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特集 精神病理学の方法論—記述か計量か
症例研究と多数例研究について
著者: 島悟1
所属機関: 1東京経済大学経営学部
ページ範囲:P.459 - P.466
文献購入ページに移動■はじめに
今日,我が国における精神医学研究は,「生物学的精神医学」にリードされていることに誰しも異論はなかろう。対するところの「社会心理学的精神医学」は日増しに影が薄くなってきている感がある。前者の生物学的精神医学では,「科学的」にデザインされた多数例研究が行われており,後者の社会心理学的精神医学でも,昨今では「科学的」な多数例研究が症例研究を席巻しつっあるように感じている。もっとも生物学的精神医学における科学性については多くの議論があり7),この「科学的なるもの」の多義性について,最近興味深い論文が発表された2)。
筆者は,5年間の内科臨床を経て精神医学の世界に参入した輩である。内科臨床では,当時すでにかなりの程度に「科学的思考方法」が定着しつつあり,臨床検査結果と診断・治療マニュアルがあれば,一定水準以上の医療が保証されるように思えた。しかしながら実地臨床は,必ずしもマニュアル通りにいかない場合があり,同時にマニュアル化された臨床の中で,治療者・被治療者双方ともに,治療場面から疎外されているように感じたことが契機となり,大仰に言えば,「人間性の復権」を期待して精神医学の門を叩いた。
今日,我が国における精神医学研究は,「生物学的精神医学」にリードされていることに誰しも異論はなかろう。対するところの「社会心理学的精神医学」は日増しに影が薄くなってきている感がある。前者の生物学的精神医学では,「科学的」にデザインされた多数例研究が行われており,後者の社会心理学的精神医学でも,昨今では「科学的」な多数例研究が症例研究を席巻しつっあるように感じている。もっとも生物学的精神医学における科学性については多くの議論があり7),この「科学的なるもの」の多義性について,最近興味深い論文が発表された2)。
筆者は,5年間の内科臨床を経て精神医学の世界に参入した輩である。内科臨床では,当時すでにかなりの程度に「科学的思考方法」が定着しつつあり,臨床検査結果と診断・治療マニュアルがあれば,一定水準以上の医療が保証されるように思えた。しかしながら実地臨床は,必ずしもマニュアル通りにいかない場合があり,同時にマニュアル化された臨床の中で,治療者・被治療者双方ともに,治療場面から疎外されているように感じたことが契機となり,大仰に言えば,「人間性の復権」を期待して精神医学の門を叩いた。
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