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雑誌詳細

文献概要

短報

自殺を目的とした放火—精神分裂病者の攻撃性と自己実現

著者: 小林一弘1 大原健士郎1

所属機関: 1浜松医科大学精神神経科学教室

ページ範囲:P.1112 - P.1114

 中田5)は我が国でも放火と自殺との関連性について関心が払われており,中村や小木の先駆的研究があると述べている。しかし,黒澤2)の報告によると精神分裂病者の自殺手段として放火(焼身)が選択される確率は6%であり,都立墨東病院と監察医務院の1978年の統計7)では4.9%足らずで決して多くない。
 今回,自殺の方法に焼身自殺を選択し,自宅に放火したが未遂に終わった精神分裂病の精神鑑定例を報告した。本症例に,若干の精神病理学的考察も加えた。攻撃性に注目すると,「自己攻撃(自殺)」と家族の所有財産である家屋の破壊という「他者攻撃」の要素が両価的に認められた。そして,病者を自殺に追い込む心理状態の形成の原因には主に,自己不全感,自己卑下感を中心とした葛藤があると思われたが,攻撃性の表出形態には,環境要因(家族の共同体としての機能不全)や,管理社会の抑圧などが複雑に関与していると考えられた。また,「アピール性」から,自己の強さを証明し「自己実現」を希求したものと考えられた。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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