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雑誌目次

雑誌文献

精神医学38巻4号

1996年04月発行

雑誌目次

巻頭言

脳とこころの世紀

著者: 高橋清久

ページ範囲:P.342 - P.343

 21世紀を迎えるまであと5年足らずである。新しい世紀に脳とこころの機構がどの程度まで解明されるであろうか。言い換えれば科学的認識として脳機構とこころの働きがどこまで理解されるだろうか。さらに言えば我々精神医学者としてもっとも関心のある,精神疾患または精神障害を克服し,こころの健康を高めるために役立つための,脳とこころの機構の解明がどこまでなされるであろうか。
 脳機構の解明に関しては,今日の神経科学の発展をみれば21世紀にそれが成就される可能性は高いであろう。一方,喜怒哀楽,思いやり,羞恥心,美的感覚といった日常のこころの機能から,社会規範や道徳規範,価値観や思想,あるいは哲学・文学・芸術などに現れるこころの働きに関するこころの機構のすべてが解明されるには次の百年では無理かもしれない。しかし,病気としてのこころの問題が来世紀中に解決される可能性は高いのではなかろうか。すなわち,21世紀には脳機構が解明され,こころの働きのメカニズムがより明らかになり,少なくとも精神疾患の成因が解明され,予防法が確立されるものと考える。また,そうする使命が我々およびそれに続く精神科医にはあるであろう。その意味から21世紀を脳とこころの世紀として位置づけたい。

展望

災害精神医学の現状

著者: 太田保之

ページ範囲:P.344 - P.354

 災害に関する精神医学的研究は,西欧諸国や発展途上国で精力的に行われてきたが45),日本での研究は極めて少ない3,4,33,37)。しかし,阪神・淡路大震災を契機に,被災住民の心理社会的反応や精神医学的影響に対する関心が急速に高まってきた。日本においても,災害の精神医学的な後影響に関する継続的研究や精神保健対策に必要な全般的情報を得ることを目的とした研究の蓄積が待たれるが,これまでに発表された多数の研究をみても,災害の精神医学的影響を科学的に調査する理論的骨組みが確立していないためか,各研究結果は首尾一貫性に欠ける傾向にある13,14,29,46)
 そこで,本稿においては,(1)災害をどのように定義すれば理解しやすいのか,(2)災害という現象を人間社会の中でいかに位置づければよいのか,(3)被災住民に対する精神医学的影響がどのような性質を帯び,いかなる時間経過をたどるのか,(4)被災住民に認められる精神障害の発生頻度はどの程度なのか,(5)被災住民に対する精神保健的な支援活動の原則はどのようにあるべきか,(6)災害精神医学的研究における今後の課題とは何か,などについて言及したい。

研究と報告

終末期せん妄の緩和ケア

著者: 森田達也 ,   井上聡 ,   千原明

ページ範囲:P.355 - P.361

 【抄録】私たちは,終末期癌患者のせん妄の緩和ケアの現状とそのあり方について,ホスピスでの経験から報告した。143名中52名の患者が,死亡の平均8日前にせん妄症状を示していた。せん妄は患者・家族双方に苦痛を与える症状であり,的確な緩和が必要であるが,終末期においてはせん妄を来している原因の根本的な解決が期待できない場合が多く,鎮静を含めた積極的な症状緩和を行った。その際,家族とのコミュニケーションを密にして家族の苦痛を軽減しながら,ミダゾラムなどを用いて間欠的な鎮静を行うことが大切であるとの私たちの考えを示した。

睡眠覚醒障害を主訴とした外来患者の臨床的研究

著者: 山寺亘 ,   佐々木三男 ,   伊藤洋 ,   小曽根基裕 ,   佐野英孝 ,   松永直樹 ,   高橋敏治 ,   田村信 ,   牛島定信

ページ範囲:P.363 - P.370

 【抄録】最近3年間の外来初診時に,睡眠覚醒障害と診断された402症例を対象として実態調査を行った。(1)マスコミ報道を見て受診したものが約半数を占め,主訴は起床困難が多かった。(2)脱落例を除外し,治療が継続した318例について睡眠障害者国際分類(ICSD)に準拠して分類した結果,精神生理性不眠症・睡眠時無呼吸症候群を含む内在因性睡眠障害は127例(39.9%)に認められ,睡眠相後退症候群など概日リズム睡眠障害と確定診断された症例が78例(24.5%)に達した。(3)概日リズム睡眠障害の治療には,睡眠導入剤を投与した症例は他の睡眠障害に比較して少なく,ビタミンB12の投与や高照度光療法が主体であった。
 この睡眠覚醒障害における概日リズム睡眠障害の占める割合は,過去に比較して突出して高い値であり,当院睡眠障害専門外来の特徴であるとともに,現代という時代的背景に影響された結果であろうと推察された。

保健所定期精神保健相談例の分析—受療中なのになぜ保健所に来るのか?

著者: 太田敏男

ページ範囲:P.371 - P.377

 【抄録】精神科医療における保健所の役割の実態と病院医療の問題点を探るため,受療中の精神保健相談例の保健所来所理由を分析した。全330相談例のうち,受療中例は87例(26.3%)であった。来所理由は,相談相手が保健所医師であることが妥当と思われるもの(A群),相談相手が主治医であるほうが妥当と思われるもの(B群),および相談理由が不明確なものや特殊なもの(C群)に大別され,それぞれの例数は36,40,11であった。A群は,おおむね地域における相談機関という保健所の役割にふさわしいものだったが,B群は,病院診療において病気の治療経過や見通しの説明,具体的な対処のしかたの指導,生活面の相談などが不十分であることを示唆するものであった。

ロールシャッハテストからみた高齢者の人格特徴—沖縄県の1離島における健康調査から

著者: 池田敏郎 ,   吉良安之 ,   仲本晴男

ページ範囲:P.379 - P.385

 【抄録】高齢者への精神保健活動を適切に行うためには,その人格特徴の理解が重要となる。本研究はロールシャッハテストを用いて,沖縄県の1離島の神経症圏の老人10名と健常老人15名を対象に,離島の高齢者の人格特徴と,神経症群と健常群の相違について検討を行った。結果は,神経症群に現実検討能力が低いことが若干認められたが,大きな相違は認められなかった。両群に共通した人格特徴は,強迫的で感情表現が乏しく現実的な点であった。これは他の研究に比べて,現実検討能力は高いが,内的活動レベルは低いことが明確になった。3年後に追跡調査を行ったが,大きな変化は認められなかった。これらのことから,この人格特徴は精神的老化が早いというよりは,風土や文化の影響が強いと考えられた。また両群ともに老人の危機的状況に陥りやすいことが予想されたため,心理的孤立化を防止する地域援助システムが重要であると考えられた。

脳波異常を伴う恐慌性障害

著者: 宮内利郎 ,   遠藤青磁 ,   梶原智 ,   萩元浩

ページ範囲:P.387 - P.392

 【抄録】恐慌性障害患者のうちてんかんを合併するⅠ群(4例),突発性脳波異常を持つⅡ群(6例),脳波異常を認めないⅢ群(8例)について検討した。Ⅰ群では神経症性格を示し,4例中3例にてんかん発作抑制後に恐慌発作,1例に恐慌発作軽快後にてんかん発作を認め,恐慌発作はてんかんの発作間欠期精神症状の1つである不安状態と考えた。またⅠ群では4例中3例が側頭葉てんかんを合併,Ⅱ群では6例中3例が側頭葉棘波を示し,抗てんかん薬が奏効した。Ⅲ群の未治療時脳波解析では,恐慌性障害においてα帯のパワーが少なく,中側頭部,後側頭部で左右差を示した。この結果は,恐慌性障害と側頭葉の機能異常,側頭葉てんかんとの関連性を示唆するが,Ⅰ群では1例が全般てんかんであったこと,Ⅱ群では6例中3例が側頭葉棘波を示さなかったことなど今後さらに恐慌発作時の脳波,脳磁図,magnetic resonance spectroscopyなどによる検討が必要と考える。

幻覚妄想を呈したてんかん患者におけるSchneiderの一級症状—前頭葉てんかんと側頭葉てんかんの比較

著者: 西脇俊二 ,   足立直人 ,   村内重夫 ,   大沼悌一 ,   石田孜郎 ,   赤沼のぞみ ,   穴見公隆

ページ範囲:P.393 - P.398

 【抄録】幻覚妄想の既往のあるてんかん48例(FLE 11例,TLE 37例)を対象として,Schneiderの一級症状(FRS)について後方視的に比較検討した。焦点局在以外の臨床特徴に両群間で差はなかった。FLEでは5例,TLEでは27例にFRSが認められた。TLEはFLEに比較して,妄想知覚,感情・欲動・意志の領域のその他の行為・影響体験において有意に高得点であった。さらにTLEではCTによる脳萎縮所見と問答形式の幻声と正の相関,思考奪取やその他の思考への干渉との間に負の相関を認めた。FLEでは,知能障害の程度と身体への影響体験,考想伝播,感情・欲動・意志の領域のその他の作為・影響体験が有意な相関があり,てんかん初発から精神病症状初発までの期間と自己の行為に随伴して口出しする形の幻声との間には負の相関を認めた。

難治性うつ病に対するブロモクリプチンの治療効果

著者: 三浦淳 ,   土屋潔 ,   井上猛 ,   榊原聡 ,   傅田健三 ,   笠原敏彦 ,   浅野裕 ,   小山司

ページ範囲:P.399 - P.404

 【抄録】内因性うつ病に対するブロモクリプチン(ドーパミンD2受容体作動薬)の有効性については,これまでいくつか報告されている。しかし,難治性うつ病に対するブロモクリプチンの有効性を検討した報告はみられていない。今回我々は数種類の三環系あるいは四環系抗うつ薬を十分量,一定期間与薬しても改善しなかった難治性うつ病の6症例について,ブロモクリプチンをこれらの抗うつ薬と併用し,その抗うつ効果について検討した。全例,単極性うつ病であり,DSM-III-Rの大うつ病(メランコリー型)の診断基準を満たした。ブロモクリプチンの6週間の与薬により4例が反応(HRSD総点が50%以上減少)し,残りの2例も部分的な反応(HRSD総点が25%以上50%未満減少)を示した。今回の結果から難治性うつ病に対してブロモクリプチンが有効な治療手段の1つとなる可能性が示唆された。

抗うつ薬抵抗性うつ病に対するリチウム追加投与の影響—抗うつ効果および病相予防効果に関する検討

著者: 岡本泰昌 ,   藤川徳美 ,   岡本百合 ,   村岡満太郎 ,   福江真由美 ,   前正秀宣 ,   長田昌士 ,   内富庸介 ,   本橋伸高 ,   山脇成人

ページ範囲:P.405 - P.409

 【抄録】抗うつ薬抵抗性のうつ病に炭酸リチウムの追加投与を行い,抗うつ効果発現の経時的経過を検討し,続いて過去5年間のリチウム投与前後のうつ病相の再発についても検討した。6例中3例で1週間以内に改善を認めておりリチウム追加による抗うつ作用増強効果の関与が考えられ,5例で2,3週目以降にも改善を示しており,リチウム単独の抗うつ効果が上乗せされた可能性が推定された。次にリチウム追加投与前後のうつ病相の経過について,追加投与後には全例,病相の再発は認めなかった。その中でも3例については,これまでの病相再発までの期間を延長しており,病相再発予防効果が認められたものと考えられた。

Charles Bonnet症候群に関する考察—“解放性”幻視との関連性について

著者: 森則夫 ,   小薗江浩一 ,   鈴木勝昭 ,   岩田泰秀

ページ範囲:P.411 - P.417

 【抄録】Charles Bonnet症候群とは眼疾患により視力障害を来した老年者に幻視が現れる臨床像を指していう。一方,“解放性”幻視とは,中枢視覚路の病変に伴う複合幻視の発症機序を説明するために提唱された概念で(Cogan,1973),通常の視覚刺激は幻視の発現を抑制しており,それがなくなると幻視が現れるという考えである。本稿において,我々はCharles Bonnet症候群を呈した初老期または老年期の男性3例と,視力障害を伴わずに幻視を呈した老年女性の1例を提示した。症状記載の後,解放性幻視と脳の老化という観点からCharles Bonnet症候群にみられる幻視について考察し,各症例にコメントを加えた。

短報

頭部外傷後に起こった逆向健忘の1例—逆向健忘からの突然の回復(プチット・マドレーヌ現象)

著者: 村井俊哉 ,   十一元三 ,   扇谷明 ,   中山宏太郎

ページ範囲:P.419 - P.421

 前向健忘を伴わない逆向健忘はみられないというのが脳器質性病変に伴う健忘症の原則とされていたが8),最近,前向健忘をほとんど伴わずに逆向健忘のみが長期間持続する症例が相次いで報告されている2,7,9)。我々は頭部外傷に引き続いておよそ2か月間,過去5年に及ぶ逆向健忘を示し,前向健忘をほとんど伴わなかった1例を経験したので報告する。また本例ではその逆向健忘の急速な回復も特徴的であったが,同様の回復過程をとった症例が最近Lucchelliら5)によって,Petites Madeleines'phenomenonとして報告されており,この点についても若干の考察を加えたい。

総合病院における重症身体合併症患者の往診に際しての無けいれん性電撃療法

著者: 築島健 ,   安田素次

ページ範囲:P.423 - P.425

■はじめに
 救命救急医療の進歩と普及に伴い,精神科医が重篤な身体合併症を持つ患者の精神症状に対応する機会が多くなっている。精神症状が身体的治療の円滑な遂行を妨げていることも多く,精神科的治療のいかんが患者の生命的,身体機能的予後を左右することにもつながる。
 この際には,身体治療を妨げている精神症状を迅速かつ確実に消退させることが求められる。しかし,種々の理由により向精神薬を使用できない,あるいは困難なことがある。我々はこのような患者に関するコンサルテーション・リエゾン活動に際し,身体科の病棟に往診して無けいれん性電撃療法を使用し,良好な結果を得たので,若干の考察を加えて報告する。

HIV感染後むしろ精神症状が安定した血友病A,分裂病型人格障害の1例

著者: 岸本年史 ,   田原宏一 ,   川端洋子 ,   鳴吉徳人 ,   井川玄朗 ,   河崎則之

ページ範囲:P.427 - P.429

■はじめに
 HIV(human immunodeficiency virus)は,後天性免疫不全症候群(AIDS)を惹起する。HIV感染者には不安や抑うつなどの心因性の精神症状の合併が多いとされていたが,これらは当初考えられていたよりも少なく,最近の報告では,抑うつは4%から14%と報告されている3)。筆者らのAIDS発症後に不安,抑うつから昏迷状態を呈した1例の報告4)以外には,本邦での精神科領域のHIV感染後の精神症状についての報告は極めて少ない。今回筆者らは,精神病様症状を呈したがHIV感染により,世界没落体験などの症状が消失し,むしろ精神的に安定し現実的な人格の再構成をもたらしたと考えられる血友病の人格障害の症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

悪性症候群の回復過程にみられた心電図R-R間隔のゆらぎと脳波,精神症状の変化

著者: 十一元三 ,   村井俊哉 ,   扇谷明

ページ範囲:P.431 - P.433

 悪性症候群の病相期に精神症状が軽減することを,しばしば我々は経験した。しかし,悪性症候群は意識障害を合併することが多く,明確な精神症状の評価は困難であった。今回,悪性症候群を呈した慢性分裂病患者で,意識障害が認められなかった症例を経験した。本症例に対し,悪性症候群の発症から寛解に至るまで,精神症状,脳波および自律神経機能を縦断的に調べたので報告する。なお,本報告において,自律神経機能の評価として,心電図R-R間隔の変動パターン(以下,RRゆらぎ)をもとにした新しい定量的指標を用いたので,併せて報告する。

特別寄稿

精神医学におけるシステム論の意義(第1回)

著者: ,   花村誠一

ページ範囲:P.435 - P.442

 現代の精神医学では,実に多様な方法的手がかりが過剰に供給される。Tellenbach(1987)は精神医学をまさに「方法のカメレオン」と呼んだ。その結果,統合への強い要請が生じる。これは治療実践にも,研究戦略にも当てはまる。
 治療の領域では,この要請は,一方における治療的介入の遂行可能性の増大と,他方における次のような不安の増大との乖離に由来する。つまり,表面的で短期間だけ作用する戦略では,人間存在全体を見渡す視線が失われるかもしれない,というもっともな不安である。直観はもはやほとんど役に立たないので,全体的な構造,例えば「オートポイエティック」な構造が,操作的なやり方でも扱いうるのかどうかは疑わしい注1

動き

「第3回多文化間精神医学ワークショップ」印象記

著者: 鈴木満

ページ範囲:P.444 - P.445

 多文化間精神医学会は創立後3年を迎え,会員数はすでに200名を大きく超えるという。この学会は,総会とワークショップを年に1回ずつ開催してきたが,先行したのはワークショップのほうである。ワークショップは学会員だけでなく,一般市民の参加を認めている。日本国内の外国人登録者が人口の1%に達しようとする時代の要請に応えるがごとく生まれた学会は,誕生の時から風通しが良い。それでいて学術的かつ中立的であろうとする姿勢は,ポスト団塊世代を中心とする運営委員たちのバランス感覚によるものであろうか。
 神戸での第1回,横浜での第2回ワークショップに続き,第3回多文化間精神医学ワークショップは,9月9日倉敷市の美観地区に隣接する芸文館で開催された。前半は「多文化の中の女性とこころ」と題するシンポジウム,後半は井上ひさし氏による特別講演であった。シンポジウムの内容を反映してか参加者の7,8割が女性であった。

「精神医学」への手紙

Letter—Evidence-based approachを実践する臨床医に対する疑義/Answer—レターにお答えして—「Evidence-basedを実践する臨床医に対する疑義」は一緒に乗り越えてゆきましょう

著者: 古川壽亮 ,   今泉寿明

ページ範囲:P.446 - P.447

 インターネット,ウィンドウズ95,情報革命と浮足立っている世相に鑑み,古川論文2)に描かれている実証的証拠に基づく精神医療の具体例,すなわち「治療上の疑問点をオンライン文献検索によって解決する大学病院の研修医」という夢のようなプレゼンテーションに対してささやかな疑義を示しておきたいと思います。
 第1に,インターネットあるいは商用ネット経由で,自腹(民間病院の苦しい台所も含めて)をあまり切らずにデータベースをオンライン検索できるという環境は,臨床研究施設,大学病院,ブランド病院を除けば例外的です。また,Nifty Serve経由の10分間の手際よい検索でMEDLINE使用料は$41.95とのことですが,電話代とNifty Serveの代金を忘れていませんか(細かいことで恐縮ですが塵も積もれば何とやら)。第2に,古川氏の例示された「反復性大うつ病の予防療法として抗うつ剤の維持投与に効果があるかどうか」というテーマは,少数の信頼すべきRCTが同じ結論を示した「プレゼンテーション向け」の都合のよい例題のように思われます。結論が錯綜している複数の論文に臨んで暫定的にしろ1つの方針を決定しようと試みれば,そのテーマに関する展望論文を1編書き上げるに等しい労力が必要ではないでしょうか。例示された研修医のようにたまたま時間が空くことはあるにしても,十分な時間と労力が日常的に確保できるとはとても思えません。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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