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雑誌目次

雑誌文献

精神医学38巻7号

1996年07月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科医—教育,研究,診療

著者: 兼子直

ページ範囲:P.684 - P.685

 「脳の世紀」といわれ,最近は神経科学の進歩が著しい。Human Genome Projectの進行とも相侯って,精神・神経疾患が遺伝子レベルでも論じられるようになった。畢竟,有名な雑誌は遺伝子研究の論文で埋まり,伝統的研究方法を用いている研究は受理されることが困難になりつつある。現在では精神科医の中にも遺伝子研究を主な研究領野とする者も少なくない。確かに,精神神経疾患の遺伝子研究により疾患の分類が再編され,従来は異なった疾患単位と考えられていたものが実は同じ原因遺伝子によるとされることもある。この逆もあるわけで,1つの疾患と考えられているものがいくつかの原因遺伝子による症候群であると結論される場合もあろう。そして,このような研究が将来的には新たな治療法の開発につながる可能性もある。
 また,臨床精神神経薬理学の発展により,従来は治療困難な神経症とされていたパニック障害,強迫神経症へも効果的な薬物が同定され,薬物療法が著しく進展している。結果として,このような疾患を持つ患者に対する精神科医の治療的接近も変わりつつあるかに見える。現在は,分裂病症状の中で治療困難とされている陰性症状に対しても,精神科リハビリテーションに加えて,かなりの効果を示すといわれる薬の開発も行われている。このように,研究面,治療面でも生物学的精神医学の隆盛が明らかな現状である。一方,神経病患者は神経内科で治療されるようになり,薬物療法の進歩により,従来は我々が中心になり治療してきたてんかん患者は小児科,神経内科で,うつ病,神経症は心療内科で治療されるようになった。分裂病リハビリテーションにしても,精神保健福祉法の制定により,施設内治療から地域内治療への転換が明示され,福祉ホーム,福祉工場などの社会復帰施設や,社会適応訓練事業などの展開が急であり,そこでは実際にケアを担当する臨床心理士,医療ケースワーカー,精神科看護者などのco-medicalに主要な役割が移行している。これらの場所での精神科リハビリテーション的ケアを理解していない精神科医,あるいはそこで研究をリードできない医師は必然的にリーダーシップを失い,彼の役割が減少し,それを嘆く者も将来は出てくることになろう。実際,リハビリテーションの先進国,イギリスでは,施設によっては精神科医は検査,診断,処方という分野でしか参加していないところもある。現在の我が国では,まだ,リハビリテーションの研究・実践を担うだけのco-medicalが十分には育っていないので,この段階にまで至っている施設は少ないものと考えられるが,早晩,イギリスの後を追うということになりかねない。このように,研究でも臨床でもこれまで「精神科」的と考えられていたものが次第に変貌しつつあるように見える。

展望

小児期の精神分裂病

著者: 弟子丸元紀 ,   樋口康志

ページ範囲:P.686 - P.698

 小児期の精神分裂病(以後は分裂病と記す)の臨床に関して,歴史的にいくつかの時代的流れがある。1943年にKanner27)が「感情的接触の自閉的障害」の論文を報告し,「早期幼児自閉症(earlyinfantile autism)」と命名し,分裂病の最早発型と考えたいと述べている。Bender9)は,分裂病を広く定義し,児童期の分裂病は遺伝的な脆弱性を持っており,個体が胎生期から早期幼児期までの間に作用するストレスに対して起こす早期の代償不全,すなわち成熟の遅れ(maturational lag)を提唱した。また,Kolvin31,32)は小児の示す精神病的症状の発現は,3歳以前を幼児期発病型infantlile psychosis(IP)とし,大部分が自閉症であること,また5歳以降を年長児期初発型lateonset psychosis(LOP)とし,その少数例のほとんどが成人型破瓜病であったと報告し,自閉症と早期発病の分裂病を異なるものとした。その後,1972年にRutter61)は多くの幼児自閉症は2歳半(30か月)以前に発症のピークがあり,分裂病は児童期後期と思春期に発症のピークがあることを指摘し,また,診断名も分裂病で十分であり,形容詞として小児期(childhood)はつける必要のないことを指摘した。1980年に改訂されたDSM-III2)からは幼児自閉症は発達障害であり,成人型の分裂病とは全く別のカテゴリーであることが示され,別の項目に記されるようになった。しかし,その後,Watkins(1988)73)はDSM-Ⅲ2)の分裂病の診断基準を満たしている10歳未満発症の12歳以下の症例について家庭や学校の記録,地域幼児指導センター記録を元に分析し,その中に3〜8歳に小児期発症の広汎性発達障害の症状を認めたことを報告している。または成人した自閉症の臨床からも,思春期・成人期になって分裂病の診断基準を満たす症例が認められた報告もなされている30,34)。これらの自閉症と分裂病との関連性の再考が指摘され,DSM-Ⅳ3)には「自閉性障害や他の広汎性発達障害の既往歴があれば,精神分裂病の追加診断は,顕著な幻覚や妄想が少なくとも1か月(治療が成功した場合は,より短い)存在する場合にのみ与えられる」という項目が加えられている。

研究と報告

醜形恐怖症の長期観察例からの類型化の試み

著者: 鍋田恭孝 ,   河本勝 ,   柏瀬宏隆 ,   一ノ渡尚道

ページ範囲:P.699 - P.707

 【抄録】醜形恐怖症を主に訴える患者で長期観察が可能であった症例(5年以上,平均8.2年,最高15年)25例を検討して,その病態の本質を明確にすることを試みた。結果,感情障害,適応障害,狭義の強迫状態,対人恐怖症,中核群とみなされる狭義の醜形恐怖症および精神病圏それぞれに含まれる症例が見いだされ,醜形恐怖症状は疾患特異的な症状ではないことが確認された。また各病態を他の病態から特徴づけるのは以下の項目であった。感情障害と他の病態との区別には発症年齢と抑うつ状態の合併と抗うつ薬の著効とが,適応障害および対人恐怖症と他の病態との区別には醜形恐怖症状の持続期間が,精神病圏のものと他の病態との区別には感情鈍麻の存在が重要な項目であった。

抑うつ状態を伴うpanic disorderの臨床的研究

著者: 傳田健三 ,   北川信樹 ,   嶋中昭二 ,   小山司

ページ範囲:P.709 - P.717

 【抄録】不安と抑うつの併存という問題の整理を行い,治療方針の設定に手がかりを与えることを目的として,抑うつ状態を伴うpanic disorder(以下PD)の症例について,以下のように類型化を試みた。
 第Ⅰ型:PDと抑うつ神経症が合併した症例。第Ⅱ型:PDと軽症身体性うつ病が合併した症例。第Ⅲ型:PDと定型うつ病が合併した症例(A:PD寛解後,健常な間歇期を経てうつ病が発症するもの,B:PD軽快後うつ病へ移行するもの,C:PD経過中にうつ病が発症するもの,D:うつ病経過中にPDが発症するもの,E:うつ病が先行し,うつ病軽快後PDが発症するもの)。第Ⅳ型:PDと双極性感情障害が合併した症例。第Ⅴ型:PDとpersonality disorderが合併した症例。
 各類型の臨床的特徴を記述し,治療的アプローチの基本方針について考察を行った。

震災直後における児童の心身症状—阪神大震災1か月での調査の試み

著者: 松本和雄 ,   前田志寿代 ,   寺田明代 ,   渡辺純 ,   広利吉治

ページ範囲:P.719 - P.726

 【抄録】阪神大震災後約1か月の阪神地域小学生132名(女子73名)と大阪市内小学生97名(女子47名)を対象として,心身症状調査を行った。その結果,分離の不安,易怒,不眠,食欲不振,頭痛,心悸亢進,腹痛など子供用24項目のうち16項目について有意差が認められ,いずれも阪神地域に高率であった。性差では分離の不安,頭痛,不眠などの7項目について,いずれも女子に高率の出現率であった。また親自身の回避や気分の悪化など精神状態と子供の心身症状とも関係は密接であり,児童期のPTSDに関連した心身症状を考える場合,親子関係が重要な要因になりうることが示唆された。

Clomipramine単一投与中のセロトニン症候群

著者: 佐々木一郎 ,   穐吉條太郎 ,   土山幸之助 ,   工藤貴代美 ,   葛城里美 ,   河野佳子 ,   古田真理子 ,   山本由起子 ,   永山治男 ,   藤井薫

ページ範囲:P.727 - P.731

 【抄録】clomipramine単一投与中のセロトニン症候群の出現頻度などについてretrospectiveに調査した。
 Sternbachの診断基準に基づくセロトニン症候群の出現頻度は,66例中8例(12.1%)であった。また,診断基準を満たした症例においては,症状として振戦・焦燥感・発汗の出現頻度が高かった。セロトニン症候群という観点から有害反応をみた場合,重篤な状態には至らないまでも,比較的高い頻度で生じうる可能性が示唆された。使用機会の増加が予想されるSSRIなどのセロトニン作動薬を含む薬物療法の際には,併用のみならず単一投与においてもセロトニン症候群の出現する可能性があり,十分な注意が必要である。

抗精神病薬による治療歴のない精神分裂病者における事象関連電位P300異常

著者: 平安良雄 ,   大田裕一 ,   小椋力 ,   外間宏人 ,   新垣元 ,   松尾和彦 ,   安里尚彦 ,   平安明

ページ範囲:P.733 - P.739

 【抄録】精神分裂病における事象関連電位(event-related potentials;ERPs)のP300異常,特にP300の低振幅はよく知られている。しかし,これまでの研究の対象者は,服薬していたり,記録時に未服薬であっても過去に抗精神病薬の服用歴のある者が含まれており,その影響は十分に考えられる。本研究では,性・年齢を対応させた過去に全く抗精神病薬による薬物療法を受けたことのない(neuroleptic-naive)精神分裂病者20人,過去に治療歴のある精神分裂病者(neuroleptic-experienced)20人,健常対照者20人のERPsを記録しそのP300成分について検討した。その結果,P 300振幅は精神分裂病において薬物療法の既往の有無にかかわらず,健常者と比較して小さかったがneuroleptic-naiveであるかどうかに関して特別な所見は見いだせなかった。P300潜時は3群間で差はなかった。

透析患者にみられたRestless legs症候群に対するドパミン作動薬による治療効果

著者: 江川功 ,   杉田義郎 ,   手島愛雄 ,   堤俊仁 ,   寺島喜代治 ,   三上章良 ,   稲谷貴義 ,   漆葉成彦 ,   本多秀治 ,   谷口充孝

ページ範囲:P.741 - P.745

 【抄録】むずむず脚症候群(RLS)の病因はまだ不明な点が多いため,根本的な治療法はいまだ確立されていないが,最近ではドパミン作動薬による治療の有効例が報告されるようになり,我々も透析施行中でRLSを呈した患者12名を対象として,ドパミン作動薬である1-Dopaとbromocriptineを投与し,RLSに対する有効性を確認した。しかし,1-Dopaとbromocriptilleは異なった作用機序でドパミン系に働いており,RLSに合併することが多く,発現機序に共通する部分が多いと考えられている,睡眠時周期性運動(PMS)に対する効果では異なった働きをすることがわかった。また,ドパミン作動薬1-Dopa,bromocriptineはともに単独治療を行うと,長期的には治療効果が低下していくことから,両薬剤併用による治療が効果的であると考えられた。

短報

性格変化が先行し,種々の神経症状を伴いつつ痴呆へ移行したadrenoleukodystrophyの成人発症例

著者: 副田秀二 ,   寺尾岳 ,   松永薫

ページ範囲:P.747 - P.749

 Adrenoleukodystrophy(ALD)は精神症状,痙性麻痺,副腎機能低下などを来す脱髄性疾患である。多くは若年男性に発症し,伴性劣性の遺伝形式をとり,生化学的には極長鎖脂肪酸が増加する3)
 今回筆者らは,性格変化を初発症状として20歳代後半に発症し,途中から種々の神経症状を伴い,30歳代前半で重度の痴呆に陥ったALD患者の1例を経験したので報告する。

断眠療法によりパニック発作が誘発されたうつ病の2症例

著者: 山田尚登 ,   中島聡

ページ範囲:P.750 - P.752

 不安障害の1つであるパニック(恐慌性)障害は,強い恐怖または不快感に,動悸,発汗,身震い,息苦しさ,胸部や腹部の不快感,めまい,感覚麻痺などの身体症状を伴うパニック発作が突然に生じ,それが反復して慢性に経過する精神障害である1)。パニック障害において,乳酸26),カフェイン4),イソプロテレノール12),二酸化炭素の吸入5),ヨヒンビン3),クロニジン10)などの薬理学的あるいは生理学的物質によるパニック発作の誘発研究からこれまでに病因や病態生理に関する様々な生物学的仮説が提唱されているが,パニック発作の病因は未だ明らかになっていない。
 断眠は,うつ病の症状を劇的に改善することが知られている。我々はうつ病患者に断眠療法を施行しているが11),今回パニック発作の既往のない患者で断眠の後にパニック発作を発現した患者を2名経験した。これまで,パニック発作の病因あるいは病態生理において不眠はほとんど注目されていない。今回,不眠がパニック発作誘発の重要な外的因子になる可能性に関して検討を加えたので報告する。

Ofloxacin(Tarivid)により,緊張病様興奮を来したと思われる1症例

著者: 横山富士男 ,   太田敏男 ,   渡辺義文 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.753 - P.755

 Ofloxacin(Tarivid)は,フッ素化4-キノロン(quinolone)類に分類される合成抗菌剤であり,広い抗菌スペクトルを有する薬剤である。Grassiら4)によれば,1,436人の患者にofloxacinを使用し副作用のみられたのは6.1%で,全副作用を100とすると神経系の副作用は10%,精神症状を示すものは2.2%と報告されている。しかし,これらの精神症状は不眠など軽度のものがほとんどである。これまでofloxacinによる重篤な精神症状の副作用の報告は欧米で数件みられるのみで少なく,本邦ではない。今回我々は,ofloxacin服用により,不眠,緊張病様興奮を来したと思われる症例を経験したので報告する。

多変量解析による絶望感簡易評価尺度の作成

著者: 小野泉 ,   村井俊彦 ,   安田究 ,   中村道彦 ,   中鳴照夫

ページ範囲:P.757 - P.759

 患者の自殺危険性を適切に評価することは,精神医療における重要な責務の1つである。自殺の危険性評価において定式化された評価尺度を日常診療に利用できるならば,より多くの臨床家が自殺予防に目を向けることが可能になるであろう。しかし我が国の従来の研究では自殺危険因子を指摘するにとどまり,危険性評価尺度の信頼性と妥当性に関する検討には至っていない。我々は,自殺既遂および企図の危険因子に関する先行研究の概観4)に基づいて作成した,自己破壊危険性一覧表Schedule of Self-Destructive Risks(SOS-DR)の中からBeck Hopelessness Scale2,3)に相関する項目を抽出することで,絶望感の背景をなす自殺危険因子を同定し,精神科患者全般における自殺危険性評価尺度(SOS-18)を作成した5)。SOS-18は良好な信頼性と同時的妥当性を示したが,項目数が多いためにスクリーニングテストとしての便宜に欠けると考えられた。そこで,SOS-18を基にしてさらに簡便な自殺危険性評価尺度の作成を試みたので報告する。

蛋白同化ステロイド剤乱用による精神病の1例

著者: 井上幸代 ,   宇田川雅彦 ,   中谷陽二 ,   高橋和巳 ,   風祭元

ページ範囲:P.760 - P.762

 蛋白同化ステロイド剤(anabolic steroids;以下AS)は,様々な原因による消耗状態,再生不良性貧血,下垂体性小人症などの治療のため使用されるほか,最近ではスポーツ競技において,いわゆるドーピングの目的で使用されることで知られている。米国においては,ドーピングの目的だけでなく,体格を変えるという美容の目的の乱用が一般の青少年にまで広がり4),依存性や副作用が問題となるほか,ASによって誘発されたと考えられる精神障害による暴力犯罪が注目され始めている。ASの乱用による精神障害の報告は,我が国においては,筆者らの知るかぎりまだ見当たらないが,今後乱用が広がることが懸念される。今回我々は,他の薬物とともにASを乱用し,精神病を来した例を経験したので報告する。

リチウム投与によりパーキンソン症状が悪化したパーキンソン病を合併したMeige症候群の1例

著者: 日域広昭 ,   村岡満太郎 ,   岡本泰昌 ,   竹林実 ,   内富庸介 ,   山脇成人

ページ範囲:P.763 - P.765

 Meige症候群の治療薬としてトリヘキシフェニジル,クロナゼパムなどが一般的であるが,そのうちの1つに炭酸リチウムが挙げられる。今回我々は,パーキンソン病に合併した特発性Meige症候群に炭酸リチウムを投与したところ,Meige症候群の著明な改善と,パーキンソン症状の悪化を認めた興味深い1例を経験したので報告する。

資料

DSM-Ⅲ-Rによる外来統計—6年間の統計による各疾患の頻度,性差および受診時年齢

著者: 山田尚登 ,   中島聡

ページ範囲:P.767 - P.775

■はじめに
 精神医学における診断の重要性に関しては,今更述べるまでもない。現在,国際的に広く用いられている診断分類としてDSM-Ⅲ-R1)とICD-1016)が挙げられる。これら国際分類は,一般診療で用いることにより異なった施設での臨床研究の結果を比較検討することを可能にしたばかりか,世界各国で翻訳されており諸外国との間で疾患別頻度や各疾患における性比などの統計結果の比較を可能にした。さらに,明確な診断基準を持つことから,精神医学の臨床研究のみならず基礎研究においても議論のための共通の基盤を提供した。しかしながら,これら操作的国際診断分類を用いた統計に関する報告は諸外国ではいくつかあるが,本邦では従来診断によるものがほとんどで,これまでにDSM-Ⅲを用いた高橋の報告12)とICD-10を用いた大久保ら9)の報告があるのみである。さらに,多数例の患者にDSM-Ⅲ-Rを用いた統計の報告は非常に少ない。したがって,DSM-Ⅲ-Rに示されているような関連病像,発症年齢,経過,素因,有病率,性比,家族負因,鑑別診断などの統計情報1)に関しても,本邦で論ずるには非常に困難な状態である。
 今回我々は,多数例の外来新患症例にDSM-Ⅲ-Rを施行し,(1)外来に訪れた新患患者の疾病分類の頻度,(2)各下位分類の性比,および,(3)各カテゴリーの受診時年齢に関して検討を行った。これらの統計データは外来患者のもので必ずしも真の患者数を反映するものではないが,精神科外来における患者頻度や性差に関する情報を与え,DSM-Ⅲ-Rに示されているような様々な統計資料を本邦において作成する上で有用な資料になると考え,報告する。

追悼

医学界のパイオニア懸田克躬先生を偲んで

著者: 井上令一

ページ範囲:P.776 - P.777

 懸田先生は闘病の甲斐なく,1996年3月1日午後1時57分に永遠の眠りにつかれました。門下生一同,昨年から先生の卆寿のお祝いを楽しみに計画を立てておりましたが,90歳の誕生日は,この1月30日に病床で迎えられることになりました。
 1992年3月に学校法人順天堂の理事長を退任された後も顧問として順天堂に在籍され,毎日のように学内外の方々とお会いするという多忙な日々を過ごしておられました。財団法人順天堂精神医学研究所,医学教育振興財団の理事長,日中医学協会会長などの要職にも就かれ,超人のごとき体力と年齢を感じさせない青年のような若々しい心性を持ち続けておられました。

私のカルテから

光療法により睡眠相遅延症候群に移行した,非24時間睡眠覚醒症候群の1例

著者: 明智龍男 ,   田宮聡 ,   河相和昭 ,   内富庸介 ,   山脇成人

ページ範囲:P.778 - P.779

 近年,睡眠障害の特殊なものとして睡眠覚醒リズムの障害,すなわち非24時間睡眠覚醒症候群,睡眠相遅延症候群,睡眠相前進症候群などが報告されるようになってきた。しかし,これらの発生機序に関しては不明な点が多く,また治療法も確立されていない。今回我々は,非24時間睡眠覚醒症候群と診断された症例に,光療法を施行したところ,睡眠相遅延症候群に移行した1例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

ミアンセリンによる全身浮腫を初発とし,その後セチプチリンに対して交差反応を生じた1例

著者: 國芳雅広 ,   稲永和豊

ページ範囲:P.780 - P.781

 抗うつ薬の副作用は多いが,その中で一般的全身障害としての浮腫は,しばしば経験するものではない。特に2種の抗うつ薬間で,浮腫という症状で交差反応を起こした報告はみられない。今回我々は,セチプチリンで加療されていた症例において,ミアンセリンに変更したところ浮腫が発症し,ミアンセリンを中止することで浮腫が治癒したが,その後セチプチリンを投与したところ,再び浮腫が出現した例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

動き

「日本生物学的精神医学会第18回大会」印象記

著者: 阿部和彦 ,   寺尾岳

ページ範囲:P.782 - P.783

 第18回日本生物学的精神医学会(会長:大阪医大/堺俊明教授)は1996年3月27〜29日,豊中市の千里ライフサイエンスセンターと千里阪急ホテルで開催された。今回の学会の特徴は遺伝に関する講演や発表が多かったことである。

「精神医学」への手紙

Letter—精神分裂病における表現促進の有無について—今村論文を読んで

著者: 林昭秀 ,   稲山靖弘 ,   米田博

ページ範囲:P.786 - P.786

 以前より,Bassetら1)の報告,第4回世界精神科遺伝学会議(Cardiff, UK)での発表から精神疾患における表現促進の有無に関心を持っておりましたが,昨年の12月号今村ら2)による「気分障害と精神分裂病の世代間伝達の特徴についての検討」を読み,我々も同様の検討を行いました。
 対象として,1986年から1994年まで大阪医科大学精神神経科,または大阪府,兵庫県内の精神病院に入院した患者の病歴を検索し,DSM-Ⅲ-Rにて発端者が分裂病,または分裂感情障害であり,親または子に精神症状を有する疾患を認めた発端者を見いだしました。次に,これら家系における発端者とその親,または子の患者ペアの発症年齢をWilcoxon t検定において比較しました。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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