研究と報告
精神病患者のがん手術に対するインフォームド・コンセント
著者:
永山建次1
鈴木茂2
新居昭紀1
所属機関:
1聖隷三方原病院精神科
2県西部浜松医療センター精神科
ページ範囲:P.625 - P.632
【抄録】 精神病患者4例のがん治療に際してのインフォームド・コンセント(IC)経験を報告し,手術に関する彼らの同意能力について考察を加えた。我々の経験から判明したことは,①精神科への入院や精神病治療に関するICは不成立でも,がん手術に関するICが成立する例があるので,両者は別個に扱われるべきである。②慢性分裂病患者や躁うつ病患者は,身体的治療に関してある程度の同意能力がある。各疾病が持つ特性に合わせた形のICが工夫されなければならない。③痴呆患者に対しても,信頼関係の樹立というIC思想の原点に立つならば,残された感情能力を尊重し,ICに努める姿勢が治療者側に求められる。④同意能力の判定は,客観的な基準を設けて形式上の矛盾を解消しようとすれば,個別適用の場面で困難や安易さが生じる。他方,実際適用上の判定困難例や矛盾の存在に固執すると,客観的・形式的基準が作成できなくなる。このパラドックスには精神医療にとって本質的なものが含まれており,安易な解消を望むべきではない。