領域では急性精神病状態やアルコール中毒,向精神薬の投与などにより生ずることが報告されている5)。この中で,向精神薬については,悪性症候群や大量服用による昏睡に伴うものがほとんどである。今回,筆者らは通常量の向精神薬の長期服用中,軽度の労作を契機として横紋筋融解症を発症した精神遅滞の1例を経験したので報告する。

「精神医学」への手紙

Letter—抗精神病薬投与中に発作性知覚変容が出現した躁うつ病の1女性例

著者: 白土俊明 ,   寺尾岳 ,   大賀哲夫

ページ範囲:P.1327 - P.1327

 福迫ら1)による「抗精神病薬によって発作性知覚変容が出現した躁うつ病の1症例」と類似の症状が生じた躁うつ病女性患者の症例を筆者らも経験したので報告する。
 〈症例〉29歳,女性,躁うつ病。21歳時にうつ病相で初発し,以後3回のうつ病相と4回の躁病相を生じた。4回目躁病相の寛解後にH病院を退院したが,この時の投薬内容はsultopride 600mg/日,zotepine 100mg/日,biperiden 6mg/日,carbamazepine 1,000mg/日であった。退院6日後,発作性知覚変容(以下,発作と略す)が初発した。これは眼球上転に始まり,動悸,呼吸困難,不安感を伴い「ガリバーになったみたいに周りのものが小さく見えて,手を伸ばせば遠くの物にすぐ届くような気がする」という視覚領域の変容体験から構成された。同様の発作は退院当初1週間に約2回の頻度で出現したがzotepineおよびbiperidenを中止しsultoprideを減量していくと2週間に1回へ頻度が減少し,cloxazolam 4mg/日の追加投与後は発作は1回出現したのみであった。さらにsultopride中止以後はcloxazolamを投与しなくても発作は完全に消失したままであった。なお患者に錐体外路症状の出現はなく,月経との関連も認められず,さらに小視発作や偏頭痛の既往もなかった。

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精神医学 第36巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

KEY WORDS INDEX

ページ範囲:P. - P.

精神医学 第36巻 著者名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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