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雑誌目次

論文

精神医学37巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

巻頭言

不安障害に正しい理解を

著者: 越野好文

ページ範囲:P.342 - P.343

 ペンシルベニアのK. Rickelsは,H. MZalの“Panic Disorder-The Great Pretender.”の序に寄せて,アメリカでは「1970年代は感情障害の時代であったが,1980年代は不安障害の時代である」と述べている。アメリカ精神医学会が1980年に発表したDSM-IIIで,恐怖性障害,不安状態および心的外傷後ストレス障害が“不安障害”としてまとめられた。周知のごとくDSM-IIIは“神経症”という用語を採用しなかった。力動的・精神分析的な視点に代わり,記述的・実証的・身体的観点から患者を評価する方針が採用された。DSM-IIIのこの基本方針は,不安障害の中でも特に空間恐怖やパニック障害(PD)の病態についての医学(medical)モデルに基づいた研究の飛躍的な発展をもたらした。その結果,PDの治療はめざましい進歩を遂げ,病的不安には医学的な治療が必要であり,しかも有用なことが実証された。
 日本での“不安障害”の現状はというと,1993年の第89回日本精神神経学会総会のシンポジウムで,「パニックディスオーダーの病態と治療-生物学的視点から心理・社会学的視点まで」としてPDが取り上げられた。その際,西園昌久先生は「PDという新しい概念が(日本に)入ってきて,これをどのように理解し,位置づけしようかというので,四苦八苦している段階だろう」とコメントされ,司会の岩崎徹也先生は「PDという概念は主に諸外国における研究によって発展してきたのであるが,それを現在の口本の中で再検討しようという動きの中でシンポジウムが組まれた」と述べられている。シンポジウムのテーマにパニックディスオーダーという言葉を日本語に訳することなくそのまま用いられたことは,この概念がまだ日本の精神医学界にとけ込んでいないことを象徴するものであろう。PDを代表とする“不安障害”は日本ではまだ十分な市民権を得ているとはいいがたい。

展望

インターフェロン療法中の精神症状

著者: 高木洲一郎

ページ範囲:P.344 - P.358

■はじめに
 インターフェロン(以下IFNと略す)は,1992年にC型慢性活動性肝炎(以下C型肝炎と略す)に健保の適用が追加されて以来,使用量が飛躍的に増大し,それとともに精神症状がにわかに臨床上の大きな問題となった。IFNの精神症状は,歴史的には1980年代には,癌や血液疾患に対する大量投与例におけるせん妄や脳症が問題であつたが,最近ではC型慢性肝炎におけるうつ病など,感情障害が注目されている。
 C型肝炎のIFN療法は歴史も浅く,治療法自体も,今後解明されるべき問題が多い。精神症状に関しては,症例報告は増加しているが,研究や総説はわずかしかない16,32,56,64,75)。しかし精神症状は治療に当たる医師のみでなく,精神科医もよく認識しておくべきである。精神症状の理解に当たってはIFN,あるいはC型肝炎に対するIFNの問題点について認識しておく必要がある。本稿ではIFNについて概説した上で,投与中の精神症状に関する現在までの知見を紹介したい。

研究と報告

精神分裂病の服薬期間—薬物の減量・中断の試み

著者: 宇内康郎 ,   村田琢彦 ,   中野目有一 ,   本川常雄 ,   古川正 ,   里和宏 ,   河合真 ,   伊東昇太 ,   北村勉 ,   釜谷園子

ページ範囲:P.359 - P.367

 【抄録】昭和大学藤が丘病院を受診し,寡発者の条件を持ち,ICD-10の経過診断でF20.X2,X4,X5の分裂病22名(1群),X3のもの8名(2群)合計30名について,1年から14年の経過を追跡しながら,薬物療法を4期(調整,維持疑,滅量,中断の各期問)に分け,薬の中断の可能性を検討した。すなわち,減量・中断による再発と,再発に至るまでの期間と薬用量を調査し,2群は薬の必要性が少なく,中断の可能性があることを知った。中断できた者は1群で4.5%,2群で62.5%で1群は初発・再発に関係なく薬を中断するのが困難であった,,薬を中断できた者の最後の服薬期間は1群で3年1週,2群は平均で1年4か月であった。

デイケアに通所した精神分裂病例の精神症状の改善について

著者: 高野佳也 ,   加藤元一郎 ,   塚原敏正 ,   笠原友幸 ,   鈴木透 ,   原常勝

ページ範囲:P.369 - P.376

 【抄録】駒木野病院を退院後6か月以上デイケアに通所した精神分裂病23例(デイケア群)と,退院後6か月以上デイケアを利用せず通院した精神分裂病23例(対照群)に対し,prospectiveに,退院時,6か月後,12か月後に,BPRSとSANSを用い精神症状の評価を行った。その結果デイケア群で,12か月後に,BPRSで,総合得点と「緊張」などの得点が改善し,SANSで,総合得点と「情動の平板化・情動鈍麻」などの下位尺度得点が改善し,対照群と比べ低得点となっていた。したがって,デイケアに通所した精神分裂病者では,SANSで評価される陰性症状を中心とした精神症状が,通所しなかったものより著明に改善されることが示唆された。

遺伝子診断によって遺伝性歯状核・赤核・淡蒼球・ルイ体萎縮症(DRPLA)と確定した1孤発例—その精神症状の特徴と診断に関する1知見

著者: 佐々木恵美 ,   水上勝義 ,   高森永子 ,   田中芳郎 ,   白石博康 ,   田中一 ,   池内健 ,   岩淵潔

ページ範囲:P.377 - P.382

 【抄録】小脳性運動失調で発病し,舞踏病アテトーゼ様不随意運動やミオクローヌスに加えて痴呆や多彩な精神症状を呈し,臨床的には明らかな遺伝歴を持たず,第12染色体短腕のCAG repeatの延長を確認することによって,DRPLAと確定診断できた1孤発例を報告した。DRPLAの遺伝子異常が発見されてまもないため,本例のように遺伝子解析で確認された孤発例の報告は少なく,その発現機序については十分に解明されていない。孤発例では遺伝子解析が診断上有用であり,今後さらに同様の症例が集積されることにより,孤発例の発現機序が解明されるものと思われる。さらに,本例の痴呆や精神症状の特徴について述べ,本症と分裂病様症状の関連について文献的考察を行った。

バルプロ酸ナトリウムによる軽度高アンモニア血症で強迫症状を呈した1例

著者: 高橋倫宗 ,   池淵恵美 ,   野口昌孝 ,   渡辺洋文 ,   広瀬徹也 ,   風祭元

ページ範囲:P.383 - P.389

 【抄録】バルプロ酸ナトリウム(以下VPA)の副作用による高アンモニア血症で,強迫症状を呈した1例を報告した。症例は16歳男性で,11歳からVPAとカルバマゼピンの併用療法を受け,服薬開始後約30か月で強迫症状,抑うつ状態を塁した。精神症状は,VPAの副作用による軽度の高アンモニア血症,および脳波の徐波化と密接な相関関係があり,これらはVPAの中止により速やかに改善された。脳波所見から,精神症状出現の背景には,高アンモニア脳症によると思われる軽度の意識障害の存在が示唆され,これに個体の素因,心因が加わり症状発現に至ったと思われた。また,高アンモニア血症が大脳辺縁系の興奮を来すという動物実験の結果と,最近の強迫の局所脳障害説を紹介し,本症例でも辺縁系の異常があったと仮定するならば,これが強迫症状発現の器質的背景となりうることを考察した。

抗精神病薬と抗脂血剤(pravastatin)の長期投与が関与したと思われる横紋筋融解症の1例

著者: 服部功 ,   小野賢一 ,   松本功 ,   篠崎孝 ,   宮坂雄平 ,   漆原昭彦 ,   京島恭子 ,   林圭介 ,   吉村一彦 ,   吉松和哉

ページ範囲:P.391 - P.395

 【抄録】症例は55歳女性。精神分裂病で入院経過中,抗精神病薬と高脂血症治療薬の長期投与中に非外傷性横紋筋融解症による急性腎不全を呈し,血液透析を要した1例を報告した。1977年の入院当初よりhaloperidol(HPD)などの抗精神病薬,抗パーキンソン薬の投与が続けられていた。高脂血症を認め,1990年1月からpravastatin(PVS)の投与を受けていた。横紋筋融解症発症以前は腎機能は正常であった。1992年6圧に非外傷性横紋筋融解症による急性腎不全を竪し血液透析を要した。本例は,腎機能障害の背景なしに抗精神病薬およびPVSの長期投与を受ける中で横紋筋融解症を発症したと考えられた。腎機能障害を持たない場合もPVS使用中に横紋筋融解症を発症しうることを念頭に置き,その安易な使用は慎むべきと思われた。

皮膚寄生虫妄想の3例について—その精神病理学的,診断学的検討

著者: 林拓二 ,   鬼頭宏 ,   松岡尚子 ,   須賀英道

ページ範囲:P.397 - P.404

 【抄録】皮膚寄生虫妄想の3症例を提示し,その精神病理学的・疾病学的な検討を行った。
 症例は63歳から70歳までの高齢者で,CT上,脳表萎縮や脳室拡大が2例にみられたが,明らかな痴呆や意識障害は認められなかった。中心症状の体感異常は,2例で外部からの影響と考えられる「作為」の性質を帯び,頭のふけをムシの死骸と主張する症状は,妄想知覚とも考えられた。ムシの出現を擬人化してとらえ,意志を持った存在と感じる体験も,特異的な分裂病性のものと考えられた。
 これらは「体感異常型」分裂病に近縁の遅発性分裂病の一型とも考えられるが,寛解を繰り返すことから,どちらかと言えば非定型精神病に近いとも言え,身体的基盤のさらに詳しい研究の必要性を強調した。

定期的病棟訪問(御用聞き)リエゾンコンサルテーションの現状と課題—ターミナルケアに関する意識調査を通して

著者: 中原功 ,   中村純 ,   内村直尚 ,   白尾一正 ,   野瀬巌 ,   土山祐一郎 ,   堤康博 ,   桜井斉司 ,   福山裕夫 ,   中沢洋一

ページ範囲:P.405 - P.412

 【抄録】1991年4月から1993年3月までの2年間の久留米大学病院における,ターミナルケアを含む「御用聞き」的コンサルテーション・リエゾンサービス(CLS)の現状調査と,各科病棟スタッフを対象としたターミナルケアに関する意識調査結果を分析した。その結果,CLSへの新依頼患者総数は493名(うちターミナルケースは50名),依頼科は内科,外科,救命(同:放射線科)の順で多く,状態像別にはせん妄状態,抑うつ状態が多かった。基礎疾患は悪性腫瘍が最も多く,依頼患者の高齢化が目立った。意識調査からはターミナルケースにおいて,告知の必要性は感じていても告知できずにいる現実などが確認され,そこにリエゾン精神科医の担うべき役割があると考えられた。

躁転の危険性を有するうつ病患者に対するlithium単独投与の試み—プラセボを対照とした一重盲検試験

著者: 寺尾岳 ,   谷幸夫 ,   白土俊明 ,   山本純史

ページ範囲:P.413 - P.416

 【抄録】症例は34歳男性のうつ病患者である。少量のclomipramineとsulpiride投与中に軽躁状態を呈したことがある。今回増悪した抑うつ状態に対して,抗うつ薬は躁転の危険性があるため使用せず,lithiumを単独投与したところ有効であった。さらに,lithiumの効果をより厳密に判定するためにプラセボを対照とした一重盲検試験を行ったところ,lithiumの抗うつ効果が確かめられた。本症例のように,少量の抗うつ薬投与により躁転した既往のある患者に対しては,lithiumの単独投与を試みる価値があると考えられた。

アルツハイマー型痴呆の99mTc-HMPAO SPECT所見—特に側頭葉内側部の局所脳血流量低下について

著者: 中村有 ,   川勝忍 ,   篠原正夫 ,   灘岡壽英 ,   十束支朗 ,   駒谷昭夫

ページ範囲:P.417 - P.425

 【抄録】アルツハイマー型痴呆30例と正常対照10例を対象として神経心理学的検査とTc-HMPAO SPECTによる局所脳血流量の測定を行い,両者の関係について検討した。局所脳血流量については,軽症群では右前頭葉下部外側,右頭頂葉で有意な血流低下が認められ,中等症群では両側の前頭葉下部,側頭頭頂領域,頭頂葉,側頭葉内側部で有意な血流低下が認められた。神経心理学的検査の因子分析の結果,3つの因子が抽出された。このうち記憶や想起に関する因子は左の前頭葉,側頭葉外側前部,側頭葉内側部の局所脳血流量と有意な正の相関を示した。このことから,アルツハイマー型痴呆の病態として,側頭葉内側部をはじめとする記憶回路の障害が存在すると考えた。

短報

電気けいれん療法が奏効した精神症状を伴うパーキンソン病の1症例

著者: 三好明 ,   稲田洋 ,   川沢修平 ,   水木泰 ,   山田通夫

ページ範囲:P.427 - P.429

 パーキンソン病(PD)に対する電気けいれん療法(ECT)の日本国内の症例報告は少ないが,最近では樋口ら1)が奏効機序について文献的考察をしている。現在,PDの治療法は薬物および理学療法が主流である。
 筆者らは,薬物療法だけでは治療困難な精神症状を伴うPD患者に,本人および家族の同意を得てECTを施行した。その結果PDの神経精神症状は改善した。ECT施行前後の髄液中カテコラミンやセロトニンなど,およびその代謝物濃度を測定したので,臨床経過とともに若干の考察を加えて報告する。

ペンタゾシンとモルヒネ型麻薬の同時期依存例

著者: 加藤秀明 ,   曽根靖貴 ,   田中昌克 ,   吉田優

ページ範囲:P.431 - P.433

 ペンタゾシンはモルヒネ拮抗薬の中から依存性の少ない鎮痛薬を探し出す試みの中で開発された非麻薬性鎮痛薬で,我が国では1970年より発売され,現在広く使用されている。その依存は当初の予想に反してある時期多発したが,管理が厳しくなった最近は激減している。我々は10年ほど前のことであるが,ペンタゾシンとモルヒネ型麻薬を同じ時期に乱用した症例を経験した。ペンタゾシンはモルヒネに対し拮抗作用があるので,両者の同時期依存は薬理学的にも興味深い問題を含んでいる。このような報告例は,我が国にはないようなので,やや古い症例であるが簡単に報告しておきたい。

古典紹介

Ch. Lasègue et J. Falret: LA FOLIE A DEUX: OU FOLIE COMMUNIQUÉE・第3回

著者: 柏瀬宏隆 ,   中山道規 ,   川村智範

ページ範囲:P.435 - P.440

 次の症例は,医者にはなじみ深いが小説家には知られていない親密な者同士のこうしたドラマの一つを,別な形式で示しており,さまざまな人間の悲惨さの合奏の中でほぼ調和した音を聴かせてくれる。再び二人の女性であり,このケースは姉妹例である。

動き

「第12回青年期精神医学交流会」印象記

著者: 齊藤万比古

ページ範囲:P.442 - P.443

 1994年11月26日,新大阪駅からほど近い日本シェーリング本社講堂において第12回を数えるに至った青年期精神医学交流会が人見一彦担当世話人をはじめとする近畿大学医学部精神神経科の先生たちの運営によって開催された。この交流会は青年期精神医学の分野で活躍している若手の精神科医や心理療法家が臨床的活動の成果を症例検討の形で比較的気軽に発表することのできる場として知られている。この分野に関心を持つ初心者からベテランまで各年代・各分野の専門家が裃を脱ぎ,垣根を取り払って,気楽に日頃の臨床経験や研究の成果を議論し合うことにこの会の主要な意義はあるのだろう。
 今回の会で発表された演題の数は13で,1演題につき発表20分,討論10分の計30分が当てられており,ほどよい長さと深さの議論ができる時間的枠組であったように思われた。13の演題は4つのセッションと,「“自閉症”の青年期」と題したミニ・シンポジウムに分けて行われた。ここでは,それぞれのセッションの印象に残った議論をたどってみたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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