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雑誌詳細

文献概要

特集 精神病理学の方法論—記述か計量か

失語における計量と直感

著者: 波多野和夫1

所属機関: 1国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健部

ページ範囲:P.493 - P.499

■失語学序説
 失語とは次の4項目によって定義される言語障害と考えられる。①後天的な言語障害である。発達性の障害は失語ではない。②器質性脳病変による。心因性・ヒステリー性言語障害,あるいは内因性精神病における言語障害は失語ではない。③聞・話・読・書を包含する言語システム全体の障害である。それぞれ1つのみの孤立性障害(純粋語聾・純粋語唖・純粋失読・純粋失書)は失語ではない。④その障害を要素的神経症状(発声構音器官の麻痺・失調,聴覚神経系の障害など)でも一般的精神症状(痴呆,意識障害など)でも説明できず,また他の神経心理学的症状(聴覚失認,各種失行など)によっても説明不能な言語障害である。したがって必然的に,失語は多くの個別的症状によって構成される症候群として理解されなければならない。
 失語はその初期の記載以来,いくつかの亜群,あるいは現象としての亜型が存在すると言われてきた。この考えはいわゆる「Wernicke-Lichtheimの図式」に代表される連合論的古典論の成立に結実し,現在の失語学に至るまで決定的な影響を及ぼした。他方,その古典論の代表者Dejerineに論争を挑んだMarie(1908)の掲げたスローガンは「失語は1つである」(“L'aphasie estune”)というものであった。この亜型を認めない(重要視しない)思想もまた様々な意味を付与されつつ,1つの失語学の潮流を形づくり現代に至っている(大橋8))。この対立は,疾患としての精神病を多とするか一とするかをめぐる精神病理学の論争に類似していないことはない。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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