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雑誌目次

雑誌文献

精神医学39巻1号

1997年01月発行

雑誌目次

巻頭言

“その目で見る”

著者: 広瀬徹也

ページ範囲:P.4 - P.5

 昨今の風潮の一つにマニュアル化がある。ある事柄への対処方法などについて説明するとマニュアルを作ってほしいといわれることがしばしばある。特に精神医学の個別性が複雑に絡んだ“奥儀”ともいえることについてこういわれると,一瞬抵抗を憶え,マニュアル時代を嘆きたくなるのは中年以上の世代の人間であることの証明であろうか。確かに今や多くの人々が部厚いマニュアルを読みながら,コンピューターの操作を勉強しなくてはいけない時代であるので,何事もマニュアルに頼る風潮ができるのももっともなことではある。また地震や非常時の対処にマニュアルは絶対必要で,それに基づいて訓練やチェックが繰り返し行われるのは結構なことである。問題はこうした風潮によって,何事もマニュアル化できると思い込む人間や,マニュアル通りにしか考えられず,動けない人間が出てくることである。このマニュアル人間はどの分野でも困り者だが,精神科の臨床においては特にそうである。
 しかし,マニュアルには定説をさらに一般化,啓蒙する作用があり,その効用は認めなければなるまい。精神医学の分野ではDSMが文字通り壮大なマニュアルであり,それに対する批判,抵抗も依然強いが,何が定説かを明確にした上で専門家でなくともわかるようにした功績は認めねばなるまい。もっとも,DSMはその名称が示すとおり,診断と統計のためのマニュアルであって,臨床精神医学で最も重要な土居1)のいう“見立て”とはほんの一部分でしか関与しないことを知っておく必要があろう。見立てにはスーパーヴィジョンを受けた数多くの症例検討を通して得た,膨大な臨床体験に裏打ちされた“奥儀”の要素が多く,マニュアル化にはなじまないからである。

展望

難治性うつ病の治療—我が国における現状と治療アルゴリズム

著者: 井上猛 ,   小山司

ページ範囲:P.6 - P.14

■はじめに
 1959年にimipramineが臨床に導入されて以来,モノアミン酸化酵素阻害剤と多くの三環系・四環系抗うつ薬が我が国の精神科臨床に登場し,現在14種類の抗うつ薬が用いられている。多くのうつ病症例は第一選択の抗うつ薬によって寛解するが,約30%の症例は第一選択の抗うつ薬に反応せず4,21,28),第二,第三の抗うつ薬への変更を余儀なくされる。精神病性うつ病ではさらに非反応率は上昇し,三環系抗うつ薬のみの治療に対する非反応率は65〜75%といわれる4)。しかも複数の抗うつ薬を用いても症状が十分に改善せず,数年から十数年にわたって社会生活,家庭生活における活動が困難となっている症例は依然数多く存在する10,12,18,26)。これら非反応者に対する新しい治療の開発は急務となっている。抗うつ薬の際だった臨床的効果が確認され,その作用機序が活発に研究されている反面,抗うつ薬非反応者に関する研究はこれまで十分になされているとはいえない。本展望では難治性うつ病に関するこれまでの研究結果を紹介し,難治性うつ病の治療について,我が国の現状に即して論ずる。

研究と報告

分裂病の音楽幻聴

著者: 馬場存 ,   濱田秀伯 ,   古茶大樹 ,   田辺英 ,   浅井昌弘

ページ範囲:P.15 - P.21

 【抄録】精神分裂病患者に,「聞き慣れたメロディが頭の中に聞こえる」と訴える音楽幻聴が生じた例を報告した。これらの音楽幻聴は,器質的要因・感覚遮断の理論や,加齢による「脳機能の脆弱性」,薬物の副作用といった観点からは説明できず,精神分裂病の疾患経過に応じて言語幻聴に似た症状変化を示し,分裂病像を構成する症状の1つとみなすことが可能であった。その本質は自生思考に近い記憶表象で,軽微な自我障害の表現と考えられた。精神分裂病の初期もしくは安定期の,重篤ではないものの稀ではない症状として考察を加え,音楽幻聴への関心を促した。

分裂病入院患者にみられる慢性便秘・麻痺性イレウス・巨大結腸症

著者: 羽生丕 ,   大石陽子 ,   木田孝志 ,   川端啓介 ,   岩渕正之 ,   水谷喜彦 ,   江畑敬介 ,   風祭元

ページ範囲:P.23 - P.29

 【抄録】高度の便秘を呈した精神分裂病患者22例について,分裂病の治療歴を調査し,大腸機能検査を行い,以下の結果を得た。(1)マーカー法を用いた大腸運動機能検査では,22例中19例に大腸通過時間の著明な延長が認められた。残存マーカーの大腸内分布パターンをみると,直腸型は1例にすぎず,S状結腸より口側にマーカーが停滞するものが16例と大多数を占めた。このことから,分裂病患者の慢性便秘は弛緩性便秘の要素が強いと考えられた。(2)巨大結腸症を伴うものが16例にみられた。手術例の全例で,結腸壁内のAuerbach神経叢の萎縮が認められた。このことが,これらの症例における大腸運動機能の障害に関与すると思われた。

Five Minute Speech Sample(FMSS)によって評価された家族の感情表出(EE)の特徴および再発との関連性—精神分裂病についての検討

著者: 上原徹 ,   横山知行 ,   後藤雅博 ,   幸村尚史 ,   中野靖子 ,   豊岡和彦 ,   飯田眞

ページ範囲:P.31 - P.37

 【抄録】簡便に施行可能なEE評価法であるFive Minute Speech Sample(FMSS)を用いて,分裂病外来患者40名の9か月間の再発とEEとの関連を検討した。EEの分布ではhigh-EE例が9名(全症例中22.5%)で,その内訳は批判(Critical)4名(10.0%),過度の感情的巻き込まれ(EOI)5名(12.5%)であった。転帰とEEとの関連では,high-EEの割合は再発群40.0%,非再発群12.0%で有意差は認めなかったが,境界線級(b-)のEEまでをhigh-EEに含めた場合,5%水準で非再発群(20.0%)に比し再発群(60.0%)にhigh-EEと判定される症例が有意に多かった。EE下位評価と再発率との関連では,純粋なlow-EE(19.4%),b-EOI(50.0%),EOI(60.0%),Critical(75.0%),b-Critical(100%)であり,純粋なlow-EE群と他群との間で再発率に1%水準で有意差が認められた。判別分析の結果,批判尺度が弱いながら再発と相関する傾向を示した。FMSSは広く臨床に適用可能であるが,b-EEをhigh-EEに含める見方が必要である。

心的エネルギーの計量化についての1つの試み

著者: 臺弘

ページ範囲:P.39 - P.45

 【抄録】古い歴史を持つ心的エネルギー概念には,文献的には,精神分裂病についての論議が主であった。我が国の精神医学では,この言葉はこれまですべて常識心理的な意味で使われていて,深い吟味は稀であった。この概念を吟味し,検証に耐える生産的なものとするには,計量化の試みが必要である。分裂病に関する心的エネルギー論議を,歴史的考察の後に,コンラート,安永浩の見解について解説した後に,筆者らの研究「慢性分裂病の機能的亜型分類」に用いられた単純反応時間DSTと血圧測定時の心拍変動PRDの2指標をもって表す抽象空間が,「心的エネルギー」の近似となりうる可能性について論じた。この研究結果から,(DST・PRD)空間は心的自由エネルギーの近似であり,分裂病的状態でそれは減少することが示された。これは発見的推論の1例である。

Eating Disorder Inventory(EDI)を用いた摂食障害患者の心理特性の検討

著者: 中井義勝

ページ範囲:P.47 - P.50

 【抄録】摂食障害患者386名と健常人40名にEating Disorder Inventory(EDI)を実施した。摂食障害患者を体重率と食行動異常に基づいて5群に分類し,EDIの総得点と8カテゴリーのスコアを群間で比較した。EDIはEATと異なり摂食障害の予備的スクリーニングには適さない。しかしEDIは摂食障害患者の心理特性,ことに「大食」,「無力感」,「内界への気づき」や「対人不信」を評価するには有用であった。「やせ願望」は不食型神経性食欲不振症を除く摂食障害群で高得点であった。「自己像不満」は体重率の影響を受けるため補正する必要がある。それでも日本の健常人は欧米人に比し「自己像不満」が高得点であった。「成熟への恐怖」と「完全主義」についてはさらなる検討を要する。

インターフェロンによる精神症状—Wieckの通過症候群による考察

著者: 佐々木信幸 ,   深津亮 ,   古瀬勉 ,   長野方紀 ,   高畑直彦

ページ範囲:P.51 - P.58

 【抄録】C型慢性肝炎におけるインターフェロン療法によって種々の精神症状(抑うつ,不安焦燥,軽躁,健忘症状,傾眠)を呈した5例に対して,脳波,高次脳機能検査を継続的に行った。脳波では3例に徐波化,3例に低振幅とα波の出現率の低さを認めた。高次脳機能検査では4例に図形認知障害,4例にWAIS-Rでの動作性IQの低得点を認めた。また「緩慢な思考」と「(自ら訂正可能な程度の)不注意な間違え」が特徴的に観察された。臨床症状,脳波,高次脳機能検査の結果から,全例に軽度から重度の意識混濁が存在すると考えられた。各症例の病像の変化はWieck,Hの通過症候群を中心とした機能性精神病の概念によく合致する。

終末期癌患者の躁状態

著者: 森田達也 ,   井上聡 ,   千原明

ページ範囲:P.59 - P.65

 【抄録】我々は緩和ケアを受けた終末期癌患者213名のうち躁状態を示した7名について検討した。7名のうち,4名は反応性の(軽)躁病エピソードと診断され,心理的負荷からの躁的防衛の要素がみられたが,状態像では3名が刺激性,1名が高揚性と違いがあった。また,3名は,ステロイドとメチルフェニデートによって生じた薬剤性の(軽)躁病エピソードと考えられた。心理的負荷のもとに生じた高揚性の躁病エピソードの1例と,薬剤性の軽躁病エピソードの1例を示し,終末期癌患者にみられる躁状態の特徴とその緩和ケアについて考察した。

幻覚・妄想を伴う「石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病」の疑われる1臨床例

著者: 竹田礼子 ,   井関栄三 ,   小阪憲司 ,   佐藤有子 ,   加藤雅紀 ,   黒川洋治

ページ範囲:P.67 - P.72

 【抄録】記憶障害と健忘失語または語義失語様の言語障害とともに,活発な幻聴と嫉妬妄想および被害妄想を認めた初老期痴呆の1臨床例について報告する。人格的には浅薄で深刻味に欠けるものの礼容は保たれ,感情的接触も良好で,視空間認知も含めて構成障害以外の失行・失認といった巣症状を示さず,ADLはほぼ保たれていた。画像上は両側側頭葉・前頭葉の限局性脳萎縮とFahr病類似の大脳基底核・小脳歯状核の石灰化を認めた。これらの臨床的特徴は小阪が提唱した「石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病diffuse neurofibrillary tangles with calcification(DNTC)」と一致するものと考える。

短報

運動ニューロン疾患を伴う初老期痴呆症例の脳糖代謝機能—PETによる検討

著者: 松坂尚 ,   鈴木利人 ,   佐々木恵美 ,   堀孝文 ,   白石博康 ,   吉澤利弘 ,   吉川京燦 ,   宇野公一 ,   有水昇

ページ範囲:P.73 - P.76

 1979年,三山ら7,8)は筋萎縮性側索硬化症などの運動ニューロン疾患とともに記銘力障害や人格変化などの痴呆症状を呈する脳変性疾患に対して,運動ニューロン疾患を伴う初老期痴呆(presenile dementia with motor neuron disease)という概念を提唱した。最近,本症の脳の機能的変化を臨床的に検討するためSPECT所見も報告9,10,13)され,アルツハイマー病やピック病の所見と比較検討されている。一方,近年脳の酸素消費やグルコース代謝などの代謝機能の検査にPETが利用されている。
 今回,我々は運動ニューロン疾患を伴う初老期痴呆と臨床診断された60歳の女性例についてPETやSPECTを用い,本症の脳糖代謝機能や脳血流機能の特徴を検討した結果,示唆に富む所見が得られたので若干の考察を加え報告する。

MRI,99mTc-HMPAO SPECTで左後頭葉の萎縮および局所脳血流低下を認めたCharles Bonnet症候群の1例

著者: 岸敏郎 ,   木谷光博 ,   長沼六一 ,   藤本晶彦

ページ範囲:P.77 - P.80

 Charles Bonnet症候群の概念は,視覚障害下に単一症状として幻視が生じうることを,広く臨床家に知らしめた点で意義深い。一方で,この中にいくつかの異なる病態が含まれている可能性が考えられ1,3),症例ごとに詳しい鑑別診断を行い,幻視の成因を明らかにする必要がある。今回筆者らは,MRI,99mTc-HMPAO SPECTで左後頭葉の萎縮および局所脳血流低下を認めたCharlesBonnet症候群の1例を経験した。このように本症候群で幻視に関連した脳局所病変の有無について,特に脳血流シンチを用いて検討した症例は少なく,またその所見が興味深く思われたので,上記の観点から考察を加え報告する。
 病識を伴う本症候群の視覚体験を幻覚,偽幻覚8)のいずれに分類すべきか,明確な区別は困難であるが,ここでは他の報告にならって幻視と表記する。

顕著な精神症状と側脳室後角の拡大を示すアルツハイマー型老年痴呆の後頭葉型

著者: 加藤雅紀 ,   井関栄三 ,   小阪憲司 ,   赤木正雄

ページ範囲:P.81 - P.83

 アルツハイマー型老年痴呆(SDAT)は,進行性の皮質性痴呆を主症状とするが,しばしば精神症状や問題行動を伴う。また,画像や病理像において共通する所見を認めるが,その程度や分布は一様ではなく,本疾患が臨床病理学的に広いスペクトラムを持つ症例群である可能性が示唆される。今回筆者らは,SDATと診断され病初期から継続して顕著な妄想・幻覚などの精神病様症状を伴い,画像上側脳室後角優位の拡大を示す1剖検例を報告し,SDATにおける位置づけを検討する。

病的多飲水患者でみられた膀胱の拡張

著者: 不破野誠一 ,   北村秀明 ,   伊藤陽 ,   松井望 ,   中山温信

ページ範囲:P.85 - P.87

 これまでに「慢性の精神障害に伴う水分の過剰摂取」(psychiatric polydipsia;以下PPと略)に関する報告は多くみられるが2,7),長期間続くこの病態に伴って当然生じてくると考えられる尿路系の異常についての報告は稀である1,5)。わずかにBlumらが10名のPP患者中の5名において,膀胱の拡張,尿失禁,水腎症,腎不全などの広汎な尿路系の異常を見いだしているにすぎない1)。そしてこのような広汎な尿路系の異常を呈する前段階として膀胱の拡張が発現すると思われるが,PP患者における膀胱の拡張の頻度についても知られていない。我々は国立療養所犀潟病院において,1989年より1995年までの間,精神科病棟入院患者1,315人を対象として,「多飲水関連行動および症状」を指標とするスクリーニング法3)により,精神科入院患者のPPについて調査してきたが11),このうち68人(5.2%)がPPを合併していると診断されている。この中の1人において,残尿量が多いことから尿路系の異常を疑って骨盤部CTを行ったところ,著明な膀胱の拡張が見いだされた。そしてこの症例に対して行った泌尿器科的手術治療の有用性についてはすでに報告した4,8)。今回はこの症例以外にもPPを呈する患者では膀胱の異常が高率に存在するのではないかと考え,骨盤部CT検査による予備的調査を行ったので,その結果について報告する。

季節性感情障害を父に持つ睡眠相後退症候群の兄妹例

著者: 明石拓爾 ,   藤原豊 ,   山口耕司 ,   黒田重利

ページ範囲:P.89 - P.92

 近年,睡眠障害の中に睡眠・覚醒リズム障害の存在が認識されるようになった。そのうち最も頻度が多く,怠業や登校拒否と誤って認識され,臨床的に問題になるのが,睡眠相後退症候群(delayed sleep phase syndromes;DSPS)である1,4)。睡眠・覚醒リズム障害の発症誘因としては,対人関係の問題や環境変化,身体疾患などが約半数にみられるが,誘因のないものが半数あるのも事実である。また,我が国では,両親や同胞に同様なリズム障害の遺伝負因を持つものが13.4%存在すると報告されている4)。これは,家庭内での生活習慣など共通の環境要因に起因するものか,遺伝的素因の重要性を示唆するものか,議論の分かれるところであり,詳細な検討が必要と思われる。今回,我々は環境要因の共通性に乏しく,父親が季節性感情障害と思われる睡眠相後退症候群の兄妹例を報告し,睡眠・覚醒リズム障害の発症誘因としての遺伝的素因に関して考察を加えた。

転落事故を契機に生じた全生活史健忘の1例

著者: 藤崎慎一 ,   朝田隆 ,   飯田栄子 ,   假屋哲彦

ページ範囲:P.93 - P.95

 健忘を主症状とする状態の1つに全生活史健忘がある。これは社会的知識など一般的知識は保たれているにもかかわらず,自己の生活史をまったく覚えていない状態をいう。つまり日常生活は普通に行えるが,自分の姓名,生年月日,家族関係を含めた生活史を思い出せない。一般に心因性の健忘として位置づけられるが,数少ないものの頭部外傷やてんかんなど器質因の関与が否定しえない例もある2,4)。発症の直接因は必ずしも特定できないことが多く,むしろ準備因としての慢性の持続葛藤状況の存在が重要とされる。典型的には遁走を呈した後,健忘症状が顕在化するが,比較的類似した臨床経過をとって改善する5)
 我々は頭部打撲を契機に発症し,本症の発現に重要とされる準備因としての葛藤状況の確認が困難であった全生活史健忘の1例を経験したので報告する。

Trazodone投与中性欲の異常亢進を呈した妄想性うつ病の1女性例

著者: 堀正士 ,   新井哲明 ,   嶋崎素吉 ,   鈴木利人 ,   白石博康

ページ範囲:P.97 - P.99

 trazodone(レスリン®,デジレル®)は,心血管系の副作用が軽微で,抗コリン系副作用が少ないことなどから,高齢者や身体疾患を合併したうつ病患者に対して比較的投与しやすい薬剤とされている2)。しかしその反面,副作用として稀ではあるが,持続陰茎勃起症が知られており,治療的緊急性を要する場合もあることから,男性患者では注意を要する7,9,10)。一方で,単に身体的な異常にとどまらず,性欲そのものを亢進させるという報告も近年みられるようになってきた4,6,8)が,その発現頻度は極めて低く,本邦での報告は見当たらない。今回我々はtrazodone投与中に耐え難い性欲の亢進を呈した,妄想性うつ病の1女性例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

レーダーチャートによる睡眠状態自己評価の試み

著者: 山口成良 ,   松原三郎 ,   桃井文夫 ,   森川恵一 ,   武山雅志

ページ範囲:P.101 - P.104

 睡眠障害を主訴として外来を受診する患者の睡眠状態の様相と,治療による経過を評価するのに,例えば抗精神病薬の効果や副作用をレーダーチャートを使って図示しているように睡眠状態の自己評価を視覚的に表現できないかと考えていたところ,永田ら8)が,QOLの臨床評価をレーダーチャートで表現しているのを見て,睡眠障害の訴えの諸特徴をレーダーチャートで表現することを試みたので報告する。

動き

「第4回多文化間精神医学ワークショップ」印象記

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.105 - P.105

 第1回は神戸,第2回は横浜で開かれた多文化間精神医学ワークショップは,その後,西と東で交互に行うよう話が運び,第4回は再び横浜で開かれることになった。基本テーマは「多文化間葛藤と戦争—恒久的平和を求めて」であり,おそらく戦後の日本の精神医学会で戦争がテーマになったのは初めてであろう。まず学会会長の西園昌久教授から,多民族国家になりつつある日本の現状と平和に関しての話があり,続いて主催者側を代表して横浜市立大学の小阪憲司教授から歓迎の挨拶が述べられた。参加者は100人程度であったが,難しいテーマだけに特別講演やシンポジウムがどう展開されていくのかをみな見守っていた。
 特別講演はアジアの民族間戦争を長きにわたって現地で取材し,『自動起床装置』で芥川賞を受賞した辺見庸氏が「情報化社会と人間身体—オプティマムはあるのか」について熱弁を振るった。地下鉄サリン現場に居合わせたときの状況を引き合いに出し,情報がいかに人間の論理的思考や想像力を奪い取り,的確な判断を麻痺させているかを力説した。そして情報によって撹乱される人間においての生のオプティマム(最適条件)とは何なのかを考える中で,身体さえ情報によって侵され無化されていることを指摘し,人間として生きているという事実は,多くを求めることをやめた欠如の中で本来あるべき身体的感覚を取り戻すことにあるだろうと結論づけた。話の流れはオプティマムはないとかなり悲観的だったが,最後に,ご自身の山谷体験を通して人間の可能性を身体感覚に求めたことは,精神医学における身体感覚の重要性と軌を一にしていると思われた。

「第20回日本神経心理学会」印象記

著者: 西川隆

ページ範囲:P.106 - P.107

 第20回日本神経心理学会は,高畑直彦会長(札幌医大神経精神医学教授)のもと,1996年9月12,13日の両日,札幌市教育文化会館で開催された。今回は学会の前身である神経心理学懇話会の初回開催から数えて記念すべき20回目に当たり,また鳥居方策前理事長(金沢医大神経精神医学教授)のあとを継がれた濱中淑彦新理事長(名古屋市大精神医学教授)のもとでの最初の総会でもあった。
 初秋の北海道という副次効果も手伝ってか,会長講演,特別講演,教育講演,シンポジウム(5題),イブニングセミナー(6題),症例検討(2題),一般演題(162題)と発表演題の数でかつてない規模の総会となった。ただし,そのために今回初めて一般演題の発表会場が3つに分割され,やむをえぬこととはいえ少々熱気が拡散した感は否めない。また3会場の進行時間が揃わず,お目当ての演題をチェックしてあらかじめ分刻みに会場を渡り歩こうというスケジュールを立てていた勉強熱心な参加者(筆者はさておき)には気の毒な肩透かしも多かったようである。

「精神医学」への手紙

Letter—教会牧師を介したリエゾン活動

著者: 松岡豊 ,   大森信忠

ページ範囲:P.110 - P.110

 我々はリエゾン回診により,がん患者の精神科への紹介率が確実に増えてきたことを報告した1)。しかし,不安・抑うつといった心因性の適応障害については,がんであるがゆえに当然であるという思い込みのためか,精神科紹介がためらわれていたようである2)
 ところで,教会は心の悩みを持つ人々が来ることがあるが,牧師のみでは解決できない相談も時々あり,医療者の関与が必要とされる場合もある。主筆者はクリスチャンであり,日頃から教会の牧師にアドバイスを求められることが多かった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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