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雑誌目次

論文

精神医学38巻10号

1996年10月発行

雑誌目次

巻頭言

21世紀の心

著者: 宇内康郎

ページ範囲:P.1020 - P.1021

 20世紀も余すところ少なくなった。昨年は戦後50年ということで種々の行事が行われた年でもあった。ちょうど阪神大震災という未曽有の脅威に見舞われ,人間の作り上げた科学の脆さをいやが上にも知らされた年でもあった。その上科学を使って多くの人たちを無差別に殺傷する集団,オウム真理教の出現をみた年でもあった。そこで科学技術の面より過去,特に20世紀を振り返り,その底に流れる精神を抽出し,21世紀に向けて新たな心を見いだすことができたらと思う。
 今世紀は人類史上類をみないほどに科学が発達し,我々はその恩恵を受けて物質的な繁栄を手にした。18世紀半ばから19世紀初めにかけて,英国で産業革命が起こり,工場制と資本主義が確立した。19世紀は自然科学が開花し,電気学,有機化学,熱力学,医学,蒸気交通機関,電信技術などが発達し,経済力,軍事力によるヨーロッパの世界制覇を可能にした。20世紀は,ライト兄弟の飛行機に始まり,ロケット,原爆,超音速ジェット機,人工衛星,月面着陸,スペースシャトルの成功をみ,新素材ではナイロン,合成ゴム,超合金が出来,情報面ではラジオ,計算機,テレビ,トランジスタ,産業用ロボット,集積回路(IC),LSI,スーパーコンピューターなど原子力,巨大科学の時代となり,生物学ではペニシリンや抗生物質の発見,DNAの分子構造の解明に至った。このような進歩の中で,特に今世紀注目すべきことは,アポロ11号の月面着陸(1969)で,地球は1つという宇宙科学時代に入ったこと,ワトソン,クリックによってDNAの構造が判明し(1953),無生物と生物の境界がなくなり,人間を含めて生き物はすべて同じDNAから出来ているという生命科学の時代に入ったこと,そしてエレクトロニクスを使っての情報化と共に生物を情報モデルとする時代に入ったことであろう。

展望

家族療法の現況—日本とアメリカの場合

著者: 下坂幸三 ,   渋沢田鶴子

ページ範囲:P.1022 - P.1034

■はじめに
 家族療法といえば,その経験はないといわれる精神科医は多いであろう。しかし家族面接といえば,この経験を持たない精神科医はいない。そこで家族面接とは患者と家族とを含めた面接の謂だとすると,この経験者は相当に減る。個人精神療法の基本を踏まえながら,この意味の家族面接を続けることができるならば,それはすでにして家族療法だといえる。家族は治療者に出会い,言い分をよくきいてもらい,わずかの助言を得るだけで相当に安心するとしたものである。そしてこの家族の安心はただちに患者を支える力となる。「家族はやりづらかろう」という声を耳にするが,家族「療法」をしようと意気込まなければ,家族面接は造作もないはずである。これはわれわれの個人的経験だが,個人面接のほうが油断できない,緊張感が高くなる。家族面接は,少々へまをしても複数以上となった家族はわれわれに概して寛大である。渋沢の紹介するアメリカの家族療法は,さまざまな治療者の家族観と治療技法とが述べられている。しかし彼らのうちのなかにも,固有の技法以前の家族面接の経験を持った者がいたと推量する。家族療法の習得がそういった素朴な経験を欠いていて,はじめから名の売れた家族療法家のもとで,既成の技法を身につけることから始まるというのであれば,それはかえって不幸のような気がする。
 家族療法の動向は,相当長期にわたってシステム論一本槍であった。しかしどの精神科医にとっても必要な患者を含む家族面接が,ひとつの理論によって支配されるのは不都合である。家族成員相互のコミュニケーションパターンを循環的に理解することはもとより必要だが,歪んだものと映るコミュニケーションパターンを早急に改善しよう―自然さに乏しい逆説的介入もこの中に入る―とすれば,「冒険」になる。それに冒険は冒険者の力量に大きく左右される。
 コミュニケーションパターンへの介入に先がけて面接のつど大切なのは,家族各成員の言い分をそれぞれに理があるものとして一々確認していく治療者の働きである。これはさまざまな家族療法技法の前提となる。患者,家族,治療者の三方・三様の異なった見方・意見が参加者全員の耳にはっきり届くことに少なからざる意義がある。この過程を通して参加者全員の視点の移動・拡充・転換が可能となる。とりわけ,家族,治療者の如上の視点変化に支えられた患者の視点転換は,治癒を招来することすらある。

研究と報告

セロトニン症候群と考えられた2症例—悪性症候群との鑑別を中心に

著者: 西嶋康一 ,   清水光恵 ,   阿部隆明 ,   石黒健夫

ページ範囲:P.1035 - P.1041

 【抄録】セロトニン(5-HT)症候群と考えられる2症例を報告した。症例1はうつ病の男性でアミトリプチリンとクロミプラミンが併用されたところ不安緊張,発熱,頻脈,発汗,反射亢進が出現した。症例2は躁うつ病の男性で,炭酸リチウム,トラゾドンを併用中強い不安焦燥を示し,トラゾドンがアミトリプチリンに変更された後より寡動緘黙状態となり,発熱,意識障害,発汗,ミオクローヌス,反射亢進,軽度の筋強剛が認められた。5-HT症候群は悪性症候群とその臨床症状が類似するが,2症例とも5-HT再取り込み阻害作用の強い抗うつ薬服用後発症していること,特有の不安焦燥を示すこと,筋強剛がないか軽度であることから,悪性症候群よりは5-HT症候群と診断するほうが妥当と考えられた。

てんかん発作の再発—10年間以上の発作抑制後に再発を認めた24症例について

著者: 和田一丸 ,   福島裕 ,   斎藤文男 ,   橋本和明 ,   千葉丈司 ,   桐生一宏 ,   扇谷一朗 ,   兼子直

ページ範囲:P.1043 - P.1047

 【抄録】10年間以上てんかん発作が抑制されていたにもかかわらず発作の再発をみた24症例の臨床特徴について分析した。このうち13例が特発性全般てんかん,11例が症候性局在関連てんかんであり,全例が再発前に強直間代けいれんを有していた。また,9例では再発時に10日以上抗てんかん薬を服用しておらず,残り15例のうち過半数(8例)では再発時の服薬が不規則であった。再発時に過労,睡眠不足などの身体的負荷が存在したものは11例(46%)であった。したがって,強直間代けいれんを有する例では,10年間以上発作が抑制されていても再発する場合があり,再発防止のためには服薬中断,不規則服薬および身体的負荷に注意すべきである。

1年以上にわたる長期もうろう状態を呈したてんかんの1症例

著者: 真下清 ,   相川博 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.1049 - P.1054

 【抄録】長期もうろう状態を呈した19歳のてんかん女性を報告した。症例は14歳時から強直間代発作が出現し,発作を繰り返す経過中には,疎通性の低下と1年間にわたる亜昏迷様のもうろう状態を呈した。強直間代発作はsodium valproateで抑制されたが,もうろう状態はhaloperidolで改善され,もうろう状態を含む約2年半を想起できなかった。脳波では左側頭葉を中心に突発性異常波が出現したものの,もうろう状態と異常波の消長との関連は明確ではなかった。SPECTでは左前頭から側頭部にかけて広範に血流が低下し,入院1年後にはこの所見は改善した。本症例のもうろう状態は意識障害を伴う発作間歇期の精神症状と考えられた。

アレキシサイミアと強迫性格—計量精神医学的研究

著者: 村松公美子

ページ範囲:P.1055 - P.1063

 【抄録】大学生および社会人467名を対象として,Toronto Alexithymia Scale(TAS)と,新しく開発した強迫性格に関する自己記入式質問票Obsessive Personality Trait Scale(OPTS)を実施し,アレキシサイミアと強迫性格との関係を計量精神医学的観点から検討した。その結果,アレキシサイミアと強迫性格の近縁性が示唆され,これまでの記述現象学的観点からの指摘を支持していた。さらにアレキシサイミアと強迫性格は,特に感情機能の面では,類似性が強く,想像的活動や思考様式の面では,一定の関係が乏しいことが示唆された。この結果の臨床の場における意義についても考察した。

EMBU尺度(養育体験認知に関する自己記入式調査票)の日本語版作成と信頼性検討

著者: 染矢俊幸 ,   高橋三郎 ,   門脇真帆 ,   ,  

ページ範囲:P.1065 - P.1072

 【抄録】自分が受けた養育体験を評価するための自己記入式調査票(EMBU尺度)日本語版を作成し,その信頼性を検討した。日本語版の作成は英語版EMBU尺度の翻訳により行った。本調査票を配布した後,同意の得られた107名より回答が得られ,うち63名については再現信頼性検討のために3か月後に再検査を行った。主成分因子分析の結果,拒絶・情緒的暖かみ・過保護(成績重視)・過保護(過干渉)・ひいきの因子が抽出された。またArrindellらの4つの下位尺度を用いた因子分析では,拒絶に通じる過保護と情愛に満ちた受容の2つが抽出された。これらの因子構造は再検査でも同様であり,他国語版EMBU尺度と一致する構造であった。4つの下位尺度の内的整合性や再検査法による再現信頼性も十分良好であり,以上の結果から日本語版EMBU尺度の安定した因子構造と高い信頼性が確認された。

精神分裂病患者の運動前後の身体知覚の変化

著者: 幸田るみ子 ,   白木原市次 ,   坪内友美 ,   鈴木牧彦 ,   笠原友幸 ,   福山嘉綱 ,   西脇淳

ページ範囲:P.1073 - P.1077

 【抄録】全身持久力性の運動の前後で,精神分裂病患者の身体知覚にどのような変化が生じるかを調査した。
 全身持久力性の運動であるエルゴメーター駆動を10分間行った。運動中の主観的運動強度(Borgの指標を用いて)と,ペダル回転数の変動係数を測定した。その前後に,触2点間弁別閾(恒常法で)を測定した。
 精神分裂病患者は健常者に比較し,触覚を通して測定される身体知覚が有意に鈍く,また音と視覚的に表示される回転数に合わせて,一定のペースでペダルを漕ぐことができにくかった。特に触覚に関しては,全身持久力性の運動後,本人が主観的に感じる疲れの度合いで変化する傾向があった。

精神分裂病者における消化性潰瘍—疼痛の訴えがない例の特徴

著者: 吹野治 ,   坂本泉 ,   柏木徹 ,   福間悦夫

ページ範囲:P.1079 - P.1082

 【抄録】精神病者は一般に合併症の症状を訴えることが少ないといわれているが,個々の合併疾患についての報告は少ない。今回,精神科入院精神分裂病患者の消化性潰瘍10例の臨床症状を調査し,疼痛の訴えがない例とある例とを比較した。その結果,精神分裂病者の消化性潰瘍では出血症状,悪心嘔吐,食欲不振が高率である一方,疼痛は少ない傾向にあった。また疼痛の訴えがない例はある例に比べ,抗精神病薬服用量が多く,出血症状で初発するものが多かった。以上より精神分裂病者の消化性潰瘍は,一般内科の症例に比べて身体的に重篤なものが多く,特に大最の抗精神病薬を投与されていると,疼痛を訴えにくく,出血症状により発見されやすい傾向があった。

短報

うつ病の経過中に性欲亢進を呈した1例—trazodone投与による副作用か?

著者: 中村純 ,   小鳥居剛

ページ範囲:P.1083 - P.1086

 trazodone6)(以下,TZDと略す)は,従来の抗うつ薬とは異なりnoradrenaline(NA)に比べserotonin(5-HT)の再取り込み阻害作用が比較的選択的であり,最近開発中の選択的5-HT再取り込み阻害剤(SSRI)に近い治療スペクトラムを有するとされている。したがって,副作用としては眠気,ふらつきなどが多く,口渇,便秘などの抗コリン性副作用は少ないと推定されている。
 ところで,TZDにはα1-adrenaline(α1-Ad)受容体遮断作用を有することも指摘5)され,それによる副作用としてTZD導入時より持続性勃起症1,13)が起こることが懸念されていたが,泌尿器科領域ではTZDをインポテンツの治療に用いた報告9〜11)もなされている。最近,TZDは抗うつ薬として最も多く使用されているにもかかわらず,TZDによる持続性勃起症に関する報告は日本ではまだみられていない。今回,TZDを投与されたうつ病患者の経過中に抑うつ気分とは調和しない性欲亢進症状を呈した1例を経験したが,これはTZDによる持続性勃起症と関連した副作用と考えられたので報告する。

身体パラフレニー(Gerstmann)を呈した脳梗塞の1例

著者: 渡辺良 ,   田辺英

ページ範囲:P.1087 - P.1089

 身体パラフレニー(somatoparaphrenia)は,Gerstmann3)により1942年に報告されて以来,右大脳半球病巣に由来する病態失認関連の1症候として注目されてきた6〜8,10,11)。しかし,その典型例を診ることは,脳卒中患者が数多く入院する施設にあっても稀である9)。我々は,右側脳梗塞患者に病態失認,半側身体失認とともに幻影肢(phantom limb)を含む身体パラフレニーを呈した患者を経験したので若干の考察を加えて報告する。

ダウン症候群において出現した驚愕てんかんの1例

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.1091 - P.1092

 音や接触などの外的刺激による驚愕によって誘発される驚愕てんかんはAlajouanineとGastaut2)によって最初に報告された病態であるが,本邦でも早くから報告があり8,9),最近は1つのまとまりを持った症候群として定着しつつある1,11)。片麻痺を呈し粗大な脳損傷を伴う患者において強直発作として出現するのが驚愕てんかんの典型であり,多くはレノックス症候群ないしはその近縁の病態の枠内で出現する。驚愕てんかんそのものはこのように広く知られつつあるが,近年,ダウン症候群の患者において,片麻痺や粗大な脳損傷を伴わずに驚愕てんかんが出現することが注目され始めている3,4)。我々はダウン症候群を背景として思春期以降に驚愕てんかんを呈するようになった1例を体験したので報告する。

Propericiazineによりてんかん発作の増悪を来した1例

著者: 高見浩 ,   岡本泰昌 ,   末田耕一 ,   吉村靖司 ,   日域広昭 ,   大森信忠

ページ範囲:P.1093 - P.1095

 これまでに,抗精神病薬によりけいれん発作が惹起されたという報告が多数なされ2,7,8),特にてんかん患者をはじめ脳波異常の既往を有する場合には,より起こりやすいので注意を要すると言われている8)。また,脳波上基礎活動が徐波化したり,棘徐波複合や陽性棘波が出現することも報告されている1,3〜5)。しかし,propericiazineは構造特性上けいれん発作を誘発しやすいとされているが8),我々の検索しえたかぎりではpropericiazineに関する報告例は認められない。今回我々は,てんかん患者にみられた幻聴と作為体験に対して増量を試みたpropericiazineにより,てんかん発作が頻回となり,脳波上基礎活動の悪化と突発活動の出現を認めた1例を経験したので報告する。

感情障害とてんかん発作を合併したChiariⅠ型奇形の1例

著者: 柳井一郎 ,   大田垣洋子 ,   岩本泰行 ,   東方田芳邦 ,   衣笠隆幸

ページ範囲:P.1097 - P.1099

 Arnold-Chiari奇形2)は,小脳扁桃と延髄が上部脊椎管内へ変位を起こした先天的奇形である。腰仙椎に二分脊椎,脊髄髄膜瘤(meningomyelocele)を伴うことが多く,これが本症発生の要因の1つと考えられているが,定説はない。正確な発症頻度も不明である。臨床的には2型に分類される。Chiari Ⅰ型は脊髄髄膜瘤を伴わないもので,症状は青年期から成人期に出現し,主症状は頭蓋内圧亢進と小脳性失調,脊髄空洞症で,これに舌咽,迷走,副,舌下神経の下部脳神経の障害が種々の組み合わせで現れる。Chiari Ⅱ型は脊髄髄膜瘤を伴い,生後数か月から症状が出現し,徐々に進行する水頭症が主体をなし,様々な症状を合併する。今回,我々はChiari Ⅰ型に感情障害とてんかん発作を合併した,比較的まれと思われる症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

Clomipramineが著効した抜毛症(trichotillomania)の1例

著者: 高橋契 ,   嶋中昭二 ,   小山司

ページ範囲:P.1101 - P.1104

 抜毛症(trichotillomania)とは,“毛髪を自らの手で引き抜くという衝動に抵抗することに繰り返し失敗して生じる顕著な毛髪損失によって特徴づけられる障害”と定義される(ICD-10 F63.3)。好発部位は頭髪とされ,なかでも前頭部や頭頂部,側頭部など利き手の可動範囲に多いと言われている。また,好発年齢は学童期と言われ,従来,治療としては行動療法や精神療法が頻用されてきた。
 近年,trichotillomaniaにおける選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor;SSRI)の有効性に関する報告が諸外国で散見される1,6,7)が,本邦においては我々が調べたかぎり報告がない。今回,我々は,比較的選択的な5-HT再取り込み阻害能を有するclomipramine(以下CMIと略記)の投与により著明な改善の得られたtrichotillomaniaの1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

脳炎の経過中多彩な精神症状を呈した急性フェニトイン中毒の1例

著者: 柴田展人 ,   松原博生 ,   増村年章 ,   森大輔 ,   一宮洋介 ,   井上令一

ページ範囲:P.1105 - P.1108

 フェニトインの急性中毒は,身体症状として,眼振,構音障害,運動失調,悪心,嘔吐,筋緊張低下,眼球運動麻痺などが,一方,精神症状としては意識障害,痴呆,錯乱,奇異な言動,ヒステリーなどが報告されている1〜4,12)
 今回我々は無菌性脳炎の経過中に急性フェニトイン中毒を生じて,多彩な精神症状を呈し,脳波所見の改善と並行して精神症状の改善が認められた症例を経験したので報告する。

資料

精神科救急医療の現状

著者: 武内広盛 ,   北村秀明 ,   西沢芳子

ページ範囲:P.1109 - P.1116

■はじめに
 精神科救急医療は,地域医療との関連で論じられることが多く,そのほとんどは,精神障害者の脱収容化の流れに沿ったものである。しかし,精神科医療の大きな動向であることは否めないにせよ,そのことは完成されたシステムや,解決済みの医学的根拠に基づいているわけではない。図らずも精神障害者の自立に繋がったとはいえ,そもそも脱収容化は,出発点で非医学的要因の影響を強く受けたことは事実であろう。
 「人の数ほどの精神科医療システムが必要だ。」というのは半ば冗談にせよ,脱収容化もまた道半ばの一見解である。精神の障害に自身を損い他人を害する可能性があるかぎり,精神科救急医療は精神医療を構成する根源的機能の1つであり続ける。
 厚生省では,公衆衛生審議会の意見を受け,今後の4か年で,精神科救急医療システムの全国化を目指している。この報告は上記実情に沿い,1995年5月,全国47都道府県(以下,自治体)の精神保健担当課を対象に,精神科救急医療に関するアンケート調査(アンケート内容の概略は資料1として提示した)を行い,回答内容を整理・解析したものである。

私のカルテから

Rhabdomyolysisを伴ったアルコール性ミオパチーの1症例

著者: 岸敏郎 ,   長沼六一 ,   上垣淳

ページ範囲:P.1118 - P.1119

症例
 54歳,男性,無職。
 生活歴 24歳頃から約30年間,日本酒5合/日以上の常習的飲酒を続けてきた。結婚歴なく一人暮らし。1992年(53歳)11月から倦怠感のため就労せず生活保護を受けていたが,これが自閉しての飲酒を助長し,食事は日に1回少量の炭水化物を摂るだけであった。本例についての情報は,主に,本人宅をしばしば訪れた福祉職員より得た。

動き

第1回アジア児童青年精神医学会—開催までの経過と参加印象記

著者: 村田豊久

ページ範囲:P.1120 - P.1121

 日本の親子関係,子どもたちへのしつけ,養育の方法,家族での楽しみ,子どもたちの余暇利用の様態,学校と子どもたちの関係,学ぶことの目的と意義,これらは児童精神医学や臨床心理学とも密接に関連する事がらであるが,それが欧米諸国と日本では根本的に異なっている。日本の生活様式も欧米化し,子育てをしている年代の親の意識は欧米の親たちとあまり違いがみられないという指摘もあるが,子どもたちが家庭で,また学校で示す様々な不安,あがき,失意の様態を見ていると,その背景の社会文化的基盤に未だに大きな隔たりがあることを痛感せざるをえない。ところが,日本の児童精神医学も子どもの臨床心理学も欧米にのみ目を向け,その研究成果を吸収しようと躍起になってきた(この分野のみのことでもないが)。1929年,下田光造はその異常児論の序文で,外国の書物の翻訳物を見ても日本の子どもたちの理解には全然役立たないと断言しているが,しかし,後に続いた私たちはやはり欧米一辺倒に傾いてきた。数年前から少なくとも児童精神医学に関してはこれではいけないぞということを,アジアの精神科医に知己の多い西園昌久氏(昨年の環太平洋精神科医会議会長),国際児童青年精神医学会事務局長の山崎晃資氏らが訴え始めた。彼らは環太平洋精神科医会議やASEAN諸国にオーストラリア,ニュージーランド,台湾,香港,日本などが参加するASEAN精神医学会での発表,討論を通して,アジアの国々の児童精神科医により親和性を感じるし,学ぶものが多いという。アジアの児童青年精神科医が集まったら,どうであろうかという話が盛り上がってきた。
 その提案を日本児童青年精神医学会(清水将之理事長)が全面的に支持し,第1回大会を東京で開催することが決まった。組織委員長は西園昌久氏,プログラム委員長は近畿大学の花田雅憲氏,事務局長は都立梅ケ丘病院の佐藤泰三氏がその任に当たることになった。そして1996年4月18日と19日の両日,東京の虎の門パストラルで,16の国と地域からの約400人の参加者のもと開催された。発表演題は140であった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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