文献詳細
特集 精神病理学の方法論—記述か計量か
精神科診断学と疾病分類における直観の重要性
著者: 角田京子2 津田均3
所属機関: 1ハイデルベルク大学精神科 2帝京大学医学部附属溝口病院 3東京大学医学部附属病院分院神経科
ページ範囲:P.501 - P.510
文献概要
精神医学における最近の診断学と疾病分類は―DSM-IVやICD-10といった診断マニュアルにみられるように―操作的な診断基準とその応用の明確な規定―いわゆるアルゴリスム―に基づいている。その内容は,主観的,個人的なものであって間主観的には信頼できないものとみなされている直観を,広範囲にわたって排除するものである。このことが学術理論の上で意味するのは,実証科学的なパラダイム(Glatzel)8)を選ぶという決断であり,それは人間学的に方向づけられた諸方法を広範囲に排除しながら行われている。
精神医学における方法論的基本姿勢のまさに革命的なこの変化と承認は,精神科の診療と研究に対して深部にまで及ぶ影響力を持っているが,それは今のところ詳細には評価されていない。診断上の疾患単位を科学的に基礎づけるプログラムに則した試みは,DSM-IV,ICD-10両者の制作者によっても意図され,いまだ初期段階にはあるが,多くの伝統的な分類単位が解体していく過程へと至り,その解体過程はいまだ完了していない。とりわけ臨床家にとっては,今までのところ満足できるような安定した分類単位の新たな確立はない。それゆえ,操作的な診断学と分類は,何よりもまず実証科学的研究結果を国内外で交換するという点では疑う余地のない成果をおさめているものの,その成果は少なくともいくつかの診断においては疑わしいものに見える。もしも,部分的には直観に基づいている伝統的な分類単位が,直観的でもあり操作的でもあるというように,現在なお二重になっている精神科医の診断学から消え失せることがあれば,その時には,これらの解体過程の実際の影響全部が認識されるであろう。
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