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文献詳細

雑誌文献

精神医学39巻10号

1997年10月発行

文献概要

展望

側頭葉てんかんの手術後に新たに発症する精神病—De Novo精神病

著者: 松浦雅人1

所属機関: 1日本大学医学部精神神経科学教室 2

ページ範囲:P.1024 - P.1033

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■はじめに
 てんかん外科の中でも,側頭葉てんかんに対する外科手術は手術成績が最も良く,術後の機能障害が少ないことから,薬物治療に反応しない難治の側頭葉てんかん患者にとっては福音となっている。1986年から1990年までの5年間に,世界の主な施設でてんかんの外科手術を受けた約6,000例の調査結果7)をみると,66.4%が側頭葉てんかんであり,59.5%が前側頭葉切除術,6.9%が選択的扁桃核海馬切除術であった。1年以上経過した時点での発作転帰をみると,両手術法の成績はほとんど同一で,発作の完全消失は7割弱,発作の改善が2割強,発作の不変例は1割弱であった。日本でも,外科手術を受けた難治側頭葉てんかん100例について,2年以上経過した時点での調査結果が報告されている23)。それによると,97%が前側頭葉切除術,3%が選択的扁桃核海馬切除術であり,発作消失が81%,著明改善が10%,改善が2%,不変が7%であった。一般に,適切な片側の前側頭葉切除術によって発作が抑制されることと,抗てんかん薬の減量とが相俟って,全般的な認知機能が改善することが指摘されている39)
 側頭葉てんかんの手術後の精神科的問題として最も頻度の高いものは,不安状態やうつ状態である。多くは一過性であるが,時に長く持続する例も報告されている9)。また,発作とともに生きてきた患者が,術後に発作が消失した新たな環境の中で,適応障害を起こす例も報告されている3,10)。しかし,術後の精神科的問題として最も重篤なものは,幻覚や妄想などの産出的症状を伴う精神病が新たに発病する(De Novo精神病)ことであろう。筆者の1人であるTrimbleは,1991年までに報告された症例をまとめ,De Novo精神病の発病頻度が施設により差があり,片側前側頭葉切除術を受けた大多数の症例には発病しないため,外科手術との関連は明らかでないと述べた39)。その後,てんかん外科を行っている日本を含めた複数の国の施設から,新たな報告例が蓄積されつつあり,筆者らは最近の文献を含めて検討した。その結果,De Novo精神病には少なくとも2つの異なった発現機序があると考えられる。したがって,その機序と,De Novo精神病の現状を合わせて報告したい。日本でも難治の側頭葉てんかんに外科手術が行われる機会が多くなってきており,De Novo精神病について認識しておく必要があると思われる。また,側頭葉てんかん手術後のDe Novo精神病発病の危険因子を明らかにしておくことは,外科手術の適応を決める際に有用となるばかりでなく,側頭葉障害と精神病発病との関連についての知見が得られ,機能性精神病の生物学的成因の解明の手がかりになるかもしれない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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