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雑誌目次

論文

精神医学37巻6号

1995年06月発行

雑誌目次

巻頭言

精神保健・医療・福祉の将来

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.568 - P.569

 1987年,精神衛生法が大改正され,精神保健法となり精神障害者の人権擁護の推進と社会復帰の促進の二本柱を中心に精神科医療はポジティブな変貌を続けてきた。そして1992年6月の法の一部改正では,精神障害の定義の見直し,社会復帰の促進と大都市特例が規定された。これにより,“精神病院から社会復帰施設へ”という流れに加え,“社会復帰施設から地域社会へ”という新しい流れができた。そして,今国会で法の一部改正が行われ,精神障害者の保健福祉対策の充実を目指して,法律の名称が「精神保健および精神障害者福祉に関する法律」に改正され,7月1日施行予定となった。この背景には1993年12月に心身障害者基本法が改正され,「障害者基本法」が成立して,法の対象に精神障害者が明確に位置づけられ,障害者の自立と社会参加の促進を目指して,国,都道府県,市町村が障害者計画を策定することとされたことが動機となっている。さらに1994年6月に「地域保健法」が成立して,今後市町村レベルで社会復帰施策などが実施される方向が示された。
 精神障害者は,障害を有するとともに,疾患を有する者であることから,福祉と医療の関係は密接不可分であり,今回の法改正では保健と福祉を融合した法制化を図り,精神障害者の福祉対策を明確に位置づけて発展させていく…と説明されている。しかし,将来的に身体障害者福祉法や精神薄弱者福祉法も統合して,全障害者福祉法の成立を目指してゆくことが望ましいと思う。

展望

精神神経免疫学—脳—免疫連関の生物学

著者: 神庭重信 ,   新谷太 ,   鈴木映二

ページ範囲:P.570 - P.580

■はじめに
 生体は,内外の環境を認識し,それに適切に対応すべく生体防御系を保有している。その機軸を成すのが,神経(内分泌)系と免疫系である。両系は独立に機能しているのではなく,密な情報伝達システムを形成して相互に調節し合っている(堀ら16);浅井ら4);永田30);神庭20))(表1)。神経系と内分泌系が共通の情報伝達物質と受容体を共有しているように,神経内分泌系と免疫系も情報伝達の素子として共通の物質を用いている。そればかりかその作働メカニズムにおいても数多くの共通点がみられる(表2)。生体防御系の頂点を脳とみなすならば,免疫系は非感覚刺激を認識する第6の感覚器であるとする見方も成立しえよう(Blalock7))(図1)。さらには,「免疫系はかつて脳の一部であったが,やがて解剖学的に分離し全身にくまなく分布するようになったのであろう。かつて有用であった神経伝達物質受容体は痕跡としてリンパ球に残されているにすぎず,もはや生理学的には大きな意義を持たない。」とするダーウイン主義進化論が展開されることもある(Gormanら13))。
 脳と免疫の連関は決して新しい概念ではない。様々な心理社会的因子が免疫系へ少なからぬ影響を与えることは,古くから直感的観察をもって語られ,またそれを検証した疫学的研究は枚挙にいとまがない。解剖学的に両系統が接点を有することや,ストレッサーが胸腺,脾臓,リンパ節のサイズを減らすなど機能的にも脳が免疫系に影響を及ぼすこと(Selye41))は半世紀も前に見い出されていた。やがて近代的な実験系を組んだ研究により,脳と免疫が相互に対話しながら複雑で精緻な生体システムを維持していることが明らかになった(図2)。本稿は,ここに挙げたような脳-免疫連関の生物学を詳説する。ただし誌面が限られているため,脳-免疫連関にかかわる心理・社会的研究,精神神経疾患にみられる免疫学的異常あるいは精神神経疾患の病態形成への免疫学的関与についての詳細は他誌にて紹介する(神庭ら21))。

研究と報告

精神分裂病と出生時体重—母子手帳を用いた調査から

著者: 功刀浩 ,   南光進一郎 ,   武井教使 ,   斉藤薫 ,   森一和 ,   風祭元

ページ範囲:P.581 - P.588

 【抄録】近年,精神分裂病の病因に関し神経発達論的成因仮説が注目されている。本研究では精神分裂病者の母胎内での発達を検証することを目的とし,精神分裂病者(DSM-Ⅲ-R)とその健康同胞の出生時体重を「母子手帳」を用いて調査し比較した。また,精神病の遺伝負因の有無によって差があるか否かに関しても調べた。39組の同胞間の比較では,出生時体重において有意差を認めなかった。しかし,65名の精神分裂病者の中で遺伝負因を持つ者(N=52)と持たない者(N=13)とを比較すると,前者は後者より有意に軽かった。以上から,精神分裂病に対する脆弱性を与える遺伝的要因は胎内発達に影響を与え,低出生時体重に反映される可能性が示唆された。

いわゆる登校拒否における「逆説的対応」にについて

著者: 宮本洋 ,   白石博康

ページ範囲:P.589 - P.593

 【抄録】登校拒否は臨床単位然として論じられることが多い。しかし,実体は通常の児童・青年期に発症する様々な障害が学歴社会に起因する心理的社会的ストレスによって誘発され,重症化あるいは遷延化したものであると筆者らは考えている。また,いわゆる登校拒否の病理を本人や家族に求める考え方と学校を含む社会の問題とする考え方とは一見対立しているようで,いずれもが,明らかな神経症症状よりも不登校現象を過剰に重視しており,そのことが逆に心理的社会的ストレスをさらに増悪させていると考える。これに注目し,治療者自身が「登校」にこだわらずに「登校拒否」に対応するのが「逆説的対応」である。

摂食障害と診断された後に顕在化した青年期精神分裂病の4症例

著者: 齋藤巨 ,   松本英夫 ,   可知佳世子

ページ範囲:P.595 - P.602

 【抄録】摂食障害と診断された後に精神分裂病が顕在化した4症例を報告し,その摂食障害の特徴,精神分裂病の特徴,両者の関連および摂食障害の位置づけに関して検討を行った。その結果,この4症例はDSM-Ⅲ-Rによる横断的,症候学的診断では摂食障害と診断可能であったが,その病態の本質は摂食障害ではなく,精神分裂病の前駆症状であったと考えられた。また,摂食障害は単一の疾患または症候群ではなく,共通の症状を有する症状群であり,種々の病態水準の集まりであると思われた。結局,摂食障害の表面の症状に惑わされることなく,その病理に共感し,病態水準で患者をとらえて治療を行うことが重要であることを論じた。

強迫笑い,反復言語を呈した脳幹被蓋梗塞

著者: 下村辰雄

ページ範囲:P.603 - P.607

 【抄録】強迫泣き笑い,反復言語を呈した脳幹被蓋梗塞の1例を報告した。症例は67歳,女性。両側性核間性眼筋麻痺,振子様眼振,小脳失調,仮性球麻痺,強迫泣き笑いと反復言語を認めた。反復言語は発症3週目より自発言語においてみられ,多くは単語,文節レベルで生じ,不随意に5〜10回続き,次第に速くなるとともに,声が小さくなり,強迫笑いに移行した。発症9週目より強迫笑い,仮性球麻痺,けいれん性・異音性反復言語は軽快し,無力性・同音性反復言語に変化した。CT,MRIでは橋上部被蓋と両側の橋底部,基底核に多発性梗塞を認めた。仮性球麻痺症状を生じた多発性梗塞と脳幹被蓋梗塞により強迫泣き笑い,反復言語が生じたと考えた。

カプグラ症状のみられたてんかん性精神病の1例

著者: 十一元三 ,   扇谷明

ページ範囲:P.609 - P.614

 【抄録】カプグラ症状を呈したてんかん性精神病の1症例を報告した。症例は,右前側頭部に発作焦点を持つ側頭葉てんかんで,MRIにて右扁桃体周辺に高信号域を認めた。カプグラ症状は,抗てんかん薬治療で発作が抑制され,被害念慮が出現した後に,家族を偽ものと言って暴力をふるうことから始まり,その後,対象は物や日付にまで広がり,現実感喪失,人格変化を伴って遷延化した。文献例を含めた考察から,本症例のカプグラ症状の成因は,扁桃体の絶え間ない発作放電からもたらされる情動の変化により,対象に対して通常の親密感が感じられず,奇異な情動を伴って対象が認知されてしまうためではないかと推測された。

てんかん各症候群の寛解率—国際分類による症候群分けに基づいて

著者: 兼本浩祐 ,   川崎淳 ,   河合逸雄

ページ範囲:P.615 - P.620

 【抄録】関西てんかんセンターに来院した2,563人のてんかん患者を,1989年の国際分類に基づいて大分類と症候群分類し,各々についてその1年寛解率を計算した。その結果,寛解率の高さは,特発性局在関連てんかん,特発性全般てんかん,局在関連てんかん,潜因性/症候性全般てんかん,局在/全般てんかんの順であることが確認された。また,他の報告と比較して,側頭葉てんかんが3割弱という比較的低い寛解率であったのは,罹病期間の長い症例が集積したためであることを示唆するとともに,若年性ミオクローヌスてんかんの寛解率が7割弱と比較的低いのは,コンプライアンスの悪さに起因するのではないかという推測を述べた。

うつ病患者の尿中メラトニン代謝物の量と日内リズム

著者: 大井健 ,   山田尚登 ,   大門一司 ,   青谷弘 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.621 - P.627

 【抄録】19例のうつ病患者で,尿中のメラトニン代謝物(6-sulphatoxymelatonin;6MS)ならびに深部体温を測定した。うつ病患者の6MSの1日の総排泄量は,正常対照者との間には有意な差が認められなかったが,うつ病病相期と比較して寛解期に有意な減少を示した。6MSの日内リズムは,正常対照者全例で夜間に高い正常のリズムを示した。一方,うつ病患者19例のうち10例は正常のリズムであったが,4例は著しい低排泄・低振幅を,5例は夜間以外の時間帯に最大排泄量を示した。低排泄・低振幅を示したものは深部体温リズムの振幅も減少していた。うつ病患者を6MSリズムの様式から正常群,低振幅群,位相後退群に分け,ハミルトンうつ病評価尺度の各症状項目について比較し,精神運動制止,自殺念慮,気分の日内変動の項目で有意な差がみられた。うつ病患者の約半数においてメラトニン分泌異常があり,このことは,我々が先に報告した体温リズムの異常を裏づけるものである。

分裂病者におけるP300振幅の減衰は常にtrait markerと言えるか—緊張型4症例での寛解期の回復

著者: 岩崎真三 ,   鳥居方策 ,   中川東夫 ,   有原徹 ,   藤木暁 ,   片町隆夫 ,   天野裕之

ページ範囲:P.629 - P.637

 【抄録】分裂病者に常に観察される顕著なP300振幅の減衰は,投薬や症状改善に影響されないだけでなく,罹患のリスクの大きい分裂病者の子どもなどにも認められることから,分裂病の素質(trait)を表現するものである,という見解が定着している。
 我々は緊張病の4症例において,各2〜4回ずつ記録した視覚性ERPのP300振幅が,急性増悪期に顕著な減衰を示しながら,症状の改善とともに次第に増大し,最終的にはほぼ正常の大きさに復することを見い出した。また,これら4症例で記録されたP300振幅は,BPRSおよびSANSの総得点との間に,それぞれ有意な負の相関を示した。これらの所見は,少なくとも非中核群の分裂病ではP300振幅が状態依存性(state-dependent)に変動する可能性を示唆するものである。

アレビアチン®の[末]から[細粒]へ変更する際における投与量の変換率の検討

著者: 武藤福保 ,   谷内弘道 ,   鎌田隼輔 ,   布村明彦 ,   直江裕之 ,   松本三樹 ,   千葉茂 ,   宮岸勉

ページ範囲:P.639 - P.644

 【抄録】phenytoin(PHT)服用中の27例のてんかん患者(18〜75歳,男性11例,女性16例)について,末から細粒への剤形変更に伴う薬物血中濃度および発作頻度の変化を検討した。剤形変更前のPHT末の投与量は平均4.25mg/kg/日であった。PHT細粒の投与量を末の60ないし65(平均61)%に設定した結果,血中濃度を測定しえた26例のPHTの平均血中濃度は9.28μg/mlから3.50μg/mlに低下し,血中濃度-投与量比の平均は2.15から1.29に低下した。また,過去1年以内に発作がみられた症例では16例中8例(50%),全対象27例中でも10例(37%)で発作頻度が上昇した。
 PHTの血中濃度を剤形変更前の数値に近づくように調整した9例のPHT細粒の投与量は未の68ないし95(平均87)%であり,9例中8例は80%以上であった。したがって,血中濃度を維持するためには,PHT細粒の投与量は未の80%以上が望ましいと考えられた。

短報

てんかん精神病2例のPET所見について

著者: 上杉秀二 ,   大沼悌一 ,   高山豊 ,   石田孜郎

ページ範囲:P.645 - P.647

■はじめに
 てんかん精神病の病態を明らかにするため,各種の検査が行われているが,PETによる報告はまだ少ない。今回,挿間性の幻覚妄想状態を示したてんかん精神病(交代性精神病)患者に,(1)幻覚妄想を認める状態時〔Py(+)〕,(2)認めない状態時〔Py(-)〕の計2回PET検査を行い,精神症状の有無と局所脳血流量(rCBF)の関係について検討した。

Carbamazepineにより知覚音の半音低下を来した心因反応の1例

著者: 千丈雅徳

ページ範囲:P.649 - P.651

■はじめに
 複数の周波数が混在する日常聴く音は,内耳リンパ液に共振する基底膜上での振動によって分節化される。すなわち,基底膜の幅は先端ほど広く堅くなっており,高い周波数の音による振動ほど途中で消滅するために,音の周波数の分析がなされる。その後,脳で再合成され,音の意味づけがなされる。
 今回,恐怖・不安を伴って興奮状態を呈した症例がcarbamazepineによって鎮静化された。しかし,同時に知覚音の半音低下を訴えた。音楽大学の声楽科出身であり,現役の音楽教師である症例の訴えは切実であり,信憑性を持っていた。しかも,絶対音階を身につけている症例の半音低下という訴えには説得力があり,信頼に足るものであると判断しえた。

非機能性下垂体腺腫と病的多飲水を合併したうつ病でみられたFIRDAについて—事象関連電位(P300)との関連

著者: 伊藤陽 ,   亀田謙介 ,   加藤靖彦 ,   中山温信 ,   松井望

ページ範囲:P.653 - P.656

 前頭部間欠律動性δ活動(frontal intermittent rhythmic delta activity;FIRDA)は2),当初は脳幹,大脳正中部などの脳深部の器質病変と関連づけられていたが1),その後の報告では,より広汎な脳器質疾患4),代謝性疾患,てんかん,精神分裂病8),躁うつ病3),Ganser症候群6),薬物投与9)などでもみられることが明らかになっている。今回,我々は非機能性の鞍内下垂体腺腫を合併したうつ病において,病的多飲水5,11)がみられた時期に脳波上FIRDAが見い出され,以後それが持続した1例を経験した。この症例では,FIRDA出現後は継時的に事象関連電位(event relatedpotential;ERP)を記録することができたので,FIRDAとERPの関連を中心に報告する。

Pimozideにより低ナトリウム血症を呈した精神分裂病の1例

著者: 西村浩 ,   町田勝彦 ,   中野浩志 ,   篠崎徹 ,   笠原洋勇 ,   牛島定信 ,   鈴木みね子 ,   斎藤洋 ,   柏木秀彦 ,   奥田丈二

ページ範囲:P.657 - P.660

 我々は外来通院中に水中毒により血中ナトリウム値が118mEq/lとなり,重度意識障害,けいれん発作および噴出性嘔吐などを来した精神分裂病の61歳女性例を経験した。原因薬剤はpimozideと考えられたが,本剤による低ナトリウム血症は我々の知るかぎりでは小児科での精神発達遅滞3例が報告されているだけで,精神科分野での報告を見い出せなかったため,文献的考察も併せて報告する。

資料

東京都の精神科救急医療の地域特性と年次変化—松沢病院救急病棟での経験から(2)

著者: 永山紅美子 ,   林直樹 ,   入谷修司 ,   竹野良平 ,   金子嗣郎

ページ範囲:P.663 - P.667

■はじめに
 前回(37巻1号99ページ),我々は松沢病院の救急病棟に入院した患者の病歴をもとに,東京都の夜間休日の精神科救急入院患者の地域と入院治療とのかかわりについて考察した2)。ここでは,夜間休日の精神科救急医療において,年間入院患者数の増加などの変化が認められていた。これは報告の舞台となった東京が世界的な巨大都市であり,しかも急速に変貌しつつあることと関連づけられる現象と考えられる。今回,我々は前回と同じ調査対象に対して,この期間中の患者数の地域ごとの推移や患者の入院形態や問題行動などの臨床的特徴を調査し,患者数の増減の地域差とその地域の特性について,東京という都市のこの期間における変化と合わせて考察を加えることにする。

私のカルテから

総量200mgのsulpiride投与により悪性症候群が発症した高齢者の1例

著者: 横山尚洋 ,   竹内一郎 ,   上原隆夫

ページ範囲:P.668 - P.669

 悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome;NMS)は向精神薬の重篤な副作用として周知のものである。80歳の患者において1日間のみ総量で200mgのsulpirideを投与したところ重篤なNMS様症状を呈した症例を経験した。sulpirideは抗コリン作用が少ないことなどから高齢者に投与される機会が比較的多い薬剤である。高齢者に対する向精神薬投与に十分な注意が必要であることはいうまでもないが,このようにごく少量の薬物でもNMSを起こしうることは教訓的な症例と思われるので,本欄に呈示する。

追悼

三浦岱栄先生を悼む

著者: 保崎秀夫

ページ範囲:P.661 - P.661

 三浦岱栄先生は,1901(明治34)年12月3目新潟県長岡市に生まれ,1995年3月14日気管支炎で逝去,同3月17日聖イグナチオ教会で葬儀が執り行われた。亨年93歳。
 先生は1925(大正14)年慶應義塾大学医学部を卒業。学生時代にカトリックに入信,敬度な信者で,その後カトリック医師会をはじめ,この領域で指導的役割を果たしておられたのは周知の事実である。卒業後,敬愛する生理学加藤元一教授の教室に入り,学位を得られ,植松七九郎教授の神経科教室に移り,小峰病院に勤務,1935年講師になり,フランス政府給費留学生としてパリに留学し,Paul Guiraud博士,Andre-Thomas博士,Jean Lhermitte教授に師事し,Pierre Pichot教授との親交が始まった。1940年より桜町病院院長となる。その後短期間南洋学院(仏印)教授。1953年慶應義塾大学医学部神経科教授となり,1967年定年退職まで活躍され,さらに1970年から1976年まで杏林大学医学部精神神経科の初代教授を務められ,数多くの精神科医を育てられた。

「精神医学」への手紙

Letter—運動障害と薬物治療—丸井論文に対する意見

著者: 藤本直

ページ範囲:P.673 - P.673

 本誌昨年10号掲載の丸井ら2)の試みた頸部前屈に対する理学的治療法は,今後,同様の姿勢異常を呈した患者にも応用できる方法と思われ,興味深く読ませていただいた。
 さて,著者らはこの症例にみられたantecollisを「遅発性ジストニアとみなさざるをえない」としていますが,その点に関して疑問があります。神経遮断薬による治療が一般化して以来,患者に起こってくる種々の不随意運動や姿勢異常は,患者が服用している薬剤のせいにされる傾向があります。遅発性ジストニアもその診断基準の1つにジストニア発症以前の抗精神病薬による治療歴が挙げられています1)。しかしこれらの運動障害はもとからあった精神疾患の一部分症状である,という考え方もあります。Rogers3)は重篤な精神疾患患者100人の運動障害について調査しています。それによると,神経遮断薬による治療が始まる1995年より前に,異常な屈曲姿勢をとっていた患者が28人おり,その中には顎が胸骨に達するまでに頸部の前屈を呈していた患者,臥位でも頭部が枕につかない患者も記載されています。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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