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雑誌目次

雑誌文献

精神医学36巻3号

1994年03月発行

雑誌目次

巻頭言

子どもの問題と時の流れ

著者: 稲垣卓

ページ範囲:P.228 - P.229

 昭和30年代から40年代の初めにかけて,私の診察室を訪れる不登校児には,小学生が多かった。しかし,40年代の後半からは,小学生は減り,中学生,高校生が多くなった。やがて,学校に行かない子どもになぐられたりして来院するお母さんは珍しくなくなり,家庭内暴力という言葉が生まれた。
 その家庭内暴力も,最近ではそんな激しいものは少なくなり,物を投げる,物を壊すという程度のものが主流になったように思われる。家庭内暴力が軽症化し始めた昭和55年頃から校内暴力が多発し,60年前後に比して現在も発生件数は減少していないが,対教師暴力などの激しいものは半減した。中学校の校則の厳しすぎが問題になったのは,その頃からだったと思う。

展望

西太平洋地域発展途上国における精神医療

著者: 新福尚隆

ページ範囲:P.230 - P.238

■はじめに
 筆者は,1981年6月より世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)の精神衛生および麻薬問題担当の地域顧問として勤務している。筆者の主要な任務の1つは,各国政府と協力して,精神障害者に対する施策を向上することである。しかしながら,多くの発展途上国において精神衛生対策は,極めて貧弱でなきに等しく,多くの障害者は薬物療法や心理療法,社会訓練など近代精神医療技術の恩恵を享受することができていないというのが実情である。
 アジアの精神医療という課題で本誌に執筆を依頼された機会に,アジアを中心とした西太平洋諸国で,WHOの精神衛生プログラムを推進するに当たり,筆者が発展途上国の精神医療に関して教えられたこと,考えたことも合わせてまとめてみたい。
 よく知られているように,WHOは国連の専門機関の1つであり,健康に関しての国際的な協調,指導をその役割としている。本部をジュネーブに置き,世界に6つの地域事務局があり,それぞれの地域を担当している。西太平洋地域事務局(Western Pacific Regional Office)は,西太平洋地域36の国々や地域に対する,技術援助,経済援助を行うに当たっての基地としての役割を果たしている。西太平洋地域事務局はマニラ(フィリピン)にあり,オーストラリア,ブルネイ,中国,カンボジア,フィジー,日本,キリバス,ラオス,マレーシア,ニュージーランド,パプアニューギニア,フィリピン,韓国,サモア,シンガポール,ソロモン諸島,トンガ,バヌアツ,ベトナム,などが加盟している。最近,ミクロネシア連邦および人口1万人に満たないトケラウが加盟国として新たに加わった。精神衛生の分野では,中国,フィジー,韓国,ラオス,マレーシア,パプアニューギニア,フィリピン,ベトナム,南太平洋の小諸島の各国政府と活発な協力がなされてきた。1993年度よりカンボジアにおいて,精神医療の再建に向けてのプログラムが開始されようとしている。

研究と報告

最近の松沢病院における外国人症例—特にアジア国籍症例と“外国人労働者”について

著者: 梅津寛 ,   木崎康夫 ,   坂口正道 ,   江畑敬介 ,   金子嗣郎

ページ範囲:P.239 - P.247

 【抄録】 我々はかつて1978年11月から1985年3月まで(6年5カ月)の夜間休日精神科救急における外国人の入院症例を報告したが,今回,その後の事例,すなわち1985年4月から1991年3月まで(6年間)に入院となった外国人症例164例について,前回報告例と関連して,主として社会精神医学的側面から比較検討した。症例数は加速度的に増え,特に1989,90年度から著しい増加を見ている。他の地域は微増にとどまっているのに対し,アジアが102例と多いことが注目された。年齢は20,30代が82.4%と大半を占め,発症までの滞在期間は短期化している。来日後の発病時期は1カ月以下と1年以上の2つのピークが認められた。とりわけ最近の3年間のアジア国籍症例(77例)では,(不法)滞在—就労目的で長期滞在し,分裂病を発症するか反応性の病像を呈するものが目立った。そうした症例をいわゆる外国人労働者“Gastarbeiter”の精神障害の観点から考察した。

青年期の高機能自閉症にみられた幻覚・妄想様状態—その症状の特徴と発生のメカニズムについての1考察

著者: 石坂好樹 ,   村松陽子 ,   門眞一郎

ページ範囲:P.249 - P.256

 【抄録】 思春期青年期になって幻覚・妄想様状態を呈した高機能自閉症(high functioning autism)の症例を2例報告し,このような精神病様状態の特徴とその発症の心的メカニズムを考察した。2症例が示した幻覚・妄想様状態は,体系化されることはなく,要素的であり,その出現が状況依存的であり,また幻覚や妄想の内容は特定の状況や人物あるいは過去の体験と深いつながりがあった。薬物療法,環境の調節および個人精神療法を併用することで,症状は一時的に軽快したが,困難な状況になると再発した。それゆえ,これらの病態はストレスに対する反応性の精神病状態であると考えられた。2症例にこのような症状が出現した要因として,彼らの持つ対人関係の障害や感覚異常,記憶の異常といった自閉症に固有の障害に加えて,いじめられた体験や職場での失敗の体験が関与していると考えられた。

9番染色体のpericentric inversionがみられた精神分裂病の3例

著者: 功刀浩 ,   南光進一郎 ,   伊豫理絵 ,   森平淳子 ,   風祭元

ページ範囲:P.257 - P.263

 【抄録】 Gバンド法により9番染色体の腕間逆位(pericentric inversion)が見い出された精神分裂病(DSM-Ⅲ-R)の3例(女2例,男1例)を報告した。いずれも染色体の切断部位は(p11;q13)であった。第1例(女)は28歳で発症し,幻聴,幻視などの症状を呈し抗精神病薬によく反応した。第2例(女)は15歳で発症し,病初期はうつ状態が前景に立つパーソナリティ障害と診断されて入院したが,後に急激に精神病症状を呈した。第3例(男)は19歳で発症し,幻聴,被害妄想,緊張病症状などにより入院した。
 3症例に共通した身体的異常は見い出されず,分裂病の経過や病型も異なっていた。また3例の家族歴において分裂病者は存在しなかった。しかし,この染色体異常は,分裂病と病因的関連を持つ可能性があり,連鎖研究の手がかりを与えるものであると考えられ,さらに,今後同様の染色体異常を持つ症例を集積していくことの重要性を示唆している。

未治療分裂病患者の臨床経過と脳波基礎活動

著者: 宮内利郎 ,   石井みゆき ,   遠藤青磁 ,   梶原智 ,   萩元浩 ,   富岡理恵 ,   田中謙吉 ,   遠藤桂子 ,   岸本英爾

ページ範囲:P.265 - P.273

 【抄録】 精神分裂病患者21例の未治療時,寛解時および健康正常人30例を対象に脳波基礎活動のパワーをlog変換,脳波トポグラフィーおよびt-検定有意差マップを作成し検討した。各周波数帯域別にみると,分裂病の未治療時,寛解時および対照群ともほぼ類似の脳波トポグラフィー分布を示したが,未治療時では対照群に比較してδ波は左中心部,β1波は後半部に多く,逆にα2波は前半部に有意に少なかった。寛解時では,α2波は右半球中心に有意に少なかったが,他の帯域では有意差を認めなかった。また未治療時と寛解時の比較では,未治療時にδ,α1,β1,β2波が多く,θ,α2波が少ない傾向があった。以上の結果を文献的に考察し,未治療分裂病者にδ波が多い結果は左半球の機能障害,またβ1波が多いことは精神症状の反映であると同時に状態像の指標となりうる可能性を示唆していると考えた。

我が国における睡眠覚醒リズム障害の多施設共同研究—第2報:ビタミンB12および光療法の効果

著者: 高橋清久 ,   森田伸行 ,   三島和夫 ,   東谷慶昭 ,   金子元久 ,   山崎潤 ,   樋口輝彦 ,   坂元薫 ,   佐々木司 ,   佐々木三男 ,   大川匡子 ,   山寺博史 ,   市川宏伸 ,   石東和嘉 ,   岡本典雄 ,   太田龍朗 ,   小森照久 ,   花田耕一 ,   杉田義郎 ,   金英道 ,   古田壽一 ,   田宮聡 ,   森本清 ,   江頭和道 ,   小鳥居湛 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.275 - P.284

 【抄録】 睡眠覚醒リズム障害患者73名(内訳:非24時間睡眠覚醒症候群12名,睡眠相後退症候群(DSPS)48名,不規則型睡眠覚醒リズム9名,長時間睡眠者4名)に対してビタミンB12投与および高照度光照射の治療効果を検討した。ビタミンB12投与によって非24時間睡眠覚醒症候群の66.7%,DSPSの27.1%,不規則型の22.2%,長時間睡眠者の50%に中等度以上の効果がみられた。ビタミンB12が無効の症例にビタミンB12を投与しつつ,2,500〜3,000luxの高照度光照射を行ったところ26.7%に中等度以上の治療効果が認められた。体温リズムを同時に計測した場合,治療により睡眠相が前進した例ではリズムの位相の前進も同時にみられた。これらの事実は副作用がほとんどないと思われるこれらの治療法が睡眠覚醒リズム障害に有効であることを示唆する。しかしながら,治療効果の発現が心理・社会的要因と関連していたと思われる症例が高率にみられたことは,これらの治療法の持つプラセボ効果も考慮しなければならないことを示唆している。

感情障害患者の脳室拡大について—線分法を用いた検討

著者: 村下淳 ,   加藤忠史 ,   塩入俊樹 ,   濱川浩 ,   犬伏俊郎 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.285 - P.290

 【抄録】 感情障害患者71例のMRI(magnetic resonance imaging)像において線分法を用い,脳室拡大を検討したところ,Evans ratioに関しては,双極性障害群および大うつ病群ともに対照群に比較して有意の変化は認められず,3群すべてにおいて年齢との有意の相関は得られなかった。またHuckman numberは,双極性障害群では大うつ病群および対照群に比し,有意に高い値を示した。また大うつ病群のみ年齢との間に有意な正の相関がみられた。尾状核間最小距離(MDCN)については,双極性障害群のみ対照群に比し増大しており,さらに双極性障害群と大うつ病群ともに年齢との問に正の相関が認められた。以上のことから,感情障害者群では年齢とともに脳室が拡大し,その傾向は特に大うつ病群において強く,さらに尾状核の萎縮は大うつ病群より双極性障害群で強い可能性が示された。

反復性短期うつ病性障害(recurrent brief depressive disorder, ICD-10)の1例—診断上の問題とリチウムの有効性

著者: 仙波純一

ページ範囲:P.291 - P.295

 【抄録】 2週間以内の短い抑うつ期を,はっきりした正常期を挟んで,ひと月に2回以上繰り返す成人女性例を報告した。抑うつの重篤度は,期間の条件を除けば,うつ病エピソードの診断基準を満たし,ICD-10の反復性短期うつ病性障害と診断された。AngstやMontgomeryらがそれぞれ従来から提唱しているrecurrent brief depressionやintermittent brief depressionの診断基準にも本症例は合致した。しかし,Angstらのいうrecurrent brief depressionの症例には,軽躁病,大うつ病,気分変調症などの既往のあるものも含まれており,一方,Montgomeryらのintermittent brief depressionには反復する自殺企図など境界性人格障害に似た症状の記載があるなど,それぞれの症例には,内容の点においてニュアンスの違いがある。本症例は軽躁病,気分変調症,人格障害などは合併していなかった。また文献的考察を行い,治療的対応にも言及した。

短報

うつ状態で休職している教員について

著者: 小林宏

ページ範囲:P.297 - P.300

 職場における精神疾患については近年職場の精神医学主題として注目されてきている。しかし,教員についてのまとまった報告はまだ少ない4,6,8)。教員の長期休職者は以前は肺結核が多数を占めていたが,現在は精神疾患が多くなっている。教員の精神疾患については児童生徒への影響も大きく,重要な問題であり,今後研究されるべき課題である。
 一般に教員は情熱を持って就職するが,自分の理想とする教育と現実や上部からの教育方針とのギャップに直面する。また進学のための学校の予備校的性格,父兄の学校への期待,クラス運営上の悩み,非行生徒への対応,上司や同僚との人間関係,さらに数年ごとの転勤など教員の抱える問題は広範で深刻である。

XY/XYYのモザイクを呈したXYY男性の1例

著者: 米村公江 ,   宮永和夫 ,   服部卓

ページ範囲:P.301 - P.304

 XYY男性は,高身長,軽度知能低下,行動異常(犯罪行動)を3徴候とする症候群で,Sandbergらが最初に報告している8)。なお本邦ではKurokiらの報告が最初のようである3)。今までの報告をみると,一般集団の約0.1%に存在するといわれるが,モザイク型の報告は少なく,また,染色体以外にも種々の異常が報告されているものの,総合的な検索結果が報告されることは少なかった1,2,4,6)。今回,我々はXYY男性の1例を経験し,身体的特徴や精神症状とともに,性格検査,知能検査,頭部MRI,脳波および内分泌検査などを施行しえたので,今までの報告と比較して報告したい。

てんかん,脳梁欠損を伴ったTurner症候群の1例

著者: 近藤啓次 ,   佐野輝 ,   柿本泰男 ,   近藤郁子

ページ範囲:P.305 - P.308

 Turner症候群は,発生頻度が女児2,500〜10,000人に1人4,12)の性染色体がXO類縁の疾患である。Turner症候群では中枢神経系における奇形などの異常を伴うことは非常に稀22)で,てんかんや精神遅滞などの中枢神経症状の合併は少ない19,22)ことが報告されている。我々は,てんかんおよび脳梁欠損に伴い欠損脳梁部に脂肪腫が併発したTurner症候群の1症例を経験したので報告する。

腎透析時の著しいイライラ感にclonazepamが奏効した精神分裂病の1例

著者: 上原徹 ,   横山知行 ,   櫻井浩治 ,   斉藤隆夫 ,   伊藤陽 ,   稲月原 ,   細木俊宏

ページ範囲:P.309 - P.311

 腎透析が我が国に導入されて20余年が経過し,今日では約12万人の腎不全患者がこの治療法を受けている。腎透析の普及に伴い,腎不全に陥った精神分裂病患者に対して本治療法を行う機会も増加している。一般に透析を導入した際に生じる精神症状としては,透析自体が惹起する身体生物学的変化や,心理社会学的ストレスに反応した精神症状である可能性を考慮しなければならない。しかし,分裂病患者においては,透析という直接的な負荷状況に対しての分裂病症状の悪化,透析による薬物動態の変化のために生じる抗精神病薬の副作用の増強なども念頭に置きながら治療を行っていく必要がある。
 今回我々は,透析開始時より著しいイライラ感を生じ,透析継続が困難になった精神分裂病患者を経験した。本症例のイライラ感には抗パーキンソン薬の増量,抗精神病薬の増量,diazepamの投与などはほとんど効果がなく,clonazepamの投与が著効を示した。

インターフェロン投与でうつ状態と脳波異常を呈した慢性C型肝炎の1症例—アミトリプチリンによる治療効果

著者: 鎌田光宏 ,   樋口久 ,   山田暢夫 ,   菱川泰夫

ページ範囲:P.313 - P.315

 近年,C型肝炎の治療法として,インターフェロン(IFN)が広く用いられてきており,その副作用として心筋症,自己免疫疾患の悪化などがみられることがあり4),時には精神・神経系の副作用として,うつ状態,せん妄,幻覚・妄想状態,躁状態が発現することが報告されている6,8,9)。悪性腫瘍に対する使用の際には,脳波異常がみられたことも報告されており6,7),IFNが中枢神経系に及ぼす作用が注目されている。しかし,慢性C型肝炎での使用中に精神症状が発現した症例において脳波を経時的に観察した報告は少なく,また,IFN投与中に精神病治療薬などの薬剤が脳波に及ぼす影響を検討した報告はみられていない。
 今回,我々はIFN投与により,うつ状態と脳波異常を同時に呈した症例に対し,抗うつ薬であるamitriptylineを投与したところ,うつ状態と脳波異常が共に改善し,その経時的変化をみることができたので,ここに報告する。

Klüver-Bucy症候群を呈した転移性脳腫瘍の1例

著者: 新野秀人 ,   矢野哲生 ,   杉山みちる ,   神田晃 ,   山脇成人

ページ範囲:P.316 - P.318

■はじめに
 KlüverとBucyは,1937年にサルの海馬・扁桃核を含む両側側頭葉切除の際に観察された特異な精神症状群を報告した6)。その報告以来,精神外科的侵襲4)・脳炎2)・脳血管障害10)・初老期痴呆1)・頭部外傷11)など様々な原因によってヒトにおいても類似の症状が認められたという報告がみられるようになった。このたび我々は,転移性脳腫瘍を有する患者においてKlüver-Bucy症候群(以下,KB症候群)を呈した症例を経験したので報告する。

小脳を含む全汎性脳萎縮を認めた睡眠剤依存の1例

著者: 松崎吉紀 ,   新井平伊 ,   河村哲 ,   井上令一

ページ範囲:P.319 - P.321

 近年,精神神経科以外でも睡眠導入剤投与を受けている症例が増加している。今回,我々はプロムワレリル尿素,ペントバルビタールカルシウムおよびニトラゼパムの服用歴が合わせて25年以上に及び,CT上小脳を含む全汎性脳萎縮を認めた症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

離脱症状が認められなかったナロン錠(新配合剤)依存の1例

著者: 樋口賢一 ,   中山道規 ,   川村智範 ,   佐藤豊 ,   一ノ渡尚道

ページ範囲:P.323 - P.325

 「ナロン」錠は1955年から発売されている解熱鎮痛薬であり,特に昭和40年代初期には「鎮痛剤遊び」の対象として流行し,その依存症例の報告5,8,12,13)も多い。「ナロン」錠はこれまでに1975年と1977年の2回にわたって組成が変更されており,1977年以降の新「ナロン」錠に対する依存に関しては,功力ら6),服部ら4)の2例の報告がなされているのみである。
 今回我々は,既報告例とは異なり身体依存を認めない新「ナロン」錠の依存例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

私のカルテから

慢性分裂病経過中に生じた心因性昏迷の1例

著者: 菊野恒明 ,   帖佐隆

ページ範囲:P.326 - P.327

 分裂病患者が異常な体験反応を起こすことは日常経験されることであるが,その報告例6)は極めて少ない。また今日,「反応か,精神病か」という鑑別診断の重要性が強調されるあまり,「反応」と「精神病」は両立しえないかのごとくである。その意味で我々は,考えさせられる1例を経験したのでここに紹介する。

動き

「第11回青年期精神医学交流会」(岡山)の印象

著者: 松本雅彦

ページ範囲:P.330 - P.331

 のどかな岡山城を眺める対岸の県民ホール「三光荘」で,1993年11月27日の土曜日,岡山大学精神科青木省三先生を代表世話人として青年期精神医学交流会が開催された。この交流会も第11回と,いよいよ第2世代を迎えることとなった。大阪大学精神科に思春期専門外来が開設されて15年,それを記念し1980年に大阪でシンポジウムが持たれて第1回の交流会が発足したが,それからすでに13年という歳月が流れた。思春期専門外来が開設された1965年当時,思春期・青年期の精神医学はまだまだ雲をつかむような領域であり,多くの精神科医は何を手がかりにしてこの思春期・青年期に接近していってよいのか訊ねあぐねている状況であった。この領域に果敢に挑戦し,道を切り拓いてこられた藤本淳三,清水將之をはじめとする大阪大学精神科の先生方には,この交流会が第2世代を迎え,この会に参加する若い人たちが生まれなお生まれつつあることに,ひとしおの感慨を持たれたことであろう。
 この会はこれまで10回すべて近畿圏,関東圏,中部圏で開催されてきたが,第11回を機に中国・四国圏に足を延ばして岡山で開催され,しかも120名余の参加者のもとで盛会を得たことも特筆されるべきであろう。このような青年期精神医学への関心の高まりは,「豊かさ」を獲得したといわれる日本の中で,心の病理が低年齢の子どもたちにまで広がっていることによるとみるべきであろうか,それとも精神医学の進歩がこれまで看過されていた若者の病理にようやく触れることができるようになったとみるべきであろうか。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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