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雑誌目次

論文

精神医学38巻3号

1996年03月発行

雑誌目次

巻頭言

精神療法のゆくえ

著者: 小此木啓吾

ページ範囲:P.230 - P.231

 ここ何年か,米国で精神科医を長年やっていて,日本に帰国された方とか,帰国願望を強く抱いている方にしばしばお会いする。その理由は,中高年世代のこれらの精神科医たちにとって,もはや米国の診療機関の中では,良心的な治療,つまり精神療法を主体とした治療ができなくなってしまったからだと語られることが多い。「このまま米国にいると,自分の長年身につけた精神科医アイデンティティが失われてしまう」と訴える人もいる。
 どうやら米国の精神医療の中で,精神科医による精神療法は,もはやそのポジションをほとんど失ってしまった感がある。日本でかなりの精神療法の研修を受けて,米国の一流病院の精神科に留学した某精神科医は,「先生,早く日本に帰らないと,せっかく日本で勉強したことを忘れそう。」と言う。

展望

精神科救急医療の現状と改革—地域精神医療の発展のために

著者: 西山詮

ページ範囲:P.232 - P.244

■はじめに
 精神科救急医療が発達しないのは,地域医療がいくらも展開しないからである。地域医療が展開しないのは,病院医療,特に病床数が変わらないからである。地域医療を地道に展開することによって,病院医療を抑制することができると考える人もあるが,それはまず不可能ではあるまいか。病院医療をしかるべく抑制する方途を見い出して初めて,地域医療に真の需要が発生するからである。少なくとも世界の精神医療先進諸国の実験を見るかぎりそうであって,その逆の手続きで成功した例をあまり聞かない。仮にいま全国に5万人分の保護住宅(援護寮,福祉ホーム,共同住宅,障害者優先アパートなど)を作ったとして,10年後に果たして何人が退院してこの住宅を満たしているかを考えてみればよい。相変わらず満床の病院と空き家の住宅(地域)とが対峙しているだけであろう。ところが,医療制度の改革,診療報酬体系の大幅な改正を断行することによって,10年計画で10万床削減が現実の日程に上ったとすると,5万人分の保護住宅が準備され,これがフルに利用される蓋然性は極めて高いのである。病床削減による退院の圧力があって初めて,地域医療は前進する。
 改正法施行後早くも7年が過ぎて,病床数にも平均在院日数にも見るべき変化がないことからもわかるように,我が国の精神保健法は現実を変える力を持っていない。このままでは20年経ってもたいした変化は望めない。アメリカでは1960年から1980年の20年間に病床数を1/3に削減して万対10床にした。病床削減に慎重なイギリスでも同期間に病床を半減させて,万対16床にした52)。イタリアに至っては1978年の精神保健法の改正以後9年間で公立病院の病床を1/3に,私立病院の病床を1/2に削減した12)。アメリカにおいて,またとりわけイタリアにおいて,病院医療解体の急速な進行に対して地域医療建設の著しい遅滞が指摘されている。アメリカの精神医療改革は失敗したと宣伝する日本人精神科医も少なくないし,イタリアの精神医療改革はいずれ破綻すると予言する者33)まで現れたが,上記の遅滞を取り戻す努力が両国において重ねられた結果,イタリアにおいてさえ,地域精神医療の方向性はいまや動かし難いものとなったようである8)

研究と報告

長期入院後の精神分裂病患者の再入院についての検討

著者: 樋口雅朗 ,   林直樹

ページ範囲:P.245 - P.251

 【抄録】我々は都立松沢病院に精神分裂病の診断で入院し,1986年から1990年未までに退院した患者のうち3年間以上入院した患者で,退院した時点で同院外来治療に引き継がれた43例(男性20例,女性23例)を対象として,入院前後の社会適応状況,入院長期化の理由,退院後の入院予後などの相互の関連性を把握するための病歴調査を行った。対象患者の累積非再入院率は3年目66.7%,6年目46.3%であった。そして退院後家族の同居のある患者は単身生活者に比べて退院6年目で有意に再入院が少なくなり,長期入院の理由として家族の感情的反発が診療録に記載されていると退院後3年目,6年目に有意に再入院が多くなる,などの所見が得られた。これらの所見から,退院後地域に戻った長期入院患者は入院予後が比較的良好なこと,退院時の同居者,特に親の同居や家族の精神的協力が再入院を減少させる要因であることが推定された。

外来寛解分裂病者に対する退薬プログラムの検討—Sulpirideを用いた段階的間欠投与の試み

著者: 佐藤正弘 ,   西川正 ,   林輝男 ,   金田稚子 ,   田中新一 ,   古賀五之 ,   内田又功 ,   川原隆造

ページ範囲:P.253 - P.258

 【抄録】外来寛解精神分裂病者46名を段階的減薬からsulpiride 200mg/日就寝前1回投与とし,同意が得られた22名を6か月ごとにそれぞれ連日,隔日,3日に1回,週に1回投与および完全退薬とする5段階の退薬プログラムを実施した。その他の17名は服薬を継続させた。急速退薬群は以前の治験のプラセボ(N=13)群を用いた。治験を完遂した各症例ごとに治験開始から再発までの寛解日数を指標にした生存曲線の検定を行い,間欠投与の再発予防効果とこの退薬プログラムの有用性を検討した。段階的間欠投与による退薬(N=19)は急速退薬と比べ完全退薬に至るための有用な方法であり,継続服薬(N=15)と比較しても週1回投薬まで再発予防効果があることが確認された。また間欠投薬はプロラクチン値を指標にしても薬効持続の可能性が示唆された。

精神分裂病の再発についての検討—陽性症状と非精神病性症状を指標として

著者: 緒方明 ,   坂本眞一 ,   葉山清昭 ,   多賀浩一 ,   川上恵 ,   藤本敏雄

ページ範囲:P.259 - P.265

 【抄録】精神分裂病の再発について,再発症状を陽性症状のみに限定せずに非精神病性症状にも広げて再検討した。対象とした133人中再発者は93人で再発率は69.9%と高率であった。再発契機は断薬・怠薬・減薬のⅠ群,ライフイベントのⅡ群,Ⅰ群とⅡ群が重畳したⅢ群,不明のⅣ群があった。再発契機と再発症状との関連を検討するとⅠ群では陽性症状が多く,Ⅱ群では非精神病性症状が多いことが特徴的であった。この結果を非精神病性症状の初期症状から陽性症状の極期症状へと進展する精神分裂病の症候論から考察し,てんかんで断薬の際に出現する症状との類似性を指摘した。また約25年間で女性の職場内因子のライフイベントが増加の傾向にあることを指摘した。

「完全自殺マニュアル」による自殺企図—精神分裂病者の大量服薬

著者: 上條吉人 ,   堤邦彦 ,   本田美知子 ,   菊野隆明 ,   浅利靖 ,   相馬一亥 ,   大和田隆

ページ範囲:P.267 - P.273

 【抄録】1993年7月に「完全自殺マニュアル」が発刊され,ブロムワレリル尿素剤をはじめとする市販薬の大量服用による自殺の方法が紹介された。発刊後18か月の間に,9症例が当マニュアルを参考にして自殺目的でプロムワレリル尿素剤を大量服用し,北里大学病院救命救急センターまたは国立東京第二病院救命救急センターに搬送された。そのうち5症例は精神分裂病圏で,致死量を服用していた。いずれも精神科治療歴はなく,被害関係念慮や心気妄想などをきっかけに不登校となり,自殺企図前は無為・自閉的な生活を送っていた。また,動機は漠然としたものが多かった。薬物による自殺企図は他の手段に比して救命率は高いが,当マニュアルに従って薬物を大量服用することはより致死率を高める可能性があり“死のエネルギー”の大きい精神分裂病圏の症例を取り込む結果につながる。日常の精神科診療の中で当マニュアルの存在を念頭の置き問題意識を持って対処しなければならない。

抗精神病薬誘発性アカシジアと睡眠時ミオクローヌスの関連

著者: 堀口淳 ,   西松央一 ,   佐々木朗 ,   稲見康司 ,   助川鶴平 ,   伊賀上睦見

ページ範囲:P.275 - P.279

 【抄録】抗精神病薬誘発性アカシジアを呈する4症例とアカシジアのみられない対照群4症例の合計8例の精神分裂病患者に,終夜睡眠ポリグラフィ検査を実施し,アカシジアと睡眠時ミオクローヌスとの関連を検討した。睡眠時ミオクローヌスはアカシジア群4例中3例で観察されたが,対照群4例には睡眠時ミオクローヌスはみられなかった。アカシジア群4例では,全例でクロナゼパムの投与がアカシジアに奏効した。アカシジア群における,アカシジア消失後の終夜睡眠ポリグラフィ検査の再検では,睡眠時ミオクローヌスの総数や単位時間当たりの個数は減少し,その平均インターバルが延長した。これはクロナゼパムが,睡眠時ミオクローヌスにも奏効したことを示している。
 以上の事実から,抗精神病薬誘発性アカシジアと睡眠時ミオクローヌスとは症候学的にも薬物治療学的にも共通の基盤を持つ症候であると考えられた。

睡眠相後退症候群患者の心理特性について—予備的研究

著者: 白山昌子 ,   飯田英晴 ,   白山幸彦 ,   白川修一郎 ,   大川匡子 ,   高橋清久

ページ範囲:P.281 - P.286

 【抄録】睡眠相後退症候群の患者11例に4種の心理テストを行った。YGテストとMMPIでは疑問点が高く,MMPIの2数字記号型では心気症尺度を示す者が多かった。PFスタディでは自我防御型が低く,内罰方向・要求固執型が高く,ロールシャッハテストではW%,W/D,VIII-X/R%は高く,FK+Fc/F%,FC/CF+Cは低い傾向がみられた。以上から,(1)全般的に防衛的で,決断力が弱く,葛藤を生じやすい神経症的傾向を持つ,(2)高い要求水準を持ち,完全主義で,他者依存に抵抗がある,(3)感情刺激に対する感受性が高く,自己中心的な感情を持ちやすい,といった性格特徴が得られた。こうした性格特徴は,無力感・不全感を感じやすく,社会的に引きこもり,リズム同調の社会的手がかりが減少し,悪循環を構成する要因となると推測した。

触法精神障害者の臨床的特徴について—1公立病院における調査から

著者: 土屋賢治 ,   中谷陽二 ,   岩波明 ,   藤森英之 ,   金子嗣郎

ページ範囲:P.287 - P.293

 【抄録】1公立精神病院に6か月間に入院した患者を対象に,触法歴と病歴を調べたうえで,入院後の治療経過を追跡した。触法歴を有する触法群は対象患者320例中の53例(16%)であり,触法歴を持たない非触法群267例と比較して,物質乱用歴が多い,分裂病が少ない,頻回入院者が多い,治療中の暴力行為が多いという傾向が見い出されたが,薬物投与量と入院期間について差は見い出せなかった。さらに触法群を,触法行為の内容に従って「重大触法群」と「軽微触法群」に分け比較したところ,触法行為の重大性は濃厚な治療を必要とする病態の重さと関連する可能性が示唆された。触法精神障害者の特性に応じた治療戦略の必要性について言及した。

てんかん精神病の精神症状評価

著者: 寺田倫 ,   大沼悌一 ,   堀彰

ページ範囲:P.295 - P.300

 【抄録】Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)とManchester Scale(MS)の評価尺度が,てんかん患者の精神症状を適切に測定でき,精神分裂病(以下分裂病)の症状と区別できるかを検討した。当院治療中の分裂病様症状を呈するてんかん患者14例を対象に,これらの評価尺度を用いて精神症状を測定し,分裂病患者の症状と比較した。その結果,てんかん患者の精神症状の特徴は,陰性症状に比べ陽性症状が重症であり,分裂病患者に比べて陰性症状が軽症であった。しかし,症状の質的な相違を測定することは困難で,分裂病の症状と大まかな比較しかできず,より詳細な評価尺度が必要だと思われた。

短報

若年発症のPick病の1臨床例

著者: 下村辰雄

ページ範囲:P.301 - P.303

はじめに
 Pick病は初老期痴呆の代表的疾患で,若年発症例の報告4,5)はまれである。今回,漢字の読み書き障害で初発した若年発症のPick病と考えられた1例を経験したので報告する。

腎移植後の精神症状発現に影響を与える諸要因

著者: 渡辺俊之 ,   平賀聖悟 ,   佐藤威

ページ範囲:P.304 - P.306

 腎移植患者は,身体的にも心理的にも多大なストレス下に置かれ,せん妄,器質性の情動障害,抑うつ,不眠などの様々な精神症状が出現してくることが知られている3〜5)。特に,せん妄を背景にした術直後の問題行動は,術後管理の上でも問題となる。本稿では,当病院で施行された103例の腎移植患者について術後1週間における精神症状を調査し,その発現と諸要因との関係について考察した。

Diazepamおよびmidazolam静脈内投与によりTorsade de pointesが惹起された1例

著者: 高見浩 ,   岡村仁 ,   岡本泰昌 ,   吉村靖司 ,   日域広昭 ,   大森信忠

ページ範囲:P.307 - P.309

 Torsade de pointes(以下Tdp)は,心室頻拍の特殊型で,心室細動に至り致死的となることもあるため,その予防が重要である。近年,各種向精神薬によりTdpが引き起こされた症例が報告されている2,4〜7,10)が,ベンゾジアゼピン系薬物によるものは認められない。今回我々は,chlorpromazineによると思われる心電図上QT時間の延長が基盤にあり,直接的にはベンゾジアゼピン系薬物であるdiazepamおよびmidazolamを静脈内投与したことが契機となり,Tdpが惹起された1例を経験したので若干の考察を加え報告する。

インターフェロンの投与により持続する躁様症状と前頭葉の血流障害を呈した腎細胞癌の1例

著者: 古塚大介 ,   切池信夫 ,   黒田陽子 ,   木岡哲郎 ,   山上榮

ページ範囲:P.310 - P.312

 現在,インターフェロン(以下IFNと略す)は腎癌,多発性骨髄腫,慢性骨髄性白血病などの悪性腫瘍とB型およびC型慢性肝炎の治療に使用され,臨床効果を上げている。しかしその使用頻度の増加に伴い,意識障害,知能低下,傾眠,精神錯乱,知覚異常,見当識障害,幻覚,不安,抑うつなどの精神症状が副作用として生じることが報告され2,3,8,10),これらの精神症状は一般にIFN投与中止後速やかに改善すると言われている9)。今回我々は腎癌の治療のため腎摘出した後IFNの長期投与にて,多動,多幸性などの躁様症状と知的機能低下を来し,投与中止後約6か月以上もこれが持続し,この間SPECTで前頭葉の血流障害が認められた症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

特別寄稿

うつ病の断眠療法

著者: R. TölleR. Tölle ,   内山真 ,   曽根啓一

ページ範囲:P.313 - P.319

 1994年6月10日から2日間,第41回日本病跡学会が飯田真会長(新潟大学医学部精神医学教室教授)のもと,新潟市で開催された。11日の特別講演「チュービンゲン学派の精神医学」の演者として,Munster大学(ドイツ)医学部精神科の主任教授R. Tölleが招待された。F. Mauz,B. Pauleikhoff,R. Tölleの時代を通じて日本から10名ほどの精神科医がMunster大学に留学している。
 Münster大学精神科は,Heidelberg学派(記述精神医学)とTübingen学派(力動精神医学)を止揚(Aufheben)した道を歩んでいると言われていたが,時代の流れの中で後者に傾斜しつつあるように思われる。R. TölleはR. Gaupp,E. Kretchmer,F. MauzのいわゆるTubingen学派,さらにP. Kraus,ことにW. Schulteの門下生でもあるからである。

動き

精神医学関連学会の最近の活動—国際学会関連(1)

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.321 - P.327

 日本学術会議は,「わが国の科学者の内外に対する代表機関として,科学の向上発展を図り,行政,産業および国民生活に科学を反映浸透させることを目的」として設立されています。その重要な活動の1つに,研究連絡委員会(研連と略す)を通して「科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させること」が挙げられています。この研連の1つに「精神医学研連」があります。今期(第16期)は小生が皆様のご推薦により日本学術会議会員に任命されましたので,精神医学研連の委員長を務め,浅井昌弘(慶応義塾大学医学部),小島操子(聖路加看護大学),後藤彰夫(葛飾橋病院),鈴木二郎(東邦大学医学部),早川和生(大阪大学医学部),町山幸輝(群馬大学医学部),山崎晃資(東海大学医学部)の各氏に研連委員になっていただいております。精神医学研連では,その活動の1つとして,約10年前から,我が国の精神医学またはその近縁領域に属する諸学会・研究会の活動状況をそれぞれ短くまとめて,本誌に掲載してまいりました。この度,国内のものばかりでなく,国際的な学会についても,主要なものを選んでその活動状況を要約して掲載することにいたしました。読者の皆様のお役に立てば幸いであります。

「日本精神病理学会第18回大会」印象記

著者: 坂本暢典

ページ範囲:P.328 - P.329

 日本精神病理学会第18回大会は,浅井昌弘慶応大学医学部教授の会長の下で,1995年9月27日(水),28日(木)の2日間,東京の日本都市センターにおいて開催された。特別講演,シンポジウム,3つの会場に分かれての一般演題の発表が行われ,2日間にわたる活発な討論が行われた。

第1回Aachen方法シンポジウム「精神病理学と精神医学の研究」

著者: 西村勝治

ページ範囲:P.330 - P.331

 いまバイオ・サイコ・ソシオの有機的統合が叫ばれている。わが国でも,これら各領域の「対話」の気運が高まり,例えば日本精神神経学会のシンポジウムにも「精神病理学と生物学的精神医学の接点」というテーマが2年続けて取り上げられた。
 この第1回Aachen方法シンポジウム(1.Aachener Methodensymposion)も,ドイツにおける,こうした「対話」の1つの試みである。「精神病理学と精神医学の研究」と題されたこのシンポジウムは,1994年2月24日から26日にわたりドイツのAachenで開催された。日本での議論がまだ理念の段階にとどまっている印象がある中で,ここでは,研究の「方法」をめぐる具体的,実践的レベルにまで議論が展開されたことに注目したい。当時筆者はAachen大学に留学中で,これに参加する機会を得た。筆者の語学力をもっては十分理解できたとは言えないし,すでに2年を経過してはいるが,印象記としてここに報告したい。なお主催者はAachenのH. Saβであり,Weiβenauシンポジウム(BonnのG. Huberが主催する,1970年代以降のドイツの分裂病研究の中心的な学会)の研究グループがこれに協力した。

「精神医学」への手紙

Letter—ジストニアは精神疾患の部分症状か?—藤本の疑問に対する意見/Letter—デポ剤による維持療法中の抗パーキンソン薬怠薬を契機とする悪性症候群の1例

著者: 丸井規博 ,   今泉寿明

ページ範囲:P.334 - P.335

 頸部前屈を呈した破瓜病の1例を報告した拙論3)に対し,藤本1)からご意見をいただきました。本例のantecollisが遅発性ジストニアであるとしたことを疑問とし,種々の不随意運動が,精神疾患の1症状としても現れる可能性を銘記しておくべきだとするご意見でした。
 そもそもKraepelin2)は彼の教科書において,今で言うジスキネジアを分裂病の1症状として記載しており,この問題は古くて新しい問題であると言えましょう。しかし,話をantecollisを含む頸部ジストニアに限れば,やはり薬剤性ジストニアを第1に考え,次には習慣性あるいは職業性ジストニアの可能性を検討し,次に神経疾患による症候性ジストニアを,最後に特発性のジストニアを考えることが学問的かつ臨床的な態度であると思います。この観点から本例をもう一度見れば,常同姿勢からantecollisに至った,いわゆる習慣性斜頸の可能性をもう少し検討すべきであったと思っています。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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