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近世京都岩倉村における「家庭看護」(上)
著者: 跡部信1 岩崎奈緒子2 吉岡真二3
所属機関: 1大阪城天守閣 2京都大学大学院文学研究科国史学専攻科 3精神科医療史研究会,上川病院
ページ範囲:P.1221 - P.1228
文献購入ページに移動岩倉(京都市左京区)は日本における精神病者の家庭看護発祥の地として高く評価されてきた。そして,その歴史については,江戸時代から精神病者が大雲寺に参籠しはじめ,参籠人の飲食物や宿泊の世話をする茶屋ができたこと,そしてこれらの茶屋が,近代に家庭看護を実践する「保養所」の母体となったことなどが指摘されてきた1)。
しかし,これまで前近代における岩倉での精神病者療養の歴史は十分に解明されてきたとはいいがたく,伝説,伝承などをそのまま採用している部分も少なくなかった。明治39(1906)年に岩倉を視察したロシア人医師スチーダ2)によって「日本のゲール」と評された家庭看護には,いったいどのような前史があるのだろうか。
さいわい私たちは近世の岩倉を知る手がかりとなる実相院文書3)をはじめ,いくつかの史料を目にすることができた。本稿ではそれらの史料に基づき,岩倉と精神病者との関わりについてその成立と発展の過程をたどっていきたい。そしてさらに,近世における精神病者の療養がどのようなものであったのか,その実態の一端を明らかにしたい。
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