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雑誌目次

論文

精神医学38巻12号

1996年12月発行

雑誌目次

巻頭言

高齢者の精神鑑定

著者: 三山吉夫

ページ範囲:P.1246 - P.1247

 最近,家庭裁判所から禁治産宣告のための精神鑑定依頼が多くなってきた。依頼されるがままに引き受けていると,年間10件を超える状況がここ2〜3年続いている。精神鑑定は社会精神医学の重要な分野であるし,司法関係者と意見を交わすのは勉強になることもあって,特別の理由がないかぎり引き受けることにしている。鑑定依頼の背景には,区画整理のための土地売却に伴い役所から手続きを要求されたり,資産相続に伴う子供同士の争いの中で老人が鑑定の対象にされたり,遺言状の効力を争って故人の当時における意思能力が鑑定事項になったりなどである。親が一代で築いた資産の相続で鑑定の対象になっている高齢者から,子供たちの係争を嘆く声を聴くとき,鑑定人としてもやりきれない気持ちになったりする。遺言能力について係争が生じるのは,通常遺言者が故人になってからであり,それまでは遺言状の存在すら知らされていなかったことも係争の動機となったりする。禁治産宣告事件の9割以上が高齢者の痴呆が問題となっているのは,高齢化社会に伴う精神医学の新たな課題となりつつあることを物語っている。
 重症痴呆例では,禁治産宣告につながる鑑定書が提出されても申し立て人やその他の関係者は大体納得する。軽症〜中等度痴呆例では,相互の利害がからむ場合,法廷での論争が熱気を帯びてくる。調査官の資料は大変参考になるが,判決を意識しすぎての調査であることもあり,そのまま受け入れるわけにはいかないことがある。裁判所の禁治産宣告は,必ずしも鑑定人の判断とは一致しないのは当然のこととしても,事件本人を取り巻く状況がその判定に影響している傾向があり,鑑定人の役割を考えたりすることがある。精神医学的には,中等度以上の痴呆があったとされる症例が,死亡前に公証人立ち会いのもとに遺言状を作成していた事件も珍しくない。精神医学的に中等度以上の痴呆の存在は疑う余地がないと結論しても,遺言で利益を受ける側の弁護人は,事件本人が公証人の質問に“yes”,“no”と答えることができたので,痴呆の程度は大したものではなく,意思能力は保持されていたと主張し,その場面のテープまで流されたりすることがある。その場面を聞いていると,公証人の質問が“yes”,“no”で答えやすいような簡単な質問で構成されていたりする。痴呆患者は,一見正常な感覚機能が備わっているようにみえても詳細に検討すると,調子の良い時とそうでない時とで精神機能にむらがある(機能変遷)ことや,その場の雰囲気で感覚的に行動を決定しやすく,連続性に欠けることなどの理解はみられない。しかし,裁判所側は公証人の存在を精神科医の鑑定よりも優先させる傾向があるような気がする。

研究と報告

精神病院長期入院者の退院に対する意識とその形成要因—自記式全国調査に基づく分析

著者: 大島巌 ,   吉住昭 ,   稲沢公一 ,   猪俣好正 ,   岡上和雄

ページ範囲:P.1248 - P.1256

 【抄録】1年以上在院する精神分裂病者本人を対象にした自記式調査から,彼らの退院意識の構造を明らかにし,退院積極性を形成する要因を分析した。その結果,3レベルの意識(退院考慮,退院希望,退院可能性評価)はいずれも退院に前向きで,一貫した傾向が認められた。退院積極度尺度を作成して重回帰分析を行うと,家族条件変数の寄与が特に大きかった。一方,入院生活条件の寄与は比較的大きいが社会資源条件のそれは小さい。長期入院者の家族条件は概して厳しいことから,長期入院者の退院意欲を地域生活の実現へ確かに結びつけるためには,地域援助資源の活用に関する実際的な援助活動を病棟で積極的に行うべきことが考察された。

アルツハイマー病患者と描画

著者: 武内広盛 ,   柳沢勝彦 ,   西沢芳子

ページ範囲:P.1257 - P.1264

 【抄録】アルツハイマー病(AD)に罹患した58歳の男性画家の臨床経過と描画の変化を観察した。これまでADに罹患した画家の描画や,絵画の経時的変化の報告はない。本例は記憶障害,失名詞,反響言語・動作,失見当識,構成障害,観念失行などADに特徴的な症状を示した。ADの悪化は,本症例の絵画に,構成と配色の“漸次的単純化”をもたらし,要素的絵画構成への解体過程を示した。しかし,テストで確認した構成行為の障害が高度化しても,絵画構成の2要因のうち,生得的要素の強い巧緻性の解体にとどまり,熟練により会得した技巧と技術は保たれていた。これは画家の絵画が,「手続き記憶」を基礎に描かれていることを示唆するものである。

老年期の痴呆における情動のコミュニケーション

著者: 牛京育 ,   福田一彦

ページ範囲:P.1265 - P.1271

 【抄録】老年期痴呆者の感情反応能力について面接調査,心理テストを用いて検討した。対象者の痴呆程度は柄沢式およびDSM-III-Rを用いて分類した。面接による「持っている感情」の種類などの感情評価では,重度痴呆群を除いて,感情反応能力と痴呆の程度との関係は弱かった。重度痴呆群では,他の3群に比較して,感情反応能力は低かった。SDSによるうつ感情の評価では,得点およびうつ症状の頻度と痴呆程度とは関係が乏しかった。

適応障害の発症年齢と病型および心理社会的ストレス因子との関係

著者: 野口俊文 ,   山田尚登 ,   大門一司 ,   中島聡 ,   野口ゆみこ ,   高橋三郎

ページ範囲:P.1273 - P.1279

 【抄録】DSM-Ⅲ-R診断基準で適応障害と診断された358名について,発症年齢,性差,心理社会的ストレッサー,適応障害の病型分類について検討した。①発症年齢は広範囲に分布し,②性比はやや女性が多かった。③不安気分を伴う適応障害の頻度が病型分類中,最も高く,④病気および経済的負担がストレッサーの中で最も頻度が高かった。⑤性別で有意差のあったストレッサーは職場関係(男性〉女性),病気および経済的負担(女性〉男性)および出産(女性〉男性)であった。発症年齢とストレッサーおよび病型分類の間で,⑥各ストレッサー間で発症年齢に有意差が存在し,⑦各病型間で発症年齢に有意差が存在した。すなわち,行動面での障害が中心になる適応障害では発症年齢が低く,抑うつ・不安が中心となる適応障害では発症年齢が高いことが明らかとなった。

分裂病とパラノイア人格の関係についての1考察

著者: 齋藤正範 ,   濱田秀伯

ページ範囲:P.1281 - P.1286

 【抄録】熱情精神病(Gatian de Clérambault G)の病像を呈する,22歳の男性症例を経験した。自己中心性,判断の誤り,硬直性,不信などのパラノイア人格の特徴が認められ,持続的な発揚状態を呈し,性的な内容の誇大妄想から他の多くの妄想が扇形に派生している点でパラノイアに類似する一方,年齢が若く,人格の屈折的変化がみられ,妄想内容が荒唐無稽で衝動行為を繰り返し,生活態度が自閉的である点から分裂病と診断しうる症例である。分裂病過程による人格変化には情意鈍麻のほかにパラノイア性人格への変化も存在し,後者の型の人格変化によりドイツの好訴妄想,フランスの復権妄想を中心とするパラノイアの病像が生じたと考えれば,本症例の経過は一元的に説明される。

短報

有機溶剤吸入によるせん妄状態を疑われていた成人型シトルリン血症の1例

著者: 花澤寿 ,   林竜介 ,   池田政俊 ,   長谷川雅彦 ,   日野俊明 ,   冨山學人 ,   竹内龍雄 ,   清水夏繪

ページ範囲:P.1289 - P.1292

 シトルリン血症とは,尿素サイクルの構成酵素であるargininosuccinate synthetase(以下ASS)の先天性の欠損症である。外国での報告はほとんどが新生児期から小児期の発症例であるが,日本では成人期以後の発症例が多いのが特徴であり,成人型シトルリン血症として報告されている。
 主症状は反復性の意識障害であるが,先天性代謝異常でありながら成人期に発症すること,高アンモニア血症以外に通常の検査で異常がみつからないことなどから,診断が困難な場合も稀でない1,3,8)。今回我々は,反復性に興奮を伴う意識障害を呈し,当初有機溶剤吸入に起因するせん妄状態が疑われていたが,後に成人型シトルリン血症と診断された1例を経験したので,その臨床的特徴と治療経過を中心に報告する。

リン酸コデイン長期内服離脱時,著しい抑うつ状態を呈した1例

著者: 石川正憲 ,   鈴木利人 ,   堀孝文 ,   佐々木恵美 ,   白石博康

ページ範囲:P.1293 - P.1296

 リン酸コデインは主に鎮咳薬として市販され,止痢目的に使用されることもある薬物である4)。コデインは,従来opioid作用の弱い弱opioidに分類され4),本剤を長期間大量服用した際には精神依存や身体依存を形成することがあり,離脱時には「自律神経症状の嵐」と表現される発汗,流涙,瞳孔散大,下痢,嘔吐などの身体症状を呈し,薬物に対する強い欲求や不安焦燥感などの精神症状が出現すると指摘されている2,10)
 今回,我々は多量のリン酸コデインを常用するようになった後,離脱時本剤に特徴的な身体症状に加え,一過性に著しい抑うつ気分を呈した男性例を経験した。本例はコデイン離脱にかかわる精神症状を検討する上で興味ある症例と思われ,若干の考察を加え報告する。

ジアゼパムが著効した頭痛,悪寒を合併する遅発性アカシジアの1例

著者: 田中隆彦 ,   西川正 ,   吉田眞美 ,   富田克 ,   田中正敏

ページ範囲:P.1297 - P.1300

 遅発性アカシジアは1983年に初めて報告されて以来12),本邦でも報告されるようになり8〜11),抗精神病薬の中断や減量が発生の誘因となると言われている4,7)。遅発性アカシジアは多彩な精神症状や身体症状を呈するために,誤診されたり,見過ごされる可能性が指摘されているが8,12),明白な頭痛や悪寒を合併した遅発性アカシジアの報告はまだない。
 今回,抗精神病薬の減量をきっかけに,激しい頭痛と悪寒を主症状とする遅発性アカシジアが発生し,ジアゼパムがこれらの症状を劇的に改善した症例を経験したので報告する。

Prostaglandin E1が有効であった老年期うつ病の1例

著者: 藤川徳美 ,   佐々木康史 ,   山脇成人

ページ範囲:P.1301 - P.1303

 Prostaglandin(PG)は身体のほとんどの臓器で産生される一連の生理活性物質である。そのうちでもPGE、は末梢血管拡張作用および血小板凝集抑制作用により,末梢動脈閉塞などの治療に用いられている。しかしながら,中枢神経系におけるPGの役割の研究の歴史は未だ浅く,ことに精神疾患とPGの関係は不明瞭な点が多い。
 今回,老年期うつ病の患者に,末梢循環機能障害の回復目的にPGE1を投与したところ,抑うつ症状の改善がみられた症例を経験したので報告する。

私のカルテから

フルニトラゼパムおよびセチプチリンの長期併用により横紋筋融解症を発症した1例

著者: 國芳雅広 ,   前田利治 ,   稲永和豊

ページ範囲:P.1304 - P.1305

■症例
 72歳,女性,うつ病。
 主訴 眠れない。
 現病歴 元来,朗らかで明るい反面,心配性。1988年10月,胃の切除手術を受けた。その後,食事の量が減り,体重も低下した。体調が思わしくなく,体が疲れ,体のことを心配して眠れなくなってきた。夜9時頃寝つくが,午前2時には目が覚め,その後朝まで眠れない。そのため,近医にて眠剤をもらった。当初は良かったが,次第にまた眠れなくなってきた。さらに,「死んだほうが楽になるのでは……」「薬を1回に多量に飲んで……」と考えたりする。家事もできず,1日中家の中でゴロゴロする。気分は憂うつで将来が気になり,取り越し苦労する,などの状況が続いた。1990年6月には,某大学心療内科を受診したが,調子が変わらないため,同年7月3日当院初診となった。

喘息発作を伴ったチアプリドによる遅延型悪性症候群の1例

著者: 神崎昭浩 ,   喜多嶋明宏 ,   長谷川晴己

ページ範囲:P.1306 - P.1307

 悪性症候群は生命予後が悪いため早期に発見し治療することが重要である。今回我々は,チアプリドの投与5年後に喘息発作を契機として発見された遅発性悪性症候群の1例を経験したので報告する。

シンポジウム 痴呆の薬物療法の最前線—向知性薬の臨床と基礎

アルツハイマー型痴呆を中心として—臨床医の立場から

著者: 平井俊策

ページ範囲:P.1309 - P.1314

■はじめに
 向知性薬について臨床医の立場から述べることが私に与えられたテーマである。
 向知性薬や,これと関連の深い抗痴呆薬とかcognition enhancersという言葉の意味する範囲はまだ議論が多いので,まず私の立場を明確にした上で,この種の薬の開発の現況を臨床医の側から述べることにしたい。

事象関連電位の頭皮上電場分布の変化からみた向知性薬の効果—臨床医の立場から

著者: 平田幸一

ページ範囲:P.1315 - P.1320

 我が国における痴呆患者の数は年々増加の一方をたどり,この増加は我が国における重大問題となりつつある。この解決のため多くの研究がなされ,アルツハイマー病をはじめとする痴呆では,コリン作動性ニューロンの活性低下が大きな役割を演じているとの事実が明らかになった12)。この事実に基づき,近年アセチルコリン(Ach)賦活作用があるとされる脳代謝改善薬の投与が試みられつつある。
 一方,脳代謝改善薬の効果判定,評価について,従来より知的機能検査,視察法による脳波解析などが行われてきたが,その客観性については常に疑問が持たれてきた。これに対し,事象関連電位(ERP)とりわけP300が,知的機能の客観的評価に用いられつつあり,脳神経細胞の活動性を非侵襲的にリアルタイムで反映する脳地図(以下topography)を使用した客観的,定量的な検討の報告も見受けられるようになってきた5,11)。我々はこの両者,ERPとtopographyすなわちERP topographyを用い,脳血管性痴呆患者におけるAch系調節作用があるとされる脳代謝改善薬,すなわち向知性薬の客観的評価を試みた。

向知性薬の脳機能障害改善効果—行動薬理学的見地から

著者: 鍋島俊隆

ページ範囲:P.1321 - P.1327

■はじめに
 日本を含む欧米先進国では,人口の急速な高齢化に伴い老年期痴呆患者が急増し,一大社会問題となりつつある。現在,老年期痴呆は,脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆に分類されており,その治療法としては,変性,脱落から免れた神経細胞の機能の維持,賦活をめざす薬物療法やリハビリテーションが行われている。
 脳血管性痴呆の原因としては,脳出血や脳梗塞が考えられているので,脳血管性痴呆の治療薬として,脳循環改善薬や脳代謝改善薬(脳エネルギー代謝賦活薬および脳神経伝達改善薬を含む)が,脳血流増加作用,脳酸素消費量の増加作用および脳機能改善作用などを期待して使用されている。

神経細胞Ca2+チャンネルに対する向知性薬の賦活作用—神経生理学の立場から

著者: 吉井光信

ページ範囲:P.1329 - P.1335

 新しいタイプの脳機能改善薬の1つに向知性薬(nootropics)と呼ばれる薬物群があり,その代表的なものは環状GABA構造(pyrrolidone)を持つ2-oxopyrrolidine酢酸誘導体(racetams)である2〜4,7)。最初に開発されたのがpiracetamであり,これを原型としてoxiracetam,aniracetam,nebracetam,pramiracetam,nefiracetamなどの新薬が続々と開発されてきた。これらの薬物は様々な実験パラダイムで学習・記憶を改善することが示されてきたが,その作用メカニズム解明の鍵はいまだに見つかっていない4,20,22)
 向知性薬は脳内の神経伝達を促進するとの知見が数多くあり,特にグルタミン酸作働性,コリン作働性,ドーパミン作働性・GABA作働性の神経伝達の促進が示唆されている4)。また,記憶や学習のモデル系として知られる海馬において向知性薬はシナプス伝達の長期増強(LTP)を強めることも知られている4,23)。このような向知性薬による神経伝達の増強は,より多くの伝達物質が前シナプス終末部より遊離されることにより生ずる場合16)と,伝達物質に対する応答が後シナプス神経細胞で強まることにより生ずる場合8,9,21,24)が考えられる。

G蛋白質によるN型Ca2+チャンネル調節機構に対するNefiracetamの作用—分子生物学の立場から

著者: 額田敏秀

ページ範囲:P.1337 - P.1341

 N型Ca2+チャンネルは,受容体-G蛋白質を介してチャンネル活1生の調節を受け,神経終末からの神経伝達物質放出に重要な役割を果たしている5)。N型Ca2+チャンネル活性調節の分子機構を明らかにすることは,神経伝達物質放出調節に関する研究の分子的基盤を与え,伝達物質放出異常を伴う疾患の病因解明の一翼を担うことにもなる。脳機能改善薬として開発されたnefiracetamは,神経細胞モデル細胞であるNG 108-15細胞において,G蛋白質を介してCa2+チャンネル活性を調節することが示唆されており10),もしnefiracetamの作用点が1か所ならば,その作用点こそがnefiracetamの有する薬理作用の鍵を握る分子であることが予想される。
 本研究の目的は,N型Ca2+チャンネル活性調節の分子機構を明らかにし,nefiracetamの薬理作用と作用部位を確定することであり,それらを実現する第一歩として,分子として同定された外来性の受容体・N型Ca2+チャンネルをアフリカツメガエル卵母細胞上に再構成し,この系に対するnefiracetamの作用を検討した。

【パネルディスカッション】痴呆の薬物療法の最前線—向知性薬(nootropics)の臨床と基礎

著者: 平井俊策 ,   平田幸一 ,   鍋島俊隆 ,   吉井光信 ,   額田敏秀 ,   小澤瀞司

ページ範囲:P.1343 - P.1349

 司会(小澤) 最初に,一般の方よりのご質問をお受けして,それが一段落したところで,今後この痴呆の薬物療法の研究をどういう形で進めればよいのか,をテーマに総括討論に入りたいと思います。では,最初に演者の先生方に対する質問がありましたら,ご発言ください。

動き

「アルツハイマー病とその関連疾患に関する国際会議」に出席して

著者: 三好功峰

ページ範囲:P.1350 - P.1350

 1996年7月24日から29日の間,大阪ロイヤルホテルにおいて,西村健・前大阪大学教授の会長で,第5回の「アルツハイマー病とその関連疾患に関する国際会議(Fifth International Conference on Alzheimer's Disease and Related Disorders)」が開催された。この学会は10年前に設立されたもので,今日まで,2年に1回開催されている。ラスベガス,トロント,パドバ(イタリア),ミネアポリスなどに続いて,このたび,大阪において第5回学会が開催された。
 アルツハイマー病に関心が集まるに従って,着実に発展している学会である。今回の出席者は約1,600名であった。発表された演題は約800題,それらは,分子遺伝学,分子生物学,動物モデルといった基礎的なものから,臨床経過と診断,疫学と危険因子,治療,心理社会的ケアといった臨床的研究,さらには,神経変性疾患や,脳血管性痴呆などについての研究など,広い領域にわたったものであった。それぞれの領域にいくつかの目立った動きがあった。分子遺伝学に関しては,近年,めざましい成果の報告がなされており,家族性アルツハイマー病の遺伝子はいくつかの染色体に連鎖し,単一でないことは周知の事実となっている。1995年にSchellenbergらによって明らかにされた,家族性アルツハイマー病の遺伝子に関連する蛋白presenilin Ⅰ,presenilin Ⅱについての研究が,この1年あまりの間に,世界中で,驚くほどの速さで行われていることを知ることができた。また,分子生物学領域では,これまでどおり,アミロイドやタウの生成機序の問題が取り上げられ,細胞内小器官との関係などにおいて新しい成果が報告された。その一方で,他の神経変性疾患ですでに注目されている酸化ストレスの関与についての報告がいくつかなされたのは,新しい方向を示すものと思われた。

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精神医学 第38巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

KEY WORDS INDEX

ページ範囲:P. - P.

精神医学 第38巻 著者名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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