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文献詳細

雑誌文献

精神医学36巻6号

1994年06月発行

文献概要

特集 精神医学と生物科学のクロストーク

精神分裂病の病因研究に関する私見

著者: 中井久夫1

所属機関: 1神戸大学医学部精神科

ページ範囲:P.599 - P.607

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■はじめに
 精神分裂病の病因研究に私が関心を持つとすれば,それは,治療との関連においてである。
 しかし,病気の原因というものは,我々が素朴にこれと指摘できるものとは限らない。むしろ,そちらのほうが例外である。病気というものは通常,長い事件の連鎖あるいはパターンあるいは布置である。その中で不可欠な因子があれば,我々は,これを病気の原因という。感染症でも一発必中というのは狂犬病かラッサ熱ぐらいしか思い当たらない。
 私が分裂病の治療に当たるようになってから,感じた疑問はかなり実際的なものである。
 まず私は,分裂病というものがかなり特殊な病態なのか,それともかなり広く分布していて,その頂点が臨床的分裂病となっているのか,どちらであろうかと考えた。かつて,結核の場合は後者であって一次複合を肺に持つ者は持たない者より多かった。私は後者ではないかと考えた。その理由の一つは,これほど広範囲に広まって,しかも一般人口のあるパーセントだけが発病する病態だからである。もう一つ,もし遺伝性があるなら,どうして淘汰されてしまわないのかという「Huxleyの問題2)」をも考えた。つづまるところ,多くの人が分裂病にならずに済んでいるのはどうしてかということになるのかもしれない。
 私の考えはすでにあちこちに書いたし,憶測の憶測の水準にとどまっていることは承知している。しかし,もう機会もそれほどないであろうから,あらましを述べておきたい。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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