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雑誌目次

雑誌文献

精神医学38巻8号

1996年08月発行

雑誌目次

巻頭言

精神病理と生物学的精神医学—ライバル同士が蜜月に入る(?)

著者: 福田哲雄

ページ範囲:P.794 - P.795

 精神医学の歴史はいろいろな意味で表記両分野を中軸として綴られてきた。記述的心理学・現象学的な立場に立つ前者と自然科学を標榜する後者,つまり‘了解’と‘因果律’という異種の原理によって規定される二つの専門領域のせめぎ合い,時としてライバル,時として対立しながら,好みの違いこそあれ,それぞれに貢献してきたことは周知のところである。この種の両極的関係は,他の医学分野では類を見ず,精神医学独特と言ってよかろう。
 この関係は今後も続くであろうが,その様相が最近になって少々変わりつつあるように思われる。その変化とは,他にもあるが一つには今や世界的と呼んでよいほどの広がりを見せている精神疾患の分類・診断基準の精細化への努力がある。DSM-Ⅲ,Ⅲ-R,Ⅳなど,ここ十数年ほどの問にアメリカ精神医学を中心として生じた大きな変革のうねり。従来軽視されがらであった臨床像の詳細な把握を大前提とする。WHOのIPSS(International Pilot Study of Schizophrenia)以降,これに触発された英米圏が,独仏,特にK.シュナイダーの精神病理の重要さを遅ればせながら認識しだしたのが推進力になっていることは周知のとおりである。20余年になる欧米専門誌の査読委員としての経験の中で,Psychopathology(PP)なる用語がとりわけ英語圏の論文の中に頻繁に見られるようになったのも最近の10余年で,ほぼ前記のことと符号している(もっとも,このPPは本邦や伝統的な意味での精神病理の意と比べて少々「浅い」ようで,臨床像とか精神症状と同義語に使われていることが多い)。互いに絡み合っているがもう一つ,この20年来のニューロサイエンス・バイオサイエンス,各種テクノロジー領域での急速な開発・進展という大きな事実がある。これら各種の文明の所産の恩恵に精神医学が浴するには,サンプリング,つまり検索対象の分類・整頓は当然のことながら決定的な意味を持つ。つまり,生物学的精神医学(Biological Psychiatry;BP)側は,PP側の精密な分類があって初めて,そこから検索を進めることができるのである。その逆,つまりBP側が検索を先にやってその後でPPが,というのは,将来はともかく,ここ当分はとうてい考えられない。BPはまだそこまで成長していない。世界の諸センターから報告されているおびただしい数の知見が,同じクライテリアを使い同じ技法を使ったとしながら,いまだに矛盾する結果に達していることが少なくない現状の少なくとも一因は,この分類・サンプリングの問題がまだ満足できる状態にないという現状に由来している。まだまだ改訂の余地があることは多くの人々の一致した見解でもあり,事実,改訂は続けられるようである。それにつけても,一貫して特定の古典的診断基準によった研究が,最新兵器による検索によっても安定した再現可能で有益な知見を報告している研究グループがいることは心強くもあり,「新しい」が少なくとも「精神医学」ではそのまま進歩につながらない一面のあることを教えてくれるように思う。その場合のクライテリアも,古典的にしろ十分なPPの解析の結果に基づいていることは言うまでもない。かくして,PP対BPなるライバルは,今やいつしか一種の蜜月に入っていることになる,否,蜜月に入らざるをえない状況にあると言うべきか。

展望

覚醒剤による遅発性精神病—疾患概念と成因研究の現状

著者: 佐藤光源 ,   伊藤千裕 ,   豊田洋 ,   布施裕二

ページ範囲:P.796 - P.805

■はじめに
 1984年にピークに達した第二次覚醒剤乱用期はその後も続き,1994年度には再び増加に転じている。依存性薬物情報研究班の資料によると,再乱用者と常用者の占める割合がここ数年増え続け,医療機関を受診した薬物関連の精神障害も覚醒剤関連の障害が最も多い。なかでも,受診前1年間に乱用歴を持たない慢性覚醒剤精神病者や後遺症患者が増えているのが注目される。覚醒剤の長期常用者,頻繁な再発と後遺症に苦しむ患者が増加している現状は,我が国の精神保健,医療,福祉を考える上で多くの問題をはらんでいる。しかし今回は,DSM-IV多軸診断の第1軸の疾患部分だけに焦点を当て,覚醒剤依存とその関連精神障害の成因に関する主な研究成果を紹介する。覚醒剤以外の依存性物質(有機溶剤など)の乱用と二次脳障害については,別の成書35)を参照されたい。

研究と報告

殺人者率および自殺率からみた我が国の青少年男性の世代的分類の試み—攻撃性と社会病理

著者: 影山任佐 ,   石井利文 ,   長谷川直実 ,   原淳

ページ範囲:P.807 - P.815

 【抄録】我が国の青少年男性の殺人者率および自殺率の時代的,世代的変化を統計的手法を用いて明らかにした。殺人者率と自殺率の高低などの特徴から我が国の青少年はA群:戦前群(2亜型)とB群:戦後群(3亜型)に分けられた。さらにこの戦後群の2亜型と「校内暴力」,「家庭内暴力」,「いじめ」との関係を考察し,青少年の新しい世代分類とその特徴を述べた。青少年の殺人者率,自殺率はともに最近になるに従って全年齢の平均以上に極端に低下してきている。殺人および自殺を自他に向けられた攻撃性のもっとも暴力的な形態として把握する立場からこの結果を考察し,攻撃性が直接的で暴力的,物理的な形態から間接的で非物理的,言語的な形態へと我が国の青少年では大きく変動している可能性を指摘した。これが近年の青少年のいわゆる「いじめ」などの社会病理現象,無気力症などの精神病理現象の基盤の1つとなっている可能性に触れた。またこの攻撃性出現形態の変動の原因についても仮説を提示した。

服薬中の男性精神分裂病患者における性機能障害

著者: 森山成彬 ,   竹内隆 ,   木村光男 ,   斉藤雅

ページ範囲:P.817 - P.824

 【抄録】服薬中の男性精神分裂病患者65名(20歳以上,60歳未満)における性機能障害を調べた。約1割に性交や自慰などの性活動がなかった。半数に早朝勃起が消失していた。1割が勃起不能,さらに2割が不完全勃起であった。射精不能が1/4にみられ,射精遅延も16%あった。勃起不能群・射精不能群は,血中プロラクチン値が有意差はないものの,いずれの健常群よりも高値であった。抗精神病薬の服用量は,射精不能群で多い傾向があった。しかし特定の薬剤との関連は見いだせなかった。血中テストステロン値は,勃起障害や射精障害の有無で差はなかった。投薬に当たっては性機能障害にも十分注意を払うべきであることを強調した。

抗うつ薬と効果再現性—反復性大うつ病患者を対象として

著者: 佐々木一郎 ,   土山幸之助 ,   藤井薫

ページ範囲:P.825 - P.828

 【抄録】反復性大うつ病患者が再発した際に,前回有効であった同一抗うつ薬の効果再現率などについて調査,検討した。
 効果再現率は63.6%であった。また,効果再現性のなかった群においては,有効抗うつ薬初回投与時よりも2回目投与時において,17項目・ハミルトンうつ病評価尺度(HRSD)の総得点が有意に高く,HRSD各項目別の得点では精神運動抑制の項目のみが有意に高かった。
 繰り返される大うつ病エピソードの際に,前回有効であった同一抗うつ薬を第一選択として用いることは合理的と思われるが,前回より抑うつ状態が重篤で,かつ,症状として精神運動抑制が強い場合には,効果再現性が期待できない可能性が示唆された。

てんかん精神病の1例における辺縁系発作後血清prolactin濃度の推移—病態生理としてのlimbic permeability

著者: 原純夫 ,   横山尚洋 ,   武井茂樹 ,   原常勝

ページ範囲:P.829 - P.834

 【抄録】てんかん精神病の1例において,辺縁系発作後の血清prolactin(PRL)濃度を測定し,間接的に脳内の発作発射拡延の様子を検討した。症例はてんかん発症から19年目より被害関係妄想を中心とする慢性の精神病状態を呈している現在39歳の男性の側頭葉てんかん患者である。その常習発作は,複雑部分発作,精神発作で,複雑部分発作については2回,精神発作については計3回について発作後血清PRL濃度を経時的に測定した。その結果,基準値10.0±4.0ng/mlに対して,発作15分後に得られた最高値は複雑部分発作の場合は94,95ng/ml,精神発作については84,43,28ng/mlであり,これらの上昇は過去の報告と比較して程度が高いと考えられた。そしてこれは側頭葉内側構造での発作発射の強度と拡がりやすさ(limbic permeability)を反映しているものと考え,これをBearの提唱した感覚-辺縁系過剰結合理論と併せて,てんかん精神病の病態生理基盤の一部をなしうるものと推定した。

ハロペリドール血中濃度モニタリングの現状と問題点—服薬採血スケジュールと併用薬剤の影響について

著者: 染矢俊幸 ,   広兼元太 ,   尾関祐二 ,   野口俊文 ,   村下淳 ,   塩入俊樹 ,   下田和孝 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.835 - P.842

 【抄録】ハロペリドール血中濃度モニタリングの現状把握と問題点の整理,併用薬剤のハロペリドール濃度に及ぼす影響について検討を行った。その結果,同一用量でも血中ハロペリドール濃度は6.5〜8.1倍という大きな個体差が認められ,ハロペリドール単剤服川・早朝服薬前採血での個体差(3〜4倍)に比べてばらつきが大きいことが明らかにされた。ハロペリドールを0.2mg/kgBW服用した場合の平均血中濃度は12.7ng/mlで,早朝服薬前採血・クロマトグラフィーによる測定に比べて約1.5〜1.8倍の高値であった。この高値は,採血時闇が朝の服薬後であること,測定方法がEIA法であることで説明された。また約1.5〜1.8倍高い濃度が得られるために,十分量を用いていない段階で誤ってノンレスポンダーと判断される危険があり,注意が必要と思われた。併用薬剤の影響については,カルバマゼピン,フェノバルビタールは血中ハロペリドール濃度を低下させ,パーフェナジン,フルフェナジンは上昇させるという結果が得られた。

Flumazenil投与により一過性覚醒効果が認められた肝性脳症の1症例

著者: 國友充康 ,   浜田芳人 ,   太田保之

ページ範囲:P.843 - P.847

 【抄録】flumazenil投与により,意識障害が改善した肝性脳症の1症例を報告した。症例はC型肝炎による肝硬変が認められ,発症時,振戦,両側Babinski反射陽性,高アンモニア血症などより,肝性脳症Ⅱ度と判断された。flumazenil投与後,第1病日は10分後に,第2病日は30分後に,2〜3時間の持続ではあるが完全覚醒が認められた。肝性脳症のGABA/BZ仮説に基づくflumazenilによる治療は,欧米では多数試みられ,その有効性が証明されている。肝性脳症において,初期では,ベンゾジアゼピンレセプター(BZR)密度の増加が報告されたが,現在は否定的な見解が多く,最近では内因性のBZRリガンドの増加が証明され,活発な論議がなされている。本症例の治療経過は,GABA/BZ系が肝性脳症の成因に関与している可能性を支持するものであり,flumazenilが,肝性脳症の有力な治療薬となる可能性を示唆したものであると考える。

強迫性障害患者の人格障害とclomipramineの反応性について

著者: 松永寿人 ,   切池信夫 ,   永田利彦 ,   宮田啓 ,   西浦竹彦 ,   山上栄

ページ範囲:P.849 - P.856

 【抄録】29例の強迫性障害患者にStructured Clinical Interview for DSM-Ⅲ-R Axis Ⅱ(SCID-Ⅱ)を施行して,人格障害のclomipramine反応性への影響を検討した。人格障害は14例(48.3%)に診断され,その内訳は回避性人格障害が最も多く6例(20.7%)で,依存性,妄想性,強迫性,分裂病型,自己愛性の順で多く診断された。全対象患者にはclomipramineによる薬物療法を行い,治療前と6か月後にJY-BOCS(Japanese version of the Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale)を用いて,強迫症状の重症度と,その変化を評価した。中断・脱落例を除外した25例の,平均98.2mgのclomipramine投与によるJY BOCS総得点の改善率は,平均33.3%であった。しかし人格障害合併群では21.1%と,人格障害を有さない群の44.6%に比し有意に低値となり,特にcluster AやBの人格障害を合併した患者は反応が悪かった。このため,これらの人格障害を合併すると,よりclomipramine治療に対して抵抗的で,難治と考えられた。

密着した母娘関係が大きく寛解に寄与した分裂病の2症例

著者: 和田千里 ,   後藤田敏彦 ,   宮越雅子 ,   岡五百理 ,   安岡誉

ページ範囲:P.857 - P.863

 【抄録】精神分裂病の治療経過中に,母子密着関係,すなわち,母親が患者(娘)に親身にケアをする接近態度によって生じた関係により,患者の病状の軽快と精神の安定化が得られた2症例について報告した。その中で,「過度に情緒的にまとわりつく」形をとらず,また,拒絶や敵意を含む支配といった否定的なニュアンスはないような条件のもとで,憩者の代理自我として,あるいは自我支持的に機能するような母親の親密な接近は,患者の隠された依存欲求を満たし,接近コンプレックスを軽減させ,患者の病状の軽快,精神の安定化,すなわち分裂病の寛解過程に一定寄与する可能性があることを示唆した。

短報

抗真菌薬イトラコナゾール併用により急速にハロペリドール血中濃度が上昇した1例

著者: 大沼徹 ,   岩本典彦 ,   新井平伊 ,   永田俊彦 ,   井上令一

ページ範囲:P.865 - P.867

 抗精神病薬における薬物相互作用については多くの報告があり,ハロペリドールにも相互作用を有する薬物が存在する6)。一方,アゾール系経口抗真菌剤の開発に伴い,同剤の薬剤相互作用に関する報告もあり,例えば抗ヒスタミン剤のテルフェナジンとの併用で生ずる重篤な心血管系副作用の増強5,12),トリアゾラムとの併用におけるトリアゾラムの作用増強および延長14)などであり,これらの薬剤との併用は禁忌とされている。このように,アゾール系経口抗真菌剤には相互作用を有する薬物が数多く存在するが,ハロペリドールとの相互作川についてはまだ報告がない。
 今回我々は,ハロペリドール服用中にアゾール系経口抗真菌剤の一種であるイトラコナゾールを併用したところ,ハロペリドール血中膿度が併用期間中のみに上昇した精神分裂病症例を経験し,両薬剤の相互作用の可能性が疑われたので,ここに報告する。

ドーパミン受容体作働薬pergolideが有効であった治療抵抗性うつ病の1例

著者: 泉剛 ,   井上猛 ,   土屋潔 ,   傳田健三 ,   大森哲郎 ,   小山司

ページ範囲:P.868 - P.870

 うつ病の約30%は十分量の三環系抗うつ薬に反応せず,病相が遷延する。このような治療抵抗性のうつ病に対して,薬理学的に性質の異なる抗うつ薬の併用,抗うつ薬とlithiumや甲状腺剤の併用,MAO阻害薬,モノアミン前駆物質,carbamazepine,性ホルモン剤,電気けいれん療法など,いろいろな治療法が試みられてきた6)。従来より未治療のうつ病患者の髄液で,ドーパミンの代謝産物であるhomovanillic acid(HVA)の濃度が低下していることが報告されている6)。この知見に基づいて,うつ病に対してもドーパミン作用薬の投与が試みられてきた。当教室でもこれまで治療抵抗性のうつ病に対して,bromocriptineによる治療を試み,有効であったことを報告している4,5)。今回,我々は,老年期発症の治療抵抗性うつ病に対して,ドーパミン受容体作働薬であるpergolideが有効であった症例を経験したので,経過を報告する。

精神分裂病患者における自律神経機能—Laser Doppler flowmetryによる定量的分析

著者: 木村武実 ,   向山恵子 ,   高松淳一 ,   弟子丸元紀 ,   有働信昭 ,   中村敬二 ,   福光弘明

ページ範囲:P.871 - P.873

 生体の特定部位の血流を非侵襲的に測定する方法として,laser Doppler flowmetry(LDFと略す)法がある。深呼吸,感覚的・感情的負荷などに起因する血流量の変化はLDFによってrenexwaveとして感知される3)(図1)。皮下の血流量に影響する血管運動は交感神経系の制御を受けているため4),LDFを測定することにより交感神経機能の評価が可能といわれている3)
 精神病症例では経過中に多様な自律神経症状が観察され,自律神経面における障害が推測される。うつ病では心電図R-R間隔の測定により自律神経機能が定量的に解析されているが2),精神分裂病(分裂病と略す)については自律神経機能を定量的に分析した報告は筆者らの知るかぎりではみられない。そこで本研究では,LDF法により精神分裂病患者における自律神経機能の定量的評価を試みた。

頭部外傷後に二次性躁状態を呈した1例

著者: 阿瀬川孝治 ,   小澤篤嗣 ,   宮内利郎

ページ範囲:P.875 - P.877

 身体疾患による症状性をはじめ脳卒中や頭部外傷などの脳損傷による脳器質性の二次性躁状態は多くはないが,対応が困難なことから,近年リエゾン精神医学の重要な状態像の1つとされている5)。このうち頭部外傷による二次性躁状態の発生頻度は,Jorgeら3)によると9%とそれほど稀でないとされているが,現場からの精神科医への依頼が少ないためか,その報告例は散見するにすぎない。今回我々は,交通事故による頭部外傷(脳振盪)で救命救急センターに搬送された後に,躁状態を呈した1例を経験したので報告する。

離人症状および躁うつ病様症状を呈した脳梁欠損症の1症例

著者: 有馬譲 ,   福迫博 ,   森岡洋史 ,   橋口知 ,   滝川守国

ページ範囲:P.878 - P.880

■はじめに
 最近,画像診断技術を精神疾患患者に適用する機会が増加したために,精神症状を呈する脳梁欠損患者が報告されるようになった。しかし,脳梁欠損と特定の精神疾患あるいは精神症状との関連については明らかにされておらず,症例の集積が必要であると考えられる。今回我々は,離人症状と躁うつ病様症状を呈した脳梁欠損の患者を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

脳梗塞の繰り返し,てんかん,精神症状のみられた抗リン脂質抗体症候群の1例

著者: 本島昭洋

ページ範囲:P.881 - P.883

 梅毒反応偽陽性やループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant;LA),抗カルジオリピン抗体陽性などで検出される抗リン脂質抗体が,臨床的に血栓症,血小板減少,習慣性流産,てんかんなどの神経症状と密接に関連することが知られている。この病態は全身性エリテマトーデス(SLE)で最もよく認められるが,SLE以外の症例も知られており,HughesやHarrisらにより抗リン脂質抗体症候群と呼ばれるようになった1,4,6)
 SLEの治療中に脳梗塞を起こし,LAが陽性のため抗リン脂質抗体症候群と診断され,その後てんかんや幻覚妄想状態などの精神神経症状を認めた症例を経験したので報告する。

特別寄稿

準感情病性人格障害(Subaffective Personality Disorders)

著者: H. Saß ,   ,   ,   ,   西村勝治

ページ範囲:P.885 - P.894

■はじめに
 Ⅰ軸で記載される二大精神病の治療と予後は,Ⅱ軸上の際だった性格傾向や,特に人格障害に大きく影響される。かつて異常な人格徴候のほとんどは,Kurt Schneider,Kretschmer,Petrilowitsch,Leonhardらの概念に従った類型学的記載の中でとらえられたが,当然そこにはかなりの多様性や辺縁の不鮮明さが存在した。今日の分類システムでは,信頼性向上の要請に伴って,人格診断にもまた新たな基礎が与えられた。詳記された算入除外基準や明確に定義された診断のアルゴリズムは,精神科患者における人格の異常性の,より確かな記載に役立つはずである。さらに,構造化された調査方法を適用することで,人格領域においても診断の信頼性が高められよう。しかしだからといって,より多数の一致によって決定されたものの妥当性が保証されるわけではない24)

私のカルテから

アルコール離脱せん妄後,横紋筋融解症を生じ急性腎不全に至った1症例

著者: 福原敬子 ,   滝沢韶一 ,   児玉秀敏 ,   岡村仁 ,   大森信忠

ページ範囲:P.896 - P.897

 横紋筋融解症は様々な原因で起こりうるが,このうちアルコールに関しては多量飲酒後1,3,6)やアルコール離脱期2)に横紋筋融解症を生じた症例の報告がある。従来アルコール多飲後に発生した症例は多く報告されているが,アルコール離脱期における横紋筋融解症の発生の報告は少ない。
 今回我々は,アルコール離脱せん妄後,横紋筋融解症を生じ,急性腎不全に至った症例を経験したので報告する。

動き

「第43回日本病跡学会総会」印象記

著者: 石垣博美

ページ範囲:P.898 - P.899

 第43回日本病跡学会総会が,去る4月17,18日,横浜で開催された。会長は横浜市立大学の山田和夫氏。おおむね例年通り,特別講演,シンポジウム,会長講演,そして一般演題22題の発表が行われた。会場となったのは神奈川県民ホール。眼前に山下公園があり,異国船の停泊するハーバービューを堪能できる。加えて裏手には中華街が控え,横浜ならではの趣を感じさせる場所であった。各演者とも,2日間にわたって,熱のこもった発表を繰り広げた。見聞を頼りにではあるが,印象を綴ってみたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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