資料
分裂病の主観的欠陥体験評価尺度(SEDS)日本語版
著者:
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岩脇淳
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太田克也
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渡辺昭彦
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成島健二
ページ範囲:P.997 - P.1003
■SEDS翻訳に当たって
ここに紹介するのはPeter F. Liddleが1988年に開発した分裂病の主観的欠陥体験の評価のためのスケール(SEDS)である。今日,分裂病の症候論は陽性症状,陰性症状の二分法に準拠しており,前者は主として患者の主観的陳述から把握される異常体験,後者は主として観察者の判断に基づく表出・行動障害を意味している。これらに対して患者自身が異常と判断する体験にはまだ十分な注意が払われていない。Huber4)は分裂病の本質を非特異的な欠陥にあると考え,分裂病の患者は急性期を除く多くの期間にその欠陥を自覚できるとした。彼は自覚された欠陥症状が典型的な分裂病症状の基礎にある情報処理障害を表現していると推測し,それらを基底症状basic symptomと呼んだ。他方,英語圏では分裂病における自覚症状は,Chapman2)による早期兆候の研究に始まって現在に至っており,主観体験Subjective experienceと呼ばれることが多い。基底症状も背景の理論から離れて現象だけをとらえれば,主観体験に含まれるといえよう。
分裂病の主観体験の評価法はこの10年間にいくつか考案された。Sullwold12)のフランクフルト式愁訴質問紙はドイツ語圏で一時期最も注目され,日本語版での研究9)も公表されているが,被検者が質問の意味を誤解する恐れがあることや,100を超える膨大な数の設問に回答しなければならないことなどから,現在はあまり利用されていない。Grossら3)はボン式基底症状評価尺度Bonn Scale for the Assessment of Basic Symptoms(BSABS)を編纂したが,これもまた100以上の項目からなり,実用的とは言いがたい。これに対して英語圏では10数の質問項目からなる質問表がいくつか公表されている1,5,11)。これらは短時間で施行でき,質問内容も比較的平易であるため信頼性も高いと思われる。しかしそのために評価される症状が非特異的になりすぎる傾向がある。