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雑誌目次

雑誌文献

精神医学38巻2号

1996年02月発行

雑誌目次

巻頭言

脳の世紀と私という精神科医

著者: 滝川守国

ページ範囲:P.116 - P.117

 21世紀は“decade of the brain”と言われ,ブレインサイエンスがアメリカを発信源としてサイエンスの世界を駆け巡っている。
 精神の病理に対して,ソフトウエアから眺めてきた私という精神科医にとっても,脳のハードウエアの解析が進むにつれて,脳機能障害も結局は脳の微妙な情報処理障害として説明も可能であるという趨勢になって来つつある。

展望

自閉症のハイリスク乳幼児の諸問題

著者: 白瀧貞昭

ページ範囲:P.118 - P.126

■はじめに
 Kannerが1943年に初めて自閉症について記載して以来,すでに50年以上を過ぎて,自閉症が単に幼児期の問題であるだけでなく,ほぼ一生にわたる極めて困難な状態であることが認識されるようになってきた。現在,なお原因論的に不明な点を多く残すとはいえ,症状論的にはかなり詳細に種々の事柄が明らかにされてきた。自閉症の経年的変化に関する知見に関して,年長自閉症者を含む長期予後についての報告14,15,25,40)が多く提出される一方で,自閉症の発症初期の状態をめぐる研究報告13,17)も少しずつ提出されるようになっている。しかし,これらの研究は3歳以降で自閉症と診断された児の状態を親が懐古的に振り返って陳述したものを情報源として用いている。このような後方視的データが持つ限界については指摘するまでもないであろう。このような後方視的研究の欠点を補うのが自閉症児を可及的早期に発見し,それ以後,長期的にフォローするという前方視的研究である。この前方視的研究には2つのメリットがあると考えられる。早期発見,診断が早期治療につながるという臨床的メリットと研究者が自閉症児を実際にフォローする過程で種々の症状の発達に伴う変化を把握し,それにかかわる要因を明らかにすることによって自閉症の生成過程を明らかにできるという学問的メリットである。自閉症児の可及的早期と言っても2歳半〜3歳より以前に遡ることができるかというと,これはそう簡単な問題ではない。それは現在,規定されている診断可能年齢を超えることになるからである。つまり,2歳半〜3歳以降に自閉症と診断される可能性の非常に高い乳幼児を早期に見つけることであり,これは自閉症の診断とは異なる。このような将来の自閉症診断の可能性の高い乳幼児のことを自閉症ハイリスク乳幼児(infants at risk or high risk for autism)とこれから呼ぶことにする。「自閉症の症候群の発達的変化に対する我々の理解を深めるためには自閉症ハイリスク乳幼児を早期に発見し,その後の変化を行動面から詳細に観察していくことが最も有用である」とBuitelaar(1995)8)も述べている。本稿では自閉症児の早期発見,診断,治療につながる,自閉症ハイリスク乳幼児の特徴,その発見の仕方などについて今日までに明らかにされていることを中心として紹介したい。特に,自閉症児の示す障害の中で,近年,重視されるようになった「社会性の障害」に重点を置いて解説することにする。

研究と報告

慢性分裂病の機能的亜型分類—反応時間とストレス応答による

著者: 臺弘 ,   三宅由子

ページ範囲:P.127 - P.133

 【抄録】慢性分裂病の亜型分類には,精神病理の記述的な視点のほかに,精神生理の計量的な視点を併せて持つ必要がある。そのために日常臨床で単純に測定でき,受け入れられやすく,しかも治療的雰囲気を損わないテストを用いた。それは物差し落としを指で挟み止める際の単純反応時間DSTと血圧測定時の心拍変動PRDの2指標である。外来慢性分裂病患者群と正常対照群についてのDST×PRDの2次元分散図から,分裂病者は正常域,過敏型,遅延型の3機能的亜型に分離された。異常の2亜型は正常域に対して,精神病理と社会適応度の2評価尺度によって,陰性症状と社会適応減退に傾斜する相関を示した。この所見の症例検討や治療の方向づけについての意味を論じ,併せて心的エネルギー概念の計量化を考察した。

病的多飲水により尿路系の異常を来した慢性精神分裂病の1例—1日尿量,血清Na値,体重日内変動の長期経過と低緊張性膀胱に対する泌尿器科的治療の検討

著者: 不破野誠一 ,   中山温信 ,   伊藤陽 ,   松井望 ,   荻野和子 ,   高木隆治

ページ範囲:P.135 - P.140

 【抄録】慢性の精神分裂病に伴う病的多飲水により,低緊張性膀胱,両側水腎症を合併した症例を報告した。この症例の1日尿量,血清Na値,体重日内変動の長期経過について検討し,泌尿器科的治療として行われたラピデス型膀胱瘻の造設が,これら検査所見と臨床症状の改善から本例に対しては有用であったことを示した。
 これまでに慢性の精神障害に伴う病的多飲水の報告は多くみられるが,尿路系に異常を来した症例についての報告,特にそのような症例の検査所見や治療に触れた報告はない。今回の知見から,病的多飲水の管理には1日尿量,午後4時の血清Na値,体重日内変動の測定が有用であること,さらに多飲水が長期に及ぶ場合は尿路系の異常が生ずる可能性があり,残尿量の測定や骨盤部のCT撮影,経静脈的尿路造影(DIP)などの泌尿器科的検査が必要であることを強調した。

遅発緊張病の1例

著者: 古茶大樹 ,   濱田秀伯 ,   佐藤忠彦 ,   北里信太郎 ,   内田晃雄

ページ範囲:P.141 - P.147

 【抄録】遅発緊張病の1例を報告した。60歳代後半で初発し,心気的な前駆期に引き続き,急性の不安・焦燥で発症,激しい緊張病性興奮に移行し,やがて昏迷状態が長期にわたって持続した。電気けいれん療法導入後は激しい精神症状は消失したが,発症後6年が経過した現在でも寛解には至らず,一種の残遺状態で固定している。残遺状態は,情意鈍麻を背景に,分裂病性の不安や妄想気分が認められた。抗精神病薬に全く反応せず,電気けいれん療法は,唯一の有効な治療手段であった。全経過を,前駆期,病初期,極期前期・後期,残遺期に分け,精神病理学的に詳細に記述し考察を加えた。さらに遅発緊張病の疾病分類学的位置づけについても,いくつかの可能性を提示した。『不全型』の存在,精神分裂病スペクトラム上の位置づけについても言及した。

断眠の抗うつ効果と尿中メラトニン代謝産物の関連

著者: 山田尚登 ,   大井健 ,   中島聡

ページ範囲:P.149 - P.155

 【抄録】滋賀医科大学精神科神経科に入院した7名のうつ病患者に断眠療法を施行した。HRSDとVASを用いてその臨床的有用性を検討するとともに,断眠の尿中メラトニン代謝産物(6-sulphatoxymelatonin;6SM)に及ぼす効果を検討した。その結果,被験者7名中6名は1晩の断眠によりHRSD,VAS共に著明な改善を示した。6名のうち4名は1週間後も改善が持続したが,2名は悪化した。また,1週間後も改善を示した4名のうち1名はその後に躁転を起こした。HRSDの各項目では,断眠により抑うつ気分,仕事と興味の喪失,精神運動抑制の項目で統計学的に有意な改善を認めた。夜間の6SM量は断眠後第1日目の夜に約2倍の増加を示し,HRSDの改善と夜間の6SM量の増加には有意な負の相関が認められた。これらの結果は,断眠療法がうつ病に対して有効な治療法であり,その作用機序にノルアドレナリン系の活動亢進が関連することを示唆している。

メランコリー型性格のための質問紙(笠原)の信頼性

著者: 佐藤哲哉 ,   坂戸薫 ,   西岡和郎 ,   笠原嘉

ページ範囲:P.157 - P.162

 【抄録】(1)すでに,妥当性については優れた有用性が報告されている,笠原のメランコリー型性格のための質問紙の信頼性について,42名のうつ病患者を対象にして報告した。(2)この質問紙は,高い内的整合性(Cronbachのα0.82),高い尺度の一元性(項目―総得点の相関係数:0.32〜0.70),折半法でも高い奇数項目の得点と偶数項目の得点の相関(0.78)を示した。(3)再検査法では,2か月の間隔をあけた2回の施行で,総得点と各項目の得点とも有意の相違がなく,互いに強く相関していた。(4)以上より,笠原の質問紙は高い信頼性と再現性を示すことが示唆された。(5)この高い信頼性は,精神病理学的事象,さらには精神病理学研究の調査表を用いた数量化の促進に意味があると考えられた。

心因性尿閉を呈した3例の神経症患者

著者: 坂本玲子 ,   朝田隆 ,   假屋哲彦 ,   飯田栄子

ページ範囲:P.163 - P.167

 【抄録】泌尿器科領域で心因性尿閉と呼ばれる疾患の診断・治療には,精神的配慮が重要であるとされる。しかし精神医学的観点からの報告は少ない。我々は心因性尿閉の3症例を経験した。いずれの症例においても性格的には未熟で女性としての同一性が十分確立されておらず,心的外傷を身体化し疾病に逃避しやすい傾向を認めた。個別的には,2例は分娩後の尿閉の経験があり性行為に対して陰性の感情を持っていた。もう1例は結婚を含めた将来への不安があり,心身症としての難治性胃潰瘍の存在が特徴的だった。さらに尿閉の誘因,結実因子として抗精神病薬の副作用にも注目した。

発熱を伴う昏迷状態を繰り返した周期性精神病の1例

著者: 加来浩一 ,   稲垣卓司 ,   石野博志 ,   高橋健太郎

ページ範囲:P.169 - P.174

 【抄録】症例は28歳女性。不眠の後,37〜38℃台の発熱とともに,体の震え,全身倦怠,食欲低下などの身体症状と,妄想,不安,精神運動抑制,昏迷状態,時に自殺企図などの精神症状を来す病相を,20歳初発時に3回,28〜29歳にかけて10回繰り返した。病相は約30日おきに起こることが多く,ほぼ10日以内に解熱とともに軽快した。内分泌的には,低温1相性の基礎体温,LH/FSH比の上昇,テストステロンの高値,LH,FSHの脈波状分泌の消失を認めた。また,卵巣エコーで多嚢胞性卵巣の所見と,頭部MRIで脳下垂体にmicroadenomaを疑わせる所見を認めた。病因として,視床下部-下垂体-性腺系の機能脆弱性を推測した。ハロペリドールは病相の再発を予防できず,カルバマゼピンと,内分泌動態是正のための卵胞・黄体ホルモンの投与(Kaufmann療法)が再発を予防し,現在まで1年11か月以上にわたり病相は出現していない。

側頭葉てんかん患者のMRIと脳波,SPECT,臨床的因子の関連性について

著者: 上杉秀二 ,   大沼悌一 ,   松田博史 ,   石田孜郎

ページ範囲:P.175 - P.180

 【抄録】側頭葉てんかんのMRI,SPECTと脳波,臨床的因子の関係を調べた。対象は162例(男84例,女78例),平均年齢は38.1±12.1歳。SPECTは45例に施行。結果は以下の通り。(1)発作波なし群のMRI異常は36%,側頭部棘波群が42%で,発作波とMRI異常の関連性はなかった。発作波とMRIの左右局在の不一致は39例中9例(23%)にみられ,頭皮上脳波からてんかん病巣の判定は困難と考えられた。基礎波とMRI異常の関連性はなかった。(2)SPECT異常率は89%で,MRIの40%と比べ高率だった。SPECTとMRI異常の左右不一致は1例(2%)のみだった。(3)発作性(口部,行動,言語)自動症あり群のMRI異常率は52%で,自動症なし群の35%に比し有意に高率だった。(4)脳炎の既往あり群のMRI異常は73%と高率だった。(5)熱性けいれんあり群のMRI異常は62%で,熱性けいれんなし群の28%と比べて有意に高かった。(6)発作頻度が月数回以上群のMRI異常は48%で,年数回以下群の29%に比し有意に高率だった。MRIおよびSPECTは,てんかん医療に有益な検査と考えられた。

Clomipramineとその水酸化・脱メチル化代謝物およびグルクロン酸抱合体の血漿中濃度モニタリングによる気分障害の臨床改善度の予測

著者: 森田幸代 ,   下田和孝 ,   野口俊文 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.181 - P.185

 【抄録】塩酸クロミプラミン服用中の気分障害57名を対象とし,clomipramine(C)およびその代謝物であるN-desmethylclomipramine(DC),8-hydroxyclomipramine(HC),8-hydroxy-N-desmethylclomipramine(HDC),8-hydroxyclomipramine glucuronide(HCG),8-hydroxy-N-desmethylclomipramine glucuronide(HDCG)を測定し,臨床効果との関連について検討を加えた。臨床効果については,DSM-Ⅲ-R診断基準の第5軸「機能の全体的評価尺度」をもとに反応者,非反応者を定義した。血漿中Cおよびその代謝物血漿中濃度をもとに,判別分析による臨床効果の判別を行ったところ,79%の割合で臨床効果の予測が可能であった。治療効果の予測においては,グルクロン酸化合物の血漿中濃度も親化合物,水酸化代謝物,および脱メチル化代謝物と同様に重要な因子であることが示された。

精神症状と脳波異常を伴ったACTH単独欠損症の1症例

著者: 岸敏郎 ,   木谷光博 ,   長沼六一

ページ範囲:P.187 - P.194

 【抄録】精神症状と脳波異常を呈したACTH単独欠損症の1症例(44歳,男性)を報告する。感冒を契機に嘔吐,無気力,低Na血症など副腎不全症状で発症した。同一脳波に両側同期性びまん性の高振幅δ波とびまん性低振幅β波が交代性に出現し,別の記録ではβ波のみが,あるいはθ波のみが出現する基礎律動の急変を認め,パレイドリア,妄想,多幸気分,児戯性を伴った。すべて意識清明下に,glucocorticoid補充前にみられた所見である。ACTH単独欠損症の精神症状や脳波異常は,続発性副腎不全,つまりglucocorticoid欠乏によるとの報告があるが,これだけで上記の脳波変動を説明するのは困難であること,補充療法による副腎不全の改善後も多幸気分が遷延したことから,本例の場合,副腎のみならず下垂体より上位の機能不全の関与が否定できないと思われた。

急性一過性内因性精神病にみられたacute confusional state様の意識混濁について—神経心理学的検査所見,脳波所見と精神症状との関連

著者: 村井俊哉 ,   十一元三 ,   華園力 ,   石坂好樹 ,   扇谷明

ページ範囲:P.195 - P.199

 【抄録】反復する精神病状態を伴って経過する内因性精神病の1例について,急性期にacute confusional state(ACS)様の注意の転導性の著しい充進が観察され,同時に,神経心理学的検査,脳波検査に精神症状と密接に関連するとみなされる特徴的な所見が認められたので報告する。脳波では,前頭部優位の広汎性の徐波を認め,神経心理学的検査では数唱など,注意障害に関連した項目が特に不良であった。また,患者は過書の傾向を示し,自発的に書かれた日記,手紙から種々の書字の誤りが認められた。これらの特徴は中毒性,代謝性疾患でのACSで知られている所見と共通するものであった。さらにこれらの神経心理学的検査所見,脳波所見は,その後精神症状の改善に伴って改善の傾向が認められ,臨床的なACSの状態像と密接に関連していたことがうかがわれた。

短報

精神運動発作重積の1例

著者: 竹内賢 ,   本田教一 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.201 - P.204

 Gibbsが自験例22,000例のうち,わずか2例に認めるのみであったとしているように,精神運動発作重積は稀な病態と考えられている。精神運動発作重積は大きく持続タイプと非持続タイプに分けられ10),非持続タイプが精神運動発作重積の定型例とされるのに対し,持続タイプはこれまでにもしばしば小発作重積との鑑別が問題となってきた。今回我々は,鑑別が困難であった精神運動発作重積の1例を経験したので報告し,若干の考察を加える。

非ステロイド系消炎鎮痛剤ピロキシカムの併用によりリチウム中毒症状を呈した1例

著者: 宮川朋大 ,   梶原晃 ,   山口公 ,   岩淵潔 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.205 - P.207

■はじめに
 炭酸リチウムは現在躁病や躁状態を呈する疾患,躁うつ病の病相予防などの治療薬として用いられている。長期間服用する場合も多く,治療血中濃度と中毒血中濃度が近いため血中濃度のモニタリングは必要不可欠である。これまでにアンジオテンシン変換酵素阻害剤や非ステロイド性消炎鎮痛剤との併用で,リチウム血中濃度が上昇する場合があることが報告されている。しかし,その併用薬剤の種類や用量,患者の身体条件などの要因と,濃度上昇との関係は不明である。
 今回筆者らは,炭酸リチウム(600mg/日)とピロキシカム(フェルデン®20mg/日)の併用により急性リチウム中毒を呈した1症例を経験したので報告する。

炭酸リチウム単味維持療法中に薬剤性肝障害を起こした1例

著者: 紫藤昌彦 ,   石田元男

ページ範囲:P.208 - P.210

 炭酸リチウムの副作用について,種々の報告がなされているが,肝障害の報告は極めて稀である。今回筆者らは,炭酸リチウム単味維持療法中に薬剤性肝障害を起こした症例を経験したので報告する。

Zopicloneとitraconazoleの併用により傾眠を来し,睡眠導入剤をlormetazepamに変更後その改善をみた1例

著者: 小原圭司 ,   細田真司 ,   金村元 ,   田中真砂

ページ範囲:P.211 - P.213

■はじめに
 超短時間型睡眠導入剤は,その使いやすさから臨床において使用頻度が高いが,健忘,アルコール飲用時のもうろう状態など副作用もまた指摘されている1,5)。最近,triazolamの作用がitraconazole,fluconazoleの使用により遷延するという報告があり,注意が喚起されていた6)。今回我々は,これと同じ超短時間型睡眠導入剤であるzopicloneの作用が,itraconazoleの使用によって遷延し,日中の傾眠を来し,睡眠導入剤をlormetazepam(ロラメット®)に変更後速やかに傾眠の改善をみた症例を経験したので,若干の考察を含めて報告する。

動き

「第2回ケンブリッジ-ハイデルベルグ精神医学合同研究会」印象記

著者: 井原裕

ページ範囲:P.214 - P.215

 第2回ケンブリッジ-ハイデルベルグ精神医学合同研究会に,ケンブリッジ大学精神科客員研究員という立場で出席する機会を得た。英,独を代表する精神医学の拠点大学によるこの研究会は,2年前にハイデルベルグ大学(以下HD)の主催で行われたのを受けて,今回はケンブリッジ大学(以下CB)の主催で1995年6月22〜25日(そのうち実質的な研究会は23〜24の両日),Addenbrooke's病院(大学病院)にて行われた。
 23日のセッションでは,まずMundt教授と共同研究者(HD)が「メランコリー親和型-経験的知見」と題して,故Tellenbach教授の提唱した概念に関する一連の実証研究を発表した。Mundt教授は,操作的基準の確立や感情表出など家族研究の導入を精力的に試みており,佐藤,中西ら各氏による日本人のデータも,文化間比較の視点をもたらす情報として重視していた。Janzarik教授の後を襲ってMundt教授が主任として就任して以来,Heidelberg学派は従来の記述的現象学的立場から実証的方向へと急展開を見せている。英語論文も増え,英米との情報交換も密になり,閉鎖的なJanzarik時代から大きな変貌を遂げた。その後の私との個人的対話でも,方法論的に厳密な実証研究によって従来の精神病理概念を再検討することの重要性を強調していた。Kraus教授(HD)の発表は「同一性概念とうつ病の同一性療法」と題されていた(一部はすでに活字になっている。Kraus A:Psychotherapy based on identity problems of depressives. Am J Psychotherapy 49:197-212, 1995)。Psychological Medicine誌の編集責任者でもあるPaykel教授(CB)は,うつ病の転帰に関するフォローアップ研究について話した。

「世界精神保健連盟1995年世界会議・ダブリン」印象記

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.216 - P.218

 WFMH(World Federation for Mental Health)1995年世界会議は,8月13日から18日まで,ダブリン(アイルランド)で開催され,69か国から1,500人余が参加した。学会場は歴史あるトリニティ大学で開かれた。日本からは84名が参加し,3名のユーザーも含めて,20題以上の演題発表があった。メインテーマは“Time for Reflection”で,再考の時または考察の時といった意味で,世界各国における精神保健活動を振り返って,将来の方向を考えるという内容が込められていた。
 2年前の1993年8月23日から27日まで,幕張メッセを主会場に,島薗安雄組織委員長のもと,多くの方々のご協力で,公開講座の市民も含めて65か国,5,000人近い参加で盛り上がったWFMH '93 JAPANを各国の人たちが覚えていてくれ,ウェルカムパーティで多くの人々に話しかけられた。

「第7回環太平洋精神科医会議」印象記

著者: 牛島定信

ページ範囲:P.219 - P.220

 環太平洋精神科医会議第7回学術会議は,さる10月24〜27日の間に,西園昌久会長(福岡大学教授)のもと,新しく建設されたばかりのアクロス福岡(福岡市)で開催された。海外14か国から,126名,国内から264名,計390名参会者で,主催者の話では予定より若干少なめであったが,国際学会としてはまずまずの規模となった。ことに秋の学会シーズン真っ只中,筆者自身,東京と各地の学会を往復するなかでの出席であったことを考えると,まずは成功といわねばなるまい。特に福岡市は西の玄関口としての自負があるだけに,さすがに東南アジア諸国からの参加者がいつもより多く,その特色が出ていたように思う。この会議は古い友人たちが3〜4年ごとに集まるわけであるが,そうした仲の良さを漂わす雰囲気は,会議全体を通じての特徴といえた。
 まず,会議は会長による基調講演『環太平洋諸国における次世紀に向けての精神医学の挑戦』から始まった。都市化と工業化,人口構成の変化(高齢化),発展途上国における人口爆発,家族および地域概念の変化,職場の経済優先主義の人の心に及ぼす影響,高学歴と資格制度の定着化といった形で急速に進行していく社会変動の様子が概観された後で,傷つきやすいマイノリティーとしての子どもや思春期,婦人,高齢者の問題が論じられた。そして,それに対する精神医学の対応の現状が,脳研究,心理社会的研究,医学教育のあり様が総括されて,本会議で語られるべき概要が述べられた。なかなかとアグレッシブな内容で,会長の意気込みのほどを感じさせるものであった。

「第36回日本児童青年精神医学会」印象記

著者: 灘岡壽英

ページ範囲:P.221 - P.222

 第36回日本児童青年精神医学会総会は,1995年11月1日より3日までの3日間,岡山市において開催された。会場は岡山市の中心部を流れる旭川のほとりに立つ岡山衛生会館とその隣にある三光荘という立派な建物で,会場からは岡山城や後楽園が眺められるという絶好の場所であった。大会の期間中好天気に恵まれ,参加者は730人を数えたということである。
 今回の学会は,自閉症がメインテーマにすえられ,会長講演,記念講演,招待講演,シンポジウムと一般演題105題の発表が行われた。総会は従来2日間のものであったが,前日に行われる症例検討,教育に関するセミナーが定着し,3日間にわたって開催されるのが恒例となってきている。その初日のプログラムから順を追って今回の大会のあらましを紹介したいと思う。

「精神医学」への手紙

Letter—Sleep disorders medicineの立場から—戸島論文に対するコメント

著者: 谷口充孝 ,   立花直子 ,   岡靖哲 ,   杉田義郎

ページ範囲:P.223 - P.223

 戸島氏らによる「睡眠時無呼吸症候群および精神遅滞を伴ったPierre Robin症候群の1症例」(本誌37:1079-1083, 1995)は,睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)が,睡眠障害を専門としない精神科医にも認知されるようになってきたという点で歓迎されるべきことだと思います。Pierre Robin症候群などの種々の頭蓋顔面奇形を持った小児にSASが合併することは知られており2),外科的治療やnasalCPAPなどの治療効果も報告されています1,3)。SASの診断は典型例では比較的容易ですが,重症度の評価や治療には多くの診療科(耳鼻科,呼吸器内科,歯科口腔外科,形成外科など)との連携が必要となります。しかし,残念ながら,睡眠医学が確立していない日本では,他科との連携ができず適切な治療を行うのが困難なのが現状だと思います。こうした問題点を認識した上で,戸島氏らの報告について睡眠障害の治療を目指している立場から,若干のコメントをさせていただきたいと思います。
 症例ではSASの診断にアプノモニターが使われています。アプノモニターはSASのスクリーニングには有用ですが,SASの重症度や治療の必要性を決定することができません。睡眠内容,SaO2の低下を評価するためにパルスオキシメーターを併用した終夜睡眠ポリグラフ検査が必要です5)。また,SASによって深睡眠が減少し,深睡眠時に出現する成長ホルモンのsurgeが障害されるために小児のSASでは身体発育障害が生じ,治療によって著しく改善することが報告されています4)。この意味でも終夜睡眠ポリグラフ検査で睡眠内容を把握することが重要です。なお,症例ではSASの臨床症状によって日中の活動に支障を来していることからも,短期的にはnasal CPAPを,長期的には形成外科的手術などの治療を考えていくことが望まれます。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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