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雑誌目次

雑誌文献

精神医学36巻8号

1994年08月発行

雑誌目次

巻頭言

新しい疾患の提唱

著者: 小阪憲司

ページ範囲:P.784 - P.785

 現在の医学界の中では,新しい疾患を見い出すことは困難であり,しかもそれが広く受け入れられるようになるには,随分と時間がかかるものである。まず,筆者の経験を紹介しよう。
 筆者が名古屋大学の精神科に所属していた頃に,ある精神病院で痴呆の患者を担当したことがある。当時筆者は大学病院で老人クリニックを受け持ち,神経病理研究グループに属していたが,その老女が貴重な症例であるとは思いもせず,普通のアルツハイマー病ではないかと考えていた。筆者が担当して1年も経たないうちに,不幸にしてその老女は腸重積で急死してしまった。剖検の許可を得て,自分で剖検し,2〜3カ月後に標本ができるのを待って,臨床の合間に標本を鏡検したのを思い出す。最初に気づいたのは多数の老人斑と神経原線維変化であり,やはりアルツハイマー病だったかと思ったが,さらに黒質や青斑核などの脳幹の諸核にレビー小体が多数見つかり,パーキンソン病を合併したアルツハイマー病と診断した。この種の症例は当時としては珍しい症例であった。ところが,さらに詳しく鏡検していると,大脳皮質の深部の小型の神経細胞にエオジン好性の小体がたくさんあることに気づいた。当時はレビー小体が大脳皮質に多数出現することはないというのが通説であったため,それがレビー小体かどうかが問題となった。この頃はまだ文献検索が今ほど容易ではなかったため苦労したが,1961年にボストンの岡崎春雄教授が大脳皮質にレビー小体様の封入体を多数みた2症例を報告していることを知った。しかし,岡崎教授もこの封入体をレビー小体とは同定しなかった。さらに,当時岐阜大の難波益之教授のグループが若いパーキンソン病の症例で大脳皮質に同様の小体が多数出現した症例を神経病理学会で報告したので,難波教授のもとを訪れ,その症例を鏡検させていただいた。そしてそれが筆者らの症例で見たのと同じ小体であることを確認し,筆者はそれがレビー小体であると考えた。後に岐阜大の症例の電顕研究から現在東京都精神医学総合研究所で私の後任として神経病理研究室の主任をしている池田研二博士がその大脳皮質の小体を未熟型レビー小体として「脳と神経」に報告した。

展望

精神障害と犯罪

著者: 山上皓

ページ範囲:P.786 - P.797

■はじめに
 筆者らは最近,精神障害者の犯罪の被害者やその遺族に接する機会をよく持つが,そこであらためて,彼らの心に残された傷の深さを知らされることが多い。犯行が唐突で理不尽であること,加害者の責任を問うことさえ許されないという事実,加害者のみの人権擁護を主張する報道機関や医療関係者の姿勢,そしてあまりに簡単に認められる加害者の退院など,精神障害者の犯行に伴う諸事情が,被害者・遺族の気持をうっ屈させ,いっそう深く傷つけているのである。
 我が国の精神障害犯罪者処遇体制には重大な欠陥があるが,精神科医の間には,まだ,精神障害と犯罪に関する話題をタブー視する風潮があり,その改善にはなお多くの困難があるように見える。しかし,あらためていうまでもなく,精神障害者の犯行は,本人はもちろんのこと,その家族や地域社会にまで,計り知れないほど深い傷跡を残し,その後の治療に重大な障害をもたらすものである。したがって,精神障害者の犯罪の予防への努力は,本来,精神科医療活動の重要な一部として位置づけられるべきものであるはずである。
 そのような立場から,筆者は本論を通じて我が国の精神障害犯罪者の実態を明らかにするよう努め,諸兄に対応策をご検討いただく際の資料の1つとなりうるよう心がけたい。

研究と報告

アルコール依存症に合併した病的賭博

著者: 森山成彬 ,   古賀茂 ,   塚本浩二 ,   出田哲也 ,   斉藤雅

ページ範囲:P.799 - P.806

 【抄録】 1992年4月から1年間に八幡厚生病院を初診したアルコール依存者全員109名(男101名,女8名)を対象に,病的賭博の合併率を調べた。病的賭博の診断にはSouth Oaks Gambling Screenの邦訳を用い,得点5点以上を病的賭博,4点を問題賭博とした。結果は病的賭博が10名(9%),問題賭博が7名で,いずれも男性であった。男性で,問題賭博を含めた賭博群と非賭博群を比較すると,両者の平均年齢は変わらないが,賭博群は犯罪歴や,泥酔による警察の保護歴が有意に高く,高学歴で,離婚者や未婚者,単身生活者が多く,定職者が少ない傾向がみられた。ドロップアウト率も高かった。アルコール依存症における病的賭博の合併率は米国と大差なく,一般人口中の病的賭博者も欧米並みに多いことが推測された。

10代のアルコール依存症者たち

著者: 石井宣彦 ,   鈴木健二

ページ範囲:P.807 - P.814

 【抄録】 今回我々は1984年から1992年の9年間に国立久里浜病院を受診し,DSM-Ⅲ-Rの診断基準を満たした10代のアルコール依存症者10例(平均年齢17.9歳,男性8例,女性2例)の特徴,臨床経過,家族背景などについて検討し,以下の知見を得た。①アルコールのみに依存していた群(アルコール嗜癖群)は3例のみで,アルコール以外に他の嗜癖も合併していた群(多因子嗜癖群)が大半を占めた。②アルコール単独群では患者個人の障害が発症の大きな要因になっていたのに対し,多因子嗜癖群では家族問題が重篤で,その結果としての対人関係障害が発症の主たる要因であるように思われた。③10代のアルコール依存症者における依存形成は急速で,初飲から受診に至るまでの平均期間は3.2年であった。④アルコール関連臓器障害は概して軽度なものであった。⑤10例中7例は治療が中断となり,10代のアルコール依存症者は治療困難な一群であると考えられた。

アルコール依存症患者における視床下部-下垂体-副腎皮質系の機能異常

著者: 井田能成 ,   辻丸秀策 ,   向笠浩貴 ,   白尾一正 ,   中沢洋一

ページ範囲:P.815 - P.819

 【抄録】 16名のアルコール依存症患者を対象にして,入院2日目,7日目,14日目,28日目の午後4時の血漿ACTH値と血清cortisol値を測定し,13名の健常者の午後4時の値と比較した。各採血時刻における離脱症状の程度はCIWA-Aを用いて評価した。入院2日目にはACTHは正常値であったがcortisolは高値を呈し,cortisolの高値の程度は離脱症状の重篤度と正の相関関係を示した。離脱症状がほぼ消退した入院7日目にはACTHは低値をcortisolは正常値を示したが,入院14日目にはACTH,cortisolともに低値を示し,入院28日目にはいずれも正常値まで回復した。これらのことから,アルコール依存症患者では急性離脱期にはACTHの過剰分泌を伴わない過cortisol血症を呈するが,その発症には長期間の反復飲酒の結果生じた視床下部-下垂体-副腎皮質系の機能異常に離脱症状の出現が加わることが関係している可能性が,またそのような機能異常は断酒後4週間以内に正常化することが示唆された。

アルコール依存症に出現したペラグラ脳症と考えられる1例—Nicotinic acid deficiency encephalopathyに関する臨床的考察

著者: 高橋正 ,   島崎正次 ,   新井平伊 ,   井上令一

ページ範囲:P.821 - P.828

 【抄録】 我々は,アルコール依存症の長期経過中に,アルコール離脱症候群の振戦せん妄やアメンチアなどの遷延性軽度意識障害,持続する下痢や軟便などの消化器症状,失調性歩行,筋強剛,深部反射亢進,原始反射,嚥下障害,構語障害などの多彩な神経学的所見を示し,臨床診断学的にペラグラ脳症と考えられた症例を経験した。本症例は,ニコチン酸アミドの大量投与により劇的な症状全般の改善を示し,Jolliffeらの報告したニコチン酸欠乏性脳症の症例に類似していた。ペラグラ脳症剖検例の報告はこれまでにも散見されるが,最近の診断機器による所見を含めた臨床的観点に重点を置いた報告はない。典型的なペラグラの3徴を示さず,皮膚症状や消化器症状を欠くタイプも稀ではないことから,ペラグラ脳症の臨床診断は容易ではない。本症例を通じペラグラ脳症の臨床的考察を行い,検査や治療と合わせてここに報告する。

自閉症にみられる相貌的知覚と妄想知覚—情動的コミュニケーションの成り立ちとその意義

著者: 小林隆児

ページ範囲:P.829 - P.836

 【抄録】 青年期自閉症の1例の治療を通して,自閉症に特有な知覚様態として相貌的知覚と生き生きした情動vitality affectの存在を指摘した。乳幼児期に特徴的なこのような知覚様態が,自閉症では加齢を経ても活発に作動しやすいことが推測された。そのため彼らの環境世界は容易に相貌性を帯びて変容していくと考えられた。このようにして知覚された環境世界を他者と共有化するための機能を果たすべき言語によって意味づけることが彼らには非常に困難であることが,自閉症における認知障害の本質的な問題であることを指摘した。もし彼らが開かれた共同性からの撤退を余儀なくされる状況に置かれたならば,知覚した環境世界に対して彼ら独自の意味づけを行うことによって,妄想知覚とみなせる精神病理現象が生起するに至ると推論された。このような自閉症の知覚様態の特性は,自閉症において情動的コミュニケーションが成立するための基本的能力の存在を意味するとともに,その成立を可能にするような治療者側の関与のあり方の重要性を示唆していた。

Marfan症候群として治療中,躁状態・反応性もうろう状態を呈したホモシスチン尿症の女児例

著者: 中山道規 ,   駒井秀次 ,   木村和弥 ,   一ノ渡尚道

ページ範囲:P.837 - P.843

 【抄録】 ホモシスチン尿症は,新生児マス・スクリーニングの対象となっている先天性代謝異常症に含まれる常染色体劣性遺伝の極めて稀な疾患である。また本疾患はしばしば水晶体偏位や四肢細長,クモ状指など,Marfan症候群に類似する臨床症状を示すことから,両者の鑑別が問題になる。今回我々は,新生児スクリーニング(ガスリー法)で発見されず,小児期から精神発達遅滞を伴うMarfan症候群としての治療および経過観察を受けてきて,14歳時に躁状態ともうろう状態を発症したため当科を受診し,その後の精査でシスタチオニンβ-合成酵素欠損によるホモシスチン尿症と診断された1女児例を経験したので報告した。

ロールシャッハ・テストからみた森田療法適応例の病態水準

著者: 久保田幹子 ,   深津千賀子 ,   三宅由子 ,   北西憲二

ページ範囲:P.845 - P.852

 【抄録】 ロールシャッハ・テストからみた森田療法適応例の客観的特徴を明らかにするために,入院森田療法を施行した46例を病態水準の観点から検討し,さらに中途脱落群と軽快群の比較を行い,転帰との関連について考察した。その結果,①森田療法適応例の病態水準には高次の水準から低次の水準まで幅があることが示された。②軽快群,脱落群ともに,異なる病態を含んでおり,転帰を病態水準のみで予測することは困難と考えられた。③病態水準以外の要因と転帰との関連について検討した結果,病態水準の高い群はテストの因子のみで転帰を予測することは困難であり,他の要因も関与していると推察された。④病態水準の低い群では明らかな違いが認められ,病理は重くとも内向的で外界と情緒的な距離を置くタイプは改善の可能性が高いが,不安耐性が低く,情緒的に巻き込まれやすいタイプは脱落の危険性が高いと理解された。

単純肥満についての心理学的考察

著者: 石井雄吉 ,   八木美楠子 ,   相田葉子 ,   石原学 ,   井上修二 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.853 - P.860

 【抄録】 Lerner Defense Scaleを用いて,女性17例の難治性単純肥満(SO)群と女性15例の健常(N)群のロールシャッハ・テストにみられるprimitive defense mechanisms(PDM)現象を比較し,人格構造の観点から,SOにおける統制困難な過食について検討した。PDMの比較では,SO群はN群に比して,borderline personality organization(BPO)における中心的な防衛メカニズムである分裂を有意に多く示した。また,投影性同一視は,統計的に有意ではないが,SO群のみに認められた。このようなPDMの布置は,SOにおける基礎をなすBPOを示すものである。そこで,基礎をなすBPOを共有するSOと摂食障害は,境界例症候群の1亜型と考えられた。SOは,女性に優勢であった。これは,体質的要因と環境的要因との相互作用による,女性に特徴的な攻撃性の抑制に基づくと考えられ,現代女性の行動化の変化と比較すると,SOにおける統制困難な過食は,古典的な防衛であると考えられた。

短報

抗うつ剤抵抗性うつ病にリチウム

著者: 小西博行 ,   辻本浩 ,   梅田幹人 ,   佐藤由里子 ,   志水隆之 ,   金子仁郎

ページ範囲:P.861 - P.864

 うつ病の薬物療法には,イミプラミンに代表される三環系抗うつ剤,ならびに第2世代の抗うつ剤といわれる,四環系抗うつ剤が広く使用されている。多くのうつ病は,これらの抗うつ剤に反応するが,なかには反応しないうつ病も日常の臨床で経験する。
 抗うつ剤に反応しないうつ病に対して,①診断の見直しと,コンプライアンスの確認,②基本的な抗うつ剤に戻して,投与量を増やし,血中濃度を上げる,③ECTを考慮する,④リチウムを併用するなどがすすめられている。

colpocephalyと脳梁欠損症を認め多彩な精神症状を呈した1成人例

著者: 長坂明仁 ,   朝田隆 ,   福澤等 ,   假屋哲彦

ページ範囲:P.865 - P.867

 colpocephalyとは,側脳室後角のみの拡張状態を形態学的に表現する術語である。その発生率はNooraniら6)によると,健常小児3,411名中14名であり,そのうち8名は後述の脳梁欠損症を合併している。この脳梁欠損症は発生の異常,出産時の外傷などにより脳梁の全部,あるいは一部が欠損した状態をいう。その発生率は一般人口において0.1〜0.3%とされている5)。両疾患において認められる臨床症状はほぼ類似しており,精神遅滞,視神経萎縮を時に伴う視覚障害,てんかん,中枢神経系における他の奇形の合併,筋緊張の低下などである2,3,5,6)。また精神遅滞者にみられる両疾患の率,精神分裂病者にみられる脳梁欠損症の率は健常者に比較して有意に高いとされている7)。こうした患者の中に時に種々の染色体異常を認めることも知られている6)
 今回colpocephalyと脳梁欠損症を合併し,多彩な精神症状と神経心理学的症候を呈した成人例を経験した。これについて若干の考察を加え報告する。

精神症状の出現に一致してFIRDAが認められた単純ヘルペス脳炎の1例

著者: 岡村仁 ,   佐々木高伸 ,   前正秀宣 ,   佐藤由樹 ,   菊本修 ,   中村靖 ,   好永順二 ,   引地明義 ,   中山隆安

ページ範囲:P.869 - P.871

■はじめに
 FIRDA(frontal intermittent rhythmic delta activity)1)は脳波所見のうち,前頭部に限局して間歓的に出現する単律動性高振幅δ波を指し,脳腫瘍,脳血管疾患,精神疾患など種々の疾患での出現が報告されている6)。単純ヘルペス脳炎の脳波所見としては周期性放電がよく知られているが,FIRDAの出現の報告はあまりない。今回筆者らは,単純ヘルペス脳炎の経過中にFIRDAが認められ,しかもFIRDAの出現が精神症状のそれと一致していた症例を経験したので報告する。

紹介

ドイツ・ロマン派精神医学

著者: ,   川合一嘉 ,   高橋潔 ,   濱中淑彦

ページ範囲:P.873 - P.880

 19世紀ヨーロッパ医学の進展の歴史については,皆さんは幾度も話をお聞きになったことがおありでしょう。さらに,このヨーロッパにおける臨床医学が,台頭してきた自然科学を範例としてこれと結びつくことによって進歩を期待されていたこと,そしてひとたび生じたこの連合が,19世紀の終わりには自然科学的医学へと結実し,20世紀の今日,全世界を席巻し始めた様についても,繰り返し耳にしていることでしょう。医学ならびにその各専門領域,そこには精神医学も含まれますが,それらがこのような形で進歩しているという考えは,歴史記述の基本であって,20世紀前半になってもほとんど疑う余地のないものでした。20世紀も終わりに近づくと,純粋に自然科学的な基盤の上に組み立てられた医学というものへの懐疑も生じましたが,それでも世界中の医学史家の多くは,とりわけ彼ら自身が医師である場合,この進歩という思想が歴史記述一般の唯一妥当な基本であることを今後も確信し続けることでしょう。
 こうした考えに歴史家達がうんざりしなかったということに,私はしばしば驚きを禁じえませんでした。なぜならこの考えは,いつも決まりきった結論,すなわち私達は先人達よりもずっと良い状況にあるのだということを唱えるだけで,歴史の記述にもっと科学的な意味づけを盛り込むことに目をつぶっているからです。他方,別の歴史家達は,まさに精神医学史において逆の道をたどっています。彼らは科学化ということを,とりわけ精神医学のそれを,言葉の貧困化ととらえ,医師患者関係がうまくいかないことを科学の責任とみなしています。彼らは次のごとき時代に憧れます。つまり精神科医達が哲学に沈潜し,自ら物した大著の中で,神や人間やその世界と対峙していた時代に憧れているのです。

私のカルテから

多飲と過多喫煙により誘発された水中毒の外来慢性分裂病患者

著者: 新井進 ,   小林勝司 ,   西嶋康一

ページ範囲:P.882 - P.883

 長い間,外来通院を続けていた慢性分裂病患者が意識障害下の自殺企図で緊急入院となった症例である。入院時諸検査から水中毒と診断され治療された。その病因として多飲に加えて過多喫煙の状況が挙げられた。

動き

「WAIMH東京大会1994」印象記

著者: 本城秀次

ページ範囲:P.884 - P.885

 世界乳幼児精神保健学会(World Association for Infant Mental Health;WAIMH)のRegional Meetingが1994年4月8,9日の2日間東京の京王プラザホテルで開催された。当初の予想をはるかに上回る約600名の参加者があり,盛会であった。乳幼児精神医学に関連した国際会議が我が国で開催されるのはこれが初めてであり,我が国における乳幼児精神医学の発展にとって重要な意味を持つ会議であった。

「日本精神・行動遺伝学研究会」印象記

著者: 米田博

ページ範囲:P.886 - P.886

 第2回日本行動遺伝学研究会は,大阪医科大学神経精神医学教室堺俊明教授を会長として,1994年3月26日,豊中市の千里ライフサイエンスセンターで開催され,約90名の出席者があった。
 本研究会は,会則にあるように精神医学,行動医学の領域における遺伝学的研究の推進を目的としている。ことに最近めざましい発展を遂げている分子生物学が,精神医学や行動遺伝学の領域にも強力な研究手法として取り入れられるようになり,世界的に多くの重要な知見が報告されている。そこで精神科遺伝学の世界会議が1989年より隔年に開催されるようになり,昨年第3回の学術集会がアメリカ合衆国ニューオリンズで開催されている。このような動きの中で,我が国でもこの分野の研究会の開催が望まれるようになり,1992年5月,30名足らずの出席者ながら行動遺伝学研究会として初めての研究会を,大阪医科大学神経精神医学教室堺俊明教授を中心に開催した。昨年は世話人会を発足し,日本行動遺伝学研究会として第1回の研究会を東京医科歯科大学融道男教授を会長に東京医科歯科大学特別講堂において開催した。

「精神医学」への手紙

Letter—『吃音』の定義と原因の解釈—河田論文に関連して/Letter—「反復性短期うつ病」について—仙波論文を読んで

著者: 苅安誠

ページ範囲:P.890 - P.891

 吃音は,ことばの始めの音・音節の繰り返し(タたまご),音の引き伸ばし(SSSさかな),ブロック(あ・・たま),といった非流暢な発話を主症状とする小児の言語障害である1)。脳損傷2,3)や精神分裂病7)では非流暢な発話を認めるが,語や語句の繰り返し,言いよどみなど,吃音とは質的に異なる言語症状を呈する。河田ら5)の症例は,脳の器質的異常を認め,発話運動にぎこちなさを示し「第1語発語障害」があり,L-DOPSが有効であったことから,パーキンソン症候群による運動障害性構音障害6)と考えるのが妥当であろう。
 また,吃音の原因について,吃りの真似や利き手の矯正を引用しているが,これらは古典的な学説であり,実証するデータはない1)。吃音は,症状に波があり,歌唱時などには出現しないことから,一貫した病態を呈する運動障害性の発話異常とは本質的に異なる4)。したがって,単独では発話異常を来さない程度の発話運動の協調不全が言語・社会環境に伴うストレスによって表面化したもの8)ととらえるのが,我々の臨床経験とも合致する考え方である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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