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特別寄稿
精神医学におけるシステム論の意義(第2回)
著者: 花村誠一2
所属機関: 1ehemal. Leiter der Klinik für Psychiatrie im Zentrum fur Nervenheilkunde der Philipps Universitat 2東京医科歯科大学神経精神医学教室
ページ範囲:P.549 - P.560
文献購入ページに移動 次に臨床精神医学から若干の例を挙げる。反社会的(dissozial)な行動の「機能」注18について問う場合,以下のような仮説を立てることができる。反社会的な者は,例えば,犯罪行為や性的パートナーを次々と変えることにより,いつも新たに,自分こそその結果を引き起こした者であるという経験を手に入れる。彼らは特に知的な洗練も能力も,いわんや創造性も要することなく,もろもろの結果を自分に帰属させることができる。それゆえ彼らが好むのは,実際にはそんなもの持ってはいないのに,状況布置に対する統制能力,つまり自由度を持っているかのように錯覚させる行動である。こういう把握に従えば,彼らは他人に対し,その原因を自分に帰属させることのできる行為を誘発する確率を高めるため,共同世界の規範期待に反する行為図式を好むことになるだろう。期待外れにおいても,規範的に構造化された期待につながれていることに変わりはないわけで―そこでは,期待外れはいつも通り共同世界の側に制裁を加える反応の機縁を与えるが―,システム論的観点からみれば,そのように逸脱した行動に,基盤にある期待にもとついて高い「接続価値」(Anschlußwert)が配備されるのもうなづける。反社会的な者におけるフル回転する統制要求は,しばしば,強い不穏,不安定,過活動として現れるが,これらによって,彼らに接続の可能性が保証されることになる。彼らは複雑性の縮減によって信頼を十分に作り上げることができないため,彼らにとって,「何かを演じる」(Agieren)代わりに「何かと出会う」(Erleben)可能性は,あまりに危険が大きいか複雑すぎるのである。それで彼らは,何かを演じ切る(ausagierend)行動にとどまるわけである注19。
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