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文献詳細

雑誌文献

精神医学37巻11号

1995年11月発行

文献概要

展望

血管性痴呆およびアルツハイマー型痴呆概念の誕生—100年前の医学史回顧—その1.血管性痴呆

著者: 原田憲一1

所属機関: 1前東京大学精神科

ページ範囲:P.1132 - P.1146

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■はじめに
 今日,血管性痴呆およびアルツハイマー型痴呆は老年期の二大痴呆症としてそれぞれまとまりのある疾患概念として受け入れられている。しかし,この二つの痴呆症が今日のような形で私たちに明らかにされたのはそれほど昔のことではない。それは今からちょうど100年前,すなわち19世紀の終わりから20世紀の初めの十数年間においてであった(表1)。
 100年前の世紀転回期にはここで述べようとする二大痴呆症のほかにも,精神医学の領域で大きな発見や飛躍がいくつも起こった。Kraepelin, E. の早発性痴呆もFreud, S. の精神分析学説も1900年を挟む数年の間に現れた。そして痴呆症の発見には,それに先行,同伴した臨床神経学と神経科学,特に神経病理学の発展が不可欠であった。今日知られている多くの基本的神経学症状とその検査法(例えば,深部腱反射やバビンスキー反射)は1870年から1900年までの30年間に明らかにされている(McHenry29))し,病理組織学的研究法(例えばヘマトキシリン-エオジン重染色法,ニッスル染色法やホルマリン固定法)もほぼ同じ時代に急速に発展した(川喜多20))。
 今日なお解決できていない老年期痴呆症の問題を考える上で,100年前のこの二大痴呆症発見の歴史を知ることは,私たちに新鮮な勇気を与えてくれるに違いない。当時議論され,今日なおそのまま残されている問題もあるし,先人たちが考え迷った軌跡から私たちが学ぶべきことは少なくないであろう。
 まず本号では血管性痴呆概念成立について述べ,次号においてアルツハイマー型痴呆の発見について述べる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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