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雑誌目次

雑誌文献

精神医学38巻11号

1996年11月発行

雑誌目次

巻頭言

我が国の治験のあり方の問題点

著者: 村崎光邦

ページ範囲:P.1130 - P.1131

 ICH-3横浜(The Third International Conference on Harmonisation)が1995年に開催され,日・米・欧州連合3極間での治験データの相互受け入れを促進するための統一基準が作成されて,段階的にICH-GCPが実施されることになり,治験のあり方が大きく変わろうとしている。我が国の治験のあり方の問題点のいくつかを思いつくままに述べてみたい。

特集 精神医学における分子生物学的研究

精神医学における分子生物学的研究の現状と問題点

著者: 有波忠雄

ページ範囲:P.1132 - P.1140

 分子生物学は生命現象を分子レベルでの実体的な把握に立脚した立場から解明しようとする1分野であり,1970年以降飛躍的な進歩を遂げた。その成果は,生物学的精神医学の中にも取り入れられ,遺伝,神経伝達,精神薬理などに関する研究では分子生物学の手法が多く使われている。なかでも,分子遺伝学の発達は,精神疾患が遺伝的に起こるという長い間かかって定着した事実を,具体的な遺伝子の同定の目的に利用できるようにした。精神疾患にかかわる特定の遺伝子を明らかにし,その脳での役割を解明することは,理論的にも実用面においても莫大な成果を生むことになるだろうと期待されている。本特集では,主要な精神疾患を対象に,主に分子遺伝学的研究が紹介される。現時点での主要な精神疾患の分子遺伝学的研究は連鎖解析法を中心に行われている。そこで,本稿では連鎖解析法の考え方やそれを精神疾患に適用する際に抱えている問題点を中心に解説し,以降の各論の理解の助けとしたい。

精神分裂病の分子遺伝学的研究

著者: 功刀浩 ,   南光進一郎

ページ範囲:P.1141 - P.1145

■はじめに
 精神分裂病(以下,分裂病)の病因に遺伝が重要な役割を果たしていることは,家族研究,双生児研究,養子研究などの臨床遺伝学的研究によって明らかにされている。分裂病は一般人口の約1%が罹患するのに対し,患者の第1度親族の発症率は6〜13%,二卵性双生児では17%,一卵性双生児では48%と一般人口と比較して高い7)。一方,遺伝子がほとんど同一である一卵性双生児の発病一致率が50%程度であることは,何らかの環境要因が発症に関与することも明らかである。分裂病の遺伝様式は,単一遺伝子によるメンデル遺伝では説明できず,複数の遺伝子と環境要因とが関与する「ポリジーン遺伝(polygenic)」,または「多因子遺伝(multifactorial)」であると考えられる。発症における遺伝的要因の関与も,かかわる遺伝子の種類やその影響の度合が個々の患者によって異なるものと考えられる(遺伝的異質性)。
 このように分裂病は複雑な遺伝様式をとるため,遺伝子を探す作業は,メンデル遺伝に従う遺伝病のそれと比較してはるかに困難である。しかし,近年,複雑な遺伝様式をとる遺伝性疾患(例えばAlzheimer病や糖尿病)でも遺伝子座位や遺伝子が見いだされてきていることは周知のとおりである。しかし,これらの疾患と分裂病とを比べると,さらに困難な問題に直面する。すなわち,前者には明確な生物学的診断指標があり,病態生理も明らかにされているのに対し,分裂病が内因性である,つまり,分裂病という表現型に特異的な器質性変化や生物学的マーカー,発症機序が明らかにされていないことである。これは遺伝子型と表現型とをつき合わせる作業である遺伝子研究をさらに困難なものにしている。
 このように分裂病の遺伝子研究はあらゆる遺伝性疾患の中でも最も難しい部類に入ると言って良いであろう。しかし,近年の分子遺伝学の技術の進歩を導入し,分裂病の遺伝子研究は精力的に行われており,最近の進歩は著しい。本稿では分子遺伝学的側面における最近の進歩について概観する。

感情障害の分子生物学的研究

著者: 稲山靖弘 ,   米田博

ページ範囲:P.1147 - P.1153

■はじめに
 現在,感情障害の分子生物学的研究は,患者群と健常者群の特定の遺伝マーカーのタイプを比較する相関研究や,多発家系を用いて遺伝マーカーとの共分離を検討する連鎖研究が中心である11,21,23,24)。さらに最近,感情障害の発症に重要と考えられる神経伝達物質受容体,または転換酵素が次々にクローニングされ,その染色体上の座位やエクソンーイントロン構造が明らかにされており,これら遺伝子を,患者群において系統的にプロモーターを含む領域をPCR-SSCP(polymerase chain reaction-single strand conformation polymorphisrn)法やシークエンス法により解析し,イントロン領域における多型やエクソンにおけるサイレント変異(アミノ酸置換を伴わない塩基配列の変異),ミスセンス変異(アミノ酸置換を伴う変異)を見つけだし,これらの変異が発症に関与しているかどうかが検討されている。
 ここでは,これまで行われてきた感情障害の分子生物学的研究を,主として薬理学的見地より神経伝達物質に従って分類し,受容体や転換酵素などの遺伝子構造の多型を利用した相関研究,連鎖研究を中心に概観したい。

てんかんの分子生物学的研究

著者: 兼子直 ,   千葉丈司 ,   和田一丸

ページ範囲:P.1155 - P.1161

■はじめに
 最近の分子生物学的研究の発展により,様々な疾患の原因遺伝子が同定され,てんかんの原因も分子遺伝学的に追究されている。原因遺伝子の解明は臨床症状と脳波によるこれまでの分類の再編,責任蛋白の有無の追究,てんかんの発症機序の解明,ひいては新しい治療法の開発やてんかん発症の抑制手段へとつながる可能性がある。
 本稿では,現時点で報告されているてんかんの分子生物学的研究成果について,その問題点を含めて考察する。
 てんかんは,大脳ニューロンの過剰発射に由来する発作を反復する慢性の大脳疾患である。その原因は器質性脳障害(胎生期・周産期障害,脳炎,脳症,頭部外傷など)に起因すると推測されるものが多い。単一遺伝子病,染色体異常症など,既知の疾患に伴う症候性てんかんもあるが,それはてんかん全体の数%以下にすぎない。既知の疾患に随伴しないてんかんへの遺伝の関与は,特発性のみならず症候性てんかんにおいても家族内有病率の高いことが明らかとなっており12),少なくともその一部には遺伝が関連することに疑いの余地はない。

アルコール依存症の分子生物学的研究

著者: 齋藤利和

ページ範囲:P.1163 - P.1169

■はじめに
 アルコール依存症に関する分子生物学的研究は,その危険因子(risk factor)に関するものから長期のアルコール摂取による変化まで多岐にわたっている。その上,アルコール依存症の離脱症状をはじめとする神経精神症状の発現は脳のみならず,肝臓などの末梢臓器の機能とも関係するという報告もあり,その研究範囲も広い。例えば,近年本邦において最も注目を集め,進展している研究は肝のアルコール脱水素酵素(ADH),アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)に関するものであり,厚生省精神神経疾患研究委託費「アルコールの分子生物学的研究に関する研究班」でも多数を占めている。
 しかしながら,これらのアルコール依存症に関する分子生物学的研究をすべて論ずることは,誌面の関係で不可能であり,筆者の能力を超えることでもある。したがって,ここでは,中枢神経系を中心にして,エタノールの作用機序,アルコール依存症者における膜の内在蛋白質とその遺伝子レベルの変化を述べることにする。

ナルコレプシーの分子生物学的研究

著者: 原田誠一 ,   本多裕

ページ範囲:P.1171 - P.1177

■はじめに
 近年,精神科領域においても分子生物学的研究が盛んに行われるようになり,いくつかの疾患では遺伝因子の実体がDNAレベルで探索されている。こうした趨勢の中で,ナルコレプシーの分子生物学的研究は,(1)元来ナルコレプシーが「睡眠覚醒リズムの障害とREM睡眠の障害」という2つの基本的な障害を持つ,均一性の高い独立した疾患単位として認められている上に,(2)疾患感受性遺伝子のうち最も重要なものが,人間の全遺伝子の中で最も分子生物学的研究が進展している部位の1つであるHLAクラスII領域にあることが判明しており,さらに(3)動物モデルが確立されていて(犬ナルコレプシー),動物モデルの分子生物学的研究も進められている,というユニークな特徴を持っている。ナルコレプシーの分子生物学的研究を通して睡眠覚醒リズムやREM睡眠の統御機構が明らかになり,さらにはナルコレプシーにおける研究が他の精神疾患の分子生物学的研究のモデルとなることが期待されているゆえんである。
 本稿では,まず①HLAクラスⅡ抗原の構造と機能に関する近年の研究成果を紹介し,②HLAと疾患感受性の関連についての最近の知見を説明した上で,③ナルコレプシーの分子生物学的研究の成果と今後の課題について述べる。

不安の分子生物学的研究

著者: 山田和男

ページ範囲:P.1179 - P.1184

■はじめに
 不安は生物にとっておそらく必要不可欠な防衛機構の1つではあるが,精神科領域では最もよく問題となる症状であり,様々な疾患で認められる。それぞれの疾患でみられる不安が本質的に同質なものか異質なものか,正常不安と病的不安はどう違うのかなど議論のあるところであるが,いずれにせよその量的もしくは質的な異常がヒトにとって著しい苦痛となる。
 本稿では不安の病的状態といえるパニック障害(panic disorder;PD)を中心に,不安についての薬理学的研究と分子生物学的研究の現状について概説する。

アルツハイマー病の分子生物学的研究

著者: 中村祐 ,   武田雅俊

ページ範囲:P.1185 - P.1189

 近年,社会の高齢化に伴い痴呆性疾患が急増している。ほとんどの痴呆性疾患はアルツハイマー型痴呆(アルツハイマー病;AD)もしくは脳血管型痴呆である。最近はこの分野での研究の進展が著しく,ある程度まで分子レベルでの理解が可能となりつつあるのが現状である。ADの分子生物学的研究は,神経病理学的特徴である神経原線維変化の構成成分の検討より始まり,現在では家族性ADの関連遺伝子としてpresenilinが特定されている。これら研究の流れについて概説したい。

ハンチントン病の分子生物学的研究

著者: 高野弘基 ,   辻省次

ページ範囲:P.1190 - P.1192

 ■ハンチントン病(Huntington's disease;HD) ハンチントン病(HD)は,常染色体優性遺伝を示す神経変性疾患である。白人での頻度は約10万人に4〜10人であるが,日本人では100万人に0.5人ほどと推定され,稀な疾患である。典型的には,中年期以降に発症し,舞踏病などの不随意運動,人格変化,妄想などの精神症状,痴呆を主症状とし,進行性の経過をとり,約10〜20年ほどで寝たきり状態となり,感染症などで死に至る。若年で発症する場合には,筋固縮と寡動が主体となり,進行も早く若年型(juvenile form)といわれる1)。現在のところ,抜本的な治療法はない。臨床遺伝学的には,世代を経るたびに発症年齢が若年化する現象(表現促進現象;anticipation)が知られており,特に父親から病気を受け継いだ場合の発症は,著明に若年化する(paternal bias)。病理学的には,病変は中枢神経系に限局している。特に線条体(尾状核,被殻)における中型有棘神経細胞(GABA作動性神経細胞)の脱落とグリオーシス,大脳皮質第III IV,VI層の神経細胞脱落が神経病理学的所見の主体である。脳全体の萎縮もみられる。生化学的には線条体におけるGABA,substance P,enkephalinの低下が認められているが,神経変性に直接結びつく生化学的変化は知られていない。
 最近,HD遺伝子変異の同定に伴い,神経変性の分子機序がHD遺伝子を中心に活発に研究されている。本稿では,HD遺伝子およびHDの神経変性機序についての研究を概説したい。

クロイツフェルト・ヤコブ病の分子生物学的研究

著者: 立石潤

ページ範囲:P.1193 - P.1196

 かつて遅発性ウイルス感染症といわれていたクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakobdisease;CJD)とその類縁疾患にウイルスは証明されず,特異なプリオン蛋白質(PrP)が共通に認められ,病因にも関係するところからプリオン病(prion diseases)と呼ばれるようになった8)。この疾患群にはニューギニアのクールー,遺伝性に起こるゲルストマン・ストロイスラー症候群(Gerstmann-Sträussler syndrome;GSS),致死性家族性不眠症(fatal familial insomnia;FFI)などがあり,動物では羊のスクレイピー(scrapie)とそれがミンク,ウシ,ネコなどに感染した伝達性ミンク脳症(transmissible mink encephalopathy;TME),ウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy;BSE,狂牛病),ネコ海綿状脳症(feline spongiform encephalopathy;FSE)などが知られている。これらには感染によるものと,GSSのごとく遺伝子異常によるものがある。

歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症の分子生物学的研究

著者: 上野修一 ,   山内紀子 ,   佐野輝

ページ範囲:P.1197 - P.1201

 遺伝性歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(Hereditary Dentatorubral-Pallidoluysian Atrophy;DRPLAと省略)は,1982年に内藤と小柳が報告した常染色体優性遺伝性疾患で,てんかん発作,ミオクローヌス,小脳失調,舞踏病アテトーゼ運動,知能障害などが複雑に混じり合った臨床症状を呈し,これらの症状内容は世代によって著しく異なる10)。画像検査では,第4脳室の拡大を伴う小脳萎縮,中脳水道の拡大,被蓋部に特に著しい脳幹萎縮を呈する。脳波では,進行性ミオクローヌスてんかん症候群を呈する若年型においては,全例に脳波上棘徐波複合などのてんかん波形が出現し,光刺激で突発波が著しく誘発される。病理学的に歯状核赤核系および淡蒼球ルイ体系の変性萎縮が認められるため,上記病名が一般的であるが,報告者の名前をとって内藤・小柳病とも呼ばれる。この疾患は日本人に頻度が高い疾患で,日本では全脊髄小脳失調症例の2.5%を占め,その発症率は人口100万人当たり1.1人といわれる2)。1994年に,日本の2つのグループによってDRPLAの病因遺伝子が明らかにされ5,8),DRPLA患者では第12染色体短腕に存在する病因遺伝子のCAG三塩基が不安定に伸張していることが明らかになった。DRPLAについては,すでに辻ら15)による遺伝子異常の発見の経緯や内藤9)による臨床症状についての総説があるが,今回,DRPLAの精神症状を含めた臨床症状と遺伝子異常との関係を我々の経験した1家系で説明しながら,この疾患の分子遺伝学的理解を深めたい。

ミトコンドリア脳筋症の分子生物学的研究

著者: 大西秀樹 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.1202 - P.1205

■はじめに
 ミトコンドリア脳筋症は,1977年Shapiraら15)により,「脳と筋肉にミトコンドリアの形態的あるいは機能的な異常を来す疾患」として定義されたが,近年の分子遺伝学的研究の結果よりこの疾患群は神経,筋に特異的に症状を現すのではなく,全身臓器に病変を及ぼすことがわかってきており,最近ではmitochondrial cytopathyと呼ばれることも多い。その症状は多彩で,家系内でも症状の異なることが多く,診断を複雑なものとしている。本稿では,ミトコンドリア脳筋症の臨床的特徴,および精神医学との関連性について取り扱う。

研究と報告

両側側頭葉の著明な萎縮を認めた意味痴呆(Semantic dementia)の1例

著者: 中村有 ,   川勝忍 ,   田中武 ,   灘岡壽英 ,   十束支朗

ページ範囲:P.1207 - P.1213

 【抄録】病初期に語義失語を呈し,次第に人物認知障害を来して意味痴呆となった症例を報告した。症例は初診時58歳の女性。漢字の読字障害で発症し,2年後には語義失語像を呈した。発症4年後頃からは語彙が極端に貧困となり,滞続言語を呈するとともに夫,嫁など身近な人物が認知できなくなった。ADLは保たれていた。CT,MRIでは側脳室下角の拡大,側頭葉の楔状の萎縮がみられ,SPECTで左側優位の両側側頭葉の進行性の血流低下を認めた。画像所見からは側頭葉型Pick病が最も疑われた。本例では病変が側頭葉に限局するため意味記憶が選択的に障害され,特異な症状が出現したと考えた。

断眠の抗うつ効果—気分障害の下位分類および抗うつ薬との関連

著者: 山田尚登 ,   中島聡

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 【抄録】滋賀医科大学精神科神経科に入院した13名のうつ病患者に一晩の断眠を施行した。その結果,気分障害の下位分類で断眠の抗うつ効果に差が認められた。双極性障害うつ病性と特定不能の双極性障害では全例に抗うつ効果が認められた。一方,大うつ病反復性では抗うつ効果が認められたものは半数であり,大うつ病単一エピソードでは全例無効であった。断眠に対する反応と抗うつ薬(デシプラミンまたはクロミプラミン)に対する反応の関連性を検討した結果,断眠無効例では,デシプラミンは全例無効であり,クロミプラミンは全例有効であった。一方,断眠有効例では,デシプラミンは全例有効であった。これらの結果は,断眠が抗うつ薬に対する反応性を予測する因子となりうる可能性を示している。

短報

慢性精神分裂病におけるtrazodone併用の効果—trazodoneの漸減・中止による検討

著者: 寺尾岳 ,   大賀哲夫 ,   大田有光 ,   桑門大 ,   金沢耕介 ,   山本純史 ,   座間味宗和 ,   岡田正勝

ページ範囲:P.1219 - P.1222

 精神分裂病に対する治療法の1つとして,butyrophenone系やphenothiazine系抗精神病薬を主体とする薬物療法が依然として重要な位置を占めている。しかしながら,従来の抗精神病薬は幻覚や妄想などの陽性症状に対しては奏効するものの,自発性欠如や感情鈍麻などの陰性症状や抑うつ症状などには反応しにくいとされている。欧米においてはすでに,clozapineやrisperidoneなどいわゆる非定型抗精神病薬と称される薬物が広く使用され陰性症状改善に一定の成果を上げている。これら非定型抗精神病薬は,従来の抗精神病薬と同様にD2 receptor拮抗作用を有するが,さらに5-HT2 receptor拮抗作用も有することが知られている。しかし本邦においては,ようやくclozapineは再治験,risperidoneは治験から認可に至ったところである。このような事情から,陰性症状や抑うつ症状を改善するために,様々な向精神薬と抗精神病薬の併用療法が試みられているのが現状である。他方,このような併用療法が漫然と行われていることも少なくなく,多剤併用による副作用を軽減するためにも,併用薬の減量や中止によって,併用の有用性を適宜,検討していくことが肝要と考えられる。
 今回筆者らは,5-HT2 receptor拮抗作用を有するtrazodoneを抗精神病薬と併用中の慢性精神分裂病患者からこの薬物を徐々に減量し中止することで,逆にどのような症状にtrazodoneが効果的であったのか検討したので,予備的研究として報告する。

長時間の同一姿勢(坐位)保持後に横紋筋融解を来した精神分裂病の1例

著者: 宮本美緒 ,   宮岸勉 ,   武井明 ,   直江裕之 ,   鎌谷利紀

ページ範囲:P.1223 - P.1225

 横紋筋融解症は,筋の挫傷や労作,虚血,全身性ウイルス感染,低カリウム血症,糖尿病性アシドーシス,急性薬物中毒などの様々な原因によって生ずることが知られている4)。臨床症状としては罹患筋の脱力,疼痛,褐色尿を呈し,高CK血症,高ミオグロビン尿症を伴い,急性腎不全に陥る症例も認められる2,3,5,7)。今回我々は,長時間の同一姿勢(坐位)保持後に横紋筋融解症を来した精神分裂病の1例を経験したので報告する。

インターフェロン療法で不可逆性のパーキンソニスムを呈したと考えられるC型慢性活動性肝炎の1例

著者: 堀口淳 ,   日域広昭 ,   小鶴俊郎 ,   加賀谷有行 ,   横田則夫 ,   山脇成人

ページ範囲:P.1227 - P.1229

 近年,インターフェロン製剤(IFN)の中枢神経系の副作用の報告例1,7,9,12,13)が相次いでみられるが,今回筆者はC型慢性活動性肝炎のIFN療法中に,抑うつ状態とパーキンソニスムが出現した1例を治療する機会を得た。慢性肝炎のIFNによる治療中にパーキンソン症状が出現したとする報告はまだ少なく,さらにIFNの投与中止後もパーキンソン症状が持続したとする報告はないので,若干の考察を加えて報告する。

がん患者の適応障害に関する検討

著者: 吉村靖司 ,   岡本泰昌 ,   末田耕一 ,   高見浩 ,   日域広昭 ,   大森信忠 ,   岡村仁 ,   内富庸介 ,   山脇成人

ページ範囲:P.1231 - P.1234

 がん患者が陥りやすい心理状態として,病名や予後が告知されている場合には死に対する不安,絶望感から来る抑うつ,二次的な心気症状,告知されていない場合には上記のものに加えて,がんであるかいなかという不安,真実を告げず避けようとする周囲の人間に対する疑念,孤立感,怒りなどがあると考えられる。またがん治療に際しては,がんの告知,濃厚な治療,再発への恐怖,身体機能の喪失,再発の告知,死にゆく過程などによりしばしば感情の激しい動きを伴う場面が認められることが報告されている9)。Derogatisら4)は,がんに対処する時に50%は可逆的な通常反応をする一方,30%は抑うつ/不安症状を伴う適応障害を経験すると述べている。これらのことからがん患者は常に適応障害発症の高い危険性を有していると考えられる。
 当院精神科では1989年よりリエゾンプログラムを導入し,各病棟スタッフの精神医学に対する関心を高めるとともに,がん患者に積極的にかかわっていくことを試みてきた10,11)。そのなかで,依頼されたがん患者の精神科診断のうち,適応障害はせん妄に次いで高い比率を示し8),その対処が重要であると思われた。しかし,がん患者の適応障害を中心に検討した報告は我々の知るかぎり見当たらない。そこで今回はがん患者に合併する適応障害とその臨床的特徴について検討を行ったので報告する。

私のカルテから

抗うつ薬とメチルフェニデートの併用が有効であった難治性うつ病の2症例

著者: 葛城里美 ,   佐々木一郎 ,   土山幸之助 ,   穐吉條太郎 ,   河野佳子 ,   藤井薫

ページ範囲:P.1236 - P.1237

 中枢神経刺激薬であるmethylphenidate hydrocloride(MPH)は,注意欠陥・多動障害,ナルコレプシーなどの治療薬として用いられる。しかし,高齢者や身体合併症を持つうつ病患者に対しても有効との報告があり,また,難治性うつ病患者に対し抗うつ薬に追加投与することで有効であったとの報告もある。今回我々は,発症より6か月以上経過し,数種の抗うつ薬単剤使用に反応をみせなかった,無症候性脳梗塞を伴う難治性うつ病患者に対して,抗うつ薬とMPHの併用が有効であった2例を経験したので報告する。

「精神医学」への手紙

Letter—気分障害や精神分裂病における表現促進の有無について,他

著者: 功刀浩 ,   南光進一郎

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 表現促進は遺伝的疾患において世代を経るほど,発症年齢が早くなり重症度が増す現象で,この現象に対応する分子遺伝学的な実体として,筋緊張性ジストロフィー,ハンチントン病などにおいて,原因遺伝子に3塩基繰り返し配列のあることが見いだされた。今村ら2)は,気分障害と分裂病患者で,また林ら1)は分裂病患者で,親子発症ペアを対象に2世代間の発症年齢の差異を調査し,いずれも下位世代における発症年齢の有意な早期化を認め,表現促進の存在を示唆する結果を得たと報告している。
 しかしすでに我々3)が指摘したように,下位世代における発症年齢の有意な早期化を認めるためには,調査時の年齢を統制する必要がある。というのは,ある調査時点で罹患している親子は,親世代の調査時年齢(a)は子世代のそれ(b)より当然高いため,仮に親世代の発症年齢分布と子世代の分布とが等しいとしても,親の平均発症年齢(c)のほうが子の平均発症年齢(d)より高く観察される,からである(図参照)。したがってこの種の研究においては,親の発症年齢が子の調査時年齢を超えている場合を除外して分析すべきであろう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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