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雑誌目次

雑誌文献

精神医学37巻2号

1995年02月発行

雑誌目次

巻頭言

情報化・国際化時代における分化と統合

著者: 浅井昌弘

ページ範囲:P.116 - P.117

 あと5年で21世紀になろうとしている昨今の状況について,情報化と国際化,そしてスピード化,価値観の多様化などの傾向を挙げることができる。情報化はコンピュータにより促進されたが,種々の側面がある。一つには『アナログ情報のデジタル化』があり,連続的な事柄を区切って数量化したり,質的なものを量的なものに変換して検討したりする手法がある。精神現象を言葉という文字情報で記載する場合にも問題があるが,さらに数字化することになるといろいろな疑問も生じうる。しかし数字を用いて数量化しなければ客観的な検討はなかなか進まない。こういったことは単純に正しいとか間違いとかいうよりも何が問題なのかを認識していることが大切と思われる。
 情報化の今1つの側面は『情報過多』ともいうべき情報量の増加であって,新聞・雑誌・単行本・CD・フロッピーその他の記憶媒体による大量の情報の蓄積・複写と伝達方法の発達である。あらゆる情報は移動電話やファクシミリ・衛星テレビ・国際宅急便・電子メール・光ファイバーネットワークなどの情報伝達システムの発達により迅速に伝播されてゆく。しかし,情報過多に悩まされることも多く,情報の有効な整理・活用法が必要になり,ある目的に最も適切な情報を最も早く検索して活用することが重要であり,そのためには最も適当なデータベースや情報システムを選択して,キーワードや重み付けを適切に設定することに十分留意せねばならない。

展望

Evidence-based Psychiatry—実証的証拠に基づく精神医療(第1回)

著者: 古川壽亮

ページ範囲:P.118 - P.128

「一大兵団ヲ中分シテ,一半ニハ麦ヲ給シ,一半ニハ米ヲ給シ,両者ヲシテ同一ノ地二住マハシメ,ソノ他ノ生活ノ状態ヲ斉一ニシテ,食米者ハ脚気ニ罹リ,食麦者ハ罹ラザルトキハ,マサニ,ワヅカニソノ原因ヲ説クベキノミ」―脚気の原因の解明方法について森林太郎(1888)

研究と報告

受動攻撃的心性—精神病理と精神療法的意義

著者: 佐藤裕史 ,   山口隆 ,   福留瑠美

ページ範囲:P.129 - P.136

 【抄録】受動攻撃性は,戦後米国で提唱され,初版以来のDSMにこの名を冠して人格障害の1亜型として掲載されてきた概念であるが,ヨーロッパの人格類型論やICDには対応する概念がなく,近年その診断学上の妥当性や重要1生に対する疑義が説かれている。また日本では境界型人格障害に関心が集中し,受動攻撃性人格障害はあまり取り上げられず,人口に膾炙しないまま現在に至っている。しかし,独立した人格類型を構成しないにせよ,受動攻撃性は,心性・防衛機制ないし反応パターンとしてみると,難治性うつ病や心身症などの強い治療抵抗性を示す病態の理解や精神療法的接近にとり臨床的意義を有すると思われる。自験例から受動攻撃性への対応の失敗例・成功例を提示し,「甘え」(土居),ocnophilia(Balillt)やalexithymia(Sifneos)などの精神病理学的概念と受動攻撃性との関連について論じた。

精神分裂病患者の「草むらテスト」における表現の適切性

著者: 横田正夫

ページ範囲:P.137 - P.141

 【抄録】草むらテストの臨床的有用性を調べるために,分裂病患者,正常者のそれぞれの青年期,中年期の各25名,計100名から得られた草むらテストの描画を,正常者2名が表現の適切性について評定した。その結果,分裂病患者の評定値は青年期と中年期のいずれにおいても正常者のそれより有意に低く,表現の適切性が劣ることが明らかにされた。個々の描画を見ても,分裂病患者の描画には,草むらテスト課題の解決が十分でないものや解決を放棄した独特のものが見いだされていたが,正常者の描画にはそのようなものは認められなかった。これらのことから草むらテストが青年期,中年期のいずれにおいても分裂病患者と正常者を鑑別するために有用であることが示唆された。

保健所における教師の集団を対象にした精神保健コンサルテーション

著者: 吉川領一

ページ範囲:P.143 - P.152

 【抄録】保健所における教師の集団を対象にした精神保健コンサルテーションが,筆者をコンサルタントとして,教師の集団をコンサルティとして,コンサルティ中心に6年間で23回行われた。その集団過程に注目し,集団精神療法に特有な治療的要因の中で,集団の凝集性という因子を重視した。集団の凝集性は,コンサルタントに対する信頼感および集団に抱えられているという安心感と,相互に作用しながら,発達していくと考えられた。その際,集団精神療法で用いられる「今ここで」の視点を応用すると,集団の凝集性が強化され,教師の集団を対象にした精神保健コンサルテーションの利点が十分に認められるようになることを指摘した。

家族への憑霊妄想に基づいて自室に放火した三人組精神病(folie à trois)

著者: 風祭元 ,   鈴木幹夫 ,   斉藤高雅 ,   津川律子

ページ範囲:P.153 - P.161

 【抄録】父(A)59歳,母(X)54歳,長女(B)27歳,次女(C)24歳,長男(Y)15歳の5人家族内で,A,B,Cの3人がほぼ同時に憑霊妄想を共有して精神病状態に陥った三人組精神病(folie à trois)の症例を報告した。この家族は,東北地方で育ち,東京で生活していたが,Yが精神分裂病になり,病状が悪化しつつあった。AとBは,僧侶の指導の下に信仰によりYを治療しようと試みていたがうまくゆかず,BはYに先祖の悪霊が愚いているという妄想を持つに至った。この状況に,それまで別居していたCが入り込んで祈禱性精神病の状態になり,A,B,Cの3人が憑霊妄想を共有し,悪霊を払うために室内に放火し,逮捕された。この3人が発病に至るまでの精神病理についてさまざまな側面から考察を加え,また,感応精神病の司法責任能力についても論じた。

長期にわたる再燃と寛解を繰り返し,臨床的にMarchiafava-Bignami病と診断された1例

著者: 竹内賢 ,   新国茂 ,   柳沼典正 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.163 - P.169

 【抄録】MRIと神経心理学的検査によって診断しえたMarchiafava-Bignami病(MB病)の1例を経験した。本症例は長年の飲酒歴を持ち,てんかん様発作,意識障害,多彩な神経症状を呈しながら十数年にわたって入退院を繰り返した後,同様の症状による5回目入院時にMRIで脳梁の中心性病変,また神経心理学的にDichotic Listening Testで強い右耳優位性と,視空間課題における右手の拙劣化が認められ,臨床的に本症と診断された。CTでは脳梁病変は確認できなかった。急性期症状からは過去の入院時症状も本症によるものである可能性があり,本症例はMB病の再燃例である可能性が示唆された。本症例では5回円人院時には断酒中であり,低栄養状態を症状発現の契機としていた。以上よりMarchiafava-Bignami病の再発の可能性を指摘し,MRI診断の有川性と,栄養管理の重要性を強調した。

長期にわたり精神分裂病と診断されていたモザイク型Klinefelter症候群の1例

著者: 塩入俊樹 ,   村下淳

ページ範囲:P.171 - P.178

 【抄録】46年間にわたり精神分裂病と診断され入院治療されていたが,身体合併症に対する処置により,たまたま矮小睾丸症が認められた結果,モザイク型Klinefelter症候群を伴っていることが判明した1例について報告した。初発症状は,幻覚・妄想と行動異常が一過性に現れ,いったん寛解した後,再び妄想と精神運動興奮,さらに誇大・血統的内容を持つ妄想構築があり,この幻覚妄想状態は数年の問期性をもって変動する傾向があった。また高度の人格荒廃には至らなかったが,治療反応性が悪かった。これらは,これまでに報告されている10例の47, XXYの本症候群の予後が比較的良いのに比べて,異なっている結果であった。精神症状を呈し,生殖能力が存在していたと思われる46, XY/47, XXY/48, XXXYモザイク型Klinefelter症候群は極めて稀なものと思われるので報告し,若干の文献的考察を加えた。

多飲から肺水腫を来した水中毒の1死亡例—肺水腫併発例の文献的検討

著者: 榎田雅夫 ,   山崎潤 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.179 - P.185

 【抄録】抗精神病薬の自己中断後に,精神症状の再燃に伴って突然の多飲から水中毒を来した精神分裂病の1症例を報告した。全身けいれん発作,昏睡,呼吸困難を示し,胸部X線検査で著明な肺水腫所見を認めたが,その後呼吸・心停止を来して急速に死の転帰をとった。
 これまで報告された肺水腫を併発した水中毒症例に本症例を加えた10症例について検討した結果,1)重篤な意識障害とけいれん発作を示す例が多いこと,2)呼吸困難,チアノーゼ,胸部ラ音聴取などの呼吸器症状を示すことが特徴的であること,3)著明な低Na血症を示す症例が多いこと,4)脳浮腫を合併する症例が多いこと,5)死亡率が高く予後不良であること,などが特徴と考えられた。
 水中毒の診断と治療に当たって肺水腫の併発に留意すべきことを強調し,肺水腫併発例には積極的な治療が重要であることを述べた。

Anorexia nervosaの1症例—食物の細分化と「デジタル化(数値化)傾向」という視点から

著者: 花澤寿

ページ範囲:P.187 - P.193

 【抄録】発症から約2年を経過し,自ら入院治療を希望して受診したanorexia nervosaの1症例の特徴および治療経過を報告した。長期化した飢餓状態の結果生じた強い食衝動の亢進と,患者の未解決な病理に基づく肥満恐怖との間のジレンマにより患者は混乱し,強い焦燥感を抱いていた。行動制限と摂取カロリーの設定により,亢進した食衝動の適度なコントロールを提供することが患者の心理的安定をもたらし,良好な治療関係を形成することができた。特徴的な食行動異常として「食物の細分化」がみられたが,これをanorexia nervosaの持つ「あいまいなもの,多様な意味を持った事がらを,数字へと単純化し,ないし明確に数として数えられるような形に置き換え,あるいは変換しようとする傾向」の現れとしてとらえ,「デジタル化(数値化)傾向」と名づけて概念化した。この概念はanorexia nervosaの病態理解と治療に有用であると考えられた。

短報

ボクシングの減量が契機となったbulimia nervosaの男性例

著者: 田口博之 ,   山下由紀 ,   西本雅彦 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.195 - P.197

■はじめに
 スポーツ選手におけるbulimia nervosaの報告例は少ない。今回,ボクシングの減量が契機となったbulimia nervosaの男性例を経験した。本症例に施行した家族療法の中で達成されていった洞察,およびボクシング選手と家庭内暴力などについて,その心理的背景,社会・文化的背景などを考え,若干の考察を加え報告する。

紹介

精神科リハビリテーションにおける行動評定尺度『REHAB』の有用性

著者: 山下俊幸 ,   藤信子 ,   田原明夫

ページ範囲:P.199 - P.205

■はじめに
 我が国において地域医療の推進が叫ばれて久しいが,なお精神病院への長期入院者が多いのが現状で,大島らの報告9)によれば,「社会的入院」と呼ばれ社会での受け皿がないために入院を余儀なくされている患者が,2割近くあると推定されている。受け皿の必要性が言われ,デイケアや作業所が増加したというものの,いまだに不足していることがこの報告からも明らかである。しかし,精神の障害の程度に応じて,どのような施設や援助がどのくらい必要とされているのかについては,詳しい資料がなく十分に明らかにされたとはいえない。したがって,まず現状を明らかにして精神障害者の地域ケアやリハビリテーションを有効に展開・発展させるためには,大島8)が指摘するように,適切な社会機能の評価方法の確立が極めて重要であると思われる。
 当院では,1989年にデイケア診療部が設置され,デイケア診療を開始した。当デイケアの概要については,すでに報告1,13)しているが,各年度を前期と後期に分け,半年ごとに更新手続きが必要で,そのつどスタッフとメンバーとで次の目標を話し合うようにしている。それをもとにしてスタッフは,それまでの評価と今後の目標についてスタッフ間で話し合い,その結果を主治医と意見交換することになっている。
 当初は臨床的な観察だけから評価していたが,多職種からなるスタッフ間で評価の視点が定まりにくいことがあるため,評価のベースラインと変化をより客観的に把握することで援助や介入がしやすくなるのではないかと考え,行動評定尺度REHAB(Rehabilitation Evaluation Hall and Baker)1,2)の導入を試みることとした。その結果REHABは,デイケアだけでなく病棟や社会復帰施設など多くの場面で使用することが可能であり,今後の我が国における精神科リハビリテーションの発展にも寄与できることが明らかで,制作者の翻訳許可を得てREHAB(日本語版)を作成し入院患者も対象として使用してきた。そこで,その概要,信頼性と妥当性,実際の使用例などについて紹介し,精神科リハビリテーションにおける有用性について報告する。

古典紹介

Ch. Lasègue et J. Falret: LA FOLIE A DEUX: OU FOLIE COMMUNIQUÉE・第1回

著者: 中山道規 ,   柏瀬宏隆 ,   川村智範

ページ範囲:P.207 - P.214

 いかなる形式の病気に罹患しているにせよ,精神病者は自分の妄想に対してなされうるいかなる論議に対しても病的に頑なに抵抗するのが一般的である。反論は患者の気を引いたり,あるいは患者に無視されたりするが,考え方の根底を何ら変化させるものではない。反論におどかされたり,すでに快方に向かっている場合にはせいぜい患者は妄想を口にしなくなるぐらいである。しかし,口にしないからといって,患者の知性は改善をみたわけではないのである。だからといって患者は頭を使って妄想に言及しないようにしているわけでもないのである。この点に関して,患者は脅威にさらされて感情の表出を断念している子供とある程度対比しうる。子供は外見上は譲歩しているようにみえるが,その点を除いては一切関知しないかのように取り繕っているだけである。もしも狂気が説得を受け入れたとするならば,その狂気は病気ではなく,単なる誤りにすぎないということになるであろう。
 そのかわり,健康者が精神病者に影響を及ぼさないのと同じように,精神病者も精神的健康者に影響を及ぼさないのである。狂気は伝染するといわれ,また患者と接して生活している人々は患者と頻繁に接することに危険はないと考えてはならないとも言われた。精神病の素因を有する人々には狂気の伝染はなくもないであろうが,大部分の理性ある人々には全くありえないことである。病院hôpitauxの看護人よりも施設asilesの看護人の方が危険にさらされているとはいえないし注1)患者の家族は患者と同居しているからといって危険性が大きいわけでもない。健康者が患者を説き伏せることができないのと同じように,狂者も健康者を説き伏せるには至らない;狂者が健康者を説き伏せるためには,狂者がその病的状態とは相容れない精神的,知的能力を持っていなければならないであろう。理性とは相容れない奇妙な考えを,人々に納得させるのは容易なことではない。それが成功する可能性は,絶えざる闘いによってのみ初めて生ずるであろう。ところが,精神病者は他人の意見には無関心に生活している;患者は自分だけで事足りており,自分の信じていることは抗し難い権威を持って自分自身に迫ってくるので,誰も彼から奪いえない彼の基盤に人々が従おうと従わまいと,彼にはほとんど問題ではないのである。

私のカルテから

Retrospectiveに追跡しえた小児期分裂病の成人例

著者: 絵内利啓

ページ範囲:P.216 - P.217

 数年前のことになるが,筆者が嘱託医をしている某精薄施設の1入所者について管轄の精神薄弱者更生相談所の心理判定員から,調査を依頼された。それは,精神遅滞とされている同症例の5年ごとの療育手帳更新の際の知能検査が,入所当初に比べて検査の度に低下しており,単純な精神発達遅滞とは考え難いので調べてもらいたいというものであった。当時筆者は同施設の嘱託医を引き受けて1年に満たず,目立たない存在であった本症例についてはこの時が初対面であった。
 初診時,本症例は31歳,視線は合うが,返答はなく,無為荘然とした様子であった。担当指導員の話によると,入所当時も会話は乏しかったが,簡単な読み書きは可能であった。また,虚空を指さしたり,唾を吐いたりなどの行動がみられていたとのことであった。母親の話からは小学生時代に教育相談を受けたことと中学生時代に筆者の所属していた大学付属病院の精神科で投薬を受けていたことがあったが,病気の説明は受けていなかったということがわかった。そこで児童相談所の教育相談資料と病院外来カルテを調査することとなった。以下の病歴は,そこからretrospectiveに得られたものの抜粋である。なお,知能検査法はすべて鈴木ビネー式によるものである。

動き

「第35回日本児童青年精神医学会総会」印象記

著者: 古元順子

ページ範囲:P.218 - P.219

 第35回日本児童青年精神医学会総会は,中根晃東京都立梅ケ丘病院長を会長として,1994年10月26日〜28日の会期中,日本都市センターで開催された。実はこの年の7月にはサンフランシスコで国際児童青年精神医学会総会が開かれ,本学会員が68演題もの多数の研究発表を行うという快挙を遂げたので,その直後の東京総会では参加者が限られるのではないかと危惧が持たれていたと聞く。しかし開幕すると,魅力的なプログラム編成に応じて,93演題の研究発表に700名を超える学会員が集う盛会となった。
 本学会のメインテーマは,目覚ましい神経科学領城の研究知見を踏まえて,児童の分裂病を考えるというもので,融道男氏(東京医科歯科大学神経精神科教授)による記念講演が行われた。周知のように,氏は分裂病の異種性についての一連の生物学的研究の中で,世界に先駆けてドーパミン受容体遺伝子のコドン311すなわち,システイン突然変異を発見し,分裂病群内での分布を明らかにした研究者である。氏は「精神分裂病の成因をめぐって」の演題で,ドーパミン伝達過剰仮説に焦点を当て,D2/Cyst 311を発見するに至った経緯をわかりやすく図解した。また,システインを持つ人は陽性症状を示す分裂病への易罹病性を持ち,抗精神病薬に反応するサブタイプと関連することを示し,システインを持つ人の生き方を研究することが,分裂病予防につながるとの貴重な示唆を聴衆に与えた。

「第1B回日本神経心理学会総会」印象記

著者: 伊藤皇一 ,   田辺敬貴

ページ範囲:P.220 - P.220

 第18回日本神経心理学会総会は,埼玉医大久保浩一教授の会長のもとに,1994年9月29,30日の両日,川越市市民会館で開催された。会長講演,特別講演,シンポジウム,教育講演,122題の一般演題など,盛り沢山の内容で,あいにくの台風接近のため天気はぐずつき気味であったが,500余名の多数の参加者に恵まれ,活発な討論が行われた。
 久保教授は半側空間無視の研究では我が国の第一人者である。したがって,会長講演では,「半側空間無視の病巣部位とメカニズム仮説」と題して,半側空間無視の説明仮説の主流であるHeilmanら一派やMesulamら一派の仮説を中心に主な説明仮説について,自験例の詳細な観察と病巣部位の検討から,それらの妥当性を丹念に見直し論じられた。わずか30分の間に広範な説明仮説の歴史的流れを要領よくまとめられた点も魅力的であった。特別講演は,杉下守弘教授(東大音声研)による「神経心理学の研究法 今後の発展に向けて」であり,この領域の研究法の問題点について指摘されたが,司会の豊倉康夫氏(東京都老人医療センター)が,神経心理学は脳と心の関連を究明する学問領域であると付言されたのは非常に印象的であった。

「精神医学」への手紙

Letter—疏通性か疎通性か

著者: 柏瀬宏隆

ページ範囲:P.224 - P.224

 最近私は,「誤字傑作集」(日本医事新報No. 3662,平成6年7月2日)というメジカル・エッセイを書いたが,その中に次のような箇所がある。
 「次は誤りとは言いにくいが,疏通性(ラポール)を疎通性に統一・している精神医学の専門誌がある。しかし,精神神経学川語集(日本精神神経学会刊,1989)には,疏通性の字しか掲載されていない。たしかに,疏通と疎通とでは,その意味は全く反対なのであり,ソツウ性が良い,などと言う場合のことを考えると,疏通性のほうが正しい。しかし,疏という字は常川漢字表に入っていないので,疎という字が使われるのであろうか。」

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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