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文献詳細

雑誌文献

精神医学36巻4号

1994年04月発行

展望

妄想研究の現状

著者: 阿部隆明1 宮本忠雄1

所属機関: 1自治医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.340 - P.352

文献概要

■はじめに
 妄想は古来,狂気の中心現象であり,しばしば精神疾患と等置されてきた。しかし,妄想そのものが研究の対象となるのはくだって19世紀からであり,その頃には,Jaspersに帰せられる妄想の3標識がすでに指摘されていたという。さらに,欧米全域を通じて本格的な妄想研究が始まるのは,やはり1910年前後で43),ドイツ語圏には3つの主要な方向が相次いで出現する。Jaspers以降のハイデルベルク学派が主観的体験としての妄想を詳細に記述したのに対し,Gaupp,Kretschmerらのチュービンゲン学派は妄想の形成過程を多次元的に分析し,性格,環境,体験の力動関係を抽出した。またFreudに発する精神分析学派は,性愛的葛藤の抑圧や投射による妄想成立のメカニズムを問題にした。ちなみに,フランスでも,この頃に臨床単位としての妄想病が丹念に記述され,これと並行して現代の疾病分類の骨格がほぼ完成した。
 これらの研究の消息をたどると,ハイデルベルク学派は,K. Schneider,von Baeyerを経て,Blankenburgらの現象学的人間学派の妄想論につながり,1つの頂点に達した。またチュービンゲン学派の構想は,Pauleikhoff53)の30歳代の妄想幻覚病などにその影響をみてとれるように,実践的な有用性ゆえ広く受け入れられ,今日の妄想の臨床に大きく貢献しているが,この構想の性質上,それ以上の理論的深化はみられない。精神分析学派の妄想論もFreud以降本質的な発展はなく,フランスのラカン派の精神病論が注目される程度である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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