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雑誌目次

雑誌文献

精神医学37巻7号

1995年07月発行

雑誌目次

巻頭言

昨今の「いじめ」について

著者: 川原隆造

ページ範囲:P.680 - P.681

 葬式ごっこの鹿川君事件が起こった1986年ごろの「いじめ」は,いわゆる非行グループによるものであったが,昨今の「いじめ」は少し変わった様相を呈するようになった。「いじめ」は学校という教育現場で起きている極めて深刻で異常な事件であり,日常診療においても「いじめ」によると思われる精神症状を診ると,ことの重大さを認識せずにはおれない。

特集 阪神・淡路大震災—現場からの報告

救護活動から見えてくるもの

著者: 小池清廉 ,   立花光雄 ,   中嶋章作

ページ範囲:P.682 - P.686

■自治体病院による救護活動
 災害が発生すれば,現地行政職員や医療関係者の大半は被災者となり,行政組織の立ち上がりは遅れ,指揮や判断は乱れる。このような非常時には,超法規的な処理と救護のための迅速な行動が要請される。そして継続的な支援体制の確立が必要となる。そのためには,情報の集中化が不可欠である。NGO活動に一定の意義があることは言うまでもないが,以上を実現しかつ継続させるためには行政ルートによる活動以外にありえないといえる。
 以下に,自治体病院を中心とした救護活動3,6,7)の一部を報告し,救護活動から見えてくるあるべき精神保健・医療についていくつかの問題を提起したい。

阪神・淡路大震災における精神科救援・救護活動の現場と問題点—日本精神神経学会阪神大震災対策特別委員会関西現地本部本部長の立場より

著者: 堺俊明

ページ範囲:P.687 - P.691

■はじめに
 1995年1月28日開催の日本精神神経学会理事会において,阪神大震災対策特別委員会が設置され,筆者が関西現地本部本部長に任命された。主たる役割は情報収集のほか,現地支援および医療チーム派遣の募集,連絡,調整である。ここでは今回我々が行ってきた救援活動のうち,特に情報収集活動と派遣チームの調整などについて述べる。

被災地内部から—レポートを書いてしまった人間の4か月目のレポート

著者: 中井久夫

ページ範囲:P.693 - P.700

■はじめに
 震災後4か月経った。震災の日々は遠い灰色の彼方のようでもあり,昨日のことのようでもある。晴天が続いた当時と反対に,今は雨が被災地のテント生活者を脅かし,仮設住宅の鉄板屋根にやかましい。
 最後の来援精神科医は県立精神保健センターのコーディネーター室にコーディネーターの補佐として勤務してくださった東北大学と,夜間往診隊への東京都の方々で,4月末,雨の中をひっそりと帰ってゆかれた。兵庫県は,4月27日をもって,非常事態を終結するということを伝えてきた。それまでの多少の法規逸脱は大目に見るが,この日を限りにちゃんとやってもらいましょうという意味のようであった。様々なボランティアがなお現地で働いているが,戦争終了後,英雄からゲリラに価値転換されてしまった抵抗運動の勇士を多少思わせるような位置に変わった。
 他方「こころのケア・センター」の設置が突然身の上に降りかかってきた。突然,センターの責任者に指名された私は,敗戦後,軍が解散した後,瀬戸内海の機雷原の掃海を命じられた旧海軍々人のような気になった。これがボランティア精神科医の仕事をどれだけ継続してゆけるであろうか。年間3億円の予算は国が精神科関係事業に支出したものとしては巨額であり,そのこと自体が画期的といわれるのであるが,3か月間に神戸を埋めた来援精神科医が私弁された費用は数千万に上り,さらに労働を人件費に換算すると数億ではきかないのではないだろうか。そして私たちはその後に来るであろうものに対する予防精神医学を行ったのではなかった。もし「こころのケア・センター」が従来の記録とは違った経過を記録するとすれば,それは第1に来援精神科医の賜物であるはずである。
 さらに,全国の精神科医たちが,同じ目的のために,同じ場所で,同じ釜の飯を食って働いたという,これまでになかった事態,願って得られるものではない経験は,数年,数十年にわたって,ある効果をこの列島注)の精神医学,精神医療に残すのではないだろうか。

震災直後の入院症例—ある被災地自治体立精神病院からの報告

著者: 山口直彦 ,   戸田和宏 ,   幸地芳朗 ,   岩尾俊一郎

ページ範囲:P.701 - P.706

 光風病院は450床前後で運営されている自治体立単科精神病院である。病院は神戸市にあるが,六甲山の北側に位置するため,一時給水不能,数病室使用不能になったことはあったが,地震の直接被害は市街地と比べて軽微であった。
 まず,震災後1月間に当院に入院した患者について簡単に報告したい。地震直後は,合併症で他院入院中であった患者が帰されてきた程度で,入院患者の動揺も少なく,平和であった。ところが,震災4日目の1月20日より,入院要請の電話が鳴り出した。震災後1か月の入院数の経過は図1に示した。震災当日より1月末日までの2週間で58名の入院があった。当院の年間の入退院数は約480であるので,平時の約3倍の入院数となる。時間外の救急入院が極めて多かった。2月初旬に一時減少したが,2月10日ころよりまた増加し,この傾向は4月初旬まで続いた。

精神科医療救護チームおかやまの活動について

著者: 大森文太郎

ページ範囲:P.707 - P.713

■はじめに
 1月17日に発生した阪神大震災に対して,岡山から出動した精神医療救護チームは,県立施設の職員による救護チームが1月25日から2月末まで芦屋保健所で,また岡山県精神科医会を中心に精神医療関係団体により組織された「精神医療救護チームおかやま」(SQO)が1月25日から3月末まで須磨保健所で救護活動を行った。なお,4月いっぱいは神戸市内を3チームでカバーする精神医療救護チームの1つとして,須磨保健所を拠点として現在も活動中である。
 本報告においては,1月25日から3月末までのSQOの活動の概要とその活動方針,また今回の活動を通じて感じた点などについて述べてみたい。なお,SQOの活動終了時点において,SQOの扱った全症例についての検討を加えた最終報告書を出す予定である。
 さて,今回の活動の中心になった岡山県精神科医会について簡単に紹介しておきたい。
 岡山県精神科医会は,精神科医相互の研修と医師会などを通じて,他科の医師と協力して精神科医療のみならず,広く地域の精神保健に貢献することを目的として,1990年1月に岡山県下のほとんどの精神科医約250名をもって組織した団体である。現在,岡山県精神科医会,岡山県医師会精神科部会,岡山市医師会精神科医会の3組織が三位一体となって活動をしている。また,1994年1月に岡山県が設置し,県医師会に管理が委託されている「精神科休日相談センターおかやま」の実質的運営にも当たっている。

研究と報告

分裂病者の挿話性病理現象に対するclonazepamの治療効果

著者: 井田能成 ,   内村直尚 ,   長谷川浩二

ページ範囲:P.715 - P.722

 【抄録】精神症状を主徴とする発作性の挿話性病理現象(以下発作現象)を長期間にわたり頻発していた精神分裂病の3症例を経験した。発作現象の症状は,思考制止,思考滅裂,思考途絶,注察妄想,被害関係念慮,抑うつ気分,不安焦燥感,行動制止などで,知覚変容体験はほとんど認められなかった。発作現象が抗精神病薬の減量変更により消失したという報告があるが,2症例は減量すれば病状悪化の可能性があったし,1症例では減量により精神症状が再燃した。また,発作現象に有効とされるbenzodiazepine(BZD)系抗不安薬や抗コリン薬の投与によりある程度の改善は認められたが,完全には抑制されなかった。そこで,BZD系抗てんかん薬のclonazepamを併用投与したところ3症例ともに発作現象は完全に抑制された。これらのことから,発作現象により日常社会生活が障害されていながら抗精神病薬療法の調整が難しい精神分裂病の症例では,clonazepamの併用療法が有効であると考えられた。

前駆期に強迫症状を有する児童期発症の精神分裂病の特徴

著者: 飯田順三 ,   岩坂英巳 ,   平尾文雄 ,   橋野健一 ,   松村一矢 ,   田原宏一 ,   青山富貴子 ,   崎山忍 ,   辻本博一 ,   川端洋子 ,   井川玄朗

ページ範囲:P.723 - P.730

 【抄録】15歳以下でDSM-III-Rによって精神分裂病と診断された39例を前駆期に強迫症状を呈した群16例と強迫症状を呈さなかった群23例に大別し,両群を種々の因子に関して比較検討した。その結果,前駆期に強迫症状を呈した群は強迫症状を呈さなかった群に比べて,男性に多く,周産期障害や頭部CTにおける異常が多く,遺伝負因は少なく,IQは高かった。また前駆期の期間が長く,潜行性発症が多く認められた。前駆症状として学業成績の低下,著しい社会的孤立,鈍麻したあるいは不適切な感情などの陰性症状が多く認められ,臨床症状においても会話の貧困のみが顕著で,連合弛緩,作為体験,会話性幻聴,幻視,種々の妄想,妄想構築などの陽性症状は少なかった。このように前駆期に強迫症状を呈する分裂病群は呈さなかった群と比べて明らかに異なった臨床像を呈しており,subtypeとして区分できる可能性が示唆された。

慢性妄想型分裂病のPET所見

著者: 上杉秀二 ,   豊田純三 ,   飯尾正明

ページ範囲:P.731 - P.735

 【抄録】妄想型分裂病の長期入院患者と健常者の局所脳血流量を,PETを用いて測定し比較検討した。対象:妄想型分裂病5例(平均年齢41.4±5.3歳,全例男性),健常者6例(平均年齢42.0±12.1歳,全例男性)で2群の年齢および性を一致させた。方法:PETは15O-CO2の持続吸入法を行い,安静開眼状態で行った。各脳部位のROIを取りrCBFの測定を行った。
 結果:妄想型分裂病患者のrCBFは健常者に比し側頭葉および小脳で有意に高く(p<0.05,t-test),前頭葉,頭頂葉および尾状核,海馬傍回,被殻では高い傾向(p<0.1)が認められた。一方,視床では差が認められなかった。また妄想型分裂病患者の,各脳部位でのrCBFの左右差は認められなかった。またSPECTによる相対的血流量の研究では,小脳を基準に比を算出することがあるが,今回の結果から小脳が基準になりえるのか問題があり,今後の検討が必要と考えられた。

向精神薬に起因する薬剤性無顆粒球症の顆粒球コロニー形成刺激因子(lenograstim)による治療

著者: 平井茂夫 ,   堀彰 ,   有馬邦正 ,   白山幸彦

ページ範囲:P.737 - P.742

 【抄録】我々は,精神科病床約500床の施設において無顆粒球症を,ほぼ同時期に3例経験した。3例とも赤血球,血小板に異常はみられず,白血球減少(症例1:3.28×103,症例2:1.26×103,症例3:2.04×103/μl)と好中球の菩明な減少(症例1:210,症例2:390,症例3:430/μl)が認められた。無顆粒球症の原因薬剤としては,症例1ではlevomepromazine,症例2ではlevomepromazine,promethazine,carbamazepine,症例3ではsulpirideが考えられた。無顆粒球症の治療としては上記の原因薬剤の中止が重要であった。しかし,顆粒球コロニー形成刺激因子(lenograstim)の注射により,症例1では感染症を未然に抑え,症例2および3では重篤な感染症を引き起こすことなく無顆粒球症の治療に成功した。以上の結果から,精神科領域でも薬剤性無顆粒球症は決してまれなものではなく,その治療には原因薬剤の中止とlenograstim注射が有効と考えられた。

多彩な精神症状を呈したchorea-acanthocytosisの1例

著者: 水上勝義 ,   川西洋一 ,   白石博康 ,   鈴木悦

ページ範囲:P.743 - P.749

 【抄録】精神分裂病様症状で発病し,その後人格変化や知能低下を呈したchorea-acanthocytosis(CA)の1例を報告した。症例は24歳の女性。17歳時幻聴,思考化声,被害関係妄想,被毒妄想,思考伝播,作為体験などで発病した。約3年後口部ジスキネジアが,さらにその後人格変化や知能低下も目立つようになった。またしばしば抑うつ,不安状態を呈した。血液検査で有棘赤血球を10.6%に認め,CPKも高値を示した。本例の精神症状は既報告の精神症状と符合した。またCAでみられる精神症状と,同じく尾状核に主病変を持ち,舞踏病を主症状とするHuntington病の精神症状とは類似した点が多いことを指摘した。しかしながら,これまで精神分裂病様症状を呈したCAの報告は比較的まれであり,本例のように,精神分裂病様症状で発病し,後に口部ジスキネジアが出現した症例は,精神分裂病に薬剤性の遅発性ジスキネジアが出現したと考えられやすく,本症の存在が見過ごされる可能性もあるものと考えられた。

短報

性格尖鋭化と知能低下を示し脳萎縮と淡蒼球病変を認めた急性高山病後遺症の1例

著者: 河西千秋 ,   後藤健一 ,   阿瀬川孝治 ,   渋谷克彦 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.751 - P.754

 急性高山病(acute mountain sickness)は高所への短時間の移動でみられ,咳漱,動悸,呼吸困難のほか,頭痛,めまい,脱力,歩行障害などの神経症状を呈し,重度の場合には意識障害から死に至ることもある1,7)。一般に急性高山病の本態は,急激に低圧・低酸素環境に曝露されることにより惹起される肺水腫とされ,神経症状は主に低酸素性低酸素脳症によるものと考えられているが,中枢神経の病変については十分検討されているとはいえない。高山病では種々の神経症状がみられるにもかかわらず,これまでは循環器・呼吸器系に焦点を置いた症例研究がほとんどであり,中枢神経系の病変や症状を詳細に記載したものは少ない。今回我々は,意識障害を伴う急性高山病の後に性格変化と知能低下を示し,画像上で前頭葉の萎縮と淡蒼球病変を認めた症例を経験したので,その症例を呈示し,既報告例の検討,病態に関する考察を加えて報告する。

橋梗塞後,長期にわたり離人症状を呈している1症例

著者: 森岡洋史 ,   北賢二 ,   堀切靖 ,   瀬戸口啓夫 ,   上山健一 ,   滝川守国

ページ範囲:P.755 - P.758

 脳梗塞後に何らかの精神障害を来すことはよく知られており,なかでも抑うつ状態が出現したとする報告が多くみられる2,4,10)
 今回筆者らは,橋(pons)に梗塞を起こしたのち抑うつ状態を呈した37歳の女性例を経験した。本症例は,前景にみられた焦燥感や恐怖感,自殺念慮の背後に離人感が存在し,抗うつ剤を中心とした治療に抵抗した。

躁うつ病の治療中に急速に痴呆を来し大脳白質に広範な病変をみた1臨床例

著者: 近藤直樹 ,   大原浩市 ,   星野良一 ,   内山彰 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.759 - P.762

 MRI(magnetic resonance imaging)は,最近では痴呆性疾患の診断に必要不可欠な検査となっている。従来の画像診断法では診断困難であった脱髄,変性疾患やその他の神経精神疾患を診断しうる可能性があり,MRIを用いた診断法は今後さらに進歩すると思われる。今回我々は,躁うつ病の治療経過中に,急速な痴呆を呈し,CTでは明らかな所見はみられないが,MRIで大脳白質に広範な病変をみた1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

前頭葉症状で発症した成人型異染性白質ジストロフィーの1症例—臨床症状とSPECT所見の関連について

著者: 玉垣千春 ,   村田章 ,   斎藤朱実 ,   坂田哲二 ,   斎藤正己

ページ範囲:P.763 - P.765

 異染性白質ジストロフィー(metachromatic leukodystrophy;以下MLDと略す)の臨床亜型である成人型MLDは,精神症状により発現することが多く4)精神科領域でも重要な疾患である。
 今回,行動異常,性格変化で始まり,徐々に記銘力障害が進行して精神科を受診し,検査結果と臨床経過より成人型MLDと診断した症例を経験したので報告し,考察を加える。

精神神経症状を伴ったMarfan症候群の1例

著者: 柳橋雅彦 ,   安田聖子 ,   秋草文四郎

ページ範囲:P.767 - P.769

 Marfan症候群は結合組織系の先天性代謝異常により主に骨格系,眼,心血管系に特徴ある所見を来す疾患である。類似した症状を呈する疾患には,homocystinuria,Ehlers Danlos syndrome,Beals syndromeなどがある4)。歴史的には,1896年フランスの小児科医Marfan7)が,5歳女児の華奢で細長い四肢を,Dolichostenomelieと記載したのに始まる。その後心奇形,水晶体脱臼の合併が報告された1,10)。1931年,オランダの眼科医Weve14)は本症候群を中胚葉系の諸臓器に異常を伴う常染色体優性遺伝疾患とし,Dystrophia mesodermalis congenita Typus Marfanと命名した。我々は,典型的Marfan症候群の1例の精神神経症状について本症候群との関連を考察しつつ報告する。

分裂病症状を伴ったGilles de la Tourette症候群の1例

著者: 山本恵 ,   安村修一 ,   中野倫仁 ,   石垣博美 ,   池本真美 ,   渡部正行 ,   高畑直彦

ページ範囲:P.771 - P.773

■はじめに
 Gilles de la Tourette症候群(GTS)に認められる傾向として,一般的に制縛的な気質,衝動性・攻撃性などが挙げられている。また,GTSの精神症状についても論議されているが,自我障害症状を伴う症例報告は散見される程度である3,5)。今回我々が経験した症例は,多彩なチック症状に加えて,妄想や作為体験などの精神症状が認められたが,GTSと考えられる症状がなければ,精神分裂病欠陥状態のシュープと診断しうる興味深い症例であった。したがって,本症例の臨床経過と薬物療法について,若干の考察を加え報告する。

紹介

阪神大震災下における中学校と生徒たちの体験—学校精神保健コンサルテーションの現場より

著者: 人見一彦

ページ範囲:P.775 - P.779

■大震災下のある中学校
 数年間にわたり,阪神地域のある都市の中学校において学校精神保健コンサルテーションに参加させていただき,学校で生徒たちが示す心配な行動について,それをどのように理解すべきであるか,またそれに対してどのような対応が望ましいかについて,精神医学の立場から教師にアドバイスを与えてきた。
 今回は大変なことになってしまった。それは1月17日未明に起こった兵庫県南部地震がもたらした大震災のためである。800人規模の伝統ある中学校では,5人の生徒が震災で亡くなった。3人が土砂崩れによる家屋の倒壊により,1人は階下にいて,もう1人は偶然トイレに入っていて,これも家屋の倒壊により亡くなった。震災当初は約750人の住民が学校に避難していた。震災から17日目に,午前中の短縮で授業が再開されたが,その時点ですでに約150人の生徒が疎開していたという。大半は再び帰ってくる予定はないらしい。約30人の生徒が校区外の避難先から,長い時間をかけて電車を乗り継いで通ってくる。現在も約50人の住民が学校の体育施設に避難している。わずかであるがその避難場所から通ってくる生徒もいる。

私のカルテから

阪神大震災を契機に発揚状態を来した1例

著者: 森内幹 ,   川端茂雄 ,   江川晶子 ,   川端正義 ,   仁木繁

ページ範囲:P.780 - P.781

 我が国において,自然災害が精神障害に及ぼす影響についての報告は少ない。十勝沖地震6),長崎水害1),山陰豪雨水害7),三宅島噴火4,5)の報告がある程度である。
 1995年1月17日早朝,淡路島を含む兵庫県南部地域は,震度7の激震に見舞われ,甚大な被害を被った。このような急性および慢性のストレス状況下で,いかなる疾患が発生するか知ることは重要である。

動き

「第17回日本生物学的精神医学会」印象記

著者: 米田博

ページ範囲:P.782 - P.782

 日本生物学的精神医学会第17回大会は,1995年3月30日から4月1日の3日間,山形大学十束支朗教授を会長として山形市中央公民館および山形グランドホテルにおいて開催された。まず第1日目に新進気鋭の研究者による若手プレシンポジウムが行われ,第2日目には午前中一般演題の発表,午後から特別講演とシンポジウムが開催され,第3日目には一般演題の発表が行われた。本学会は発表演題数も増えてきており,一般演題の発表は,4会場で同時に並行して行われた。
 第1日目の若手プレシンポジウムは「情報伝達機能-精神疾患解明への基礎医学的研究」と題して西川徹氏(国立精神・神経センター),森信繁氏(山形大学)の司会のもとに5名のシンポジストがそれぞれグルタミン酸トランスポーターの構造,NO,ポジトロン断層法,セロトニン2A受容体,転写制御因子AP-1結合蛋白質など最新の研究成果を報告した。

「第2回多文化間精神医学会」印象記

著者: 昆啓之

ページ範囲:P.783 - P.783

 学会は阪神大震災の3日後の1995年1月20日,栃木県総合文化センターで始まった。
 初日には3例のケースカンファレンスが行われた。辻恵介氏(自治医大精神科)は,「うつ病が増悪して措置入院となったペルー人の事例」を提示した。薬物への反応は良好ではあるが,移民という境遇が,うつ病の増悪,事例性の発展に大きな影響を及ぼしたケースであった。下地明友氏(熊本大学医学部神経精神科)は「『臨床空間』の『内部』と「外部』―精神医学とシャーマニズムの境界現象」という演題で,「事例検討」そのものを問う,医療人類学的議論を展開した。石垣博美氏(札幌医科大学神経精神科)は「カミダーリを経てユタになった事例」の参与観察を詳細に報告した。それぞれに90分が費やされたが,いずれにおいても,活発な討論が交わされた。

「精神医学」への手紙

Letter—ギランバレー症候群の急性期に“闘病心”は逆効果?

著者: 大西次郎 ,   横山和正

ページ範囲:P.785 - P.785

 ギランバレー症候群(GBS)は一般には機能予後の良好な末梢神経疾患ですが,病状が遷延して後遺症を残す場合もあり,これは軸索障害が強いタイプに多いとされています。ただ,末梢での誘発筋活動電位で鑑別しますとGBSの多くを占める,振幅低下が少ない脱髄型と思われる患者さんでも,似たような経緯をとる例があります。これにはいろいろな要因が関与すると思われますが,患者さん自身の心理には注意は向けられていないようです。
 対症療法のみで経過した脱髄型GBSの男性が,発症10か月後もなお歩行困難のため入院されました。彼が四肢麻痺・呼吸筋麻痺に至った時期を振り返って「自分は病気に絶対に打ち勝ってみせるとずっと考えていたが,その間は病気は休まず進行した。」「ある日,“もうだめだ,この病気にはかなわない”と思った。まさにその日から回復が始まった。」という意味の内容を強調されました。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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